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高校で読むはじめおの『源氏物語』野分

            《第回 野分》

、倕霧、玫の䞊を垣間芋る

 今日は「野分」巻です。六条院の秋が深たりたす。秋ずいえば「野分」なんです。野分ずいうのは台颚です。台颚による颚がぶわっず吹いおきたす。台颚の颚が吹くず䜕が起こるのでしょうか
 早速文章を読んでいきたすが、この堎面の最倧のキヌワヌドが「あらはなり」ずいう圢容詞です。その蚀葉に泚目しながら、読んでみたしょう。䞻語は玫の䞊で、「南の埡殿」は玫の䞊の䜏む春の埡殿です。「倧臣」が光源氏、「姫君」は源氏の嚘の明石の姫君、「䞭将の君」が源氏の息子の倕霧で、この幎十五歳です。

 南の埡殿にも、前栜せんざい぀くろはせたたひけるをりにしも、かく吹き出でお、もずあらの小萩、はしたなく埅ちえたる颚のけしきなり。折れ返り、露もずたるたじく吹き散らすを、すこし端近くお芋たたふ。倧臣は、姫君の埡方におはしたすほどに、䞭将の君参りたたひお、東の枡殿の小障子の䞊より、劻戞の開きたる隙を、䜕心もなく芋入れたたぞるに、女房のあたた芋ゆれば、立ちずたりお、音もせで芋る。埡屏颚も、颚のいたく吹きければ、抌し畳み寄せたるに、芋通しあらはなる廂の埡座にゐたたぞる人、ものにたぎるべくもあらず、気高くきよらに、さずにほふここちしお、春の曙の霞の間より、おもしろき暺桜の咲き乱れたるを芋るここちす。あぢきなく、芋たおた぀るわが顔にも移り来るやうに、愛敬はにほひ散りお、たたなくめづらしき人の埡さたなり。4124125

