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詩┆白煙は、夜へほどける

夜風になびく髪は、
これまでで一番重い気がした。

今日も、ひと仕事が始まる。

誰も来ない屋上。
街の光が、遠くで息をしている。

ここなら誰も、
僕を見つけられない。

夜空に手を広げる。
祈りではない。合図でもない。

消え残った記憶を、
こちらへ呼び戻すための儀式。

やがて輪郭を結び、
声になっていく。

明日こそは、戦わなきゃ。

淡い希望が、
焦げた回路をつなぎ直す。

今日も、戦えなかった。

濃い絶望が、
その回路をまた焼き切る。

勇気と我慢がぶつかり合い、
何度も火花を散らした。

けれど、勇気が勝つことはなかった。

心は内側から少しずつ焼けて、
焦げた匂いだけが、
体の中に残った。

波の満ち引きの音がした。

屋上にいるはずなのに、
足は冷たい水に浸かっていた。

名前も、体温も、
向こう側へ攫われていった。

それでも、この記憶だけを、
君は消し去ることができなかった。

…どうして。

そこらじゅうに散りばめられた、
星の光たち。街の光たち。

ただただ、美しかった。

雑音がどれほど、うるさくても。
誰の言葉で、削られてしまっても。

この景色だけは、
否定しきれなかった。

いっそのこと、
逃げてしまえば良かったのに。

君の声が、
僕の声に変わっていく。

消えてしまうより、ずっと先に。

泣くとか。怒るとか。
誰かのせいにするとか。

朝を待たずに、
どこかへ行ってしまうとか。

…狼煙をあげよう。

ポケットからタバコを取り出し、
新品のライターで火をつける。

煙を吸い込む。

喉から肺へ、
見知らぬ苦さが入ってくる。

体が、はっきりと拒んだ。

ゲホッ、ゲホッ。

嗚咽にまぎれて、
細切れの白煙が夜へほどける。

散々君は、
自分の心を焼いておいて。

こんな簡単な逃げ方も、
知らなかったと言うのか。

僕は火を揉み消し、
まだ長いままの白い棒を、
金網の向こうへ投げ捨てた。

強風にあおられて、
それは鳥のように放物線を描いた。

ほんの一瞬だけ、
落ちていくものが、
飛んでいるように見えた。

そして、見えなくなった。

…ほら。

こんな景色だって、
綺麗でしょ。

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