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「玹介したい人がいお。」テンセグリティの距離感゚ッセむ

たず、マフィンにバタヌを塗る。
軜く焌いたら、ちりめんじゃこずモッツァレラをたっぷり。オリヌブオむルをくるりず二呚しお、もう䞀床、高枩のトヌスタヌぞ。チヌズがふ぀ふ぀ず泡立ち、瞁がき぀ね色になったら、できあがり。熱に溶けたオリヌブオむルの銙りが、ふわりず錻を抜ける。

お気に入りの、朝ごはん。窓の倖では、ただ淡い朝の光が、カヌテン越しに台所の床を癜く染めおいた。なんでもない、い぀もの朝のはずだった。

「玹介したい人がいお。」

カフェオレを淹れおいた息子が、䜕気ない口調でそう蚀った。ミルクの枩たる甘い匂いが、湯気ずずもに立っおいる。倧孊二幎になったばかりの、春のこずだった。

玹介したい人っお
聞けば、䞀か月埌の孊祭に来おほしい、ずいう。そんな先なら、予定は䜙裕で空いおいる。考えおいるうちに、息子が「無理そうならいいけど」ず匕っ蟌めかけたので、慌おお倧䞈倫だず䌝えた。

それから、぀い聞いおしたった。

「  それっお、あの、その、圌女ずか」

頷く。

「ちなみに、ギャル  だったりする」

「え」

「金髪の。ものすごく長かったり、爪。」

「いや、普通だけど。」

もちろん、ギャルには䜕の眪もない。私が勝手に身構えたのには、ちょっずした理由があった。

息子は、銖をかしげおから、少し照れくさそうに、背筋を䌞ばした。めずらしく、あらたたっおいる。

「じ぀はね。倧孊䞀幎のずきから、お付き合いしおる人がいお。二人にも䌚わせたいなず思っお。」

次々ず攟たれる矢。たさか、たさか。䞀幎のずきからずは、たるで気づかなかった。思わず、倫ず顔を芋合わせた。私の空想ギャルは、䞀瞬で消えた。同じ倧孊の同玚生だずいう。

息子の暪顔が、ふいに倧人びお芋えた。カフェオレのカップが、その手のなかで、ずいぶん小さい。



じ぀は、ずっさに口を぀いお出た金髪ギャル。あれは、ゆりこさんのせいだ。友人でもあり、子育おの先茩でもある。

子どもは六歳違いで、もう瀟䌚人。ちらほら結婚の話も出始めお、䌚えば、結婚芳ずかの話になる。

「結婚は、しおもしなくおも、その人が幞せならそれでいいよね。䞀人のほうが正盎ラクだし。それでも、その面倒を党郚匕き受けおも䜙りあるくらい、倧事だず思える人に出䌚ったんなら  するよね、結婚」

ゆりこさんは、いいこずを蚀ったかず思うず、次の瞬間には䞍穏なこずを平気で蚀い出す人。だから、うっかり感動しおはいけない。

「でも、どうする ずんでもない子を連れおきたら」

「たずえば」

「『ちょりヌす』っお入っおきお、爪がものすごく長くお。シザヌハンズみたいに、チョキン、っお」

そう蚀っお、私の前髪を切る真䌌をした。

「金髪で、顔黒ギャルみたいな子」

思わず前髪を守りながら、「今どき、そんな子いないでしょう」ず笑った。それでも、䞀床想像しおしたうず、少しだけ身構える。ちょっず、ビビる。

でも、ゆりこさんは最埌に、決たっおこう蚀う。

「たあ、そんなに心配しなくおも倧䞈倫。呚りを芋おいおもね、みんな『そうだよね』っお子を、ちゃんず連れおくるから」

どういう意味、ずいう顔をするず、圌女はいたずらっぜく目を现めた。

「子どもが奜きになる人っお、䌚えば分かるよ。ああ、この子はこんなふうに育ったんだな、っお感じるから。」

そのずきは、いたひず぀よく分からなかった。けれど、たさか、こんなに早く我が家にも、その日が蚪れるずは。

すごく緊匵しおきた。果たしお、どんな子だろう。こんなこずは、これたでなかった。

埅ち合わせは、本郷キャンパス。䞉四郎池が浮かんだ。挱石の䞉四郎が、池のほずりで䞀目惚れをしお、けれど恋は実らず、最埌に「ストレむ・シヌプ迷える矊」ず぀ぶやく、あの話。

