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LGとサムスンが「家」を売り始めた|韓国モジュール住宅の価格・技術・デザインを建築家が比較

2026年、韓国の家電2強がそろって「家」を売り始めた。LG電子は「LG Smart Cottage」を、サムスン電子は木造モジュール住宅の専門会社・空間製作所(공간제작소)と組んだ「Samsung AI Modular Home」を、それぞれ本格的に展開している。

家電メーカーが住宅を売る。それ自体はニュースとして分かりやすい。しかし建築家として気になるのは、そこではない。この二つの動きは、住宅が「現場でつくるもの」から「工場でつくるもの」へと重心を移す、かなり具体的な一歩に見えるからだ。

結論を先に言うと、LGは「住宅そのものを商品化」する方向サムスンは「住宅をAIプラットフォーム化」する方向に進んでいる。そして建築的には、両社とも「革命的な空間をつくった」というより、住宅を現場生産から工業製品へ近づけたことの方が重要だと思う。

以下、価格・実績・技術・建築という4つの軸で、できるだけ一次情報に基づいて整理してみたい。


1. 似ているようで、思想が違う二つの住宅


まず前提として、LGとサムスンのアプローチはかなり異なる。

LGの「LG Smart Cottage」は、LGブランドの商品として設計・商品企画・設備・IoT・品質管理までを一体で提供する色が強い。実際のモジュール製作ではモジュラー住宅専門会社スペースウェイビィ(스페이스웨이비)と協業しているが、設計から生産、品質検収まではLG電子が直接担うプレミアム・モジュール住宅という位置づけだ。現行の20坪台モデルは鉄骨造で、主要部材の70%以上を工場で製作している。

一方、サムスンの「Samsung AI Modular Home」は、厳密にはサムスンが住宅の構造体まで製造しているわけではない。木造モジュール住宅の専門会社「空間製作所」が住宅本体をつくり、サムスンはSmartThings、AI家電、EHS(Energy Home System)ヒートポンプ、セキュリティなどを設計段階から統合する立場にいる。工場製作率は80%以上とされる。

この違いはかなり重要だ。整理するとこうなる。

つまりLGは「メーカーが最初から最後まで責任を持つ完成品」、サムスンは「住宅会社の商品にAIホームというレイヤーを乗せる」という、事業構造そのものが違う。この違いは、価格や実績、デザインの見え方にもそのまま反映されている。


2. 実際いくらなのか


LGの最新モデルは、かなり価格を下げてきている。2026年6月末に発売された「MONO Core 72」は72.9㎡(約22坪)で199万5千ウォン…ではなく1億9,950万ウォンから、「MONO Core 82」は82.1㎡(約24坪)で2億2,350万ウォンから(いずれもVAT込み)。この価格は、既存モデル比で坪単価を最大76%引き下げたと発表されている。それより小さいモデルでは、8坪の「MONO Core 27」が約1億ウォン、16坪の「MONO Core 54」が約1億8,000万ウォンという水準だ。

旧型では8坪で約2億ウォン、14坪の上級モデルで約3億9,000万ウォンという、かなり高価な設定だったことを考えると、LG自身も「これでは市場が広がらない」と判断し、標準化・大型化・コストダウンに舵を切ったように見える。

サムスン側はやや注意が必要だ。サムスン公式の統一販売価格というものは存在しない。住宅価格は、構造体をつくる空間製作所側の仕様に依存するためだ。空間製作所の代表は、20坪モデルについて「基本型で最低1億2,500万ウォン程度」と説明しており、高所得層でなくても手が届く住居モデルだと位置づけている。AI家電などを充実させたグレードでは、坪単価がより上がるケースも報じられている。

つまり、同程度の20坪台で比べると、

  • Samsung系:約1.2〜1.5億ウォン程度(基本仕様)

  • LG:約2.0〜2.3億ウォン程度

という価格感になる。ただし両者は仕様(構造種別、標準搭載設備、内装グレード)が異なるため、単純な同一条件比較ではない点は留意しておきたい。

そして、ここが実務者としてはかなり重要な点だが、「1億〜2億ウォンで家が完成する」と考えるのは早計だ。土地、造成、擁壁、基礎、上下水道の引込、電気引込、建築設計・許認可、モジュールの運搬、クレーン作業などは、敷地条件によって別途発生する。LG自身も設置条件として、コンクリート基礎・電気・通信・上下水道の準備を顧客側に求めている。

特に傾斜地や造成の必要な土地では、この付帯工事だけでモジュール化による価格メリットの多くが相殺される可能性がある。プレファブ住宅の価格を見るときは、「本体価格」と「総工事費」を必ず分けて考える必要がある。


3. 実際に売れているのか


ここはまだ「大成功」と断定できる段階ではない。ただし、消費者の反応そのものはかなり強い。

LGは2024年からSMエンターテインメントの研修施設納入などB2B案件を先行させ、その後キャンプ場やセカンドハウス需要を軸にB2Cへ展開。2026年6月末には22坪・24坪モデルを追加し、単層型「MONO」・2階建て型「DUO」を合わせて計8モデルのラインアップになった。