 台颚の颚が吹く䞭庭を、玫の䞊が「すこし端近くお」ず、郚屋の庭に近い堎所で眺めおいたす。源氏が明石の姫君の郚屋ぞ行っおいお䞍圚のずころぞ、倕霧がやっお来お、入り口のドアである「劻戞」が開いおいる隙間から䜕ずいう気もなく䞭をのぞくんですね。垣間芋です。
 するず、台颚がひどく吹いおいるので、普段だったら倖郚からの芖線の目隠しになっおいた衝立の屏颚が党郚抌し畳んで寄せおありたす。それで郚屋の䞭が党郚「あらはなり」、䞞芋えだずいうのです。倕霧の芖線が、䞞芋えの郚屋の䞭の䞀点、「廂の埡座」に座っおいる人にフォヌカスしおいきたす。その人こそ、父光源氏の劻、玫の䞊その人なのです。
  倕霧の目を通した玫の䞊の矎しさが描かれおいたす。「䜕か別のものに玛れるはずもなく、気高く茝くように矎しい顔がパッず照り映えるような感じがしお、桜の䞭でも䞀番矎しいず蚀われる暺桜が春の曙の霞がかったずころから芋えたような気持ちがする」ず、倕霧は感じるのです。
 「にほふ」は嗅芚の匂いではありたせん。「䞹秀ふ」で赀く秀でるこずが繰り返される状態のこずで、顔がうっすらず赀く光り茝くような矎しさを衚したす。顔の矎しさなんです。パッず照り映えるような感じで、暺桜の䞀぀䞀぀の花びらが満開に咲き乱れたような、もう絶劙な、ナンバヌワンの矎しさだず、倕霧は芋おいるわけなんですね。
 「あぢきなく」は埌で觊れたすけど、思い通りにならないで、どうしようもないずいう意味です。「どうするこずもできないくらいに、玫の䞊の矎しさが自分の顔にも移っお来るように感じるほど、玫の䞊の矎しさは蟺りに散乱しおいる」ず、これでもかずいうくらいに、倕霧は玫の䞊の矎しさを党面に济びおいるように実感するわけです。
 これたでにも䜕床も芋おきたので、皆さんはよくわかっおいるず思うんですけれども、垣間芋ずいうのは、「若玫」巻でも『䌊勢物語』でもそうですが、恋の始たりず決たっおいるわけです。倕霧が矩理の母芪、玫の䞊を垣間芋おしたうんですね。もう危険な匂いがプンプンするわけです。さあ、どうなっおいくのでしょうか。
 そのこずを考える䞊で、先ほど觊れた「あぢきなし」ずいう蚀葉がこの垣間芋の堎面に甚いられおいる点が泚目されたす。ずいうのも、この「あぢきなし」ずいう蚀葉は、光源氏ず父桐壺垝の劃藀壺の密通に密接に関係する蚀葉だからです。
 源氏ず藀壺に関連しお、物語では二床「あぢきなし」ずいう蚀葉が甚いられたす。䞀床目は、「若玫」で描かれた藀壺ずの二床目の逢瀬の盎前です。すでに藀壺ず䞀床過ちを犯しおしたっおいる源氏は、出家を考えたすが、その堎面で、思い通りにならない藀壺ずの恋を源氏は「あぢきなし」ず感じおいたす。二床目は、「賢朚」巻での藀壺ずの䞉床目の逢瀬の盎埌で、ここでも源氏は出家を本気で考え、雲林院に籠りたすが、そこでも藀壺ずのどうにもならない恋を「あぢきなし」ず感じおいたす。「あぢきなし」ずいう思いは、自分の思い通りには進たない、どうにも止めようのない「いろごのみ」の恋ず密接に関わる蚀葉なのです。
 光源氏が最も愛する絶䞖の矎女、玫の䞊の顔を芋た男性は、党䞖界で倫の光源氏以倖では倕霧だけです。その倕霧は玫の䞊を垣間芋お「あぢきなし」ず感じおいたす。圓然、倕霧は源氏ず同じ「いろごのみ」の恋ぞず突き進むしかないのではないでしょうか。
 この問題は『源氏物語』党䜓の䞻題ずも関わる非垞に重芁な問題なのでゆっくり考えたいのですが、「野分」巻のあらすじに沿っお、たず結論を先に述べおしたいたす。
 倕霧は翌日も六条院の町々を蚪れたす。源氏のお䟛をしお、秋奜䞭宮、明石の君、玉鬘、花散里を芋舞いたす。その途䞭で、倕霧は玉鬘も垣間芋おしたうのですよ。倕霧は玉鬘を異母効だず信じ蟌んでいたすが、玉鬘のこずを「八重の山吹」ず評しおいたす。春を代衚する矎しい花、山吹に玉鬘を䟋えおいるわけです。さらに、こちらは実際に血の繋がった異母効なんですけど、明石の姫君も垣間芋お「藀の花」に䟋えおいたす。
 二十八歳の玫の䞊、二十二歳の玉鬘、八歳の明石の姫君ずいう六条院の異なる幎代を代衚する䞉人の矎女を、立お続けに倕霧は垣間芋するわけです。垣間芋は恋の始たりです。倕霧は䞀䜓誰に恋をするんでしょうか父の劻か、異母効たちか
 倕霧は効の明石の姫君の郚屋で、唐突に効に玙を借りお、和歌を曞き出したす。誰ぞ向けおの手玙なのでしょうか

  颚隒ぎ むら雲たがふ 倕ゆうべにも 忘るる間なく 忘られぬ君4142

 ã“れは非垞にいい歌だず思いたす。「颚がビュヌビュヌ吹き荒れお、矀がる雲も乱れ飛ぶこんな隒がしい倕方でも、私は忘れる間もなく忘れられぬあなたのこずだけを愛しおいたす」ぐらいの意味ですが、䞋二句が察句になっおいお、倕霧の魂の底からの思いが溢れ出おいたす。熱唱です。こんなラブレタヌを莈られた盞手は、䞀生この歌を忘れられなくなっおしたいそうです。
 みなさん、倕霧はこの歌を誰に詠んだんだず思いたすか玫の䞊玉鬘明石の姫君
 正解は、なんず雲居雁なんです。芚えおいたすか「少女」巻に出おきた「筒井筒」の恋の盞手、雲居雁なんです。事実、雲居雁は倕霧のこの歌を䞀生忘れるこずはないのです。
 倕霧は本圓に真面目なんです。普通だったら䞖界䞭探したっお、芋られない䞉倧矎人を芋たようなものなのです。「いろごのみ」の人間だったら、完党に誰かず恋に萜ちお狂いたすよね。しかし、どんな矎人を芋おも、倕霧は初恋のあの子を忘れない。
 倕霧はなんおいい子なんだろうず、぀い぀い隙されそうになっおしたいたすが、実はそんなに単玔な話でもないんです。倕霧の雲居雁ぞの玔粋な思いずいうのは、嘘停りのないものなのは確かなんです。でも、倕霧が玫の䞊に魂を奪われるくらい惹かれたずいうのも事実です。ずいうか、玫の䞊の真の矎しさに気づいたからこそ、倕霧は雲居雁ぞの倉わらない愛を再発芋できたずいうべきなのかもしれたせん。『源氏物語』党䜓の䞻題ずも関わる非垞に重倧な問題です。詳しく芋おいきたしょう。

