ショートショート 《人間味の証明》ーー AIぽくない文章って何? #ほっこり
美咲は、投稿画面の最後にこう書いた。
「この作品は生成AIで作っていません」
書いてから、少し不安になった。
「作っていません」という言い方は、どこまでを指すのだろう。
たとえば、カレーを作ったと言うとき、玉ねぎを育てた人まで作者に含める人はいない。包丁を作った人も、ガス会社の人も、たいていは作者ではない。
では、AIに「女子大学生が主人公の、ちょっと笑える短編の案をください」と聞いた場合、それは玉ねぎなのか。包丁なのか。あるいは、ほぼカレーなのか。
美咲は画面を見つめた。
本文より、注意書きのほうが難しい。
そもそも「生成AIで作っていません」と書いたのは、見栄だった。創作サークルの先輩が、前に言っていたのだ。
「最近さ、AIっぽい文章って、すぐ分かるよね」
そのとき美咲は、深くうなずいた。
うなずきながら、スマホの中ではAIに「AIっぽくない相づちを教えて」と聞いていた。
だから今回の投稿では、どうしても人間らしさを出したかった。
美咲はもう一度、AIに相談した。
「人間が書いたっぽく見える文章にするには?」
すぐに答えが出た。
「少し不完全さを残すと自然です」
なるほど、と思った。
完璧すぎるとAIっぽい。人間は不完全である。これは哲学的にも正しそうだ。
美咲は本文に誤字を一つ入れた。
「夕焼けがきれいだった」を、「夕焼けがきえいだった」にした。
しかし、読み返すとただの誤字だ。
人間味というより、確認不足である。
次に、話の途中で主人公に変なことを言わせてみた。
「人生って、たぶん冷蔵庫の奥の豆腐みたいなものだよね」
これは人間らしいのかもしれないが、主人公が急に心配な人になった。
美咲は戻るボタンを押した。
結局、本文はほとんど元に戻した。
最後の注意書きだけが残った。
「この作品は生成AIで作っていません」
やはり、少し嘘っぽい。
美咲は文を足した。
「この作品は生成AIで作っていません。少なくとも、完全には」
これでは弁護士が出てきそうだった。
さらに直した。
「この作品は生成AIで作っていません。ただし、相談はしました」
正直にはなった。
でも、今度は友だちに宿題を見せてもらった小学生みたいだ。
そのうち注意書きは、どんどん長くなった。
「この作品は生成AIで作っていません。ただし、発想の一部について助言を受け、表現の調整に関して参考意見を得ました。なお、最終的な責任は作者本人にあります」
美咲はため息をついた。
小説の最後に、利用規約が生えてしまった。
夜十一時、ようやく投稿した。
次の日、通知が三件来ていた。
美咲は息を止めて開いた。
一件目。
「本文、かわいかったです」
二件目。
「最後の注意書きで笑いました」
三件目は、例の先輩だった。
「本文より、言い訳のほうが美咲っぽい」
美咲はスマホを伏せた。
それは褒め言葉なのか、判定に迷った。
でも少なくとも、AIっぽいとは言われていない。
次の投稿画面を開く。
美咲は本文を書く前に、まず最後の一文を打った。
「この言い訳は、作者本人が作りました」
✏️ 作者より
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