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「かかりつけ言語聴覚士」を目指して

今回は当団体の認定会員さんである、Lifeさぽーとサンカツ 言語聴覚士・段上さんに記事を投稿してもらいます。
今回のテーマは、保険外サービスを始めた理由と、地域で広がる言語聴覚士の役割、です。

Lifeさぽーとサンカツさんは相手を焦らさない、自然と落ち着いて話すことができる柔らかい雰囲気の方です。保険外サービスで言葉や食べるリハビリをしてほしいという希望はたくさんあるのにしてくれる人がいないと団体にも時々相談が入ります。
他者と話す、おいしいものを食べる、どれも人生を豊かにする行動ですよね。そんな生活を支えてくれる方の記事を是非どうぞ。

はじめまして


はじめまして。兵庫県で保険外サービス「Lifeさぽーとサンカツ」を運営している、言語聴覚士の段上です。
私は2023年9月から、「かかりつけ言語聴覚士」を目指して地域に根差した活動を行っています。

今回は自己紹介を兼ねて、私がなぜ保険外サービスを始めたのか、現在どのような活動をしているのか、そして地域で活動する中で感じている言語聴覚士の役割についてお伝えします。

なぜ、保険外サービスを始めたのか


言語聴覚士は、小児から成人まで幅広い分野で、ことばやコミュニケーション、食べることの支援に携わる専門職です。その多くは医療・介護分野で勤務しており、私も長くその一人でした。
私は地域中核病院で、急性期から生活期まで、さまざまな段階のリハビリテーションを経験しました。開業前は訪問リハビリにも従事していました。
臨床の現場では、多くのやりがいを感じる一方で、疑問や葛藤を抱くこともありました。

急性期では、「このような嚥下状態になるまで、どのような生活を送っていたのだろう」「もっと早く関わることはできなかったのだろうか」。

回復期では、「退院後も自立した生活を送れているだろうか」「無事に職場へ戻れただろうか」。

訪問リハビリでは、「朝夕で変化する嚥下状態に、もっと柔軟に対応できないだろうか」「地域活動や職場へ同行できれば、より効果的な支援ができるのではないか」。

また、回復が期待できる状態であっても、制度上の算定日数の上限などにより、リハビリを終了せざるを得ない方もいらっしゃいます。
コミュニケーション機能が改善し、地域活動や就労、ボランティア活動へ移行できる可能性があっても、自信を持てず参加を諦め、自宅に閉じこもるようになる方の姿も見てきました。

こうした経験から、言語聴覚士は機能訓練だけでなく、コミュニケーションの支援者として社会参加まで寄り添い、伴走する役割があるのではないかと考えるようになりました。

しかし、組織に所属して提供する訪問リハビリには、利用できる時間帯や場所、制度上の範囲に制約があります。
そこで、一人ひとりの生活や目標に合わせて継続的に支援したいという思
いから、開業を決意しました。

開業して初めて見えた、地域の困りごと


開業当初は、脳卒中後遺症のある方への自費リハビリや健康サポートを中心に事業を展開しようと考えていました。しかし、実際には、小児から高齢者まで、さまざまな相談が寄せられました。
開業前にも、地域の言語聴覚士数やサービス事業所数、高齢化率、介護保険利用者数などは調べていました。それでも、数字だけでは地域の実情やニーズを十分に把握できていなかったのです。

 子どもに言語聴覚士の訓練を受けさせたいが、利用できる頻度が少ない
 認知症予防を専門的に支援してくれる場所がない
 健康教室の講師を探している
 嚥下やコミュニケーションについて気軽に相談できる場所がない

こうした声は、地域活動へ足を運び、住民の方や関係者と出会う中で初めて知ることができました。
自ら地域へ出向き、直接声に耳を傾けることで、本当に必要とされている支援が見えてくることを実感しました。

現在取り組んでいること


現在の活動の中心は、保険外サービスによる訪問リハビリです。
脳卒中後遺症のある方や、発音・発達に課題を抱えるお子さんなどを支援しています。
機能訓練だけでなく、保険制度の枠内では実施が難しい、2〜3時間程度のまとまった時間を活用した生活場面の評価や支援も行っています。たとえば、洗濯、買い物、調理など、実際の暮らしの中で必要となる活動です。

さらに、利用者さんが制作した作品を地域のマルシェで販売する、フリーマーケットへの出店を支援する、嚥下障害のある方と飲食店へ同行して安全に食事を楽しめるよう支援するなど、社会参加そのものを支える活動にも取り組んでいます。

保険外サービスだからこそ、生活や目標に合わせて支援内容や時間を柔軟に組み立て、継続して伴走できることが、この仕事の大きな特徴だと感じています。

地域とのつながりから、活動の場が広がった


個別の訪問リハビリ以外にも、就労継続支援事業所でのコミュニケーション支援、デイサービスでの食支援、健康教室や研修会の講師などを担当しています。
地域貢献活動として、健康セミナーやインクルーシブ喫茶も開催しています。
こうした活動の多くは、認知症カフェ、いきいき100歳体操、失語症・高次脳機能障害の当事者会、肢体不自由児者父母の会、地域のマルシェなどへ参加し、そこで出会った方々とのつながりから生まれました。

病院という組織を離れると、専門職という肩書だけで地域から信頼していただけるわけではありません。自ら足を運び、顔を知っていただき、少しずつ信頼関係を築くことが何より大切でした。

活動を続ける中で、「困ったことがあれば相談してみよう」「言語聴覚士に聞いてみよう」と思っていただける機会が、少しずつ増えてきました。
また、地域資源とのつながりが増えたことで、利用者さん一人ひとりに合った社会参加の場を紹介できるようにもなりました。

社会的な孤立を防ぐことも、言語聴覚士の役割


失語症、構音障害、高次脳機能障害、認知症、発達障害など、コミュニケーションに影響を及ぼす障害は数多くあります。見た目では分かりにくく、実際に関わって初めて、その困難さに気づくことも少なくありません。
コミュニケーションへの不安から会話の機会が減ると、外出や人との交流も少なくなります。
その結果、社会とのつながりが薄れ、認知機能や身体機能の低下につながるという悪循環に陥る可能性があります。

だからこそ、言語聴覚士の役割は発話やコミュニケーション機能の訓練だけではないと考えています。
安心して会話できる場をつくり、地域活動への参加を支えることで、社会参加を維持・促進し、孤立を予防することも大切な役割です。

「困る前から地域にいる専門職」でありたい


多くの言語聴覚士は病院や介護施設で勤務しているため、地域住民が直接相談できる機会は、まだ決して多くありません。
一方、地域には支援を必要としながらも、相談先が分からず困っている方が数多くいます。
要支援・要介護状態となった場合には、訪問リハビリや通所リハビリなどの介護保険サービスが、在宅生活や社会参加を支える重要な選択肢となります。
そのうえで、地域で活動する言語聴覚士には、保険制度だけでは対応しきれない部分を補い、必要な支援や地域資源へつなぐ役割があると考えています。

私が目指しているのは、困ってから支援するだけではなく、困る前から地域にいる専門職です。
そのためには、リハビリテーションの知識に加えて、地域資源や関係機関とのネットワーク、多職種と連携する力も欠かせません。

おわりに


リハビリテーションの対象となる方は、それぞれの地域で暮らす生活者です。
退院後に「相談先が分からない」「支援につながらない」という理由で孤立することがないよう、地域資源とつながる仕組みや、気軽に相談できる環境をつくる必要があります。
私自身も、「かかりつけ言語聴覚士」として地域に根差した活動を続けながら、地域住民の皆さんが安心して暮らせる環境づくりに、少しでも貢献していきたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。