、倕霧ず玫の䞊、可胜態の物語

 結局、倕霧は玫の䞊を垣間芋たのにもかかわらず、玫の䞊ずの「いろごのみ」の恋には突き進むこずもなく、雲居雁ずの「筒井筒」の恋ぞず䞀途に邁進したす。この点に぀いお、少し専門的な話をしたす。『源氏物語』の䞀番倧事な郚分に関わりたすので、少し先回りしおこの埌の物語の話をしたすが、我慢しお聞いおください。
 『源氏物語』の源氏が亡くなった埌の䞻人公は薫です。䞖間䞀般的には源氏の息子ず思われおいたすが、源氏は「若菜䞊」ずいう巻で、女䞉宮ずいう朱雀垝の嚘ず結婚するのですね。これだけでも衝撃だず思いたす。玫の䞊はどうなっおしたうのず気になる人も倚いず思いたすが、この蟺りこそが『源氏物語』の最倧の山堎なので、「若菜」のずころで詳しく話したす。
 それで、源氏ず女䞉宮の息子薫なんですが、実は源氏のラむバル頭䞭将の息子柏朚ず女䞉宮の密通で生たれた䞍矩の子だったのです。その点に぀いお囜文孊者の高橋亚さんは、「若菜䞋」の柏朚、女䞉宮の密通を準備するものずしお、「倕霧が玫の䞊ず密通しお子どもが生たれるずいうのが、六条院物語に底流する可胜態の物語である。それは぀いに珟実化するこずなく、野分の巻で物語の衚局にかたちを珟わした時も、すでにその䞍可胜性を瀺しおいるずいうべきであった」(『源氏物語の察䜍法』ずいう解釈を提瀺しおいたす。぀たり、倕霧ず玫の䞊の密通は、珟実には起こらなかったが、物語の構造䞊は起こり埗たもう䞀぀の可胜性だずいうのです。高橋氏の解釈は極めお革新的で驚くべき解釈ですが、今では定説ずみなされおいたす。
 しかし、そうであるならば、光源氏、柏朚が「いろごのみ」の恋にどっぷり浞り、䞍矩密通ぞず突き進んだのに察しお、ただ䞀人倕霧だけが「「いろごのみ」の恋ぞ突き進たなかったのは、なぜかず問わなければならないでしょう。しかも、倕霧が垣間芋たのは、女䞉宮ずは比べものにならない、倕霧本人も「ねびずずのひ、飜かぬこずなき埡さた」4126ず認めおいる、女盛りの絶䞖の矎女玫の䞊なのです。

、玫の䞊垣間芋埌の倕霧の思い

 垣間芋は恋の始たりです。倕霧は玫の䞊に心を奪われたす。玫の䞊を垣間芋た埌、自宅䞉条宮ぞ戻った倕霧の様子が次のように語られおいたす。

 䞭将、倜もすがら荒き颚の音にも、すずろにものあはれなり。心にかけお恋しず思ふ人の埡こずはさしおかれお、あり぀る埡面圱の忘られぬを、こはいかにおがゆる心ぞ、あるたじき思ひもこそ添ぞ、いず恐ろしきこずず、みづから思ひたぎらはし、異事こずこずに思ひ移れど、なほふずおがえ぀぀、 来し方行く末ありがたくものし絊ひけるかな、かかる埡仲らひに、いかで東の埡方、さるものの数にお立ち䞊びたたぞらむ、たずしぞなかりけりや、あないずほしずおがゆ。倧臣の埡心ばぞを、ありがたしず思ひ知り絊ふ。4128129

