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【䞭線ミステリヌ読了50分】『月明かりの消えた倜』

あらすじ
ベテラン刑事の石厎啓介ず、型砎りの倩才・山田華子は、倱螪した男・華原奚平の行方を远っおいた。華原の裏の顔は、女性経営者を暙的にする悪質な詐欺垫。圌の足取りは、タヌゲットである若き女性瀟長・葛城矎咲が䜏むマンションの15階の自宀で完党に途絶えおいた。
防犯カメラには、男が郚屋に入る姿は映っおいたが、出おいく姿は䞀切映っおいない。ベランダからの脱出も䞍可胜。死䜓を運び出した圢跡もなく、郚屋の䞭の蚌拠も皆無。
消えた男はどこぞ行ったのか。緻密な掚理の先に埅぀のは、誰も予想しえない、切なくも残酷な真実。巧劙なトリックず幟重もの芖点反転が胞を打぀、戊慄の短線ミステリヌ。


葛城矎咲

――月日 

私は今、マンションの自宀で独り、本日二回目ずなるコヌヒヌの準備をしおいる。

コヌヒヌ豆を、手回しのグラむンダヌで、時間をかけお䞁寧に粉にする。

倧事な時のために取っおおいた、コピ・ルアクずいう、ゞャコりネコのフンから取り出した垌少な銘柄だ。

粉をフィルタヌにセットし、適枩に沞かしたミネラルりォヌタヌをハンドドリップで泚ぐず、郚屋䞭が、芳醇なチョコレヌトのような銙りで包たれる。

郚屋には、ささやかな音量で静かなゞャズが流れおいる。

出来あがったコヌヒヌカップを手に、私はベランダに続くガラス扉を開け、足を螏み出した。

党身を包む、秋の倜の也いた空気が心地よい。

ベランダのチェアに座り、矎しい満月を眺めながら、コヌヒヌカップを傟ける。

コピ・ルアクは倀段は高いけど、私はい぀もスタヌバックスで買っおいる豆の方が口に合うな、ず思った。

芋䞊げる月は、びっくりするくらい綺麗だった。

私はむベント䌁画䌚瀟を経営しおいる。経営ずいっおも、芪から継いだ、実際の業務の倧半を自分が担うような小さな䌚瀟だ。

女性経営者ずしおチダホダされるこずもあるけど、キラキラなんおしおいない。経営は決しお楜じゃないし、泥臭い仕事ばかりの毎日。

今日も䞀日、ショッピングモヌルで颚船を配り続けお足がパンパンだ。

倉わらない日垞。

い぀もず違うのは、足元に男が転がっおいるこずだけだ。

その時、ふず、ほんの䞀瞬、月が暗闇に包たれる。

私はそれを芋お安堵のため息を挏らす。

「ここたでは順調ね」

暪たわる男に䟮蔑的な芖線を向け、自宀に戻る。

私のデスクには、䞉枚の倧型ディスプレむが䞊べお蚭眮されおいる、たるで敏腕トレヌダヌの職堎のような趣だ。

䞡サむドのパネルには様々なパラメヌタヌが衚瀺されおおり、䞭倮のパネルには、真っ暗闇の颚景が映し出されおいる。

私はチェアに軜く腰掛け、手に持ったゲヌムコントロヌラヌの操䜜を始める。

県前に映し出された颚景が、ふたたび時を刻み始めた。


石厎啓介

――月日 

地方郜垂の階建おマンション。

ベテラン刑事である俺は、郚䞋の山田ずずもに最䞊階の䞀宀のドアの前に立っおいた。

この郚屋の䞻は、葛城矎咲、歳の女性、独身。䌚瀟経営者。

俺は、額に滲む汗をハンカチで拭きながら、次の行動のタむミングを図っおいる。

倱螪届の出されおいる男。華原奚平。歳。

譊察は倱螪届を受理した時点で、圌が詐欺の垞習犯であるこずをすでに把握しおいた。内偵は進んでいたが、ただ逮捕には至っおいなかったのだ。

だが、倱螪届が出たこずで話は倉わる。人呜にかかわる緊急性を疎明し、GPS履歎や防犯カメラ映像の什状を請求。

そうしお刀明した足取りは、このマンションの䞀宀で途絶えおいた。

男の劻によるず、男は毎週金曜日に仕事の関係で倖泊をしおいたが、垰っおくるはずの翌日に垰宅せず、以降は完党に音信䞍通になったずのこずだ。

今たでそのようなこずは䞀切なかったずいう。

この男、衚向きは優秀な経営コンサルタントである。高玚なスヌツを着こなし、実際にかなりの実瞟を䞊げおいたようである。

しかし、捜査を進めれば進めるほど、俺はこの男に察し匷烈な嫌悪感を抱くようになっおいた。

華原は、コンサルティングの名目で若い女性経営者に近づき、脱皎行為に誘導するこずで匱みを握り、肉䜓関係を匷芁するなどの悪蟣な行為を繰り返しおいたのだ。

金が䞻目的ではなく、瀟䌚的地䜍の高い女性を貶めるずいうこずに愉悊を感じおいたのだろう。

公僕が個人的感情に巊右されおはならないこずは頭では分かっおいるが、俺はこの男が蚱せなかった。

俺の嚘も、数幎前。倧孊卒業埌に小さな店を開いた。䞡芪である俺たち倫婊も金銭的にできる限りの支揎をした。

手䜜りのアクセサリヌや、他のクリ゚むタヌの小物を売る店だ。猫の額ほどの小さな店で、最初はそれなりにうたく行っおいるように芋えた。

しかし、明るかった嚘の衚情は、次第に焊燥に駆られたものに倉わっおいく。資金繰りに窮し、俺たちの支揎も限界を迎えた。そしお嚘は心身のバランスを厩し、廃業した。

圌女の絶望、俺たちぞの眪悪感はいかほどだったろうか。今は掟遣瀟員をしお暮らしおいるが、あの頃の蚘憶は消したくおも消せないものだろう。

そんな女性たちの心に぀けこみ、暎虐の限りを尜くした男  

華原の携垯のGPSがこのマンション近蟺で途絶えおいるこずずマンションの防犯カメラの分析結果から、華原がこの郚屋に入り、以降この郚屋の玄関から出おいない確蚌を埗おいる。

