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Organization論 #2

FormatとProtocol

前回の記事では「Job」について整理をした。

Jobとは「果たすべき責務」であり、組織はHelmsman(舵取り)General(戦略の策定)Execution(翻訳と実装)Operation(価値の創造)で構成されている。

だが、世の中は常に変化しているのだ。
Helmsmanはそれに合わせて舵を切らなければならない。激動の市場環境の中で、自分の会社がより良いポジションを取ることができるように。

そのためには、Generalが常に最新情報を集めて分析し、最善の指針をHelmsmanに提供しなければならず、またそれに合わせた出力と手順を、ExecutionがOperationに伝えなければならない。

もちろん、外部から情報を入手することも重要だ。だけど、それよりももっと価値が高いのは、社内で(多くの場合Operationが)有している「暗黙知」だ。なぜなら、社内の暗黙知はそれ自体がすでにその会社の価値の源泉になっている場合が多く、且つ他社との優位を生み出す可能性の高い情報だからだ。


そうなると、情報を管理する仕組みを整備しなければならない。そしてそれは、Organization全体を動かすための共通規則であるべきだ。ボクはそれを「Format」と「Protocol」の設計だと考えた。

Format(Informationの形式を揃える)

情報を、どのような形で扱うか「統一的な形式」を揃えるもの。社内でバラバラの伝達方法になってしまうと、後々集計や分析が難しくなる。

Protocol(Interactionの方法を揃える)

それ(Format)を「誰と誰が」どのような「手順と条件」でやり取りするかを揃えるもの。その伝達はInteraction(双方向)でなければならない。

FormatとProtocolの設計は、できるだけ早い段階で行っておく方がよい。また、一度設計したらそれを後生大事に使い続けるというものではなく、組織の変化やテクノロジーの進化などに合わせて、柔軟に作り直していくべきだ。

ACKとNAK

情報の伝達はInteraction(双方向)でなければならない。
なぜなら、多くの組織で「立場的に下の人が上の人にいきなりネガティブな意見をすること」は難しいからだ。だから予め「ACK」と「NAK」のシグナルを返せる設計にしておくべきだ。

ACK(Acknowledgement)

相手から受け取ったIntent(意図)・Judgment(判断)・ Output(出力)に対して「このまま進めてよい。」と返す承認信号。

NAK(Negative Acknowledgement)

相手から受け取ったIntent(意図)・Judgment(判断)・ Output(出力)に対して「このままでは進められない。修正が必要。」と返す拒否・修正要求信号。

このACKとNAKを上手く機能させることで、Helmsman → General → Execution → Operationという動脈的な情報伝達と、逆にOperation → Execution → General → Helmsmanという静脈的な情報伝達も行われるようになる。

ただし、組織というものは、どうしても静脈的な情報伝達より動脈的な情報伝達の方が強くなってしまうものだ。だからNAKは「External NAK(別のJobから返されるNAK: いわゆるFeedback)」以外にも「Self NAK(自分が自分に返すNAK: いわゆる内省)」も働かさなければならない。

さて、この設計ができれば、理論的には「暗黙知」を「形式知」に変換し、その情報を戦略や舵取りに活かすことができるはずだ。

ここで、前回の記事の最後に書いた問いに戻ろう。
同じJobを担っている人でも、Knowledgeの扱い方は同じなのだろうか

T君のケース

先日、ボクは友人の社長と飲んでいた。
彼は自社の中心的なメンバーである「T君」の話をしてくれた。それは「T君は社長が求めているような成果を出していない」「高い給料を払っているのにやることが中途半端」というものだった。社長はこの会食の直前に、T君を直接呼び出して小言を言ったそうだ。

だが、ボクはT君と何度か会話したことがあり、彼の(能力ではなく資質を)割と高く評価していたので、社長に「T君には、高い給料を払って自由にさせておいた方がいい」と提案した。なぜボクはそんなことを言ったのか。

前回の記事で書いた通り、社員一人ひとりが「直接生み出した価値」だけを成果としてカウントするのは良くない。なぜなら、顧客に対して直接価値を提供するのはOperationだからだ。

T君のJobはOperationではない。
ボクの見立てではExecutionだ。というより、T君にExecutionのJobを与えた方が、本人にとっても、組織にとっても、有意義だろうと感じている。

ボクがT君を評価するポイント。
それは(おそらく)T君が持っているであろう(暗黙知を形式知に変換する)Knowledgeプロセスに関与する能力だ。

Behavior(行動特性)

Jobとは別軸で、ボクはここに「Behavior」という概念を提案しようと思う。

Behaviorとは、一般的に言われる「行動」というような意味ではなく、「Knowledgeに対してどのような行動特性を持つか」を表す固有概念だ。ボクは、このBehaviorを3つに分類したい。