そして直近の数字がかなり興味深い。2026年7月末時点で、京畿道・金浦の現代プレミアムアウトレットに設けられた展示場への来場者は約7,000人に達した。特に自然の中での暮らしと利便性を求める50〜60代からの問い合わせが集中しているという。

さらに2026年8月2日には、韓国国内で初めて、モジュール住宅をテレビ・ホームショッピングチャンネル(CJ On Style)で販売するという試みが行われた。約65分間の生放送で、寄せられた相談・問い合わせ件数は約1,000件、放送中はおよそ3秒に1件のペースで問い合わせが入った計算になる。相談件数の急増を受けて、LGは電話相談の担当人員を追加配置したとも報じられている。

これは相当強い反応だと言っていい。ただし、これらはあくまで「相談・問い合わせ件数」であって、契約戸数や売上高そのものはまだ公表されていない。したがって現段階では、

「消費者の関心は非常に高い。しかし量産住宅としてどこまで定着するかは、まだ判断できない」

という評価が妥当だろう。

サムスンはもっと初期段階にある。2026年6月に京畿道・華城にある空間製作所の工場でショールーム(100坪型・20坪型の2カ所)を公開し、国内販売を本格化したばかりだ。現在は3年以内にAIホームを累計1万戸へ導入するという目標を掲げている。生産面では、モジュール1個を1時間で製作でき、20坪住宅なら4モジュールで構成、8時間稼働で1日2棟程度を生産できるとされる。

整理すると、

  • LG=すでに販売実験を経て、ホームショッピングという新しい販路で市場検証に入っている段階

  • Samsung=ショールームを開設し、これから本格的な量産・普及フェーズに入ろうとしている段階

という温度差がある。


4. 技術的にはどちらが面白いか


これはかなり悩ましいところだが、私は「住宅設備・AI統合」ではサムスン、「建築商品としての完成度」ではLGに分がある、と見ている。

サムスンはSmartThingsを中心に、エアコン、冷蔵庫、テレビ、照明、カーテン、ホームカメラ、ドアカメラなど20種類以上の機器を、設計段階から統合できる。火災・漏水・侵入の検知、警備会社エスワンとのセキュリティ連携、エネルギー管理、EHSヒートポンプまで含めているところが強い。

特に興味深いのは、

「入居後にスマートホームを後付けする」のではなく、「建築設計の段階からSmartThingsを組み込む」

という発想そのものだ。アパートなどの一般住宅では、家電・IoT機器は入居後に個別に設置されることが多い。それに対しモジュールホームでは、配線・配管を含めすべての機器を搭載した状態で工場から出荷し、現場に据え付けるだけで済む。これは将来的に、住宅設計とプロダクト設計の境界を変えていく可能性がある。

LGもThinQ Onを中心に、スマートスイッチ、スマートドアロック、エアコン、太陽光、全熱交換型換気(ERV)などを統合している。ただし最新の「Core 72/82」では、標準の暖房方式はコンデンシング・ガスボイラーで、太陽光パネルや換気システムはオプション扱いになっている。

ここは少し意外だった。「未来型スマート住宅」を名乗るなら、個人的にはヒートポンプ+太陽光+蓄電池+全館換気を最初から標準搭載してほしいところだ。標準化・低価格化を優先した結果、こうしたグレードダウンが起きたようにも見える。

ただしLGのエネルギー技術そのものは、決して見劣りするものではない。太陽光パネルを備えた旧型モデル「MONO Plus 26」は、エネルギー生産量が消費量を上回り、国内のプレファブ建築として初めて、韓国エネルギー公団のゼロエネルギー建築物最高等級「ZEB Plus」認証を取得している。つまり技術的な蓄積そのものは本格的で、それを標準仕様としてどこまで載せるかは、価格戦略上の判断だと理解した方がよさそうだ。


5. 建築家として見ると、むしろここが面白い


LGのSmart Cottageは、非常に「家電メーカーが設計した建築」に見える。

縦リブの外壁、大きな開口、少ない色数、家具と家電のビルトイン化、納まりの均質さ。建物というより、「巨大なプロダクトデザイン」という印象を受ける。

これは長所でもあり短所でもある。初期のSmart Cottageには高窓や特徴的な屋根形状があり、かなり建築的な個性が感じられた。しかし廉価版の「Core」シリーズでは、基本モジュールを統一し、屋根や平面を単純化することでコストを下げている。つまり、

建築的個性 ↓  工業製品としての合理性 ↑

という方向に進んでいる。これは、量産型プレファブ住宅がほぼ必ず通る道でもある。個性を残そうとすれば量産効果が薄まり、量産効果を優先すれば個性は削られていく。この二律背反をどう解くかが、今後のモデル展開の見どころになりそうだ。

一方、サムスン×空間製作所の住宅は、木、深い軒、テラス、大きな開口など、一般的な現代韓国の戸建住宅の意匠にかなり近い。こちらは「プレファブらしく見せない」方向を選んでいると言える。