 玫の䞊を垣間芋た盎埌、自宅の䞉条宮ぞ戻っおも、倕霧は䞀晩䞭、 玫の䞊の面圱魂が身にぎたりず匵り぀いたかのように、玫の䞊を魂の底から思い続けおいたす。光源氏ず玫の䞊の須磚流離のキヌワヌド「面圱」です。倕霧は玫の䞊の魂ず䞀䜓化したように感じおいるのです。「心にかけお恋し」ず思っおいる雲居雁のこずは、いったん脇に眮かれおず語られおいる点が泚目されたす。それほど倕霧は、過去にも未来にも存圚するこずがあり埗ないほどの玫の䞊の珟圚の矎しさに、魂の底から魅了されおいるずいうこずです。
 ずころが、そのような䞀回性の今の玫の䞊の矎しさを思い浮かべたその瞬間に、倕霧は「あっおはならない玫の䞊ぞの恋心が身にそなわったら倧倉だ、それはずおも恐ろしいこずだ」ず、玫の䞊ぞの恋心からするりず反転しおしたうのです。そしお、倕霧の思考は、思いもよらないたったく別方向の父光源氏ぞず向かいたす。
 「東の埡方」は花散里のこずです。倕霧は「こんなに玠晎らしい源氏ず玫の䞊の倫婊仲に、どうしお花散里が源氏の劻の䞀人ずしお肩を䞊べおいるのだろうか」ず、絶䞖の矎女玫の䞊ずそれほど矎しくない花散里を察比しお考え、その謎の答えを発芋したす。その答えずは、光源氏の女君たちぞの「心ばぞ」だずいうのです。
 ずころで、「心ばぞ」ずは、配慮、思い遣り、心遣いずいう意味ですが、もずもずは「心延ぞ」で、自分の心が盞手の心の方に向かっお延っおゆくずいう意味です。父光源氏の女君たちに察するあり埗ないほどの心遣いによっお、六条院䞖界の安定ず調和が保たれおいるずいう事実を、倕霧は初めお発芋したずいうのです。
 そもそも光源氏が六条院を創蚭する時に、「もずありける池山をも、䟿なき所なるをば厩しかぞお、氎のおもむき、山のおきおをあらためお、さたざたに、埡方々の埡願ひの心ばぞを造らせたたぞり」3273274ず語られおおり、光源氏がそれぞれの町に䜏む玫の䞊、花散里、秋奜䞭宮、明石の君の垌望に最倧限配慮をしお、もずもずあった池を埋め、山を厩すずいう倧改造をしおたで六条院を造ったずいうのです。
 「螢」巻で玉鬘も「この倧臣の埡心ばぞのいずありがたきを、芪ず聞こゆずも、もずより芋銎れたたはぬは、えかうしもこたやかならずや」448ず、光源氏の「心ばぞ」に、「実の芪ず申し䞊げおも、小さい時から䞀緒に過ごさなかった者には、ずおもこれほど心をかけおはくれないだろう」ず感謝しおいたす。
 「心ばぞ」こそが、光源氏が女君たちの魂を領有し続ける六条院䞖界を成り立たせる基本原理なのです。倕霧は六条院䞖界の成立原理ずいう秘密に、今気づいたのです。しかし、この光源氏の「心ばぞ」が、実は「いろごのみ」の「心ばぞ」だずいうこずに、倕霧はただ気づいおはいないのです。 
 今、光源氏の「いろごのみ」の原理六条院䞖界の秘密に觊れお、倕霧の心の䞭で、玫の䞊の「めづらしき」4125矎しさず光源氏の「ありがた」き4129女君たちぞの配慮が拮抗しおいたす。ずころが、この盎埌に、次のような倕霧の心情が語られたす。

 さやうならむ人をこそ、同じくは芋お明かし暮らさめ、限りあらむ呜のほども、いたすこしはかならず延びなむかしず思ひ続けらる。4129

 「さやうならむ人」はもちろん玫の䞊です。「芋る」ずいう動詞は、圓然結婚するずいう意味です。倕霧は「玫の䞊のような矎しい人を、同じ事なら劻ずしお毎日暮らしたいものだ。そうしたらい぀かは死ななければならない寿呜も、きっず少しは䌞びるだろう」ず思い続けたす。この倕霧の思いは、「桐壺」巻に描かれた、「さやうならん人をこそ芋め、䌌る人なくもおはしけるかな」140ずいう光源氏の藀壺ぞの思いずたったく同じです。倕霧は玫の䞊ぞの「いろごのみ」の恋に走る、䞀歩手前にいるず蚀っおもいいかもしれたせん。倕霧ず玫の䞊の可胜態の物語です。

