2026.06.15|ハードドライブはおまかせ
2026年06月15日(月)
醜悪だな、中止になってしまえばいいのに、でも選手は関係ないからな、と思いつつ、一日オフにしてホワイトハウスで開催されていたUFCを見ていた。いつも以上のボーナスと特別興行というのもあって、オールフィニッシュ。ゲイジーがトプリアをひっくり返したのは、ほんとうにすばらしい。きれいなボクシングに対してクリンチからのアッパーで1Rすでに右目に深手を与えていたはずで、それ以降、トプリアは距離感を計れずいつもならもらわないパンチをたくさん被弾した。ドッグファイトに強いファイターの神髄。
しかし、外国籍のファイターに星条旗デザインのファイトショーツを履かせ、ホワイトハウス内で戦わせる、メインのゲイジーは大統領執務室から入場するという演出は、もうあらゆるものの底が抜けた狂気の沙汰で、けれどそれすらイメージとして消費されてしまうのがこの2026年、と思うとさすがにくらくらしてしまう。
使わなくなったモニターを渡すべく、友人の家まで車を走らせる。かわりに八つ橋をもらって帰路、往路と同じルートではつまらないと思い、気分にまかせて西へと走っていく。途中、千川通り、新青梅街道と入っていくと、ぼうっと記憶の火が灯り、西武新宿線沿線に住んでいたころ、あのころは日常の移動は常にGIOSの青いロードバイクで、都心にでるときにこの道を駆け抜けていた。風景はそれをおぼえていて、だからそこを通れば過去のそれがスライドショーのように、おでこの前あたりに写される。
気がつくと、学生時代に最後に住んでいた上井草の町の中を走っていた。球場のそばの交差点で、ここをまっすぐ行けばそのテラスハウスにつく、というところだった。あのころ、年上の彼女と一緒に住むべく2DKのそこに引っ越したのだった。1階だった。当時起業する直前で、池袋の雑居ビルの一室を借り、そこに使わなくなった冷蔵庫を運び込むべく、ぼくは赤帽を頼んだ。免許はあれど、自信がなかった。赤帽のおじさんを待つ間、ちいさな庭で煙草を吸った。ピースのスーパーライトで、大学1年のときにあこがれた先輩が吸っていた銘柄だった。風のない日で、吐いた煙はまっすぐにのぼっていき、そこを光が通過していく。きれいだなと感じながら、こんなに知識も経験もないのに会社を立ち上げちゃってほんとうに大丈夫なのかな、となんどもなんども不安を反芻していた。
ということが、ランダムでながしっぱなしにしていた音楽がトリガーになって、ぜんぶを思い出す。記憶というのは、おぼえているから思い出すのではなく、なにかのきっかけになって思い出され、それによっておぼえていたことを知らされる、というふうにできている。少なくともぼくの場合は。
信号が変わりゆっくりとアクセルを踏む。上井草の町が徐々に遠くなっていく。涙がほほをゆっくりと伝っていく。タイミングがよく、青信号が長いこと続き、やっと停まれた赤信号の交差点で、あわててスマホに目をやり曲名を確認する。
Cassandra Jenkinsの「Omakase」という曲だと知れる。
リリックの、断片的に聞き取れるその内容だけで、完璧にいまの自分のことが歌われている、と確信できる。そういう曲、そういう出会い方、そういう日。
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最後までありがとうございます。また読んでね。