住む人にとってはサムスン型の方が受け入れられやすいかもしれない。既存の戸建住宅のイメージに近いぶん、心理的なハードルが低いはずだ。ただ、建築として見るとやや「普通」でもある。プレファブという新しい生産方式を使いながら、意匠面では既視感のある住宅像に寄せている、というのが今の印象だ。


6. 構造については、まだ評価を保留したい


LGの鉄骨モジュールは、工場での製作精度、運搬時の剛性、量産性という点では理にかなっている。一方で、鉄骨モジュール住宅では熱橋(ヒートブリッジ)、結露、振動、遮音、モジュール同士の接合部の処理が非常に重要になる。

サムスン側の木造モジュールは、軽量で工場加工との相性がよく、環境負荷低減の可能性もある。ただし韓国の高温多湿な夏を考えると、壁体内結露、木材の含水率管理、防水、耐火、遮音のディテールが重要になってくる。

ところが両社とも、一般公開されている資料では「AI」「IoT」「工期短縮」については非常に詳しく説明している一方で、

気密性能、U値(熱貫流率)、モジュール接合部の熱橋対策、遮音等級、長期耐久性

については、建築家が性能を判断できるほどの情報がまだ十分に開示されていない。ここは、実際に採用を検討する立場としては少し気になるところだ。プレファブ住宅の評価は、意匠やIoTだけでなく、こうした「地味だが効いてくる性能値」でこそ判断されるべきだと思う。


7. 現時点での評価


現時点までに確認できた情報をもとに、私なりに評価するとこうなる。


8. 本当に重要なのは「どちらが優れているか」ではない


そして一番重要なのは、「LG対Samsung、どちらの家が優れているか」ではないと思う。

今回起きていることは、家が「建設するもの」から「製造するもの」へ変わり始めた、ということだ。

さらにその先を見ると、構造体+設備+家電+エネルギー+セキュリティ+AI+保守サービスまでを、一つの住宅商品として販売するという動きが見えてくる。これは、自動車産業のビジネスモデルにかなり近い。

これまで建築家は「建物」そのものを設計してきた。しかしこの方式が進んでいくと、建築家の仕事はむしろ、敷地への配置、周辺環境との関係、外部空間の設計、モジュールの組み合わせ方、カスタマイズの余地、地域性をどう与えるか、といった領域へ重心が移っていく可能性がある。

建築的に見て、私は今のところ、ここが両社の最大の弱点だと感じている。技術は確かに新しい。しかし「空間そのもの」は、まだそれほど新しくない。屋根の形、開口の取り方、間取りの構成といった建築の核心部分は、既存の戸建住宅の延長線上にとどまっている。

ここには、かなり大きな可能性が残されていると思う。技術面での競争が一巡したあと、次に問われるのは「工業化された住宅で、どこまで新しい空間をつくれるか」という、より建築的な問いになるはずだ。

次回は、両社の平面図・断面・構法を並べて、モジュール寸法、柱壁位置、開口、天井高、設備コア、増築可能性まで具体的に比較してみたい。外観写真だけでは見えてこない、両社の設計思想の違いが、かなりはっきり浮かび上がってくるのではないかと思っている。


参考・一次資料

本記事の執筆にあたり、以下のメーカー公式資料・公式サイトを参考にしました。

LG Smart Cottage 公式サイト

モデル・仕様・価格シミュレーション


LG公式ニュースリリース

「より広い空間と合理的な価格の住居ソリューション ― LG Smart Cottage、20坪台新製品を発売」

LG公式ニュースリリース|ZEB Plus・エネルギー性能
「LG Smart Cottage、モジュール住宅のエネルギー効率・安全基準を提示」


※価格・仕様・販売条件等は変更される可能性があるため、最新情報は各社公式サイトをご確認ください。


今回、LGとサムスンという韓国企業が住宅そのものに踏み込み始めたのを見て、以前書いたこの記事を思い出した。

日本には、はるか以前から住宅を「工業製品」に近づけてきた優れたハウスメーカーがある。それでも、韓国市場ではなかなか定着することができなかった。

なぜだったのか。今回の韓国モジュール住宅の動きと合わせて読むと、その違いがより鮮明に見えてくる。

▶︎ 『なぜ日本の住宅メーカーは、韓国で定着できなかったのか』


住宅がどれだけ工業化され、AI化されても、最後に問われるのは「そこで人がどう暮らすのか」だと思う。

韓国で長く暮らしていると、日本とは少し違う住まいと外部空間の関係が見えてくる。庭を持つことが難しい都市住宅の中で、人は自然との接点をどこにつくっているのか。

以前、そんな韓国の住宅文化について書いた。

▶︎ 『庭はなくても、屋上がある』


AI、IoT、工場生産――住宅をつくる技術は、これからますます変わっていくだろう。

しかし建築が扱うものは、技術や空間だけではない。その場所で誰が暮らし、どんな時間が積み重なり、何が記憶として残っていくのか。

私が「時間建築論」で考え続けているのも、まさにその部分だ。

▶︎ 『時間建築論|建築は、空間ではなく時間を扱う仕事だ』



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