、倕霧、玉鬘を垣間芋る

 倕霧は拮抗した玫の䞊ぞの恋心ず光源氏の女君たちぞの心遣いの間で、揺れおいたす。そんな心理状態の倕霧は、翌日も台颚被害確認のために六条院の町々を芋回り、効ず思い蟌んではいるが、以前から「䜕ずかしお顔を芋たいものだ」ずずっず思っおいた玉鬘を垣間芋おしたうのです。

 䞭将、いずこたやかに聞こえたたふを、いかでこの埡容貌芋おしがなず思ひわたる心にお、隅の間の埡簟の、几垳は添ひながらしどけなきを、やをら匕き䞊げお芋るに、たぎるるものどもも取りやりたれば、いずよく芋ゆ。かくたはぶれたたふけしきのしるきを、あやしのわざや、芪子ず聞こえながら、かく懐離れず、もの近かべきほどかはず、目ずたりぬ。4137138

 しかも、倕霧が垣間芋たのは、「䞍思議なこずだ、芪子ず蚀いながら、こんなに芪の懐に抱かれるほどに、銎れ銎れしくしおよい間柄だろうか」ず、倕霧自身驚愕するほど異垞な光景、぀たり、父光源氏が嚘玉鬘のそば近くで「たはぶれ」おいる姿だったのです。
 この倕霧が垣間芋た、父芪光源氏の嚘ぞのものずも思えない行為に察しお、「たはぶる」ずいう蚀葉が䜿われおいる点が泚目されたす。ずいうのは、「薄雲」巻で䞉歳の明石の姫君に察しお自らの乳房を含たせる玫の䞊の行為にも「たはぶる」が䜿われおいたしたが、その時、「たはぶる」には垞軌を逞した行動取るずいう意味があるず説明したしたが、ここの源氏の行為も党く同じで、完党に垞軌を逞した行為ず倕霧の目に映るわけです。
 ぀たり、光源氏の女君ぞの配慮ず芋えた「心ばぞ」は、実は「たはぶる」行為ず結び぀いた「いろごのみ」の「心ばぞ」だったのです。そのこずに気づいた倕霧は、「いであなうたお」たったくなんおいうこずだ、「あなうずたし」ああいやなこずだ4138ず、心の底からの嫌悪を感じたす。
 昚日、玫の䞊を垣間芋た時に父光源氏に察しお感じた、六条院䞖界の安定ず調和を保぀「心ばぞ」ぞの倕霧の共感は、六条院䞖界を成り立たせおいる「いろごのみ」の恋の正䜓が暎かれたこずによっお、源氏ぞの嫌悪ぞず䞀倉したのです。
 先ほど話したように、この埌、効の明石の姫君の郚屋ぞ参䞊した倕霧は、女房から玙ず筆を借り、雲居雁ぞの手玙をしたためたす。倜䞉条宮で、倕方垣間芋た玫の䞊を回想した時には、「恋しず思ふ人の埡心はさしおかれお」4128ずいったん脇に眮かれおいた雲居雁ぞの愛情が、たた倕霧の䞭心を占めたこずを瀺しおいたす。ですから、倕霧が玫の䞊に察しお、光源氏のように「いろごのみ」の恋に走るこずはありたせん。高橋亚さんが蚀われる通り、倕霧ず玫の䞊の恋は䞍可胜だったのです。では、なぜ倕霧だけが「いろごのみ」の恋から距離を眮くこずができたのでしょうか
 その䞭心には間違いなく、父光源氏の玉鬘に察する色恋めいた垞軌を逞した態床を目の圓たりにしお、父ぞの幻滅を感じたこずがあるでしょう。光源氏は六条院の秩序ある調和の統治者であるのではなく、むしろ砎壊者だずいうこずを、倕霧は驚きずずもに痛感したのでした。
 それず同時に、聡明で真面目な倕霧は六条院の安定した秩序を維持しおいる真の正䜓に気づいたのではないでしょうか「六条院の秩序は光源氏の『いろごのみ』の力によっお保たれおいるのではなく、そこに䜏む明石の君、花散里ら女性たちの努力ず忍耐ず犠牲の䞊にかろうじお成り立っおいるのではないか。もしそうだったら、その女性たちの頂点に立っお、女性たちの間の安定ず調和を保っおいる玫の䞊の努力ず忍耐ず犠牲ずは、いかばかりのものなのか。それなのに、玫の䞊はあんなに人間離れしおいお神々しく矎しい」。そんなこずを倕霧は考えお、玫の䞊に察しお、ある皮畏怖に近い尊敬の念を抱いたのではないでしょうか?
 この玫の䞊による六条院の安定ず維持ずいうのは、これたでに䜕床も觊れおきた「玉鬘十垖」の䞻題ずも蚀っおもよいものなのです。たずえば、「胡蝶」巻でも觊れたしたが、玫の䞊ず玉鬘の間で、積極的な手玙のやり取りが継続しおいる理由が、次のように描かれおいたした。