Innovator的 ― 試すことが好きな人

この特性の人は、0 → 1を生み出す可能性を秘めている人だ。つまり、新しいKnowledgeを生み出すことが成果となる。ただし、必ず成功するとは限らない。失敗を含めて「挑戦」だ。その失敗を適切にFeedbackできれば、次の挑戦の確度を上げることができるのだ。

Niquist的 ― つなぐことが好きな人

この特性の人は、1 + 1 → 2にする人だ。既存のKnowledgeや人、Context(文脈や背景)などをコネクトすることによって、組織の情報ネットワークを広げていく人だ。いわば、Niquist的な資質の人がシナプスの役割になることで、ニューロンがいろいろな方向に拡がっていくようなイメージだ。

Traditionalist的 ― 受け継ぐことが好きな人

この特性の人は、1 → 1に維持する人だ。既存のKnowledgeを再現・継承する。地味ではあるが、Traditionalist的な資質の人がいなければ、1 → 0.5に目減りしていき、いつか会社が立ち行かなくなってしまうだろう。そして、往々にして、社内の有益な「暗黙知」はこの人たちが握っていることが多い。

え?これじゃたいして増えないじゃないかって?
いいかい。世の中にはそんなに美味しいアイディアが転がっているものじゃないし、簡単に手に入るものじゃない。Innovatorがいろいろ試してやっとの思いで点した火種に、Niquistが火口や焚き付けを少しずつ加えていき、Traditionalistが加減しながら風を送る。それが上手くいけば、火は大きく燃え上がり、調理や暖を取るのに使えるようになるってもんだぜ。

Niquist的とはどういうことか

この3つのBehaviorの中に「Niquist(ナイキスト)」という聞きなれないワードがあったことに気づいただろう。

「Niquist」は人物の名前だ。
ハリー・ナイキスト(Harry Nyquist)は1940年頃にベル研究所で熱雑音、フィードバック増幅器の安定性などの研究に取り組んだ人物だ。

ダニエル・コイルの著書『The Culture Code』によると、このハリー・ナイキスト氏は「組織の文化を体現する人物」だったそうだ。それは、困ったときに相談したくなるような人物。部署を越えて自然と人が集まるような人物だ。

つまり、ハリー・ナイキストは、誰に頼まれたわけでもないのに、シナプスのような働きをし、それによってベル研究所の「Culture」というニューロンを拡げていたのだ。

そういうBehavior(Knowledgeに対する行動特性)の人が組織に存在していないと、1 + 1 → 2にならない。そう、いくらInnovatorが新しい挑戦をしようとしても、火口や焚き付けが無いとその火種はすぐに消えてしまい、安定した炎になることはないのだ。

なぜNiquistには自由が必要なのか

Niquistが作り出すコネクションは偶発的だ。
彼らはふとした時に「これとこれ、つながるじゃん」という発見をする。そのコネクションは、(アイディアが創発しやすい「馬上・枕上・厠上」とは異なり)活気づいている場所における、なにげない会話の中で創発することが多い。

件の社長の話を聞くと、例のT君も時間が空くとフラッと出かけて、現場の人たちとワイワイ話し込んでくるんだそうだ。それが直接的に価値を生むわけではないだろう。だけど、きっとT君のNiquist的な行動が、会社のKnowledgeネットワークを拡げているはずだ。

そのKnowledgeを有効活用できるかどうかは、T君ではなく会社の情報ネットワーク設計にかかっている。もし適切な情報ネットワークを構築できていれば、T君の行動は将来的に(彼から少し離れた場所で)しっかり価値を生むだろう。

だからボクは「T君には、高い給料を払って自由にさせておいた方がいい」と言ったのだ。

競争優位性の作りかた

だから、個人が直接的に生んでいる成果だけを測ってはいけない。個人の成果だけを測って評価していると、Knowledgeネットワークに形式知を形成している人を見落とすからだ。

改めて繰り返すが、(多くの場合)Operationが持っている暗黙知をExecutionが拾い上げ、翻訳してGeneralに返すことで形式知が形成されていく。その形式知が戦略の修正に影響を与え、Helmsmanが舵を切り直す。そして同時にOperationに新しい指示が伝達される…

企業の競争優位性はそうやって積み上げられていくのだ。

そして、その競争優位性の源泉となるKnowledgeネットワークのハブになっているのが、Niquist的な行動特性を持っている人だ。彼らの成果はこれまでのものさしでは測れない。

Organizationはどう動くのか

ここまでの2回でJobとBehaviorについて解説した。
そうなると、ここでまた新たな問いが生まれる。

それは「Organization(組織)はどう動くのか」だ。

JobとBehaviorが別物なら、Organizationには二つの異なる動きが存在する。次回はその「動き」について解説していこうと思う。


↓ #3へ続く

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