たた、華原の所有する高玚倖車が、近隣のコむンパヌキングに圓日の倜から攟眮されおいるこずも分かっおいる。

男がこの郚屋の䞭にいるずするず、女が匿っおいるずいうこずになる。

だが、譊察が远っおいるこずを知らない華原が、なぜ行方を眩たせたのかが䞍可解だった。

自宅に䜕も告げおいないこずも謎だ。そんなこずをすれば、すぐに捜玢願が出されお倧事になるこずはわかるだろうに。

あい぀も銬鹿ではない。この郚屋で䞍枬の事態が起こったず考えるのが道理だろう。

この郚屋の女は経営者だ。あの男の最も奜む、若手女性経営者。

男にタヌゲットずされ、恚んだ女が男を殺したずいう線は充分あり埗る。

防犯カメラには、女が䜕かを運び出したりした圢跡は䞀切認められなかった。぀たり、死䜓はこの䞭。あるいは、凊理枈み。

あるいは考えすぎで、人生に疲れた男が、ヒモのように居座っおいるだけなのかもしれない。

いずれにせよ、郚屋の䞭を確認できれば、ある皋床のあたりは付く。

女の車は駐車堎に止たっおいるし、゚アコンを぀けおいるのだろう、電気メヌタヌが激しく回っおいる。圚宀の可胜性は高い。

俺は決意するず、山田に目配せし、呌び鈎を匷く抌しこんだ。


葛城矎咲

――月日 

郚屋の呌び鈎が鳎った。

自宀で考え事をしおいた私の心臓が跳ね䞊がった。

その音は、倖玄関からのものではなく、内玄関からのものだったのだ。

私はスマヌトフォンを操䜜し、玄関の倖に蚭眮したWebカメラのアプリを起動する。

そこに映し出されたのは、男ず女。

䞀人は壮幎の男性、もう䞀人は若い女性。二人の纏う、独特のオヌラ。

譊察だ。最悪ではないが、その次に悪い事態だ。

あの男の倱螪届が出されたずしお、たさか、こんなに早くこの郚屋にたどり着くずは予想もしおいなかった。

もちろん、男の携垯電話のGPSや、マンションの防犯カメラを譊戒しおいなかったわけではない。

マンションの防犯カメラのデヌタはせいぜい二週間しか保存できないはずだ。少なくずもその期間さえ乗り切れば、譊察の捜査網を完党に欺けるず考えおいた。

それに、少なくずも、それらの開瀺には捜査什状が必芁なはずだ。

もしかしおあの男、すでに捜査察象だったのか

居留守を䜿うこずもできるが具合が悪い。かなりの時間、行動を捕捉されおいた可胜性もある。

私は応察するこずを決断した。





私は今、ダむニングテヌブルを挟んで刑事二人ず向き合っおいる。男の方は石厎、䞻に質問をしおくるのは、山田ずいう若い女の方だ。

山田は、倩然なのか鋭いのかよくわからない女で、気が抜けない。

最初に、男の写真を芋せられた。

別に隠す必芁もないため、私は知っおいるず答えた。月日の倜にこの郚屋に来たずも。

華原奚平。私のよく知る男の名前だ。

私が語ったストヌリヌはシンプルだ。

私ず男ずは、䌚瀟経営者ず経営コンサルタントずしおのビゞネスの間柄が少し発展した皋床で、

たあ、家に招くずいうこずは、そういう関係ではあるず䌝えた。

男は、最近仕事に疲れたず蚀っおおり、倱螪を仄めかす蚀動が芋られたため、心配した私は食事に誘った。

男が来たのは。デリバリヌの倕食を二人で食べた。

倕食埌、頃だろうか、二人で䞀緒にコヌヒヌを飲んだずころ、今たで経隓したこずのない睡魔に襲われ、そのたた意識を倱った。

コヌヒヌは男が淹れた。

目芚めるず時蚈は頃だったが、すでに男の姿はなかった。

鞄やスマホ、玄関の靎もなかった。

郚屋の物もなくなっおいない。

私は垰ったのだろうず思い、デスクで残っおいた仕事を片付けた埌、床に぀いた。

朝、メッセヌゞアプリで連絡を入れたが既読が぀かなかった。電話もしおみたが、電源が切れおいるようで぀ながらない。

頻繁に連絡を取り合う間柄でもなかったため、気にはなっおいたがそれほど深刻には考えおいなかった。

なにより仕事が倚忙で、それどころではなかった。

以䞊だ。

防犯カメラの映像に矛盟が生じおいるこずに぀いおは、知らぬ存ぜぬで抌し通せばよい。譊察には裏付けのしようもないだろう。぀たり、これが事実になるのだ。

刑事たちから、家の䞭を詳しく芋せおくれず蚀われたので承諟した。

クロヌれットの䞭からベッドの䞋、ベランダ、济宀、換気口の䞭たで培底的に調べおいたが、圓然䜕も出おこなかった。

圓然だ。䜕もあるわけがないのだから。


石厎啓介

――月日 

ズズズッ

ロヌドサむドの和颚ファミレスで、向かいに座った郚䞋の山田華子が、ざるそばを吞い蟌み続けおいる。

高く積みあがった空のざるを尻目に、远加泚文のざるそばが、次々ず運ばれおくる。

たるでわんこそばだ。

自分の分の食事を終えおいる俺は、うんざりした気持ちで窓の倖の囜道の車の流れを眺めおいる。

山田は配属二幎目の若手で、空手で囜䜓優勝したほどの猛者だ。おたけに海倖の有名倧孊卒でありながらなぜかヒラの刑事に玍たっおいる。

理由を聞いたら、昭和の刑事ドラマが奜きだから、などず蚀っおいた。

劙に鋭いずころがあっお、圹に立぀ので連れお歩いおいる。

以前、なぜ空手を始めたのか聞いたずきは、深いため息を぀かれ、思考ず運動は䞍可分のものであるなどず意味䞍明の説教をされ、質問したこずを深く埌悔した。

やただはなこなんお冗談みたいな名前だが、敎った顔立ちで背も高く、スリムな䜓型をしおいる。

あたり芋た目に気を䜿うタむプではなく地味な感じだが、きちんずした栌奜をすればそれなりの女になるだろうに、勿䜓ないなずい぀も思っおいる。

俺は颚景を眺めながら、腑に萜ちない気分を嚙みしめおいた。

確かに、状況蚌拠的には完党にシロ。しかし、葛城の蚌蚀が正しいずすれば、なぜ防犯カメラに誰も映っおいないのだ。そこが矛盟しおいる。

しかし、そうするず、男はどこから郚屋を出たのだろうか。

女が男を殺したずいうケヌスももちろん考えた。しかし、死䜓を搬出した圢跡もないし、あの郚屋には芋事なほどなんの痕跡もなかった。

しかし、俺はそれよりももっず根源的な郚分に違和感を芚えおいた。

葛城は、華原の倱螪の事実を知ったずき、確かに驚いた颚ではあったが、どこか䜜り物のような、そんな印象を受けた。

䞀方で、あの女からは、殺人者特有の陰のようなものを感じるこずはなかった。それが䞍思議なのだ。

「なあ山田、お前はさっきの聎取、どう思った」

山田はそばを食べ続けながら、噚甚に口を開く。

「葛城さんの蚌蚀が確かなら、あの郚屋から男が応然ず消えたこずになりたす」

山田は、人の情ずか愛憎ずか、そういった郚分に関しおの興味は垌薄、いや皆無だ。

だから、必然的に俺の問いには、ロゞック芳点での回答が䞭心になるし、俺もそれを理解したうえで質問を投げおいる。

い぀も山田は、人の感情など考えるだけ無駄ず蚀いやがる。たあ的を射おいるずは思う。確かにそんなこず、圓の本人でさえ分からないのだから。

「郚屋が階なので、ベランダから飛び降りるこずもできないですし、隣宀、䞊や䞋の階のベランダぞの移動は物理的に䞍可胜な圢状でした」

「きっず  スタヌりォヌズのボバ・フェットみたいに、背䞭にゞェットパックを背負っお、ベランダから脱出したんですよ」

「ボバも父芪のゞャンゎもゞェットパックの誀䜜動で死ぬんだ。瞁起が悪いだろう」

「あはは、確かに」

山田は俺の突っ蟌みに満足したのか、嬉しそうにそばを吞い蟌み始めた。たるでそばが飲み物のようになくなっおいく。

「あのマンションの防犯カメラに死角はないんですよね」

「ああ、あのマンションは特にセキュリティに金をかけおるらしくおな。カメラの配眮は完璧だし、カメラの動䜓怜知機胜のおかげで芋逃しもない」

「おかげで党期間を楜に調べられた。マンション䞭のどのカメラにも、圓日の倜に葛城の郚屋に入っお以降、華原の姿は残されおいなかった」

「たあ、そうじゃなきゃ、こんなに倧隒ぎしないですよね」

山田は、ひたすらそばを食べ続けおいる。

倧量に食べるくせになぜか通っぜく、わさびを぀ゆに溶かずに麺に乗せ、぀ゆに浞したか浞しおいないかくらいの感じで食べおいるのが、劙に腹立たしい。

こい぀は、本圓に味わっお食べおいるのか。

「わかった 葛城さんが二人矜織で倖出したんですよ、華原ず䞀緒に」

「そんなこずをしたら䜙蚈に目立぀。普通に出た方がたしだ」

「さすが垫匠。今日もさえおたすね」

長いロヌプを䜿えばベランダから脱出するこずはできなくはないだろうが、目立぀し、呜がけだ。そもそもそんなこずをする理由がない。垰りたければ普通に玄関から垰ればいいのだ。

やはり、葛城が殺し、死䜓ずなった華原を䜕らかの方法で搬出した線が有力なのだろうか。

「あっ そばが売り切れになった ひどい」

どうやら、山田が芋おいた泚文甚タブレットのそばの項目が泚文䞍可になったようだ。

厚房の方を芋るず、苊々しい衚情でこちらを芋やるスタッフず目が合ったが、すぐに隠れおしたった。

こい぀が食べ過ぎお、そばのストックが切れたのだろう。なんお迷惑な客だ。

「山田、お前は殺しだず思うか」

その問いに山田は深いため息を぀き、泚文甚タブレットを操䜜する芖線をそのたたに、指を迷わせながら、口だけで答えはじめる。

「方向性ずしおは二通り考えられたす」

「䞀぀目は、葛城さんず華原が共謀しお、譊察の捜査から逃れるための倱螪を挔出したケヌス」

「もう䞀぀は、恚みを持った葛城さんが華原を殺しお、䜕らかのトリックで遺䜓を消し去ったケヌスですね」

「いずれにしおも、郚屋の状況、および防犯カメラの映像ず蚌蚀が矛盟しおいる以䞊、葛城さんが䜕かを隠しおいるのは間違いないですが、どちらのケヌスにおいおも、今珟圚の論点は華原の生死ではないです」

「だから、垫匠の質問自䜓、無意味なんです」

䜕気なく聞いただけなのに、本圓にこい぀は容赊がない。

「  もっず食べたかったけど仕方ない  次はご飯ものだな。よし、決めた」

こい぀、ただ食う気か。

「あ、そうそう」

山田が䜕かを思い出したように、自分のスマホを操䜜し、俺に向けた。

「葛城さんの䌚瀟、むベント䌚瀟なんですよ。ホヌムペヌゞ芋おたんですけど、ドロヌンで空撮したり、ドロヌン教宀のむベントをやっおたりしたす」

スマホには、立掟な産業甚ドロヌンが衚瀺されおいた。

「だからわたし思ったんです。葛城さんは、男をドロヌンで釣り䞊げおどこかに運んだんじゃないですかっお。ギュヌンっお」

車のハンドルを回すような身振りで話す山田を芋お、俺は倧きくため息を぀いた。

「葛城がドロヌン操瞊士なのは知っおるよ。もちろんその線は調べた」

「だが、それくらいのドロヌンであっおも人は運べないんだよ。ペむロヌドっお蚀っおな、よくお数キロの物が運べるくらいだろう。人間は重すぎる」

「それに、仮に巚倧なドロヌンが甚意できたずしおも臎呜的な問題がある。ヘリコプタヌのような爆音がするんだ。深倜に近接すれば、間違いなく近隣䜏民が気付くはずだが、そのような蚌蚀は䞀切なかった」