 深き埡心もちゐや、浅くもいかにもあらむ、けしきいず劎あり、な぀かしき心ばぞず芋えお、人の心隔぀べくもものしたたはぬ人ざたなれば、いづ方にも皆心寄せきこえたたぞり。聞こえたたふ人、いずあたたものしたたふ。43940

 「深き埡心もちゐ」は玉鬘の他者ぞの気配りです。他者ぞの気配りに関しおは、玉鬘は郜に䞍慣れなので䞍足も難点もあるだろうず、語り手は掚枬しおいたす。しかし、目に芋える態床に心遣いが行き届いおいお、こちらが奜感が持おる配慮ができおいお、誰からも隔お心を持たれそうにない人柄だずいうのです。それが誰からも奜かれる理由だずいうのです。玫の䞊ず玉鬘を結んでいるのは、光源氏が六条院を成り立たせおいる基本原理の「心ばぞ」ずたったく同じ「心ばぞ」なのですが、光源氏の「いろごのみ」の「心ばぞ」ずは䌌おも䌌぀かない、たったく真逆の、繊现な感受性の「心ばぞ」こそが、女性たちを結び付けおいる原理なのです。
 光源氏の「いろごのみ」の恋によるのずは、たったく別の原理、繊现な感受性の共感を基盀ずする「女性の、女性による、女性のための」文化的調和を目指す、玫の䞊の繊现な心遣いに倕霧は気づき始めおいるのではないでしょうか
 そのこずをはっきり瀺しおいる堎面がありたす。倕霧が玫の䞊を垣間芋た堎面にもう䞀床戻っお䞋さい。

   芋通しあらはなる廂の埡座にゐたたぞる人、ものにたぎるべくもあらず、気高くきよらに、さずにほふここちしお、春の曙の霞の間より、おもしろき暺桜の咲き乱れたるを芋るここちす。あぢきなく、芋たおた぀るわが顔にも移り来るやうに、愛敬はにほひ散りお、たたなくめづらしき人の埡さたなり。4125

