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男が好きで、男が嫌いで。#15 ー男兄弟の距離ー

ー「お兄ちゃん」ってなんか気持ち悪くね?

お兄ちゃんみたいな人と付き合いたい。
友人たちが、時たまこういうことを言う。

しっかりしていて、甘えさせてくれて、包容力があって、目をかけてくれて、守ってくれる。
男兄弟がいない人の「兄貴像」というのは、こんなところだろうか?

私には、7つ下の弟がいる。
一人っ子が嫌で嫌で、両親に発注した弟だ。
なので男二人兄弟の長男ではあるのだけれど、長男っぽくないね、とよく言われる。そう言われてもねえ……。

個人的に、世の中で言うところの「兄貴像」を実践しているのは、たいていが三兄妹の末っ子だと決めつけている。

親友がまさにそうだ。
子供の頃から先輩後輩問わず慕われていて、今となっては社会人サッカーのキャプテンだ。
なのに全然偉そうじゃないし威圧的でもないからみんなから好かれている。
人望と言われたら、そこまでなんだけど、アイツは人がどうされたら嬉しいのかをちゃんと知っているし、ここまでだったら人にナメられても大丈夫だというボーダーラインも知っている。
末っ子だけが持つ、その場を一番下から見る目がないと、「みんなの兄貴」になるのは難しい。

過度に親の期待がかかりやすい長男にそんな余裕はなく、最初の子ならではの厳しさの中にいるか、蝶よ花よと甘く育てられているか、もしくはその両方を存分に浴びて育っている長男に、本当の意味での余裕はない気がする。(自分がそうだからなのか、お兄ちゃんが欲しいと思ったこと一度もないな。自分より上の男なんて父親以外に家の中にいたら邪魔なだけだろうし。)

ー可愛くない弟

うちの弟は、全然可愛くなかった。
そもそも「お兄ちゃ〜ん」と甘えられたことなどなく、彼はなぜか常に僕をライバル視していた。歩き始めた頃からすでに。
抜群の運動神経、背の順では常に後ろにいる恵まれた体格、そして、弟は可愛い顔をしていた。
クリクリの目、スッとした鼻筋、いわゆるイケメンの類に属して(いるのか今となってはわからないけれど)いまだに並んでいると兄弟だとは思われない。
だから、本当に可愛くなかった。
ずーっと周りをついてまわって、何かにつけて戦いを挑んでくるから邪魔で仕方なかった。

甘えてこない弟なんて、誰が可愛がるかい。
その上、7つの違いというのは本当に絶妙で、自分が中二でやっと彼が小一。
お互いの世界で生きることに必死だった我々は、お互い二十歳を超えるまで、たぶん、ろくに喋ったこともない。

だから自分に兄貴らしさみたいなものがないことに、やや劣等感も覚えつつも、ゲイヴィレッジでこの手の話が上がるたびに、
男兄弟ってそんな気持ち悪い距離かあ? とこっそり思っている。

ー美しい兄弟の絆?

フィクションの中に出てくる男兄弟の美しい絆が、世の「兄貴像」を作っているのだろうか。
『鋼の錬金術師』のエルリック兄弟や海外ドラマ『SUPER NATURAL』のウィンチェスター兄弟、『呪術廻戦』の呪胎九相図など、互いの命を必死になって守り合おうとするのは、彼らが絶体絶命であるからで、そういう状況に陥らない限りあり得ないだろ、と思う。
なまじ余裕のある家の男兄弟でめっちゃ仲良しなんて見たことない。
男同士で干渉しあってることへの反射的な拒絶が一瞬生まれるので、気持ち悪ぃ!の一言で一蹴だ。

あとここで『鬼滅の刃』の炭治郎は参考にならない。アイツ弟もいるけど、基本的に守ってるの妹でしょ。弟と妹だと全然違うから。

ー「ったくしょーがねーなー」

そうは言うものの、弟のことを見てないわけじゃない。
こういうやつなんだろうなあ、を遠目に見て知っている。
ベラベラとお互い話さないので、そういう形に収まっている。

大事なとき、アイツが先に泣いたらこっちは泣かない。
助けてと口に出されたら、憎くても体が勝手に動こうとする。
自分が弟に対して感じることは、ったくしょーがねーなーと重い腰を上げて無言で手を差し伸べることしかできない。
できないっていうか、したくない。恥ずかしいんだもん。

兄貴の意地みたいなものと、男兄弟の暗黙のルールがずっとあるんだと思う。
可愛くねえなあと思っていても、こいつは俺よりずっと下、だと思っている。
社会的に強く、他人に比べられたら一瞬で自分が負けるような弟であったとしても、守るべきものだという認識は変わらない。

なんか、誰かを守る自分に悦ってるわけでもなく、嫌々なわけでもない。
もうこれはいつの間にか刷り込まれた反射で、アイツが刺されそうになったら間に入らないといけないものだと体が動く。

書けば書くほど不思議だ。ったくしょーがねーなー。

ー兄という呪い

昨年の弟の誕生日、家族で焼肉を食べに行き、両親が帰ったあともダラダラと酒を飲んで私と弟の二人っきりになってしまったときのことだ。
これからの家族の話になり、普段そんな素振り全くない彼が、結婚して孫を親に見せてあげたいと言っていた。
ゲイである自分にそれはできず、そのことは弟も知っている。
ぼやっと自分のセクシャリティに触れざるを得ない話の流れになってしまって、酔った勢いで、心の中で怖いと長年思って口に出せないでいたことを彼に聞いた。

7つ上にいる自分という奇妙な、オカマの兄が、彼の人生において恥ずかしかったんじゃないか? と。
自分という存在が先に産まれたことが、彼の人生の呪いだったんじゃないか? と。

彼はこちらも覚えていないような話を引き合いに出した。
「俺が友達関係で悩んでいた頃、凌ちゃんが手紙くれたことがあって。覚えてる?そこになんでも面白がれるような人になれって書いてあったんだよね。そしたら人生はずっと面白いからって。その言葉を俺はずっと大事にしてるし、だから俺は、面白い兄ちゃんでよかったなと思ってるよ。」

そうか、面白いならよかった…… と、たぶん、あの店の濃いレモンサワーのせいだと思うのだけど、私は夜の焼肉屋でバカみたいに泣いた。

弟の方が、兄の失敗をよく見てるから要領がいい。
歳の離れた弟が、ずっと子供だと思っていたのに、親友にも言われないようなことを突然言い出す。
自分が歩いてきた道ばっかり気にして振り返っていたら、全然違う道からアイツが歩いてきて、背後から突然肩を組まれたような。
そういう成長の仕方を弟はしてくる。

ポンコツの兄の道は歩かずに、違う道を君は歩いているんだね。
失敗ばかりの道を遠くから見て避けて、生きてきたのか。普段全然話さないから知らなかったよ。

あ、そういえば、アイツがシコってるとこに一回も出くわしたことねえな。
アイツは俺がシコ猿だってことに気付いていんだろうけど、男兄弟の暗黙のルールでそれに触れられることはきっとない。

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