設計料は、何の対価なのか。
「建築の設計料って、けっこう高いんですね。」
家づくりの相談を受けていると、ときどきこう言われる。
設計事務所に頼むと、設計料は工事費にもよるが、住宅ならざっくり10〜15%程度はかかる。3,000万円の家なら、最低でも300万〜。たしかに、安い金額ではない。
しかも話をややこしくするのが、ハウスメーカーだ。
あちらは「設計料無料」をうたう会社も多い。
同じ家を建てるのに、片や数百万、片やタダ。
これでは「設計事務所はぼったくりではないか」と思われても仕方がない。
だが、結論から申し上げると、設計料がタダの家など、この世に一軒も存在しない。今日は、設計料とは何の対価なのか、という話をしたい。

設計料は「図面代」ではない
まず、よくある誤解をほどいておきたい。
設計料は、図面を描くことへの代金ではない。
建築士の仕事は、大きく二つに分かれる。
ひとつは「設計」。間取りや構造、設備を考え、図面に落とす仕事だ。
そしてもうひとつが「工事監理(こうじかんり)」。図面どおりに、きちんと工事が行われているかを現場で確認する仕事である。
設計料とは、正確にはこの「設計+工事監理」の対価だ。
図面を描いて終わりではない。むしろ建物が完成するまで、現場に通い続ける後半戦のほうが、施主にとっては重要だったりする。
この点は、あとでもう一度触れる。
ハウスメーカーの「設計料無料」のからくり
では、なぜハウスメーカーは「設計料無料」と言えるのか。
からくりは単純だ。設計料が、本体価格に最初から含まれているからである。
ハウスメーカーには、社内の規定で計算された建物の総額がある。
それを、施主が納得しやすいように各項目へ割り振って見積書に並べる。「設計料なんてムダだ」と言いそうな人には設計料という項目を立てず、「設計料がないのはおかしい」と言いそうな人には3%ほど計上する。
どちらにしても、総額は変わらない。項目間のやりくりをしているだけだ。
つまり「無料」なのではない。見えていないだけである。
家を建てる以上、誰かが設計し、誰かが現場を見ている。
その人件費が、タダになるわけがない。

ハウスメーカーの設計料が、表向き2〜5%相当で済むのには理由もある。
仕様の規格化だ。
あらかじめ用意された仕様やプランをベースに組み立てるため、一棟あたりにかかる設計の手間が薄まる。これは効率という意味では正しい。
決して悪いことではない。
対して設計事務所は、白紙から一棟だけのために設計する。
土地の形、日の入り方、家族の暮らし方に合わせて、一からつくる。
手間のかけ方がそもそも違う。
住宅の10〜15%という数字は、その手間の差だ。
■ 国も「正当な対価」を定めている
設計料は、建築士が気分で決めているわけではない。
国がその目安を定めている。
国土交通省の「業務報酬基準」がそれだ。
平成31年の告示98号、そして令和6年の告示8号へと改定され、戸建住宅も含めた算定の目安が示されている。
その考え方の根っこにあるのは、「設計と工事監理に、実際どれだけの人手と時間がかかるか」という積み上げである。
直接人件費に、経費や技術料を加えて算定する。
つまり設計料とは、家の値段の一部ではなく、建築士という専門家が費やす労力そのものへの対価なのだ。
国がわざわざ基準を作ったのには、理由がある。
買い叩かれやすいからだ。図面という成果物は、出来上がってしまえば一枚の紙に見える。そこに何百時間が注ぎ込まれていても、外からは見えない。だからこそ、正当な対価の目安が必要とされた。

設計料は「現場にあなたの味方を置く」費用
ここからは、審査と現場の両方を見てきた私の本音だ。
設計料の本当の価値は、後半の「工事監理」にあると、私は思っている。
家を建てるとき、施主と施工会社のあいだには、どうしても情報の差がある。図面どおりに鉄筋が入っているか、見えなくなる前の防水はきちんとされているか。
素人がひとりで現場に立っても、まず判断はできない。
工事監理者は、そこに立つ第三者の目だ。施主に代わって現場をチェックし、図面と違えば「直してください」と言う。
施工会社にとっては煙たい存在かもしれない。
だが、その煙たさこそが、施主を守っている。
ハウスメーカーが悪い、という話ではない。
きちんと監理している会社も多い。
ただ、設計から施工、監理までを同じ会社が担う場合、「自分で自分の工事をチェックする」構造になりやすいのは事実だ。
第三者の目が、構造的に入りにくい。
設計料とは、言いかえれば、現場にあなたの味方をひとり置いておくための費用である。
安さの裏で削られていくのは、たいていこの「味方の目」だ。
実際に、かなり酷い施工にもかかわらず、壁を閉じたら見えないという理由でそのままにしてある現場も数多く見てきた。
結局は煙たがられる、嫌がられる仕事を外部から厳しくチェックできるかどうかなのだ。

さいごに
設計料は、一般感覚からすると高い。これは否定しない。
だが、それは家の値段の一部ではなく、「あなたの家づくりの判断の質」への投資だと、私は考えている。
何千万円という、人生で一番大きな買い物を、専門家の目なしで進めるのか。それとも、設計から現場まで、あなたの側に立つ人間をひとり雇うのか。設計料とは、その選択にかかる費用だ。
もちろん、すべての家に設計事務所が必要だとは言わない。
規格化されたハウスメーカーの家が最適な人もいる。
大事なのは、「設計料がタダの家はない」と知ったうえで選ぶことだ。
見えない費用の正体を知っていれば、見積書の読み方が変わる。
家を建てるとき、設計料という行に目がとまったら、思い出してほしい。
それは図面代ではなく、完成まであなたの味方でいる人間への対価なのだ、ということを。
そしてもし、その「味方」が必要だと感じたときは、いつでも相談してほしい。それが、私が独立して建築家としてやっていきたい仕事の、ど真ん中だ。

【著者注】
一級建築士・FP2級。建築行政で確認申請審査・公共工事の設計・工事監理を担当後、独立。建築の実務・法規・お金について発信しています。