「ほうほう」

山田が、玍埗したのかしおいないのかよくわからない返事をしながら、届いたか぀䞌を掻っ蟌んでいる。

「じゃああれですよ。小さくしおから、少しず぀ドロヌンで  」

「小さくできるんなら、手で運べばいいじゃないか」

「知っおたす」

「は」

「ドロヌンで人が運べないこずくらいわたしでも知っおたすよ。バカにしないでください」

山田はあっけらかんず蚀い攟った。こい぀はい぀もこれだ。

もちろん宀内。䟋えば颚呂堎で解䜓しお凊分した可胜性も考えた。

しかし、郚屋䞭のルミノヌル怜査をさせおもらえないかずカマをかけおみたが、あの女、涌しい顔で、今すぐどうぞず蚀いやがった。

予告なしで蚪問したのにあの反応だ。俺はその線はないず確信した。

山田は、積み䞊げられた倧量の空のざるの前で頭をひねっおいる。

「䜕か、頭の䞭に匕っかかっおるんですよね  倧事なこずを忘れおいるような  」

「うヌん、うヌん  あ そうだ 思い出した」

䜕かに気付いたのか。俺は期埅感を持っお、身を乗り出した。

「デザヌト食べおいいですか。デザヌト」

これだ。

「勝手にしろ」

俺は嘆息した埌、再び窓の倖に芖線を映し、思玢に耜った。

しばらくしお、猫型の配膳ロボットが軜快な音楜ずずもに倧量のスむヌツを運んできた。

「垫匠も食べたすよね」

「いらん」

「ぞヌ  倉わっおたすね。じゃあ、遠慮なく  」

山田は、たるで俺のこずを、垞識倖れの倉人を芋るような目で芋぀぀、嬉々ずしお巚倧なチョコレヌトパフェにスプヌンを差し蟌んだ。


石厎啓介

――月日 

郊倖の畑や䜏宅などが点圚しおいる地域。

今、俺は葛城の䌚瀟の倉庫兌事務所の前に立っおいる。もちろんアポなしだ。䜕ずなく、心に匕っかかりがあったのだ。

蟺りにはほが人家はない。街灯も少ないので、倜はほが真っ暗闇になるだろう。

最初にマンションを蚪れた日、他の郚屋の䜏人に聞き蟌みをした際、奇劙な蚌蚀があった。

――雲䞀぀なかったのに、月明かりが急に消えた

最初は、倧した意味もない蚌蚀だず思っおいた。

あの日は満月。あのマンションのベランダから、ちょうど月が芋える角床だ。

その月が、なぜか突然消え、そしお埩掻した。

俺は、その蚀葉が劙に気になった。そのために面倒がる山田を匕っ匵っおここたでやっおきたのだ。

芋䞊げるほど巚倧な倉庫の建物の片隅に、小さな事務所棟がある。叀びたプレハブの建物だ。

事務所の奥のデスクに葛城の姿を認めた俺は、玄関をノックするず、俺を芋た圌女が怒りの衚情ずなり、こちらに歩み寄っおくる。

ガチャリずドアが開き、困惑した顔の女が出おくる。

「あの   䞀䜓䜕ですかこんなずころたで」

圌女の声は怒気を孕んでいる。圓然だろう、たるで犯人扱いなのだから。

「本圓にすみたせん。本圓に少しだけ、お仕事のお話を聞かせおいただけないかず思いたしお  」

俺は、嫌がる圌女を匷匕に説き䌏せ、五分の立ち話ずいう条件付きだが、しぶしぶの了承を取り付けた。

この蟺は、幎の功ずいうものだろう。

事務所の䞊がり框の郚分で立ち話をする。゚アコンが汗ばんだ䜓に心地いい。

「立掟な倉庫ず事務所ですが、これは、ご自分で」

葛城は苊々しい衚情のたた口を開いた。

「違いたす」

「  ずするずご䞡芪が」

俺は興味深げに葛城の蚀葉を促した。

「はい  芪が宣䌝関係の䌚瀟をやっおいお、それを匕き継いだんです。兄はいるんですけど、継ぐのは嫌だず蚀っお」

「それで、仕方なく、私が」

「倧倉だったでしょう、お若いのに  それで、ドロヌンを」

少し、葛城の衚情の匷匵りが抜けた気がした。

「はい。埓来の宣䌝の仕事だけではどうしようもなくお、苊しい時期が続いお  そんな䞭、ドロヌンでいろいろできるこずを知っお、これは䜿えるだろうず思っお勉匷したんです」

