【写真詩】 望郷の花
チシマキンバイによせて
北の最果て千島(ちしま)の地に
そこに確かに息づく命
君に会うための 遥かな旅路
永い旅の果てに逢えた
君は望郷の花

遠い氷の時代の記憶を今もその身に宿して
冷たい風のなかで「小さな灯火」を灯し 招いてくれた
触れ合う視線が優しい距離に
春の浅い光が 出逢いの二人を包む

北の最果て彷徨って
風の言葉に途切れた夢を紡ぎながら
記憶のページを紐解けば
白紙に浮かぶのは切ない想い
その想いを 淡い光に包んで 君に捧げよう
胸をつく深いため息は
君がくれた一滴(ひとしずく)の愛
冷雪に埋もれさだめに堪えながら
幾度も命を重ねて生きてきた
チシマキンバイは 想いの花
胸に隠した幾多の熱い涙
深い冷霧に隠されて
無言の千島の海が今も呼んでいる
そこには 悲しみよりも深い海が有る
たそがれ老人のつぶやき
ー後書きー
前回からの続きで、花と蟻の物語です。
花名のチシマ(千島)は、千島列島で最初に発見されたことに由来します。
かつて多くの人々が、霧深く、流氷が去ったばかりの北の最果ての島々へ命がけで渡り、そこでこの世のものとは思えないほど鮮やかな黄金の群生を見つけました。
チシマキンバイは、厳しい自然と、そこに確かに息づく命を象徴する花です。誰もいない北の岩場で、冷たい海風に吹かれながらも、ただひたむきに咲いている。
気が遠くなるような時間を超えて、今、目の前の一輪として咲いている、悠久の花です。
その永い旅の果てに、妄想を彷徨う一匹の蟻と出会った奇跡のような一瞬。そのとき私の妄想は消え去り、記憶のページに新たな言葉が舞い降りてきました。
記憶の波に揺れる 時を超えた意識をもって、未来を見つめながら、閉ざされた過去の扉をたたく。
胸に隠した幾多の熱い涙、無言の千島の海が呼んでいる。
千島列島は、今も悲しい歴史を背負いながら、私たちの心の中に静かに眠っているのです。
