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3分で読める小説・シロクマ文芸部「洗濯機」『綺麗にしましょう』

洗濯機の前でかれこれ20分、わたしは立っている。

右回転、左回転、ぐーるぐるぐる。

家にある洗濯機は縦型でフタが透明のタイプ。だから洗濯槽の中の様子を見ることができる。こうしてぼーっと見続けて大切な休日の20分を無駄に過ごしてきたわけだけれど、それも仕方のないことだと言えるだろう。

だって昨日、彼とサヨナラしたのだから。

定時で仕事をきっちり終え、彼とのディナーを楽しんだ。話を切り出されたのはコース料理のデザートを食べ終えた後だった。それまでいつもと変わらない調子だった彼が、いきなり深刻そうな顔をして、「実は……」なんて話しだした。

母親が難病で入院中らしく、手術をするのに大金が必要だというのだ。だが、自分では用意ができない。そこでわたしに少しばかり貸してくれと、そういう話だった。

だからわたしは聞いたのだ。

その病名は? そうなの、それは確かに難病ね。それでいくら必要なの? え、そんな大金、その病気の手術には多すぎるのではない? そうね、海外で手術することにはなると思うけれど。内訳を教えて? うーん、ちょっとどんぶり勘定が過ぎるんじゃない? いやいや、時間がないから早くお金を貸してくれって、そんなこと言うなら今ここでゆっくりご飯を食べている時間も惜しいじゃない。それなら今からわたしも一緒にお母さまの様子を見に行くわ。え、え、ちょっと、もういいってなに? 待って。お金を貸さないなら別れるって、あなたそんな簡単にお母さまの手術を諦めるの? 分かったわ。とりあえずお店を出ましょうか――。

わたしは昨日の会話を思い出しながら、洗濯槽の中の衣服が綺麗になっていく様を見続けた。

右回転、左回転、ぐーるぐるぐる。

「念入り」モードにしたが、ちゃんと元の白さに戻るだろうか。
昨日はちょっと力が入り過ぎたのだ。

せっかくお気に入りのブラウスだったのに、世の中の汚れを1つ綺麗にしたくらいじゃ割に合わない。この洗濯機が真っ白にしてくれることを信じるとしよう。

そういえば、昨日のディナー代はまだ申請してなかったわね。ちゃんと申請して経費で落としてもらわないと。ったく、ひとり5万なんて贅沢だわ。あ、でもしっかりコースを堪能できたから、話を後回しにしてくれた彼には感謝しなくちゃね。

それにしても、と溜息が出た。次はまた彼と同種の相手なのだ。上司ももっとやりがいのある案件を回してほしいものだけれど、こういう手合いはそこら中に跋扈ばっこしていることも理解しているから、悩ましいところだ。

わたしは洗濯機が排水する音に耳を傾けた。いったん仕事の愚痴を頭の隅に追いやり、目を閉じる。

彼と付き合った2週間に比べればこの洗濯機の前にいる時間なんてささやかだ。それどころか穏やかで、清々しくて、心が洗われる時間とも言える。

真っ白になったブラウスを外に干したら、きっと今日もいい休日になるだろう。



『綺麗にしましょう』


★小牧幸助さんの#シロクマ文芸部のお題です。



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