選択式小説『まだ、名前で呼べない』第15話
第15話 気まずい雰囲気
『図書館に行きますか?』
そう言われれば、連は行くと答えるが、なぜ今更聞くのだろうか。
いつもと違うハルの様子に違和感しかない。
「……松下さんは、行かないのですか?」
静かな店内で、ハルが息をのむのが分かった。
蓮はハルの答えを待つ。
「……行きます、けど」
「けど?」
「私、別行動にしますね」
無理矢理作った笑顔で返されて、蓮はなぜそんな顔をするんだと言いたくなる。
どうして――
「それは、先ほどの彼の件ですか?」
「……それも、あります。迷惑を、かけちゃったから」
「それは……」
「それに、小宮さんの優しさに甘えちゃってたんです。いつも送ってくれたり……本当なら、自分でちゃんと本を持って帰らなきゃならないのに」
「……俺は、松下さんと一緒に行くつもりでした」
「……え?」
驚いて顔を上げるハル。
けれど、驚いたのは蓮も同じだった。思わず、自分の口元を手で押さえてしまった。
「小宮さん……」
「……すみません、慣れといいますか……いつの間にか当たり前になっていました」
そう、いつの間にか、図書館で会ってお昼ご飯を食べて、ハルを送っていく――それが土曜日だと感じるようになっていた。
「でも……私、迷惑じゃないですか?」
「迷惑なら、最初から誘っていません」
遠慮がちなハルに、すぐさま否定する言葉をつなげる。
本来なら、彼女の言葉をこんなふうに即座に否定することはない。相手の考えを聞いてから、自分の意見を伝える。それが蓮のやり方だった。
それなのに、ハルの主張になぜか焦って否定してしまう。
「……松下さんと行くのが嫌なら、俺も誘っていません」
「小宮さん……ありがとうございます」
ハルは少しだけ目を伏せた。
胸の奥にあった重いものが、ほんの少しだけ軽くなった気がする。
「私……小宮さんに迷惑をかけているんじゃないかって思っていました」
「迷惑だと思ったことはありません」
「でも、いつも送ってもらって……」
「俺がそうしたかったからです」
「……」
ハルは言葉を失った。
それは、今まで考えたことのない答えだった。
「小宮さんって、いつもそうなんですね」
「そうですか?」
「私が勝手に申し訳なく思っているだけなのに、すぐ否定してくれるから」
「……そうでしょうか」
「はい」
ハルは小さく笑った。
けれど、その笑顔はどこか寂しそうだった。
「私も、いつの間にか当たり前だと思っていました。でも……」
「でも?」
「桜庭君に、言われたことが気になってしまって」
蓮は黙ってハルを見る。
語り出したハルの言葉を遮りたくはなかったので、あえて否定しなかった。
「本を読んでいると、彼のことを忘れてしまうって……。私、付き合っている人より本を優先するなんて、文句言われても仕方ないですよね」
「それは、松下さんが悪いという話ではないでしょう」
「でも、桜庭君がそう感じていたのは本当だと思います。私も、彼の不満に気づけませんでしたから」
ハルは困ったように笑う。
半分泣きそうに見えて、蓮は口をぐっと真一文字に噤んだ。
「だから、小宮さんにも同じことをしていたら嫌だなって……」
「……先ほどの彼は、松下さんに何と言ったんですか?」
蓮が尋ねると、ハルはまた俯いてしまった。
よほど話したくないことなのかもしれない。
「……人に話すと楽になる、と本に書いてありました」
蓮はそう言ってから、少しだけ言葉を選ぶ。
「話せるようなら……話してみませんか?」
本の受け売りだった。
自分はカウンセラーではない。彼女の心を軽くすることはできないかもしれない。
けれど、誰かに話すことで気持ちが軽くなることがあるのも確かだ。
蓮は改めてハルに問いかける。
すると、ハルは蓮の様子を窺うように顔を少しだけ上げた。
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今回、選択の都合上、少し短です。すみません。
今回の選択は…
蓮に「話してみませんか?」と言われたハル。ハルは自分の心の蟠りを話せるのか。
A. 「聞いてもらえますか?」と恐る恐る語り出す
B. 「いえ、個人的な問題ですから」と苦笑いで断る
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