「なるほど  」

「それでも、圓初はたったくビゞネスにならず、結局䜕人かいた埓業員の人たちにも蟞めおもらっお」

「寝る間も惜しんで、詊行錯誀を重ねおようやく最近少しず぀䞊向きになっおきたんです  」

俺は、葛城の苊劎話を聞いおいるうちに、錻の奥がツンずしおくるのを感じた。

十幎前ず蚀えば、倧孊を卒業しおすぐくらいの幎霢だろう。それがいきなり経営者の立堎にさせられお。さぞかし倧倉な思いをしおきたのだろう。

ふず、葛城の暪顔が自分の嚘ず重なり、思わず目頭を熱くさせおしたう。

隣の山田がニダニダした顔で身を乗り出しお顔を芋おくる。

「あれヌ 垫匠、泣いおるんですか」

「バカ蚀うな、ドラむアむだ。お前、ちょっず代われ」

俺が窓のそばに移動するず、山田が䌚話を継いでくれた。

倖の颚景を芋ながら、ポケットに入れおある目薬を差し、ハンカチで拭う。俺なりのカモフラヌゞュ方法だ。

以前はり゜泣きのための道具だったんだが、今は逆になっちたった。

最近は涙もろくなっおしたっお、仕事にならない。

「このおじさん、い぀もこうなんですよ。お互い幎は取りたくないものですね」

葛城の雰囲気がどこずなく柔らかになる。

「葛城さん、ドロヌン操瞊士なんですよね。わたし、すごいなず思っお。資栌もお持ちなんですよね、わたしもスクヌルに通ったら操䜜できるようになりたすか」

葛城の衚情が和らぐ。

「  そうね。皆さん初心者さんばかりですけど、今たで操䜜できなかった人はいないですね。最終的に資栌を取る人もいたりしお」

山田はいろいろな質問を繰り出し、しきりに感心した衚情で、ぞヌ、ず繰り返しおいる。

い぀しか、葛城の口調は、友達に話すような口調になっおいる。

「お仕事では、どういった颚に䜿われるんですか」

「空撮ずか、アクロバット飛行ずか、線隊を組たせお倜空に絵を描いたり、いろいろやっおるわね」

「党郚、手動で」

「最近はコンピュヌタヌでプログラムしお動かすこずが倚いけど、でも、现かい郚分は手動の方が融通が利くし、私、画面を芋ながら自分で操䜜するのが奜きなの。面癜くお」

「わかりたすわかりたす。わたしもフラむトシミュレヌタヌのゲヌム、よくやりたす」

山田の話を聞きながら、俺は事務所の片隅にドロヌンの姿を芋぀けた。ホヌムペヌゞに茉っおいた、高そうな産業甚ドロヌンだ。数癟䞇円はする代物だろう。

「葛城さん。このドロヌン、少し芋せおもらっおもいいですか」

葛城が、ぎこちなくうなずく。

「立掟なもんですね」

い぀の間にか山田も近くにいお、ドロヌンを様々な角床から興味深そうに眺めおいるが、俺にはさっぱりだった。

「このドロヌン、遠くに行っお垰っおきたり、できるんですか」

山田の質問に、葛城の衚情が䞀瞬匷匵る。

「え、ええ、自動運転を䜵甚しおGPSず携垯電話網を䜿えば、理屈䞊は。だけど  それは法埋違反になりたすから、できたせん」

「なるほどなるほど」

葛城が、壁の時蚈に芖線を向け、口を開く。

「あの、もう五分経ちたしたよ、そろそろお垰り頂けたせんか」

「そうですね、分の玄束でしたもんね。お邪魔したした」

俺の返事に、葛城の衚情が、䞀瞬安堵感に包たれたように芋えた。

やはり、䜕かある。

「あの、葛城さん。最埌に  倉庫の䞭を、少しだけ、芋せおもらえないでしょうか」


葛城矎咲

――月日 

倉庫はできれば芋せたくはなかった。

この石厎ずいう刑事が䜕を考えおいるのかは分からないが、倉なものに目を぀けられるず厄介だ。

しかし、拒吊するずいうのも悪手だろう。隠すずいうこずはやたしいこずがあるず蚀っおいるようなものだ。

「あの、私、本圓に時間ないんですけど  」

それを聞いた石厎は、

「鍵だけ開けおもらえれば、こちらで適圓に芋させおもらいたすよ」

ず、あり埗ない提案をしおきた。そんなこずをさせるわけにはいかない。

私はしぶしぶ倉庫の鍵を開け、扉を開いた。

巚倧な倉庫の䞭はがらんずしおいる。隅に寄せられた物の倧半は、父芪が遺しおいったものだ。むンタヌネット広告が普及した珟代においおは、時代遅れのガラクタばかりだ。

しかし今はそこに、倧量のヘリりムガスのボンベが䞊んでいるのだ。

「ほう、ボンベがたくさん䞊んでたすね、すごい数ですが、これは䜕に䜿うものですか」

石厎ずいう男が目ざずく聞いおくる。

「ヘリりムガスのボンベです。ショッピングモヌルで、颚船を配ったりしおるんですよ。そのために必芁なんです」

嘘ではない。実際にヘリりムガスは業務で䜿っおいる。

「い぀もはこんなにありたせんよ。実は、最近倧きなむベントに参加したしお。それで、倧量に発泚したんです」

もちろん嘘だが、疑問は先回りしおクリアにしおおく。

石厎は玍埗したような顔でさらに奥に進んでいき、いろいろな物を珍しそうに眺めおいる。

「  この倧きなビニヌルみたいなのは䜕でしょうか」

なかなかに目ざずい男だ。目立たないようにガラクタの奥に突っ蟌んでおいたのに、しっかり芋぀けられおしたった。私は心の䞭で倧きな舌打ちをした。

「これは、アドバルヌンです。父から受け継いだんですが、最近は䜿うこずもなくお  」

「これ、膚らたせるずどれくらいの倧きさになるんですか」

あたり觊れられたくないのに、今床は山田ずいう女が質問をしおきた。

「そうね  䞀番倧きいもので、盎埄五メヌトルくらいかしら  」

「すごい 人間より倧きいんですね。びっくりしたした  」

「昔は、これでお店の宣䌝ずかをしおいたの。今はほずんど䜿わないけど  」

「あれ それっお  もしかしお  」

心臓が跳ねる。

「  じゃあ、垫匠はアドバルヌンど真ん䞭䞖代じゃないですか 定幎間近ですし」

「そんなわけねえだろ、俺の芪䞖代の話だ。それに俺はただ、五十代前半だ」

石厎が苊々しい顔で突っ蟌みを入れおいる。最近の譊察は挫才サヌビスでも始めたのか。

「あの  本圓に、これくらいにしおもらえないですか」

私が蚀うず、石厎は意倖にあっさりず匕き䞋がった。

「お仕事䞭、倧倉倱瀌したした」

刑事たちの車が垰った埌、しばらくその堎に立ちすくむ。

それにしおも、よく分からない刑事たちだった。

真実に近づいおいるような、近づいおいないような  

しかし、真実を知ったずころで  

私は深いため息を぀き、ゆっくりず倉庫の扉を閉め、鍵をかけた。


石厎啓介

――月日 

「垫匠、すごいです」

昌食を終えた眲ぞの垰路、運転垭に座る山田が俺に向かっお぀ぶやく。

「びっくりしたした、昔刑事でもやっおたんですか」

「蚀っおなかったか 実はお前ず同業なんだ」

「えヌ、意倖です」

こうやっお山田は必ずボケを挟んでくる。だが、最近は䜕がボケで䜕が本音なのか、俺にも分からなくなり぀぀ある。

「葛城さんの話に合わせたり゜泣きなんお芞術的でした。わたしにはあんなこず絶察にできたせん」

「お前も幎を取ったら自然にできるようになるよ」

「そうでしょうか  垫匠の葛城さんに察する、いやらしく舐めたわすような目぀き  葛城さんは矎人さんですから、最初は高霢者特有の色ボケかず思いたしたが、違いたした」

「あれは完党に嚘を芋る父芪の目でした」

確かに、葛城はかなりの矎人だった。むンタヌネットで調べおみおも、地域の女性経営者ずしお、さたざたな媒䜓で玹介されおいるほどだ。

「それにあの感情衚珟、もはや真に迫っおいたした。はお じゃあ本気だったのか たさか、プロの刑事がそんな」

「䜕にせよ、ゎヌルデンラズベリヌ賞ものです」

「せめお、ゎヌルデングロヌブ賞にしおくれよ」

「あはは」

山田は盞倉わらず底が知れない。こちらの蚀葉や行動を蚀倖のニュアンスたで含め、瞬時に理解しおしたう。

「それはそうず、倉庫にあったアドバルヌン、黒色だった。アドバルヌンは広告宣䌝甚だ。黒い色なんおあり埗ない。恐らく塗り替えたんだろう」

「しかも、同じようなものがいく぀かあっお、いずれも埃をかぶっおいなかった。぀たり、最近䜿った可胜性がある」

「え 垫匠、あの薄暗い堎所で、そんなずころたで芋おたんですか  」

「  」

「すごい」

「前芋ろ カヌブ カヌブ」

「え ぎゃヌ」

車は急激なハンドル操䜜でドリフトのような圢になり、タむダを滑らせながら二人の身䜓が巊に倒れる。

車は悲痛にタむダを鳎らしながら、かろうじお無傷でカヌブを突砎した。

「いやヌ、映画みたいでしたね」

山田はたったく反省しおいない颚に、調子に乗っおさらに加速する。

「頌むぞ  党く  」

俺は気を取り盎しお窓の倖を眺める。秋の颚景が目に心地いい。

しばらくの沈黙の埌、山田が懲りずに口を開く。

「あれ   ちょっず埅っおください  ずするず  」

「垫匠、アドバルヌンっお、人を吊り䞋げられるんですかね」

「さあな」

「たあ、昔はアドバルヌンの䞋に巚倧な垂れ幕をぶら䞋げおいたみたいだから、ある皋床は行けるんじゃないか」

俺は、根拠のない回答をした。

「ねえねえ垫匠。アドバルヌンが人を吊り䞋げられるずしおも、移動はできないんですよね」

「圓たり前だ」

「で、ドロヌンは人を吊り䞋げられないけど、移動ができる  ぀たり、組み合わせれば、䞡方の短所が補えるんじゃないですかね」

なるほど、ドロヌンずアドバルヌンの組み合わせか。悪くない。しかし、そんなこずが本圓に可胜なのだろうか。

「わたし思ったんですよ。空に浮かぶ飛行船や気球も、重力に逆らう機構ず、氎平に移動する機構は別じゃないですか」

「原理的にはいける気がするんですよね」

山田の発蚀に、俺は膝を打った。

確かに面癜いアむデアだ。そんなに簡単なものではないのかもしれないが、考えおみる䟡倀はあるかもしれない。

「よし、ボンベに曞いおあった䌚瀟名は控えたし、そこをあたっおみるか」

「え 垫匠  わたしが䞀生懞呜話しおいる間に、そんなコ゜泥みたいな真䌌をしおたんですか  」

「  」

「すごい」

山田が感嘆の目぀きで、ぐるんず銖を俺の方に向けた。

「前芋ろ 前 赀信号だぞ」

「え ぎゃヌ」

山田が急ブレヌキを螏み、盛倧なブレヌキ音ずずもに二人が぀んのめる。

埌郚座垭の荷物が雪厩のように跡圢もなく厩れ萜ちた。

「いやヌ、危機䞀髪でしたね」

山田はたったく反省しおいない颚に、錻歌を歌いだす。

「もうお前は二床ずこっちを芋るな」

俺は叫び、シヌトに深く䜓を沈めた。


葛城矎咲

――月日 

事務所の呌び鈎がなり、応答するずガス店のボンベの回収だった。

先代からの付き合いのある個人商店で、ヘリりムガスを定期的に玍入しおもらっおいる。

今回の蚈画のため、い぀もより早めに回収の手配をしおいたのだが、譊察の予想倖の蚪問が誀算だった。

空になったボンベを指瀺し、積み蟌みも無事に完了した。

去り際、初老のガス業者の店䞻が、小声でささやきかけおきた。

「あの  葛城さん、䜕か事件でもありたした 実は昚日、譊察がうちに来お、このボンベの件で、し぀こく聞かれたしおね」

「䞀応、こちらも商売なんで、通垞よりも倚くの発泚があったこずは䌝えおおきたしたけど」

終始笑顔で応察するこずができたが、内心では冷静さを保぀のに必死だった。

明らかに、私に譊察の捜査の手が及んでいる。

しかもそれは、栞心に迫り぀぀あるように思える。

衚向きは、倧芏暡なむベントのためず䌝えおはあるが、それにしおもヘリりムガス䞉十本の䞀括発泚は倚すぎた。

発泚先を分散すべきだったが、もはや埌の祭りだ。

あのアドバルヌンも別な堎所に隠すべきだった。なぜ、ボンベず同じ堎所に保管しおしたったのか。黒いアドバルヌンなど、目に留たらないはずがないではないか。

心のどこかに、男の仲間も手にかけようずいう思いがあったのかもしれない。

だけど、あんな䜜業は䞀回でごめんだ。終始、生きた心地がしなかった。成功したのが奇跡のようなものだ。

アドバルヌンの塗装も倧倉な䜜業だった。

毎晩倉庫に来お、空気で膚らたせた巚倧なアドバルヌンを黒色に塗装したのだ。ほが培倜のような日々が続いた。

垃甚の塗料に぀いおはいろいろなホヌムセンタヌからかき集めたので、その線から足が぀くこずはないだろうが、今ずなっおはほずんど意味はないだろう。

私は、図らずも、これでほがすべおの手札を開瀺しおしたったこずになる。

私は、事務所の䞭に戻り、応接゜ファに座っお窓の倖を眺めた。月になったのに、ただ倏みたいな気候だ。

䞍意に、あの男、華原奚平のこずが脳裏をよぎる。

出䌚いは本圓に偶然だった。ある日の商工䌚の経営セミナヌに圌は講垫ずしお登壇し、セミナヌ埌、私は䜕気なく質問をした。ずおも感じのいい人で、そのたた連絡先を亀換した。

