修道士の国 聖山アトス ④修道院の過ごし方
聖山アトスへの様々なアクセス方法に続き、アトス情報の最後に修道院での過ごし方をまとめておきます。
私が滞在したのは、メギスティス・ラヴラ修道院、イヴィロン修道院、シモノスペトラ修道院の3つだけですので、その経験と修道士たちから教えていただいた話などを総合した情報となりますので、それぞれの修道院の作法や、シーズンによる違い、特別な祭日などに出会えた場合など、全く違うこともあることを前提にお読みいただければと思います。
修道院への到着と出発
修道院に到着したら
修道院へは、船で直接、ミニバス、徒歩などでアクセスします。大体16時までには到着するように言われるようです。
到着したら、まずは受付の看板を探して下さい。受付はギリシャ語でアルホンダリキ「APXONTAPIKI」に近いスペルです。英語で「GUESTROOM」と併記されている場合もあります。ここで担当の修道士に会い、予約の照合、または今日泊まることができるかを確認します。
修道院の門に近いところにあるようですが、イヴィロンでは一番奥にありました。
その際、ギリシャコーヒー、ルクミ(甘いお菓子)、ナチュラルウォーター、ツィプロ(蒸留酒)などが出されます。これはすべてが出る場合と、その一部が出る場合、または置いてあるものをご自由にどうぞ、という場合があるようです。
宿帳に記載し(しない場合もある)、部屋をあてがってもらい、当日の予定(お祈りや食事)について聞き、部屋に行きます。
ギリシャ語訛りだからか、聞き取りにくい場合がありましたので、巡礼の方に改めて確認したほうが確実でした。



修道院から出発する
滞在を追えて出発する場合は、部屋を整えた後でそのまま出ていくというものが多い気がしました。
私は朝のお祈りの時間中に出発しなくてはならない日があり、前日のうちにそのことを修道士に話しましたが、それは構わないということでした。
ただし、部屋の鍵を預かっている場合は、アルホンダリキにそれを返却します。担当の修道士がいない場合も、テーブルなどにそれを置いて出発しました。
また、バスで出発する場合は、多くの巡礼と一緒になると思うので、その人たちに続いて出発すればよいと思います。
夕方の過ごしかた
お祈りの時間の前まで
夕方の祈りは、17時前後に始まるようです(おそらく日の入り時間によって変わります)。アトスで採用されているユリウス暦では、日の入によって日が変わるということになるので、その時間帯前後に祈りをしているというのではないかと思います。
その時間までは、修道士、巡礼それぞれ思い思いに過ごします。ほとんどがギリシャ、東欧、ロシアから来ている巡礼の方と、話をしたり(お互いに英語が母国語ではないので、つたない私のなんとなく通じ合える気がしました)、話好きな修道士が、珍しい東洋人、日本人を見かけると、手招きをしてベンチに誘ってくれたりします。意外にも修道士もギリシャ人だけではなく、東欧の方もいますし、オーストラリア出身だったり、中国出身の方もいました。日本からの方もお一人いらっしゃいます。そういった方々とのアトスについて、ビザンティン美術について、女人禁制について、日本について、正教についてなど、楽しくためになるお話ができました。
なお、修道士たちとの話を進めるにあたっては、以下のようなことを英語で話せるようにしておくと、よい気がしました。
アトスになぜ来たのか(動機)
日本で何をしているのか(仕事)
宗教は何を信じているのか
宗教の話は皆さんいろいろしてくれますが、正教を押し付けるような話はありませんでした。ただ、とても意義深い話もあるので、正教の用語を少し学んでおくと良さそうです。
修道士への接し方
基本的に修道院で過ごすということは、こちらは巡礼でありゲストではないという姿勢は必要に思います。
修道士とすれ違う際には、右手を胸のあたりにあてて、「エフロギーテ(祝福をください)」とあいさつします。そうすることで、不機嫌な対応をされることはありませんでした。挨拶を返してくれる方、頭を少し下げる方、目を合わせてくれる方、話しかけてくれる方、いろいろですが、あいさつはやはり大事だと思いました。
もちろん通常の「カリメーラ(おはよう)」「ヤーサス(こんにちは)」でもよいのだと思いますが、宗教的なあいさつの方が、コミュニケーションとしてはよいのではないかと感じました。
夕方の祈り
鐘が鳴り、シマンドロ(木の板をたたく)の音などが鳴ると、祈りの時間です。叩き方で何分前とかがわかるようですが、もちろん初めての私たちにはわからないので、中央聖堂(カトリコン)かその日の祈りが行われる聖堂のそばに行って、他の修道士の動きを見ながら準備しましょう。
異教徒なので、祈りに参加することは必須ではないとも言われた修道院もありましたが、やはりお世話になっているということもありますし、ギリシャ正教の聖地を訪れているので、体験することも良いと思います。

