短編小説253「野蛮だと邪険にするかい」前編
都心と田舎の境目あたりというのは、ベッドタウンの定めのような場所だ。 自分の目に見える世界が、他と同じとまでは言わない。けれど、私が育ったその街には、改造車が走り回り、暴走族がたむろしていた。 まぁ、とにかくうるさかった。
バイクのスロットルを開ける音、アクセルをふかす音。近くの公道を集団で占拠し、勝手にレースをする連中。そして、そこに集まる野次馬たちの騒がしい声。 夜中に「うるさい」と言おうものなら、即刻囲まれてリンチに遭うこともある、そんな噂がまことしやかに囁かれる街だった。 「正論」や「妥当」という言葉は辞書に存在するけれど、ここでは通用しない。圧倒的な「多数派」の勢力には敵わず、正しい意見は届かないまま排除されるのがオチだった。
私たちの世代――いわゆる「ゆとり世代」は、冷めた視線で世界を見る次の「さとり世代」の境地に、ある意味ですでに達していたように思う。逆らったところでどうにもならない、と諦めていた。
でも、どれだけ冷めていようとも、子供の日常には義務がある。「塾」や「水泳教室」には行かなくてはいけないし、親は共働きだった。必然的に、夜遅くの帰り道をたった1人で通らなければならなくて、それが本当に恐かった。
その日は、いつも使っている安全な裏道の近くで水道工事があって、どうしても族がたむろしている幹線道路を通ることを強いられた。 案の定、無数のバイクが道を占拠していた。「ウォン、ウォン」、 「キュルキュル」 タイヤが擦れる音と排気音が響く。殺伐としているというか、一触即発というか。もうそこは、私の思い描く大人しい地元じゃなかった。別の不穏な世界に迷い込んでしまったようだった。
「どうしよう……」
電信柱の影で私がもじもじしていると、最悪なことに、彼らの眼差しがこちらに向いた。 何十台ものヘッドライトが、いっせいにこちらを照らし出してきたのだ。急な逆光のせいで、目の前が激しく眩しい。 すると、光の向こうから一人の男が、ツカツカとこちらに向かって歩いてきて立ち止まった。男は威圧感を消すようにしゃがみ込み、「どうした?」と話しかけてきた。
「……む、こうに家が……」
完全にびびってしまい、声が出ない。 男は顔をしかめ、「聞こえねぇだろ」とつぶやくと、背後の仲間たちの方に振り向いて苛立ったように怒鳴った。 「みてわかんねぇか、あぁっ!? 静かにしろ!」 その声で、周囲の爆音がピタリと止んだ。
「悪ぃ、もう一度言ってくんねえか」
男はそう言って、さらに距離を詰めて耳をこちらに向けた。 私も必死で恐いのを抑え、「向こうに家があって、帰りたいんです」、「今日は工事であっちの道路が通れなくて」と事情を伝えた。
次の瞬間、その男は勢いよく立ち上がった。私は「殴られる」と思って、思わず身をすくめた。けれど、男は「そうか、悪かったな」とぶっきらぼうに言い、「付いてきな」とバイクが並ぶ群れの中心を歩き始めた。 周りの連中がいたずらに「ウォン、ウォン」とアクセルをふかすと、男は「おい、こいつを向こうまで連れて行ってくれ」と近くの仲間を呼んだ。そして、私の方を振り返ってこう言った。
「俺たちがこんなだから声かけづれぇだろうけど、なんかあったら次からは声かけてくれ。こっちが道を邪魔してるところだからな」
そう言って、男は離れていった。「意外に優しい人だな」と思ったのも束の間だった。男は、先ほどから私を脅かすようにバイクをふかしていた相手のところへ歩み寄ると、何の前触れもなく鮮やかなドロップキックを叩き込んだのだ。
中編に続く…。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援をお願いします。
頂いたチップは活動費に使わせていただきます。