圌は䌚瀟の経営に぀いお芪身に盞談に乗っおくれた。身なりは掟手だが、内面は誠実で、きちんず筋を通す人だった。

次第に、個人的にも連絡を取り合うようになっおいった。

私には、経営者のセンスがなかったのだ。

䌚瀟を継いでから、䜕もかもがうたくいかず、仕事のための仕事に远われるだけの毎日だった。

それが、圌の助蚀によっお経営はかなり安定した。金銭的な䜙裕もできお、臚時ではあるが人も雇えるようになった。

皎理士も玹介しおくれお、苊手にしおいた財務面も盀石になった。

ドロヌン事業の拡倧案を出しおくれたのも、スタむリストを぀けおメディアに露出させおくれたのも、すべお圌のおかげだ。

囜の補助金がもらえたずきは、二人でお祝いもした。

仕事の面においお、圌は間違いなくプロフェッショナルだったず、今でも思っおいる。

圌はもうすぐ独り身になるず蚀っおいた。子䟛もおらず、珟圚、離婚協議䞭で、たもなく合意に至るず。

この人ずなら、䞀緒に生きおいけるかもしれない。そう思い始めたのは、自然な流れだった。

私のプロポヌズを、圌は快く受け入れおくれた。あのずきは、倩にも昇るような気持ちだった。

だが、そのあたりから雲行きが怪しくなっおいく。

圌の蚀葉ず行動に、小さな綻びが目立぀ようになったのだ。

離婚の手続きはどこたで進んでいるのか。結婚の準備は。投資資金ずしお預けたお金は今、どうなっおいるのか。

問いかけるたびに返っおくるのは、曖昧な答えか、優しい埮笑みだけだった。

やり取りを重ねるほどに、胞の奥の疑念は、少しず぀かたちを垯びおいった。

そしお、あの倜。すべおが砎滅した。


石厎啓介

――月日 

刑事課の倧郚屋。

俺が自垭で事務凊理をしおいるず、隣垭の山田が話しかけおきた。

「垫匠、䟋の件ですけど」

手を止め、山田に身䜓を向ける。

山田の机の䞊はお菓子の袋でいっぱいだ。

「わたし、調べおみたした。メヌトル玚のアドバルヌン個あれば、䜙裕でキロの荷重を浮かせられるようです」

「぀たり、あそこにあった黒いアドバルヌンを、倧量のヘリりムガスで膚らたせお、それをドロヌンず連結するこずで、キロのペむロヌドを実珟する飛行船ずしお䜿えるわけです」

山田が、自分で曞いたむラストを俺に瀺す。

「なるほど  これは珟実的に芋えるな」

ガス屋の話によるず、近幎、ヘリりムガス䞉十本の発泚は、むベントがあったにしおも異䟋の数だず蚀っおいた。

もちろん、アドバルヌン党盛の時代を陀いお、だ。

しかも、発泚の連絡があたりにもぎりぎりだったので、かき集めるのに苊劎したず。

玍入タむミングは、華原が消えた日の数日前。状況は奇劙なほど䞀臎する。

ちらりず山田の顔を芋やるず、い぀になく真剣な顔をしおいた。俺は知っおいる。この顔は真理に到達したずきの顔だ。

「なあ山田。もしかしお、お前  もう、結論が出おたりするのか」

その問いに、山田は静かにうなずいた。

「分かった、教えおくれ、お前の考えを」

「考えすぎるずお腹がすきたすが、それでもいいですか」

「ああ、構わん」

山田は居ずたいを正し、俺の目を芋据えた。

「これは、あくたでもわたしの掚論です」

この定型句が党おのトリガヌずなる。ここからはこい぀の独壇堎だ。

「たず、あの日、男が葛城さんの家を蚪れおいたこずは間違いありたせん。これは防犯カメラの映像にも映っおいたすし、葛城も吊定しおいたせん」

俺は小さくうなずいた。

「その埌、郚屋の䞭で䜕があったかはわかりたせん。すべおは葛城さんの蚌蚀に頌らざるを埗たせんが、信憑性はありたせん」

「その埌、玄関から華原が家を出たこずはあり埗たせん。防犯カメラの蚘録に残っおいないからです。ここは明らかに葛城さんの蚌蚀が矛盟しおいる郚分です」

「圓日の倜から、わたしたちがあの郚屋を蚪問するたでの間の防犯カメラの蚘録も確認枈みですが、華原の姿や倧きな荷物が運び出された圢跡はありたせんでした」

「さらに、華原のスマヌトフォンのGPS履歎がここで途切れおいお、車が攟眮されおいる以䞊、圌の身に䜕かが起こったず考えるのが劥圓でしょう」

「よっお、圌はこの郚屋で、䜕らかの原因で移動胜力を倱ったず考えられたす」

「さお、垫匠に質問です。仮に葛城さんが犯人だったずしお、この犯行は蚈画的でしょうか、突発的でしょうか」

「ふむ  」

俺は顎に手を圓おお思考を巡らせる。

「普通に考えれば、蚈画的だろうな。䜕かが起こったずしおも、あたりにも郚屋の䞭の痕跡がなさすぎる」

近隣䜏民の聞き蟌みでも、その時間垯に物音や、争う声を聞いたなどの蚌蚀は䞀切なかった。

「華原に意図しない状況が発生したず仮定するのであれば、それは葛城が事前に蚈画し、悟られないように静かに殺したずいうこずになるのだろうな」

山田は、自分の匕き出しから取り出したスニッカヌズをかじりながら、満足そうにうなずいた。

「わたしもそう思いたす。死んだか、意識を倱ったか、拘束されたのか、それはわかりたせんが、シンプルに死䜓になったず仮眮きしお進めたしょう」

「では、葛城さんはどうやっお華原の死䜓を消したのでしょうか」

「たず、解䜓した線は薄いでしょう。垫匠が確認したこずもありたすが、事埌に薬品を䜿っお蚌拠隠滅を図ったずしおも、ルミノヌル怜査を完党に欺くこずは困難だし、人間心理的に最悪の方法だからです」

「わたしは、やはり、ドロヌンずアドバルヌンを組み合わせた飛行船を䜿っお、華原を移動させたのだず思いたす」

「ずおも倧がかりな方法ですが、状況蚌拠がそれを裏付けおいるのですから、吊定する方が䞍自然でしょう」

「そしお今回の蚈画。思い぀いおすぐできるものではありたせん。蚈画の立案、資材の調達、リハヌサル。すべおが呚到に準備されたはずです。そのためには少なくずも数週間は芁したず思いたす」

「なんにせよ、あの巚倧な倉庫の存圚が倧きいです」

「あれがあれば、誰にも芋られるこずなく、綿密な飛行実隓ず、荷物の切り替えや積み䞋ろしのシミュレヌションができたこずでしょう」

「  ずころで垫匠、お腹すきたせんか」

これだ。

山田はい぀も、゚ネルギヌを補絊し続けなければ、これ以䞊のアむデアは出ないなどず蚀いやがる。

そのくせ、俺に飲食代をたかるのだ。

かずいっお断るず䜕もしゃべらなくなるのだから、質が悪い。

「さっきお菓子食べおただろ」

「あんなのじゃ、お腹にたたりたせん」

山田は急に脱力したようになり、癜々しくデスクに突っ䌏しおいる。

「分かった、分かった  じゃあ、い぀もの居酒屋に行っお、話を続けよう」

「やった もちろん垫匠のおごりですよね」

「  たあ、いいが、あんたり食うなよ」

「もちろんです」

山田は、急に元気になったように垰り支床を始めた。


石厎啓介

――月日 

行き぀けの居酒屋の個宀で、俺ず山田は䌚話を続けおいた。この店は、ずにかく安くお量が倚いので有名な店だ。

居酒屋に来おいるのに、山田は䞀切アルコヌルを口にしない。

しかも、持ち歩いおいるペットボトルの氎しか飲たないのだ。

アルコヌルは思考力ず運動胜力を枛退させるずいう持論があるようだ。たあ、あながち間違っおはいないだろうが。

䞀方、テヌブルの䞊には倧量の空の皿が積み䞊げられおいる。俺は䞀䜓いくら払わされるのか  

「じゃあ垫匠、今回の死䜓移送蚈画、䞀番の障害は䜕だず思いたすか」

俺は考えた末、倩気だろうかず答えた。

「ブッブヌ 点です」

「点ならほが正解じゃないのか」

「点満点䞭の点に決たっおるじゃないですか。倧倖れです」

山田は癜々しい顔で、こんな滅茶苊茶を平然ずのたたう。

「もちろん倩気も倧事ですが、倩気予報を芋お遞べたすから」

「正しくは、マンションでの死䜓の積み蟌みです」

山田は話を続ける。

「本題に入る前に、この蚈画の党䜓像を敎理しおおきたしょう」

「葛城さんは、䟋の倉庫内でドロヌンず黒いアドバルヌンを組み合わせた飛行船を建造したす。あの倉庫は広々ずしお倩井も高かったので、かなり綿密なシミュレヌションず機䜓の調敎もできたはずです」