修道院によって、異教徒である私たちが、祈りの時間に聖堂中央の内陣までは行ってよい場合もあるようですが、多くの修道院では入ってはいけないようでした。外陣にあたる場所がありますので、そこに入り、壁際の椅子を確保して、そこで祈りに参加します。
修道士に導かれて、内陣または外内陣まで案内される場合もありますので、それはその指示に従います。
基本的には座って静かに祈りの声を聞きますが、乳香を炊いた振り香炉を持って聖堂を回り、聖像や巡礼に乳香をかけるようなしぐさをする場面があります。そこでは立ち上がってそれを受けるようです。
また、聖書の読み上げのどこかの場面では、修道士が立ち上がるような時もありました。周囲に倣って行動すると良いと思います。不思議なことに、立ち上がらない修道士もいたりするので、少しややこしいですが。
なお、祈りの時間の間でも、出入りをすることは問題ないようです。修道士も出入りしていました。もちろん頻繁にということではないと思いますが、暗い聖堂で一定の抑揚の聖書の朗読を聞いていると眠くなってしまうこともあるので、時には外に出てみるのも良さそうです。
夕食
アトスではお祈りと食事は密接にかかわっており、お祈りの一環として食事をするということだそうです。なので、夕食は夕方の祈りの後に行われます。
お祈りが済むと、少しだけ聖堂の外で時間を過ごした後、聖堂の正面の向かいに立っていることが多い食堂(トラベザ)の扉が開きます。
大きな一枚岩でできたテーブルが設置されているところや、整った木のテーブルのところもありますが、そこに間を開けず用意された食事が並びます。巡礼と修道士の場所をきちんと分けているところが多いようです。促されるままに詰めて席に座り、食事となります。
修道院によってスタイルは異なりますが、初めに鈴が鳴り、それとともに食べ始めると、朗読役の修道士の声が響きます。その朗読が終わる前に食べ終わらなければなりません。巡礼の皆さんはそれを知っているので、一気に食べ始めます。
肉を使うメニューはありませんが、野菜、豆などが多く使われますが、意外にも結構おいしい印象でした。メニューについては後でまとめます。
デザートの果物まで食べきる前に、鈴が鳴り、終わりとなりました。猛者の巡礼達の中には、きちんと食べ終わる人もいました。
正直言うと、結構な量なので、私には時間が多いくらいで、完食はもともと難しかったように思います。

アトスでの食事メニュー
ここでアトスで食べたメニューを一例として列記します。素材がわからないものもあるので、そこは想像で書かせていただきます。
メギスティス・ラヴラ修道院 夕食(土曜)
・ナスとジャガイモとパプリカのオリーブオイル煮
・フェタチーズ
・パン
・赤ワイン
・ぶどう(紫と赤紫の2種類)
イヴィロン修道院 夕食(日曜)
・米のスープ
・卵のパイ
・フェタチーズ
・赤ワイン
・パン
イヴィロン修道院 朝食(月曜)
・パン
・オリーブ
・はちみつ入りハーブティー
※この日は修道士は断食
シモノスペトラ修道院 昼食(月曜)
到着時に昼食に案内されました
・ナスのペースト
・ほうれん草の煮物
・パン
・オリーブ
・オレンジ
シモノスペトラ修道院 夕食(月曜)
・麦とほうれん草、マッシュルームのスープ
・砕いたクルミ
・オリーブ
・オレンジマーマレード
・パン
・ワイン
アギウ・グレゴリウ修道院 朝食(火曜)
徒歩で到着後宿泊者の朝食が終わった後に提供してくれました
・スパゲッティ
・トマトソース
・たっぷりの粉チーズ
・ワイン(赤・白)
・きゅうり、トマト
・フェタチーズ
夕食の後
食事の後は修道士たちもゆったりとしている時間に見えました。各所で巡礼と話をしている人たちもいましたし、何らかの伝手のあるグループは、修道院の宝物などを見学させていただいたりしているようでした。
翌朝の祈りが午前3時~4時頃から始まるため、早めに就寝する必要があるので、外が暗くなると自然に部屋へと戻っていきます。
なお、土曜の夜(ユリウス暦では日曜に変わったころ)には、徹夜の祈りが開催されるようです(メギスティス・ラヴラ修道院ではそうでした)。これは20時過ぎから始まり、日をまたいで行われるようです。しっかりと最後まで参加する人もいますが、体調などを考慮したりして、途中で部屋に戻る巡礼もいました。私も23時ごろには戻りましたが、その後も祈りは続き、何度かシマンドロの音、そして鐘の音が響いていました。周囲に何もない場所なので、深夜の鐘の音はなんとも不思議に聞こえました。
なお、深夜のアトスでは、見たこともないような美しい星空が見られます。周囲に町がないため、驚くべき美しさです。天気が良ければ、これを見逃す手はありません。天の川、人工衛星、流星など、10分ほど見ているだけでも素晴らしい体験になると思います。
朝の過ごし方
早朝の祈りと朝食
徹夜の祈りがない日については、午前3~4時ごろから朝の祈りが始まります。これも最初から参加をしなくても良いとは言われていましたので、2日目については少し後から参加させていただきました。
段々と外が白み始めていく中での祈りの声は、とても神秘的です。これはとてもお行儀が悪いのかもしれませんが、異教徒として参加させていただく中で、敢えて外陣からも出て、聖堂の外から祈りを聞かせていただきました。実は、窓が開いていたため、外陣にいるよりもより鮮明に声が聞こえ、空が白み始める光景と相まって、とても得難い経験となりました。
祈りが終わると、その流れで朝食となります。修道士の断食の日でなければ、夕食と同じような作法で、しっかりとした食事が食べられます。
私はメギスティス・ラヴラ修道院を、徹夜の祈りが終わった日曜の早朝のバスで出発したことから、朝食を食べていませんが、徹夜明けの日曜の朝食は、魚などが出る豪華なものだそうです。
なお、早朝に出発する場合は、祈りの最中に出発しなくてはならないことがありますが、その場合は静かに聖堂を後にし、準備をして出発となります。
朝食後の過ごし方
朝食が終わった後も、夕食と同様に修道士たちとの語らいの時間としている人も多いようです。
修道院内をあらためて案内していただいたりすることもあれば、修道院の外に広がる畑なども、見学させていただくこともできました。
時には、祈りの時間には入れなかった聖堂の内陣に招き入れていただき、古いフレスコ画や、王門の素晴らしい彫刻なども見せていただく機会もありました。
昼間の過ごし方
宿泊しない修道院への訪問
連泊で同じ修道院で過ごすということも選択肢だと思いますが、そう何度も訪れる機会のないアトス訪問であれば、いろいろな修道院を巡ってみたいと思うかと思います。同じ修道院にいる場合は、ゆったりと景色を見たり、日記を書いたり、または修道士と語らったりしながら過ごすことができますが、そうではない場合は、宿泊する修道院への移動というのが昼間の過ごし方になります。
ただし、移動を徒歩でする場合や、移動のしやすいエリアにおいては、他の修道院やスキテを訪ねて、見学させていただくこともできます。
私の場合も徒歩で移動した日については、いくつかの修道院、スキテを回りました。
基本的には門から中へは自由に入れるようですが、やはり修道士に一声かけて、見学させてほしいということを伝えるのが良さそうです。
そうすると、案内してくれたり、もしくは案内係に引き継いでくれたりということがありました。また、食事を食べているか?と聞かれ、食べていない場合にちょっとした食事を出していただくなんてこともありました。さらには、コーヒーでも飲もうと眺めの良い部屋などに誘い入れていただき、少しの間会話を楽しむなどということもありました。
基本的には皆さん話好きで、かつ世話好きのようなので、そういう場合には、これからの行動スケジュールを事前に教えておく必要がありそうです。
修道士は年中巡礼を迎えているということもあって、人との接し方がとても親切です。せっかくの機会なので積極的に交流して、修道院の生活を垣間見るのも良さそうです。

