【小説】Lv32 正義のありか|先生、冒険の続きを。~31年目のサンスーファンタジー~|第4章 正義と別れ 編
Lv32 正義のありか
僕は、今、
現実世界の4年4組の
教室にいる。
ついさっきまで、
僕は、サンスーファンタジーの世界にいた。
『四天王ズケイン』が、
猛攻を仕掛けているという、
世界最高の戦力を誇るメンセキ城の
救援に向かって、
仲間たちと必死に走っていたんだ。
そして、僕たちの絶対的な導き手である、
よしきちは、子どもたちの心を利用する
邪悪な『四天王ヒョウ』と、
命がけの戦いを繰り広げていた。
その最中だった。
世界を引き裂くような、
あの大きな地震に襲われたのは。
大地が激しく割れ、
深い闇の底に飲み込まれた瞬間、
僕は強制的に現実世界へと
ログアウトさせられてしまった。
夢中になって異世界の冒険に没頭していた
僕たちの繋がりを、あの地鳴りが
強引に断ち切ってしまったんだ。
現実と異世界は、目に見えない糸で、
あまりにも生々しく地続きに
つながっているように思える。
強制的に戻された現実の教室では、
異世界の地震以上の、
先生の激しい怒りの雷が落ちていた。
他人の失敗を笑った僕たちの
醜い心に対して、
先生は本気で叱ってくれた。
僕たちは自分たちがどれほど
愚かな過ちを起こしてしまったのかを、
痛いほどに実感し、
教室は静寂に包まれた。
僕は、他の男子と
一緒に喜ぶわけでもなく、
過ちを犯した男子たちに
「やめろよ!」
というわけでもなく…。
何もしなかった。
いや、
できなかったんだ。
僕は、保育園に通っている時は、
体が大きくて、
みんなを上から見下ろして、
力だって誰よりも強かった。
運動神経もよくて、
卒園時の竹馬では、
圧倒的に1番高いものに乗っていた。
保育園のホールのすべての視線を集めた。
鼓笛隊の時だって、
大太鼓を任され、
他の楽器の音をかき消すほどの
力強い音で、一番目立っていた。
でも、体が大きいだけのアドバンテージは、
そんなに長く続かなかった。
小学校に入って、
すぐに挫折した。
僕よりもケンカが強い人、
勉強ができる人、
運動神経がいい人、
工作がうまい人、
そんな人は、
同級生にたくさんいた。
僕は、いつもクラスの
みんなより早めに登校して、
静まり返った教室で過ごすのが習慣だった。
4年4組の教室。
自分の机に座り、
窓の外の校庭をぼんやりと眺めながら、
僕はたった一人で、
ある一つの言葉について
小学生ながら深く、深く考えていた。
「正義」についてだ。
僕は、先生が初めて激怒した時に、
『人の失敗を喜ぶ』ことについて、
小学生ながらに違和感を持った。
だから、喜ぶこともしなかった…
でも、止めることもできなかった。
それは、
自分の中の正義が、
何かわからなかったからだと思う。
先生は、
『人の心を絶対に
傷つけてはいけない』
という確固たる正義の定義を持っている。
当時、まだ10歳の不器用な子どもながらに、
必死に正義の答えを探していた。
きっと、正義の形は人それぞれで、
いろいろな答えがあるのだろう。
だからこそ、大人になって
様々な経験を積んだ
今の僕であっても、
答えは人それぞれだと思っている。
でも……あの教室の机で、
10歳の僕が出した結論は、
一つだけ確かなものがあった。
『困っている人を助けて、
誰かの役に立ちたい』
ということだ。
この考え方は、
大人になった今でも
すごく大切にしている
僕の正義の定義だ。
これは、苦しいときに、
僕を動かす原動力になっている。
僕は先生との学校生活で、
『人として大切なこと』を学び、
サンスーファンタジーのおかげで、
少しづつ勉強ができるようになり、
一歩ずつ、
大人になっていた。
異世界では、
サンスー族 四天王の
ケイサーンを倒すことができ、
自分の役割も理解できた。
その経験で、
『力』が身につき、
それがやがて自信になった。
その力をどう生かすか、
それが『僕の正義』に繋がるんだと思う。
力をつければ、
困っている人を助けることができる。
力がある人が、
そうでない人を助ける。
その正義感は、
小さいときに叔母が
ビデオが擦り切れるくらいに
毎日見せてくれた、あの、
『強くて、優しいヒーロー』
と同じだと思う。
それを現実世界で、
体現してくれたのが先生だった。
そう考えたとき、
僕の中で何かが繋がった。
異世界の悪の軍団、
サンスー族のやり方は、
絶対に間違ってる
自分たちより力のない、
子どもたちの心に
数字の呪いをかけ、
机の前でフリーズさせ、
子どもたちの輝く笑顔を
奪い去っていくあいつらを、
僕は絶対に許しちゃいけないんだ。
サンスー族という悪を、
僕はどうしても
倒さなきゃいけない。
僕がもっと人として
成長して、
勉強して、
力をつけて、
それを困っている人を
助けるために使う。
僕はこんな現実世界に、
のんびりといちゃいけないんだ。
僕には、やらなきゃいけない使命がある。
もう一度、行かないと。
あのサンスーファンタジーの世界に……!
胸の奥で、熱い決意の炎がバチバチと
音を立てて燃え上がるのを感じていた。
よし、
もっと集中するんだ。
もっと、もっと
夢中になって勉強するんだ。
そうすれば、
サンスーファンタジーの世界へ、
もう一度、ログインできるはずだから。
キーンコーンカーンコーン……。
朝の始まりを告げるチャイムが、
静まり返っていた教室に、優しく、
だけど厳かに響き渡った。
ガラガラ、
と小気味いい音を立てて、
教室の前方の扉が開く。
クラスメイトたちが席につく中、
いつもと変わらない足取りで、
先生が教室に入ってきた。
教壇に立った先生の腕の中には、
僕たちの心を一瞬で異世界へと連れ去る、
あの待ち望んだ最高の実践。
最新作
『サンスーファンタジー Lv45』
のプリントが、
まばゆいばかりに携えられていた。
もっと、強くならなきゃ。
僕の正義を貫くために。
ユーチ、再び異世界へ!
Lv32:正義のありか 完/Lv33へ続く
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『先生、冒険の続きを。
〜31年目のサンスーファンタジー〜』
▼ 第1章 ~ 第3章(Lv1〜Lv30)