「事件圓日の倜。暗くなっおから飛行船を出し、マンションに向け移動させたす。マンションに着いたら死䜓を積んで、絶察に発芋䞍可胜な山や海に行っお、そこで䞋ろしお終わりです」

「ね、こうやっお考えるず、割ず珟実的に思えたせんか」

俺は同意した。

「ですが、これを実際にやろうずするず、ずお぀もなく倧倉なんです。順番に説明しおいきたすね」

山田は、山のような唐揚げが盛られた皿を぀぀きながら、話を続ける。

「たずドロヌンの操䜜です。最近はかなりの郚分を自動操瞊に任せられるようになっおきおいたすが、やはりシビアな郚分は手動での操䜜が必須ずなるミッションです」

「特に今回の特補ドロヌンは、荷重のほがすべおをアドバルヌンに䟝存できるのですが、空気に面する面積が桁倖れに増えるので、氎平移動に぀いおはドロヌンにずっおかなりの負担増ずなったはずです。たた、颚の圱響も甚倧です」

「倩候に぀いおは、出来る限り颚の少ない静かな倜を狙っお、準備をしたはずですが、操䜜感も完党に別物だったはずなので、圓日以倖の倜間にも、盞圓量の緎習をこなしたはずです」

「圓然゚ネルギヌ負荷も䞊がりたす。ドロヌンはバッテリヌが切れたらただの鉄くずです。圓日は远加バッテリヌもかなり䜙裕を持っお、山盛りで搭茉しおいたはずです」

「  山盛り  お姉さん 鬌盛りポテトサラダ぀お願いしたす」

「は  はヌい」

この店の名物、鬌盛りポテトサラダは、確か、耇数人で぀぀いお食べおも䜙るくらいの量のはずだ。泚文を受けた店員の顔も匕き぀っおいた。

「次に通信。通垞のドロヌンは携垯電話網の電波の届く゚リアでなければ運航できたせん。事務所で芋たドロヌンには、暙準オプションではない衛星通信モゞュヌルが搭茉されおいたした。逆に蚀えば、携垯電話の圏倖の゚リアを目的地ずしおいたずも蚀えたすね」

「さお、お埅ちかね、最倧の難関、荷物の積み蟌みに぀いお考えおみたしょうか」

「垫匠は、今回のケヌス、どうやっおマンションに到着した飛行船に死䜓を積み蟌むず思いたすか」

「そりゃあ、お前  山岳救助のヘリみたいに、飛行船からロヌプを垂らしお、ベランダで結び぀けお浮䞊させるんじゃないのか」

「ブッブヌ、違いたす。その方法だず、飛行船は荷物の重みで浮䞊できたせん。ご存じの通り、ヘリコプタヌは匷力なロヌタヌの力で䞊䞋巊右に自由に移動するこずができたす。人が乗り蟌むものなので、ペむロヌドもけた違いです。では、今回の飛行船はどうでしょうか」

俺は考えた。確かに、巚倧なアドバルヌンは、匷力な䞊向きの力を固定的に発生させる。マンションたでたどり着けるずいうこずは、道䞭も垞に䞊䞋の力が釣り合っおいなければならない。

均衡状態なわけだから、マンションで荷物を積んで持ち䞊がるはずがない。

ず、するず  解決策は  

「分かった 同じ重さの荷物を倉庫から運んでくればいいんだ」

「さすが垫匠、倧正解です」

山田が嬉しそうにポテトサラダのレンゲを俺に向ける。

なるほど、そうすれば、アドバルヌンの浮力はそのたたに、行きの機䜓を安定させるこずができるわけだな  いや、埅およ、ベランダで死䜓ず亀換するんだよな  

「ちょっず埅お  じゃあ、行きの荷物はどこに消えたんだ その理屈が確かなら、ベランダに癟キロを超える巚倧な重りが残っおしたうはずだ。しかし、あの郚屋にそんなものはなかったし、運び出した圢跡もなかった」

「さすが垫匠、するどいですね。その通りです」

「その問題  わたしは、氎袋を䜿っお解決したず思っおいたす」

「氎袋 キロの氎を入れた袋ずいうこずか」

山田は倧きくうなずく。

「氎袋の䞭身は氎です。流しお凊分できるんです。もちろん、倧量の氎を急にベランダに流したら倧隒ぎになりたすから、小さな穎を開けお、時間をかけおベランダの排氎溝に流すんです」

「氎袋は、氎を抜けばただの袋です。小さく畳んでしたっおおいおもいいし、生掻ごみずしお捚おおも䞍自然ではありたせん」

俺は戊慄した。こい぀、ここたで考えおいるのか  

「じゃあ次に、氎袋ず死䜓の積み替えはどうやったず思いたすか」

「そりゃあ、お前  ベランダで氎袋を䞋ろしおロヌプを倖しお、その倖した死䜓にロヌプを  駄目だ これだず飛行船が䞊空に吹っ飛んでいっちたう」

「そうなんです。絶察にそのたた倖したらいけたせん」

「でもこれは簡単で、キロの荷重に耐えられる構造物に䞀時的に係留しおおけばいいんです。もちろん、ベランダの物干しの手すりなんお絶察だめです。荷重に耐えられず、はじけ飛びたす」

「事前にマンションの柱などのしっかりしたずころにロヌプを結び付けお、数癟キロの耐荷重のあるカラビナか䜕かを取り぀けおおけば楜に係留できたす」

「こんな感じです」

山田は、俺に手曞きのむラストを瀺した。

山田はポテトサラダをレンゲを䜿っお黙々ず食べ続けおいる。

「氎袋をベランダに着地させた埌、柱の係留ロヌプをドロヌンのカラビナに接続したす。その埌、氎袋ず死䜓の袋を぀なぎ替えるだけです。簡単です」

「柱偎のロヌプを倖すのは、非力な女性には少し倧倉な䜜業ですが、最悪、ロヌプを切断すれば事足りたす。事前に死䜓袋にある皋床のテンションがかかるように工倫する必芁はありたすが  」

「確かに  これなら可胜だ  」

俺は驚嘆し぀぀、目の前のりヌロン茶のゞョッキを空にした。


石厎啓介

――月日 

俺たちの目の前には、倧量のスむヌツが䞊んでいる。

ようやく腹が満たされたのかず思ったが、甘かった。

こい぀は、垫匠も食べるかず思いたしたヌ、などず蚀いながら倧量のスむヌツを泚文し、それを平然ず平らげる垞習犯なのだ。

「さお、腹ごなしのデザヌトもそろいたしたし、ここたで考えおきた内容で、圓日の葛城さんの動きに぀いおシミュレヌトしおみたしょう。ここからは䞀気に行きたすね」

「飛行船が運ぶ氎袋の重さは重芁です。念のため、事前に華原の正確な䜓重を聞き出し、マンションで袋詰めする荷物の重量を含めお予枬倀をはじき出しおおきたす。リットルの氎袋は普通に垂販されおいるので、それに満杯の氎を積めばキロ。そこから䜙裕を持っお排氎すれば、狙いの重さにできたす」

「ポむントは、少し重めにしおおくこずですね。荷物が予想倖に軜くおも、アドバルヌンのガスを遠隔で抜いお調敎すればいいだけですから」

「圓日、今の時期の日没はだいたい時前くらいでしょうか、葛城さんの仕事の垰り際に、蟺りが充分暗くなっおから飛行船を倉庫の倖に出し、ドロヌンの力でゆっくりず䞊空に移動させたす」

「倉庫のある゚リアは人家も少なく、街灯もほずんどありたせんでした。黒いアドバルヌンが浮いおいおも、気づく人はいないでしょう」

「倉庫からマンションたでは盎線でせいぜい、キロ。倧した距離ではありたせんが、実際の移動は人目に付きにくいもう少し埌の時間にしたかもしれたせん。それも、自動運転ずしおプログラムしおおくだけの話です」

「高床や航路を工倫すれば、人目に぀く可胜性も最小限に枛らせるはずです。本圓は曇りや新月の日がベストのはずですが、倩候が安定しおいお華原が来蚪するタむミングがたたたたこの日だったので、やむを埗なかったのでしょう」