そこから、想像は悪いほうぞず転がっおいった。うちの子に、排萜たデヌトなんおできるのか。䞉四郎みたいに、もじもじしおいるうちに、いいように振り回されお、隙されおやいないか。悪気はない。ないけれど、我ながら倱瀌なこずを、倧真面目に考えおいた。ぜんぶ、挱石のせいだ。いやいや、瞁起でもない、ず銖を振った。

そんな䞍穏なこずを想像しおおきながら、ずりあえず、䜕を着おいこうか、ずワクワクし始めた。お土産は䜕を枡せばいいんだろ。正解は䜕?!

手短に、ゆりこさんにLINEで䌝えるず、垰囜子女らしいリアクションが返っおきお圓惑した。ただ、即垭でも、アドバむスはさすがだった。

LINE: ゆりこ
バリキャリでもないんだから、孊祭にスヌツはやめお。かずいっお、普段着でも行かない。䞊質なリネンの服がいい。あのベヌゞュの、いいじゃん。䌌合っおたよ。差し色に、ストヌル巻いたら綺麗。

LINE: 私
圓日暑いから、垜子をね、被っおいこうず思うんだけど、倱瀌かな。

LINE: ゆりこ
盞手に倱瀌っおいうより、それはやめずきな。ご挚拶のずき、脱ぐよね、ヘレンカミンスキヌ。そしたら、どうなる。髪はワカメみたいにぺたヌっおぞばり぀いおるでしょ。若くないんだから。日陀けは日傘で。その方が、䞊品に萜ち着いお芋える。

LINE: ゆりこ
お菓子は、そうだなぁ。倧きな箱菓子ずか、重い矊矹ずか、荷物になるようなのはダメね。たずえ矎味しくおも。垞枩で溶けず、軜くお、でも、ちょっずいいや぀。高すぎるず、たるで息子のこずをお願いしたすヌっお、圧が匷くなるから控えお。

その堎では結局決たらなかった。ただ、さりげなく、圌女の奜きなものを尋ねたら、息子から「玅茶」ず返っおきた。うわ、これに決たり。

Mariage FrÚresを買う気満々で、癟貚店に行った。マリアヌゞュ フレヌル。  埅およ。

「マリアヌゞュ」だけをずっお芋るず、結婚じゃない 
初察面で「結婚」を手枡す母、にならない 
いや、考えすぎか。
でも、考えすぎるのが母ずいうものだ。

結局、たかが玅茶を䞀぀買うだけで、癟貚店を䞉時間近く歩き回った。



五月の終わり。玄束は、門の前だった。キャンパスの䞊朚は、若葉を青々ず茂らせおいた。葉の䞀枚䞀枚が陜を匟いお眩しく茝き、道いっぱいに濃い圱を萜ずしおいる。日向に立぀ずやや汗ばむほどなのに、吹き抜ける颚はただ透き通っお涌やかで、気持ちのよい日だった。

ずころが、門をくぐった先は、人の海。奥の方から、バンドの重䜎音が地面を揺らし、暡擬店の呌び蟌みが、あちこちから飛んでくる。

ずりあえず、門の前には着いた。広過ぎおどこにいたらいいのか分からない。気づけば、玄束の時間を過ぎおいた。スマホが鳎った。

「今、どこ」

「門のずころにはいるんだけど。」

「近くのお店ず、目印になる番号を教えお。」

門は門でも、どうやら、違う門だったらしい。

「そこから動かないで。倧䞈倫。すぐに、そっちに行くから。」

そう蚀い残しお、電話は切れた。

倧䞈倫。その䞀蚀が、胞に響いた。

小さいころ、迷子になった息子に、䜕床も蚀った蚀葉だった。「倧䞈倫。」それを、子どもから蚀われるなんお。

バンドの音が、いちだんず激しくなる。ベヌスの音が足の裏から䌝わっおくる。人の流れが、右ぞ巊ぞず、私たちをよけお過ぎおいく。その真ん䞭で立ち止たっおいるず、遠い日のこずが、よみがえっおきた。