カリエス、ダフニの施設を利用する
首都カリエス、玄関口であるダフニには、レストラン、スーパー、お土産店があります。こういった施設を利用して、旅の充実を図り、時間つぶしをすることもできます。
私はレストランは利用することはありませんでしたが、修道院同様精進料理を提供しているようです。カリエスの町はずれには、ベーカリーがあり、そこでパンを買うこともできます。私はチーズ入りのパンを買い、昼食にしましたが、量が多すぎて大変でした。
スーパーは何度も利用し、水を購入したり、お土産にアトスの修道院のラベルのついたワインを購入したりしました。もちろんお土産の主流はキリスト教のグッズです。
なお、各修道院にもお土産屋があり、それぞれの修道院をイメージしたマークの付いたショッピングバッグに入れてくれます。イヴィロン修道院では、修道院内で醸造しているというワインを購入しました。



その他の滞在事情
電波やトイレ、シャワー事情
今回私が経験した修道院では、電波の状況は全く問題ありませんでした。絶海の秘境を訪ねたつもりが、修道院からLINE電話で日本の家族と話ができてしまうという、非常に不思議に思える状況です。ちなみに私はeSIMを購入していきました。
修道士も多くがスマホを持っていて、誰かと話をしたりしていましたので、スマホ利用禁止ということもないようです。
トイレは当然ながら男性のみですが、ギリシャ式(和式に近い)ところもあります。紙は設置されているものを使い、使用したものを流さず、おかれたゴミ箱に入れるスタイルです。
トイレの一角にシャワーがある修道院もありました。数は多くありません。またトイレと同じスペースに付いている場合もありました。4日間で私の場合は1度だけシャワーを使い、あとはぬれタオルなどで体をふくようにしていました。
快適なホテルステイとはいきませんが、最低限のものはありますし、お互いに巡礼者として理解している人だけが来ているということを思えば、それほど不自由なことはないと思います。
日程に余裕をもって
アトスでは、しっかりとした時間割を立てて行動するのは難しく、空いた時間をゆったりした気持ちで過ごすのが良いようです。
ただ、乗り合いバスなどに乗り遅れてしまうと、その後の動きができなくなることもあるので、そういった面での事前確認はしっかりする必要があります。
これまでの旅行記を見ると、予期せぬ悪天候による船の欠航などで、滞在が伸びたり、動けなくなったりすることもあるようです。そういったことに修道院側が慣れているので、慌てる必要はないようです。巡礼者としては、前後のスケジュールに余裕を持たせておくのがベターなようです。

