商業界精神と梅岩の思想_4(全8)_人間は何のために生きているのか
株式会社商業界
主幹 倉本初夫氏
石門心学文集(二)「こころをみがく」2011年発刊より抜粋
■人間は何のために生きているのか
先般、地方での講演会の帰りに新幹線の駅まで在来線に乗っていました。周りには学校帰りの子供たちもたくさんいましたが、ある駅で作業服を着た1人の男性がカップ酒を持って乗ってきました。
酔っ払った様子で席にどかっと座ると「なんだっておれは生まれてきたんだ!」と大きな声で言いました。それまで子供たちが楽しそうにがやがやしていた社内が一瞬静まり返り、みんな怖そうに遠ざかっていきました。
その人を横目で見て、私は何か一声掛けなければいけない気がしました。
これまでの生き方に対して罵詈雑言を浴びせられたのか、一番痛いことを言われたのかわかりませんが、昼間から自棄酒を飲んでいるのは何かあったからに違いありません。
私がためらっているうちに、その人は2駅くらいで降りて行きました。その後ろ姿を見て、私は悪いことをしたと思いました。
「袖振り合うも他生の縁」というように、1人の人が悩み苦しんでいるときに、何か助けてあげることはできないかと考えるのが人間の本性だと思います。
『都鄙問答』に、
「士農工商は天下の治まる相(たすけ)となる。四民かけては助け無かるべし」
という有名な言葉があります。
「世の中は助け合いなのだ。士農工商のどれ1つが欠けても世の中は成り立たない」という意味です。
また梅岩自身の教えとして、「天皇も物乞いも同じ人間だ」と言っています。
当時の厳しい封建社会の中で「人間は全て平等だ」と言い切っている点で、梅岩は思想的な革命家だったと思います。
また、梅岩の言う「倹約」はケチや節約ではなく、「合理」です。世の中は助け合いなのだから、自分と人との関係を誰もが納得できるほど考え、触れ合う相手1人1人を思いやらなければいけません。
来年の商業界ゼミナールのメインテーマは「恕(思いやり)」です。「恕」という文字は私の父の墓の隣の無名戦士の墓にも刻まれています。思いやりを持たなければ人間ではありません。
石田梅岩は「冬の寒いときには、自分は日陰を歩き、一人でも日の当たるところを歩いてもらいたい」と言っています。
■5_石田梅岩に学ぶ_ につづく