 玫の䞊を䞀目芋た瞬間、「さずにほふここち」がした玫の䞊の矎しさは、「わが顔にも移り来るやうに」「にほひ散りお」ず、倕霧には感じられたずいうのです。぀たり、倕霧の受け取った玫の䞊の矎しさずは、「玫の䞊の矎しさ」などず倧ざっぱにくくれるものではなく、「にほひ散りお」ず埮现な粒子ずなっお倕霧たで挂っおきた玫の䞊の矎しさが倕霧の顔にぎたっず匵り぀いおしたうようなものだったずいうのです。
 これは「面圱=魂」ずこれたで衚珟されお来たものを、䜜者玫匏郚が埮分化しお蚀い換えたものず考えられたす。倕霧は埮分化した玫の䞊の矎しさず䞀䜓化したように感じたす。ですから、その日の倜、䞉条宮ぞ垰った倕霧は、「あり぀る埡面圱の忘られぬ」ずいう状態に陥るのです。
 䞀芋、これは須磚流離の盎前の光源氏の「身はかくおさすらぞぬずも君があたり去らぬ鏡の圱は離れじ」ず、玫の䞊の「別れおも圱だにずたるものならば鏡を芋おもなぐさめおたし」ずいう和歌の唱和によっお、「鏡」ず「圱」ずいう蚀葉を共有し、遠く須磚ず郜ずに離れ離れになっおも魂ず魂が぀ながり合うきっかけの堎面を反埩しおいるように芋えるかもしれたせん。しかし、そうではないのです。倕霧は玫の䞊に察しお、「いろごのみ」の恋で進んでいこうなどずは思っおいないのです。「須磚」巻での光源氏ず玫の䞊ずの決定的な差異を瀺すために、䜜者玫匏郚は、「面圱魂」の共有ではなく、断片化した玫の䞊の矎しさが倕霧に䞀方的に降り泚ぐずいう衚珟を甚いたのだず思いたす。
 光源氏や柏朚の「いろごのみ」の恋だったら、「あはれ、あはれ」ず蚀い぀のっお、「あながちに」むりやりに「面圱魂」の䞀䜓化を遂げたこずでしょう。しかし、倕霧はけっしおそうはしないのです。
 倕霧は、あたかも玫の䞊が六条院に繊现な感受性の共感による文化的調和を䜜り䞊げようずしおいるこずを知っおでもいるかのように、あくたでも玫の䞊に察しお繊现な感受性で共感しようずするのです。「いろごのみ」の恋によらない、繊现な感受性の共感による「女性の、女性による、女性のための」文化的調和空間の創造、そういう玫の䞊の無意識の運動に唯䞀共感しおいる男が倕霧なのだず、私は思いたす。
 ここで説明した玫の䞊ぞの倕霧の思いが、単なる空想ではないずいうこずを蚌明するためには、「倕霧」巻で描かれる倕霧の恋ず、「埡法」巻で描かれる玫の䞊の死ずいう正反察の内容が連続しお描かれる二぀の巻の物語の構造䞊の連関を確かめる時たで埅たなければなりたせんが、少なくずもこの「野分」巻の読解を通しお、倕霧が玫の䞊ぞの「いろごのみ」の恋に走るこずはありえないずいうこずだけはわかったず思いたす。倕霧は「いろごのみ」の恋ではなく、雲居雁ずの「筒井筒」の恋に邁進するのです。もう䞀床、倕霧の雲居雁ぞの魂の底からの和歌を芋おください。

  颚隒ぎ むら雲たがふ 倕にも 忘るる間なく 忘られぬ君4142

 鈎朚日出男先生は、この巻に吹き荒れる激しい野分は玫の䞊の矎貌に狂おしいたでに揺れ動く倕霧の内面を象城しおいる、ず述べられおいたす『源氏物語歳時蚘』。それはたったくその通りだず思われたす。しかし、玫の䞊ぞの狂おしいたでの思いである野分は可胜態のたた終わり、この吹き荒れる激しい野分は最終的には雲居雁ぞの激しい恋心を呌び芚たす結果になったのです。そのこずを象城しおいるのが、「野分」巻の終わり近くに出おくる倕霧のこの歌の「颚隒ぎ」です。
 この歌の、吹き荒れる野分の䞭でも魂の底から雲居雁だけを思っおいるずいうここでの倕霧の内面は、もはや玫の䞊の矎貌に狂おしいたでに揺れ動いおはいないず思われたす。いや、倕霧は玫の䞊のこずは想っおいるのです。ただしそれは、「いろごのみ」ずしおの狂おしい想いなどではなく、繊现な感受性を通しおの共感なのです。その意味で、「野分」巻に吹き荒れおいる台颚こそ、六条院䞖界の基本原理である光源氏による「いろごのみ」の恋自䜓を吹き飛ばす颚だったのです。
 「螢」巻の物語論に぀いおの説明の最埌で、私は「女性である䜜者玫匏郚は、あえお男性の光源氏に物語の本質を語らせるこずによっお、そこから挏れ出る繊现な感受性の共感によっお、六条院を舞台ずした物語に『いろごのみ』の恋ずは違った䟡倀芳による、新たな颚を吹かせようずしおいるのではないでしょうか」ず、述べたした。その答えである「新たな颚」こそが、この巻の野分なのです。そしお、六条院䞖界を䞀新するこの颚が、倕霧による玫の䞊の垣間芋で、玫の䞊の现分化され、埮粒子ずなった矎しさを党身に济びたこずによっお生たれたこずが最も重芁な点だず思いたす。さお、この埌六条院䞖界はどのように倉貌するのでしょうか










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