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黒字リストラと45歳の線引き

※この記事は、筆者個人の経験と見聞、および公開されている報道・調査データに基づくものです。特定の企業の内部情報や機密情報を開示するものではありません。組織や部署によって状況は異なります。

役職定年の前に、そもそも席は残るのか──黒字リストラと45歳の線引き


以前、55歳の役職定年について記事を書いた。課長で昇格が止まった場合、役職定年で給与が下がり、生涯賃金では課長代理と逆転することもある、という話だった。

あの記事を書いたとき、自分は無意識にひとつの前提を置いていた。

「55歳まで、会社に席がある」という前提だ。

最近のニュースを見ていて、この前提のほうが先に崩れるかもしれない、と思い始めた。今回はその話を書く。

■ 数字から見る「黒字リストラ」

東京商工リサーチの集計によると、2025年度に早期・希望退職を募集した上場企業の対象人数は2万781人。前年度の約2.5倍だった。

驚くのは人数ではなく、その中身だ。募集した企業の約8割が黒字だった。

業績が悪いから人を減らす、のではない。業績が良いうちに、人員構成を作り替えている。いわゆる黒字リストラだ。

対象年齢を見ると、もっと生々しい。

・三菱電機:53歳以上
・明治ホールディングス:50歳以上
・KADOKAWA:45歳以上

45歳。役職定年の55歳より、10年も手前に線が引かれている。

自分はこの数字を見たとき、正直、ひやりとした。役職定年の損得計算をしている場合ではないかもしれない、と。

■ 「早期退職に応じた57歳、100社応募して不採用」

もうひとつ、忘れられない報道がある。

希望退職に応じた57歳の男性が、再就職のために100社に応募して、採用されなかったという話だ。

希望退職には割増退職金がつく。数千万円が上乗せされるケースもある。それを見て「もらえるうちにもらって外に出たほうが得だ」と考える人もいる。

でも、外に出た後の市場が、その年齢の自分を必要としてくれるかどうかは、まったく別の問題だ。

割増退職金は、言い方を変えれば「この先の年収が見つからないリスク」の値段でもある。

■ 60歳を超えたら年収一律200万円、という制度

SNSで話題になっていた投稿がある。ある大手企業の雇用延長制度で、60歳を超えたら年収が一律200万円になる、というものだ。

この投稿には「うちも似たような制度だ」というコメントが続々とついていた。

役職定年で2〜3割下がる、という話を以前書いたが、その先にはもう一段、大きな崖がある。再雇用の条件だ。

・55歳:役職定年で年収2〜3割ダウン
・60歳:再雇用で、さらに半分以下になることも

このカーブを正確に把握している現役社員は、意外と少ないと思う。自分も、先輩たちの実例を見聞きするまで、ここまでの落差だとは思っていなかった。

■ 一方で、役職定年を「廃止」する会社もある

ここまで暗い話ばかり書いたが、逆方向の動きもある。

富士通やNECは、役職定年制度を廃止した。年齢ではなく、能力と成果で処遇を決める、という方針だ。調査によれば、役職定年制度のある企業は16.7%まで減っているというデータもある。

これは朗報に聞こえる。でも、自分はむしろ、こちらのほうが厳しい話だと受け止めている。

役職定年の廃止は、「55歳になっても自動的には降ろされない」と同時に、「55歳まで自動的には守られない」ということでもあるからだ。

年齢で一律に処遇が決まる世界では、良くも悪くも、レールに乗っていれば先が読めた。

能力と成果で決まる世界では、45歳だろうが50歳だろうが、成果が出ていなければポジションを外れる。冒頭の黒字リストラは、まさにその文脈で起きている。

「役職定年がなくなってよかった」ではなく、「定年を待たずに、いつでも線を引かれ得る」時代になった、と読むべきだと思う。

■ 課長という立場から見える景色

自分は今、課長として部下の評価をつける側にいる。だから、こういう構造変化が現場でどう運用されるかも、ある程度見えてしまう。

早期退職の募集要項には、たいてい「対象:45歳以上、勤続20年以上」といった条件が書かれている。建前は「本人の自発的な応募」だ。

でも実際には、その手前に面談がある。今後のキャリアをどう考えていますか、という面談だ。

誰にその面談が設定されるか。そこには、評価の積み重ねが反映される。

つまり、45歳で線を引かれるかどうかは、45歳のときに決まるのではない。もっと前から、少しずつ決まっていく。

■ では、何を準備するか

役職定年の記事で、うまく乗り越えた人の共通点として「準備が早かった」と書いた。今回の話は、その準備の締め切りが10年早まったという話だと思っている。

自分が意識していることを3つ書く。

【①「社内でしか通用しない実績」と「外でも通用する実績」を区別する】

社内の調整がうまい、あの部長に話が通せる、この会社の稟議の通し方を知っている──これらは45歳の線引きの前では、ほぼ無力だ。

顧客の業務を深く知っている、この技術領域なら設計から語れる、マネジメントの実績を数字で説明できる──外でも通用するのはこちら側だ。自分の仕事を棚卸しするとき、この区別を意識している。

【②「辞めないから関係ない」をやめる】

転職するかどうかと、転職できる状態を保つかどうかは、別の話だ。

職務経歴書を書けと言われて、すぐ書けるか。自分の市場価値を、一度でも外の物差しで測ったことがあるか。

線を引かれてから慌てて測るのと、引かれる前から知っているのとでは、選択肢の数がまったく違う。

【③ 割増退職金を「もらえるお金」ではなく「保険の原資」として見る】

もし自分が対象になったとき、割増退職金の額面に飛びつかず、「この金額で、次が見つかるまでの期間と年収ダウンを吸収できるか」で判断する。

57歳で100社不採用、という現実がある以上、額面だけで判断するのは危険すぎる。

■ 最後に

役職定年の記事を書いたとき、「55歳のことなんてまだ先だ」という感想もあった。

でも、線引きは45歳まで降りてきている。35歳の人にとって、あと10年の話だ。

会社は悪意で線を引くわけではない。事業構造が変われば、必要な人員構成も変わる。それ自体は責められない。

責められないからこそ、自分の側で備えるしかない。

役職定年の損得計算は、席が残っている人だけができる贅沢な計算だった──そうならないように、今のうちから外の物差しを持っておきたい。


この記事の内容は、公開されている報道・調査データと、筆者個人の経験・見聞に基づいたものです。制度の内容は企業によって異なります。特定の個人・特定の企業の話ではなく、一般的な傾向として書いています。

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