その判断、本当に自分で決めましたか? ― MBTI、占い、AIの話
「MBTI、なんですか?」
ときどき仕事の場でも聞かれるこの話題。
「ISFJ、ですかね。たしか」
と答えると、
「あー、やっぱり!」
と返ってくる。
やっぱり、ってなんだろう。
エンタメとしては嫌いじゃない。
気になるのは、MBTIが人を見立てる“ものさし”みたいに使われていることだ。
私は仕事柄、初めての業界や、初対面の経営者と向き合うことが多い。
当然、最初は相手のことなんて何もわからない。
わからないと、不安になる。
そんなとき、この人はこういう人とわかるものがあれば、たしかに便利だ。
「MBTIは何なんだろう」
「生年月日を調べて、相性でも見てみる?」
わかる。すごくわかる。
新しいことに挑むときほど、人は“正解っぽいもの”が欲しくなる。
でも今日は、その手を一回止める話をしたい。
「当たってる」の正体
MBTIの診断結果を読むと、「わかるー!」となる。でも、本当にあなた自身を言い当ててるのだろうか。
たとえばISFJの解説をみるとこう書いてあった。
ISFJ型は、多彩な才能を持ち合わせた、何事も成し遂げる実行力のある性格タイプです。繊細で思いやりのある性格でありながら、優れた分析力と細部への目配りも備えています。
これ、否定できる人います?
「多彩な才能があり、実行力もあるタイプです」
そんなことを言われたら、ちょっと嬉しい。私ってそうなのかも、と思う。当たってるじゃん!と。
でもこれ、本当に「自分だけ」をピシャリと当てているんだろうか。
人間には、誰にでもある程度当てはまりそうな説明でも、「これは自分のことだ」と感じやすい性質がある。心理学ではバーナム効果と呼ばれる。
「大雑把な面もあるけど繊細なところもあります」「計画的に物事を進める人です」と言われれば、そのときの自分を思い出して「たしかに」となる。
当たりは拾う。外れはスルーする。
これは、確証バイアス。
要するに、診断が自分を映しているというより、診断の中に自分を探している。
ちなみにMBTIは、自分で質問に答える自己評価だ。
受け直せばタイプが変わる人もいる。
その診断結果を鵜呑みにして、目の前の人の本音や、自分との仕事の相性を信じてもいいのだろうか。
占い、信じますか?
私の中では、この話の延長線上に占いもある。
「今年は大殺界だから、入籍やめとこうと思って」
そんな話を聞くと、
いや、あなたと相手の人生やん。と思う。
仮に大殺界だとして、次の大殺界はどうすんねん、とも。
MBTIと占いは全然違う。でも、
「私はINFPだから、この仕事は向いていない」
「今年は運気が悪いから、動かない」
となった瞬間、「それで良いのかな?」と思う。構造は同じじゃないですか?
自分で考えて決めることを、外の何かに明け渡している。
もちろん、MBTIも占いも、楽しむのは個人の自由だ。
「INFPだから無理」
「大殺界だからやらない」
は、便利だ。やらない理由の言い訳として。
ただ、それだと思考停止している気がしてしまうのは私だけだろうか。
で、それって一速ギアが入るんですか
新しい挑戦は、不安だ。
新しい業界。新しい人。初めてのプロジェクト。
「失敗したくない。」だから、何かに「大丈夫」と言ってほしくなる。
でも、MBTIの結果は、そのプロジェクトの“一速”を入れてはくれない。
星回りがいいからって、商談は決まらない。
MBTIの相性が良いからって、段取りが悪ければ炎上は免れない。
結局、商談を進めるのも、プロジェクトを前に進めるのも、自分たちの判断と行動だ。
商談なら、
「この人ENTJだから、結論から話そう」
なんて計算するより、
「さっき数字の話をした瞬間、前のめりになった」
の方がよほど重要だ。
MBTIより、その場で拾った一次情報。今日のその人の声、目線、間。
ひとつだけ大事にしたいのは、「なんか違うな」という感覚。オカルトじゃなく、自分が実際に見て、聞いて、経験したことから生まれた勘だ。
これだけは簡単に無視しない方がいい。
MBTIの4つの記号に現実を合わせにいくより、
「目の前の相手は、何に引っかかっているんだろう」
と考える方が、たぶん次に進める。
自分の足で動く。自分の目で確かめる。
そして、最後は自分で決める。
新しいことの一速ギアって、結局そこからしか入らない気がしている。
ISFJじゃありません
ちなみに、冒頭で「ISFJ」と書いたが、たぶん違う。というか、一度もその結果が出たことはない。
私自身、MBTIに当てはめられたくないので、本当の診断結果は伏せておく。
「このタイプでしょ」とわかる人がいたら、ぜひコメントで教えてほしい。
そして最近、これとよく似た怖さを別のところでも感じている。
AIだ。
仕事でも日常でも、誰もがなんでもAIに聞くようになった。
「この企画、どう思う?」
「転職した方がいい?」
「この人とは相性がいい?」
「AとB、どっちを選ぶべき?」
AIは答えてくれる。
しかも、文章はきれい。理由もある。こちらの状況まで踏まえて、「あなたの場合はこちらがいいでしょう」と言ってくる。
ものすごーーく、もっともらしい。
だからこそ、MBTIや占いより厄介かもしれない。
占いは統計と言いつつ科学の顔をしていないから、まだ疑う余地があった。MBTIも「本当にそう?」と考えられる。
でもAIは、だいたい合っている。だから、混じっている外れに気づきにくい。
そしてもっと怖いのは、間違っているかどうか以前に、自分で考えて決めるはずだったことまで、AIに決めてもらえてしまうことだと思う。
MBTI、占い、AI。
全然違うものだけど、不安なときに「外の何かに判断を預けたくなる」という、人間側の問題は同じだ。
しかも最後のやつは、もう毎日横にいる。
あなたも、仕事の相棒として、プロジェクトメンバーよりも密にコミュニケーションをとっていない?
もちろん、使えばいい。便利なものは使えばいい。
でも、材料をもらうことと、決めてもらうことは違う。
自分で見て、自分の頭で考えて、最後は自分で決める。
一速ギアは、外にある「正解」を見つけたときじゃない。
「じゃあ、やってみよう」と自分たちで決めた瞬間に入る。