息子がただ小孊䞉幎生だったころ、この孊祭に連れおきたこずがある。

入り口で、パンフをもらい、行きたいずころを決めた。最初の幟぀かだけ、䞀緒に回っお、予玄刞みたいなものを取った。「もう䞀人で回れる、倧䞈倫」ずいうから、午埌二時のゎム飛行機の工䜜堎所だけ確認しお別れた。そういう玄束だったから、リュックの䞭身は準備䞇端だった。

「迷わず回れるのかな。理系の棟たで遠いし」ず心配しおいる私に、倫は、問題ないよず蚀った。私が気を揉むそばで、倫はい぀も、なんでもないこずのように笑っおいる。この人がそうしおいるず、倧䞈倫な気がしおくるから、䞍思議だ。

埅ち合わせの堎所で埅っおいたら、リュック姿の息子が人混みから珟れた。私たちを芋぀けるず、倧きく手を振る。額には汗、頬は赀い。巊手には氎色のかき氷、右手には 䜕だろう、工䜜か䜕か。目を现めおもわからない。

「これ、テンセグリティ。割り箞ずゎムだけで䜜ったんだよ」䜜り方の玙も芋せおくれた。

「芋お。どこもくっ぀いおないのに、厩れない。すごいでしょ」

蚀われおよく芋るず、たしかに、朚ず朚はどこも觊れ合っおいない。现い茪ゎムの匵力だけで、互いを匕っぱり合いながら、宙に浮くように、絶劙なバランスを保っおいる。

他にも、リュックからは猶バッゞや、鉱物なのか、石ころなのか、よくわからないものが次々ず出おきた。あんなに心配しおいたのに、芪の心、子知らずずは、よく蚀ったものだ。



人混みの向こうに、息子を芋぀けた。

スロヌモヌションでもかかっお、小孊生だったころず、今の姿が重なった。倧きくなったものだ。

向こうは、ただ気づいおいない。その隣に、女性がいた。二人は、䜕か話しおいる。呚りがうるさいのだろう。

息子が少しかがんで、圌女の蚀葉に耳を傟けおいた。その仕草を芋た瞬間、胞の奥が、ずん、ず鳎った。あれは、倫が、私の話を聞くずきず、そっくりだった。

息子が、こちらに気づいた。笑顔で手を挙げる。その隣で、小さく䌚釈をしながら歩いおくる女性がいた。その景色だけで、「玹介したい人がいお。」ずいう蚀葉の意味が、すっず、胞に萜ちおきた。息子が奜きになるのも、わかる気がした。

朚陰ぞ移り、四人で挚拶をした。銀杏の枝が頭䞊で緑の倩蓋を぀くり、その隙間から、初倏の光がこがれ萜ちおくる。息子は茶色のチノパンに癜の長袖シャツを腕たくりしおいた。二人ずも、少し、頬が赀い。淡い色のワンピヌスの圌女は、癜いハンカチヌフをそっず指に掛け盎し、「はじめたしお」ず䞁寧に頭を䞋げた。その所䜜が、驚くほど自然だった。

䞀通りの玹介が終わるず、雑談タむムになった。息子も本を読むほうだが、圌女は、それ以䞊に読曞家だずいう。本の話になるず、声がひずきわ匟んだ。

圌女が話しおいるずき、息子は黙っお、隣でそれを聞いおいる。芋たこずのない暪顔だった。誰かの蚀葉を、あんなにやわらかい目で受けずめるのか。

話しおいるあいだにも、友人たちが䜕人も、私たちの暪を通り過ぎる時に、声をかけお行った。そのたびに、二人がそろっお手を挙げる。

「あずで、いくね。」

冷やかされるわけでもなく、ごく圓たり前のように。このキャンパスの䞭に、二人は溶け蟌んでいた。

「䞀幎のころから、勉匷をいろいろず教えおもらっおいお」そう蚀っお、圌女ははにかんだ。息子は息子で、い぀も圌女に教えおもらっおいるず蚀う。どっちがどっちでも、いいような。ただ、二人の呌吞があたりにも合っおいお、可笑しくお頬が緩んだ。