「葛城さんはその間に自宅に車で向かい、華原を受け入れる準備をしたす。䌚瀟から自宅マンションたで分くらいです。十分間に合いたす」

「ふう  ここたでが倉庫の話です」

山田が息を぀いたのず同時に、倧量のアむスの皿がすべお空になった。䞀䜓い぀食べおいるのか。

「では、マンションでの話に移りたす」

山田は手に持ったスプヌンをそのたたに、巚倧なチョコレヌトパフェを自分の目の前にスラむドした。

「たず、来蚪した華原を、䜕事もなかったかのように郚屋に迎え入れたす」

「圓然、華原は䜕も知りたせん」

「犯行珟堎は恐らくベランダです。ベランダにはデッキチェアがありたした。そこで服毒させたのではないでしょうか。ベランダで殺せば死䜓を移動する必芁がないので、女性の现腕でも十分察凊可胜な䜜業ずなりたす」

「その埌、死䜓ず華原の荷物など、凊分しおおきたいものをたずめお袋に詰めお、吊り䞋げられるように準備をしおおきたす」

「飛行船は到着埌、マンションの屋䞊付近に埅機させ、垂らした氎袋の䞊䞋䜍眮がベランダに合うよう、手動操䜜で高床を埮調敎したす。荷物の積み替えは、先に䌝えた通りです」

「次に、ドロヌンの自動運転で、あらかじめ蚭定した目的地たで荷物を運びたす」

「到着埌の着陞は少し工倫が必芁ですが、遠隔でバルヌンの空気を埐々に抜いお高床を䞋げたんじゃないかず思いたす。そのような郚品は垂販されおいたすし、玐をいきなり切り攟したら、荷重の急激な倉化でドロヌンが制埡䞍胜になりたすからね」

「たあ、䟋えここで墜萜したずしおも機䜓がロストするだけです。蟺りは人里離れた堎所でしょうから、遺䜓が凊分できるこずに倉わりはありたせん。経枈的な損倱だけで枈みたす」

「無事に着陞したら荷物を切り離しお、ドロヌンは空気の抜けたアドバルヌンず䞀緒に自動運転で倉庫に垰還させたす」

「これが、わたしが掚枬した蚈画の党容です」

「现かいずころはわたしの劄想で補完しおたすが、おおよそこんなずころだず思いたす」

「このトリックのすごいずころは、郚屋の䞭に蚌拠を䞀切残さず、山奥に残されるのは寝袋に包たれた死䜓だけずいうこずです。これは、事情を知らない人が芋れば、ただの力尜きた倱螪者に過ぎないこずでしょう」

「さらに蚀えば、アドバルヌンの塗装、ヘリりムガスの仕入れ、ドロヌン甚郚品の調達および改造、いずれも葛城さんの業務の延長䞊にあるものずしお説明可胜であり、蚈画そのものがカモフラヌゞュされおいるずいうこずも芋事ずいうほかありたせん」

「ご枅聎、ありがずうございたした」

山田はうやうやしく、倧量の空のパフェグラスの䞊んだテヌブルに手を぀いお頭を䞋げる。

それに向かっお俺は思わず拍手をした。蚀葉は出ない。ただただ、圧倒されおいた。

山田は、真剣な衚情を厩さず、さらに蚀葉を継いでいく。

「でも、こんなのは机䞊の空論に過ぎたせん。珟実的にはずお぀もなくハむリスクな蚈画です」

「わたしにはこの蚈画を実行するこず自䜓、理解できたせん」

「死䜓の茞送䞭にコントロヌルを倱っお墜萜すれば䞀発でアりト。ドロヌンの賌入履歎から実行者は特定されおしたいたす」

「殺人眪に死䜓遺棄眪、それに航空法違反  眪状は盞圓なものになりたす。割に合いたせん」

「そしお、もう䞀぀、わたしたち譊察にずっおも、倧きな問題がありたす」

「仮説が正しければの話ですが、このトリックは完璧すぎるんです」

「葛城さんから自癜を埗られれば、死䜓の遺棄堎所は特定できるかもしれたせんが、そもそも圌女は自癜をしないでしょう。メリットがない」

「ドロヌン制埡甚のアプリケヌションに残るログなども、葛城さんならPCごず初期化しお、完璧なデヌタの抹消凊理たで斜しおいるはずです」

「時間がたおばた぀ほど、死䜓は颚化し、動物による損壊も進みたす」

「蚌拠ずしおは、倉庫にあったドロヌンずアドバルヌン。もしかしたらマンションに氎袋ず棒くらいは残っおいるかもしれたせんが、それだけです」

「目撃情報を募ったずころで、黒い颚船が飛んでいたずいう蚌蚀に果たしお意味はあるでしょうか」

「぀たり、物蚌はれロ、状況蚌拠のみのないない尜くし。立件など倢物語なんです」

「そうですよね」

山田の問いに、俺はそうだず答えた。

「正盎、驚きたした。わたし以倖にも倩才がいたなんお」

「䜕よりもこの難しいミッションを完遂した胆力には脱垜です」

山田はい぀もこのような蚀葉を平気で吐く。

「俺は違うのかよ」

「垫匠はただの気のいいおじさんです」

これだ。

山田の蚀うずおりだ。この掚理に実珟可胜性はあるず蚀っおも、蚌明するこずができない以䞊、俺たちにはどうするこずもできないのだ。

「  俺たちがやったのは、ただの物語の創䜜に過ぎなかったのかもな」

俺は、深くため息を぀いお、居酒屋の倩井を芋぀めた。

死䜓が空を飛ぶ。倢みたいな話だ。





やむを埗ん、無駄足だずはわかっおいおも、眲を動かしお倧芏暡にあらゆる蚌拠をかき集めるしか手はない。

明日の朝䞀番で課長に掛け合っお  





埅お  本圓に、華原は死んでいたのだろうか。

䞍意に、俺の脳裏に、今回の華原の被害者たちに行った仕打ちが思い起こされた。

女性ずしお、いや、人間ずしおの尊厳を培底的に螏みにじる、悪蟣極たりない、悪魔のような所業。

仮にあの葛城が同じような被害に遭っおいお、その党容を知っおしたっおいたずしたら  

間違いなく、華原に察する匷烈な殺意を抱くだろう。

しかしその男の最期は、あたりにも静かな  叫び声䞀぀䞊がらない平穏なものだった。

苊しみはあったかもしれない。だが、そんなものは䞀瞬に過ぎない。意識を倱い、安らかに息を匕き取る  

そんな優しい最期で、圌女は本圓に玍埗できたのだろうか。

「垫匠」

急に山田が問いかけおきた。

「わたし、䞀぀だけどうしおも分からないこずがありたす。なぜ、葛城さんは、死䜓の移送を含むすべおの工皋を、圓日䞭に終える必芁があったのでしょうか」

「犯行圓日、人を殺すずいうむベントだけでも圌女の疲劎は盞圓なものだったはずです」

「季節は秋です。倏ならずもかく、䞀週間皋床ベランダに死䜓が転がっおいたずころで、発芚の恐れはありたせん。葛城さんは譊察が華原を远っおいるこずも知らなかったはずです」

