人間何ごとも経験しとけば損はないんだよ

【人間何ごとも経験しとけば損はないんだよ】
「幻獣遁走曲」(倉知淳)の一文です。
1月1日、13時08分。
駅で電車を降りた。
久しぶりに乗る路線。
それはワンマン運転の電車だった。
いつからそうなったのかは分からない。
ただ、乗るには扉の横のボタンを押さなければいけないらしい。
それに気づかず、開かない扉の前で少し不思議な顔をして立ち尽くしてしまった。
周りを見渡してようやく理解し、ワンテンポ遅れて乗り込む。
車内は、全員がほどなく座れるくらいの人数。
けれど、最寄りの駅に着くまで、心のどこかにずっと小さな不安があった。
「ICOCA、どうすんねん……?」
単線の無人駅。
昔はICOCAなんてなかった。
切符の自販機がポツンと置いてあるだけの駅だった。
あの駅に、今はちゃんとタッチする機械があるのだろうか。
切符を買ったほうがいいのか。
分からないまま、気持ちだけがオロオロする。
慣れないことをすると、人は自然と消極的になる。
「そんなことも知らないの?」
そう思われたくない気持ちが、静かに膨らんでいく。
ふぅー、とひとつ深呼吸。
そのとき、ふと気づいた。
観察だ。
車内を見渡すと、扉の上に書いてあった。
「乗り降りは、1番前の車両の扉からお願いします」
なるほど。
情報、ゲット。
1番前を見ると、バスのような機械が置いてある。
「あれだな」と、当たりをつける。
自分の降りる駅までは、まだ数駅ある。
誰かが先に使うはずだ。
そう思って、じっと様子を見る。
すると、おばあちゃんが駅に着く少し前から前方へ歩いていった。
カバンからカードを取り出し、手に握っている。
おぉ……あの年でもICOCA。
やりよるなぁ、と心の中で思わず笑ってしまう。
駅に着くと、
機械に軽く「ピッ」。
その音は、少し高く、明るく聞こえた。
運転手さんに挨拶まで添える余裕ぶり。
やっぱり、年の功は侮れない。
でも、データは取れた。
これで大丈夫。
そう自分に言い聞かせる。
数駅後、最寄りの駅のアナウンスが流れる。
少し早めに前へ……のはずが、誰も立ち上がらない。
タイミングが分からず、モジモジしていると、
奥の車両から男性が前へ歩いていく。
よし、続こう。
意を決して立ち上がると、
ぐらっ、と電車が揺れた。
平然と歩きたいのに、よろける姿をさらしてしまう。
スマートにいかない自分が、ちょっと悔しい。
それでも、なんとか前方へ。
ポジションは3番手。
前の人の動きが見える、絶好の位置だ。
駅に着き、
一人、また一人とスムーズに処理が進む。
そして自分の番。
機械に、ピッ。
……エラー。
え?
もう一度。
……エラー。
なぜ?
その瞬間、思い出した。
あのおばあちゃん、カードを裸で持っていた。
財布からカードを出して、もう一度タッチ。
緑のランプが光り、OKの表示。
ほっとしつつ、
少しモタモタした自分が気になって、そそくさと電車を降りた。
久しぶりの駅は、
変わったなぁと思う部分と、
変わらないなぁと感じる部分が、同時にあった。
無人のみかん売り場。
そういえば、子どもの頃からずっとある。
誰が買うんだろう、と思いながら、
祖父母の家があった場所へ歩く。
周辺は、時代の流れで大きく変わっていた。
田んぼは住宅地になり、景色もすっかり違う。
それでも、
昔、稲刈り後の少し硬くなった地面を走り回っていた記憶が、ふっとよみがえる。
冷たい風が頬をかすめる。
よし、と小さく気合を入れ、
お寺へ向かう。
祖父母のお墓参りだ。
元旦で、開いている店はほとんどない。
自販機も見当たらない。
車社会の町で、歩いている人もほぼいない。
車道を避け、
田んぼと田んぼの間のあぜ道を行く。
高い建物はなく、
空が広い。
田んぼも正月休みのように、静かに息をひそめている。
あぁ、やっぱり好きだな。
正月って、こういう感じだよな、と思う。
人の多い初詣もいいけれど、
自分は、このゆっくりとした時間の流れが好きだ。
SNSの華やかさも素敵だと思う。
でも、自分は写真を撮るだけでいい。
感じるなら、田舎がいい。
そんなことを考えているうちに、お寺に着いた。
バケツと水受けを借りて、お墓へ。
なぜ水をかけるのかは知らないけれど、
まあ、いいか。
手を合わせて、ひとこと。
「おじいちゃん、おばあちゃん、来たよ。
あけましておめでとう。
今年も一年、頑張るから見ててね」
長々と話すより、
ただ見ていてもらえればいい。
空になったバケツを持って歩き出したとき、
ビュッと風が吹いた。
その瞬間、
正月休みの終わりに、いつも言われていた言葉を思い出す。
「また、遊びに来(き)いや✨」
「うん、また来る♪♪」
そう心の中で返して、バイバイした。
田舎の駅は、時間を読み間違えると大変だ。
時刻を確認し、イヤホンをつける。
ラジオから流れてきたのは、
Mr.Childrenの『Starting Over』。
何かが終わり、
また何かが始まる。
そんな歌詞が、
静かに胸に残った。
『次の時代は、この本がきっとあなたの役に立ちますよ』
#幻獣遁走曲
#倉知淳
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人間何ごとも経験✨
無駄だと思うかどうかは受け取る側の気持ち次第なんだよ♪♪
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