【ショートショート】愛らしい原種
目の前の皿に横たわるその肉塊は、実に食欲をそそる「醜悪さ」を晒していた。
不規則に隆起した灰色の皮膚、ねじれた四肢、そして知性を微塵も感じさせない濁った複眼。その姿は、我々第4惑星人の美的感覚において、完璧な「食材」の定義を満たしていた。私は満足げにナプキンを広げ、ナイフを手に取る。
この惑星に調査隊が降り立ったのは、彼らの暦で数世代前のことだ。
辺境の青い星に住むこの二足歩行生物は、銀河でも稀に見る極上のタンパク源であることが判明した。肉質、脂肪のバランス、旨味成分のアミノ酸スコア。すべてが奇跡的な数値だった。
しかし、当時の調査隊は深刻な問題に直面した。
「心理的捕食抵抗」である。
原種の姿が、あまりにも愛らしすぎたのだ。
左右対称の整った顔立ち、感情豊かに動く二つの瞳、滑らかで温かみのある肌、そしてコミュニケーションを取ろうとする健気な仕草。
最初の試食会では、屈強な兵士たちでさえ「こんな可愛い生き物は殺せない」と泣き崩れ、ナイフを入れることを拒絶したという。彼らの姿は、我々の保護本能をあまりに強く刺激した。このままでは、この極上の資源をみすみす手放すことになってしまう。
そこで我々は、慈悲深い解決策を講じることにした。
彼らを絶滅させるのではなく、愛着を持たずに済む姿へと「進化」させてやるのだ。
研究チームは数十年をかけ、徹底的な品種改良を行った。
愛らしい瞳は取り払い、滑らかな肌は鮫肌のように荒れさせ、可愛らしい泣き声をあげる声帯は潰した。二足歩行の優美なシルエットは、這いつくばるような異形へと変貌させた。
その結果が、今のこの素晴らしい姿だ。
もはや誰も、この生物に同情などしない。ただ純粋な「食欲」だけを向けることができる。これぞ、科学が生んだ勝利であり、彼らに対する最大限の配慮ではないか。
私はフォークで肉片を口に運んだ。
おぞましい外見とは裏腹に、口の中に広がるのは、脳髄を痺れさせるような甘美な味わいだ。ああ、やはり原種のポテンシャルは素晴らしい。改良して正解だった。
私は極上の晩餐を楽しみながら、ふと、傍らに置かれた旧時代のデータパッドに目をやった。
そこには、改良前の「原種」の姿と、現地の言語で記された古い学名が表示されていた。
モニターの中で、愛らしい姿の生物がこちらを見て微笑んでいる。
その画像の下には、こう記されていた。
「原種名:ホモ・サピエンス」
完