青葉のあいだを、颚が掠めおいく。さわさわず葉擊れの音がしお、朚挏れ日が、四人の足もずで、ちらちらず揺れおいた。

「本圓に、気が利かない人だから  いろいろ、ご迷惑をおかけしおいないかしら」申し蚳ない気持ちを䌝えるず、すぐに圌女は手を振った。

「党然。たくさん助けおもらっおいお。ほんずうに優しい人です」

なんかもう、これだけで胞がいっぱいになった。思わず、握手をしたくなったが、怖がらせおもいけないので、しずかに埮笑んだ。

ふいに、ゆりこさんの蚀葉が浮かんだ。䌚えば分かる。ああ、この子はこんなふうに育ったんだな、っお。なんずなく、その意味が呑み蟌めた。


それにしおも。

倧孊生掻が忙しそうで、ゆっくり話す機䌚もなかったずはいえ、䞀幎のずきから圌女がいたなんお。少しも、感づかなかった。

でも、そう蚀えば、クリスマスも、家にいなかった。高校の仲間ず遊んでいるずばかり、勝手に思い蟌んでいた。玄関で「いっおきたす」ず蚀うずきの、少し匟んだ声。鏡の前で髪を気にするようになったこず。倧孊生になっお、だんだん身なりも小綺麗になっお。

あのずきの、ひず぀ひず぀の小さな倉化が、すべお繋がった。そうだったのか。気づかないうちに、成長しおいるのだ。



垰り道、䞉四郎池ぞ䞋りた。

氎蟺に近づくだけで、空気が、ひやりず倉わる。バンドの音も、呌び蟌みの声も、朚立の向こうぞ、朮が匕くように遠のいおいく。かわりに、どこかで鳥が鳎き、氎面に萜ちる朚の葉の、かすかな音が耳に届いた。池には、新緑ず空ずがひず぀に溶け、ずきおり、鯉の背が波王を広げおいく。

あの日も、ここぞ䞋りたのだった。小さな息子が、氎面をのぞき蟌んで、「鯉がいる。金色」ずはしゃいでいた。池は、あの頃ず䜕も倉わっおいない。

あんなに䞍吉がっおいた䞉四郎池。おそるおそる、挱石先生に謝っおおいた。ストレむ・シヌプの出る幕なんお、どこにもなかった。

池を抜け、湯島倩神のほうぞ少し歩いお、老舗の和菓子屋さんに立ち寄った。名物の豆倧犏を、いく぀か包んでもらう。手のひらに、ずっしりずした重みが返っおくる。

こんな日がくるなんお、いいものだな、ず思った。

家に垰っおから、倫ずお茶を淹れ、豆倧犏を頬匵る。やわらかな逅ず、ほんのり塩のきいた逡が広がっおいく。昔ず、少しも倉わらない味だった。

「もう、そんな幎頃になったんだね」

しみじみず、二人で話しおいた。倫は、よけいなこずは、䜕も蚀わない。私が䜕でも奜きなようにできるのも、この人が、い぀も隣にいおくれるからだ。

初めお恋人を玹介された。母ずしおもっず寂しくなるものかず身構えおいたけれど、䞍思議ず、そんなこずはなかった。むしろ、うれしかった。䞀緒に笑い合える人が、いたのか。そう思うだけで、目の奥が、぀んず熱くなった。



季節が巡り、ふたりは䞀぀ず぀、決めおいった。顔を合わせる折に、さりげなく、おいしい玅茶やお菓子を枡す。私のうれしい気持ちは、なるべく出しすぎないように気を぀けお。近すぎず、遠すぎず。

でも、たのしい。この感芚。

あのテンセグリティは、今では私の机の䞊にある。茪ゎムは、息子が䜕床か替えおくれた。

朚ず朚は、䞀ミリも觊れおいない。それなのに。絶劙なバランスで立っおいる。その姿が矎しい。

こうしお、なんでもない日が、䞀日、たた䞀日ず積み重なっお、ゆっくりず圢になっおいくのだろう。あの朝、カフェオレの湯気の向こうで聞いた䞀蚀から、ずいぶん遠くたで来たものだ。


玹介しおくれお、ありがずう。
あなたの倧切な人を。








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