【たちよみ】上野千鶴子「新版に寄せて」(中西豊子『新版 女の本屋の物語』より)
日本初の「女の本屋」をひらいた中西豊子さん。本を売り、つくり、場をひらき、人をつなぐ活動で、草の根の女性運動を支えました。本書はその貴重な記録です。上野千鶴子さんによる敬意と熱量に満ちた「新版に寄せて」をご覧ください。
新版に寄せて
上野千鶴子
中西豊子さん、って誰? そんな人、知らんがな、ですって?
豊子さん、て呼ばせてもらおう。豊子さんを知らんアンタはもぐりや。
関西圏ではこのひとあり、と知られた稀代のネットワーカー。日本で最初の女の本屋をつくり、人と人をつなぎ、イベントを次々に仕掛け、商業出版社が出してくれないフェミニズムの本を出版し、カウンセリングを学び、果ては株式会社をつくって事業を興したキーパーソン。そしてわたしが三代目理事長を務める認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)の創設者。ウェブ界にフェミニズムが進出するパイオニアともなった。一昔前なら京都の商家のおかみさん、で通したかもしれないのに、その才覚は関西一円の女性運動をつなぐ底力となった。
知るひとぞ知る。知らんひとは知らん。そりゃそうや。女の運動は少数派の運動だったから。運動は人が担う。このひとがいるといないとでは、関西圏の女の運動は大きく違っただろう。
東京だけが日本じゃない。エマ・ワトソンだけがフェミニストじゃない。日本各地には中西さんみたいな女性がたくさんいて、草の根の女性運動をがっちり担ってきた。今でこそ各地に女の本屋さんが生まれ、女性センターもでき、NPOや企業など民間の女性の運動体や事業体も増えたけれど、その状況を生んできたのは、豊子さんのような有名・無名の女たちの働きだった。何の肩書きもなく、組織の後ろ盾もない女たちが、徒手空拳でつくりだした動きが変化を起こした。
今から半世紀前、外国から来た女たちが、官庁に行った、企業を訪問した、どこにも女はいない、日本の女はどこにいるのか? と尋ねるたびに、わたしはこう答えたものだ、「行き先がまちがっている、草の根の運動体を訪ねてごらんなさい。そこにはパワーのある女たちがたくさんいる」と。ただし「無位無冠の」ね。こういう女性たちを信じることができるから、わたしは日本の未来を信じることができる。
わたしは豊子さんと同時代を同じような場所で生きて、一緒に活動できたことを、ほんとに幸運に思う。その幸運を、読者のあなたにもちょっとだけお裾分けしたい。本書を読めば、豊子さんがどんなひとか、あなたにも伝わるだろう。
本書の復刊は、わたしたちよりうんと若い世代の女のひとたちの声によって実現した。この本があることを知り、それが絶版になっていることを残念に思った若いひとたちが、復刊してほしい、と声をあげた。その声が出版社に届いた。出版不況のなかで、本を出すことも、売ることも、ハードルが高くなった。でも、本が大好きなひと、本を必要とする人たちは必ずいる。
本書がそのひとたちに届きますように。
二〇二六年桜の季節に

目次
新版に寄せて(上野千鶴子)
はじめに
第一部 ウィメンズブックストア物語
1 ウィメンズブックストアを創る
2 国際フェミニスト・ブックフェア
3 女たちのスペース
4 シスターフッドが生んだ『からだ・私たち自身』
5 日本のウーマン・リブそして女性学
6 ウィメンズブックストアの毎日
7 『資料 日本ウーマン・リブ史』
8 世界のフェミニストを迎えて
9 新たな旅立ち
第二部 フェミニズムと私
10 私の生い立ち
11 主婦業の私
12 私のパートナー
13 一人で生きる
旧版解説 思いは手渡されるために、ある(上野千鶴子)
新版付録 対談 女たちのネットワーク──WANをつくったころ(中西豊子+上野千鶴子)