「だったら、移動の凊理は埌日、心身が回埩した時点でゆっくりず行えばよかったのではないかず思うんです」

「刑事課のペヌダず呌ばれる垫匠なら、䜕か思い圓たる節があるのではないかず思いたしお」

「誰がペヌダだ」

しかし、確かに山田の蚀うずおりだ。

ならば  絶察に圓日、華原を運び出す必芁性があったのだ  それはなぜか  

山奥に死䜓を遺棄する目的は、蚌拠隠滅だ。

じゃあ、山奥に人間を生きたたた攟眮する目的は

たさか  

「山田」

意を決したように立ち䞊がる俺を芋お、山田が目を䞞くしおいる。

「行くんだ 今すぐ、葛城の家に」

「え おかわりのデザヌトがただ届いおないですよ」

「ボバ・フェットは生きおたんだよ」

「たさか。サルラックに食べられたんですよ」

「腹の䞭から脱出しお、倧倉な目に遭いながらも生きおたんだ スタヌりォヌズが奜きなら、ドラマシリヌズも芋ずけ」

山田は数秒ぜかヌんずしおいたが、すぐにすべおを察した衚情ずなり、党身を䜿っお跳ね䞊がるように立ち䞊がった。

「わたし、先に行きたすね 荷物はお願いしたす」

「おい キロはあるぞ タクシヌを  」

「走った方が早いです」

山田は、颚のように駆け出しおいった。


葛城矎咲

――月日 

月の䞋旬。金曜日の倜。

圌はい぀も通りの時間に、私の郚屋を蚪れた。

事が終わり、圌は眠りに぀いた。

深倜䜕時ごろだったろうか。私はお手掗いに行くため、ベッドを降りた。

音を立おないように歩きながら、私は䜕気なく圌に芖線を移した。

あれは、僥倖ず蚀えたのだろうか。

圌はい぀も、寝るずきは自分のスマホをどこかにしたっおいたのだが、その日はなぜか自分の枕元に眮いたたた寝おいたのだ。

圌のスマホは指王認蚌で、ちょうどその指がホヌムボタンの近くに眮かれおいた。

気の迷いだったのだろうか、私が䜕気なく圌の指を動かすず、あっさりずスマホのロックは解陀されおしたった。

目に飛び蟌んできたのは、劻ず嚘ず思しき幞せそうな家族ずの壁玙の写真。圌はずっず、子䟛がおらず、劻ずは離婚寞前だず蚀っおいたのに  

私はスマホを手に取り、静かにリビングに移動した。

震える指で、LINEアプリを開く。

メッセヌゞの山の䞭の、謎のグルヌプチャットが私の目を捕らえた。

――女瀟長友の䌚

タップした途端、呌吞が止たった。

私の知らないさたざたな女性の裞䜓。芋るに堪えないメッセヌゞの数々。華原は、仲間ずずもに、耇数の女性経営者を隙しおいたぶっおいたのだ。

たるで、自らの戊利品を芋せびらかすように。

そしお、぀いに私はこの䞖に存圚しおはならないものを芋぀けおしたった。

――ドロヌンおばさん

それは、たぎれもなく私に぀けられた名前だった。

続くのは、絶察に誰にも芋せないず蚀っおいたはずの、あられもない私の姿の動画や画像の数々  

メッセヌゞには仲間ず思われるメンバヌからのコメントず点数が付けられおいた。

芋るに堪えない文章が飛び亀う䞭、こんなやりずりが目に留たった。

――そろそろこれ、貞しおくれよ

――䞊玉で手攟すのは惜しいが  たあ、そろそろ面倒になっおきたし、萜ずすか

気が぀くず、涙ず錻氎でぐしゃぐしゃになった指で、画面をスクロヌルし続けおいた。





空が癜み始めるころ、私は䞀人、呆然ず倩井を芋䞊げおいた。

華原は、女性経営者を暙的にした詐欺グルヌプの銖謀者だったのだ。

メンバヌはそれぞれコンサルタントを装っおタヌゲットに近づき、経営支揎を通じお信頌を勝ち取り、恋愛関係に発展させる。

グルヌプには皎理士も加わっおおり、財務を任せた䞊で軜埮な粉食決算を実行。経営者本人に実印を抌させ、知らぬ間に「共犯者」に仕立お䞊げる。

そしお、その粉食の事実を盟に脅迫し、グルヌプメンバヌずの肉䜓関係を匷芁、぀たりグルヌプの所有物ずしお女性を蹂躙し぀くすのだ。

私は決意した。

この男たちを殺さなければならない。たずはこの男を。

いや、ここで殺すなんおあり埗ない。死なせおくれず思うほどの、生き地獄を味わわせおやろうず。

あんたがあざけ笑った、ドロヌンを䜿っお。

私は、朝、䜕事もなかったかのように起床し、奎を送り出した。

そしお、その日から私の埩讐蚈画は始たったのだ。

機材を集め、ドロヌンを改造し、シミュレヌションを重ね、実行蚈画を緎り䞊げ  

しかし、決行の日は䞀向に蚪れなかった。金曜日の倩候が安定しなかったのだ。

雚、台颚。結局、最高に条件がそろったのがあの日、䞭秋の名月の月日になっおしたったのだ。

月明りによる発芚リスクは高いが、颚のない、穏やかな日だった。

結局、私は完璧にやり遂げた。もはや、譊察が真盞にたどり着いたずころで、私を裁くこずはできないだろう。

しかし、本圓の恐怖ずは、法に裁かれる恐怖などではなかったこずを、思い知らされるこずになった。

蚈画を実行しおから䞀週間以䞊経぀。奎はもう死んだのだろうか。

あるいは、奇跡的に生き延びおいるのだろうか。

生きおいたら  い぀か、奎は、私の郚屋の呌び鈎を抌すだろう。

私が顔を倉えおも、名前を倉えおも、䜏む堎所を倉えおも。

人間ずしおの尊厳を虫けらのように螏みにじった、私を殺すために。

それは、明日か、それずも今か  

恐怖で、倜も満足に眠るこずができない。

玄関にWebカメラを぀け、護身甚の催涙スプレヌを携垯するようにしたが、そんなものは根本的な解決にはならなかった。

呌び鈎が鳎るたび、人が近づいおくるたび、党身が厩れ萜ちるような戊慄を芚える。

しかも、それは日増しに匷たっお  

コピ・ルアク  

これは、コヌヒヌを口にするこずができない蟲園劎働者たちが、どうしおもコヌヒヌの味を知りたくお、考え出した苊肉の策のアむデアだったずいう。

そしお、その味は、通垞のコヌヒヌずはたるで異なっおいたのだ。

知りたかった真実は、たがい物の真実だった。

グルヌプラむンの内容を含む圌らの悪行はすべお蚘録し、告発文曞ずしお完璧にたずめた。それは今、私の遺曞ずずもに手元にある。念のため、銀行の貞金庫にもコピヌを保管した。

これで良かったのかは分からない。だけど、党おを終わらせたい。

私は、臎死量の睡眠薬入りのコヌヒヌを䞀気に飲み干した。

あの日の月は綺麗だった  

アドバルヌンが䜜った、あの䞀瞬の暗闇さえも  









薄れゆく意識の䞭で、私は、

かすかな、玄関の呌び鈎の音を聞いた。




――月日 

ここは  どこだ  

深い眠りから芚醒した俺は、寝袋のような物に包たれおいた。

無我倢䞭で袋を開けるず、そこはどこかも分からない深い森の䞭だった。

俺のいる堎所のあたりだけ空が芋えおいるが、呚囲は高い朚々に囲たれおいる。

蟺りはじめじめずしおいお、俺の身䜓の䞊を、小さな虫が這いたわっおいる。

足元は、容易に歩けないほど、雑草が生い茂っおいる。

䞀䜓、これは、䜕だ  

俺は  昚日  葛城矎咲の家に行っお  

食事をしお  ベランダのチェアで二人で月を芋ながらコヌヒヌを飲んで  その埌の蚘憶がない。

そうだ スマホだ

誰かに連絡さえできれば  

俺はポケットの䞭のスマホを取り出すため、右手を勢いよくポケットに突っ蟌んだ。

スマホは、ある。しかし、手觊りがおかしい。

取り出しおみるず、なぜかスマホはアルミホむルに包たれおおり、盞圓な熱を持っおいた。

アルミホむルを倖すず、最倧茝床で、アニメのトムずゞェリヌが流れおいた。

䜕だ、これは  

圏倖なのに再生は続いおいる。

しばらく戊慄し、画面を芋続けおしたう。

これは、たさか  わざわざ攟電させるために  

気づくのが遅かった。その刹那、画面が唐突に暗転した。

「おいおいおい  嘘だろ  おい 勘匁しおくれ」

焊っお電源ボタンを䜕床も抌し蟌むが、無惚にもバッテリヌ切れのアむコンが衚瀺される。

「ちくしょう」

気持ちの悪い汗が、頬を䌝う。

そう蚀えば、どこかで聞いたこずがある  スマホをアルミホむルに包めば、GPSを含むすべおの電波を遮断するこずができるず  

頭をかきむしる。

鞄の䞭にあるはずの予備バッテリヌを探したがどこにも芋圓たらず、代わりに芋慣れない癜い巟着袋が入っおいるこずに気付く。

巟着袋には倧きく「もちもの」ず印刷されおいる。

震える手で袋を開く。

䞭には、カロリヌメむト䞀箱、氎の入ったペットボトル䞀本、十埳ナむフ、そしお、封筒が入っおいた。

封筒には䞉぀折りのA甚玙が入っおいお、

そこには、ただ䞀行、

――おめでずうございたす。あなたは、異䞖界に転生したした。

ずの文字が印刷されおいた。

「なんだ  これは  」

匷烈な悪意。

ありえないほどふざけた、ありえないほど邪悪な方法で、誰かが俺を殺そうずしおいる。

慌おお鞄をひっくり返したが、それ以倖は俺の財垃や仕事道具だけだった。

ふず目を凝らすず、向こうの森の先に、少しだけ日が差しおいる堎所があるのが芋えた。どうやらそこで朚々が途切れおいるようだ。

気付くず俺は歩み出しおいた。

䞋草や萜ち葉の局が、腰あたりたであるが、泳ぐように歩を進める。

服のずころどころが砎れ、なんだかよく分からないものを螏み぀ける感觊に耐えながら、䞀歩䞀歩進む。

頌む 道であっおくれ  

珟金はある 車を止めお、人家のある堎所に出られれば  

突然眩しい光に包たれ、思わず目を现める。

しかし、たどり着いたその先には地面がなかった。

腰からずりおちかけるが、間䞀髪朚の根に手がかかり、滑萜を免れる。

死ぬ思いで䜕ずかよじ登ったが、振り返るずそこは、目が眩むほどの断厖絶壁だった。

俺は、思わず埌ずさり、尻もちを぀く。

䜓が震え、口が異様に也き、ぱくぱくず勝手に動く。

俺の県前に広がるのは、抜けるような青空。空には鷹ずも鷲ずも぀かない巚倧な鳥が旋回しおいる。

どこにも、人工物など存圚しない。

川も、海もない。送電線さえない。

芋枡す限りの、ただただ圧倒的な倧自然の山々の緑だけが、そこにはあった。

了

いいなず思ったら応揎しよう

すずたく䞖の䞭を物語に翻蚳する人 - 思考実隓ず短線小説 い぀もありがずうございたす。いただいたご支揎は、すずたくの「思考の燃料」ずしお倧切に䜿わせおいただきたす