人も設備も増やせない会社は、固定費を怖がっている 第2話 教育で短縮できる領域と、設備でしか短縮できない領域がある
設備投資の話をすると すぐにこう言われることがある
まずは今いる人を育てるべきではないか
教育で何とかできる部分もあるのではないか
機械を入れる前に 現場のやり方を見直すべきではないか
たしかに その通りだと思う
教育で短縮できる領域はある
標準化で短縮できる領域もある
過去案件を活用すれば減らせる時間もある
段取りの考え方を共有すれば早くなる部分もある
図面の読み方や確認の仕方をそろえれば 手戻りも減らせる
だから 設備を入れればすべて解決するという話ではない
人を育てることは必要である
作業の標準化も必要である
過去の失敗を使える形に残すことも必要である
誰か一人の経験だけで判断しない仕組みも必要である
ここを飛ばして設備だけを入れても 会社は強くならない
ただし 教育で短縮できる時間には限界がある
特に製造業では 使っている設備によって最初から勝負の前提が変わることがある
たとえば 3軸加工機を前提にしている会社と 5軸加工機を持っている会社では 同じ図面を見ても加工の組み立て方が変わる
3軸では加工方向を考える
段取り替えを考える
どこで分割するかを考える
逃がしを考える
加工できない形状をどう成立させるかを考える
外注に出すかどうかも考える
この時点で 加工だけでなく設計にも負荷がかかる
設計者は ただ形を作っているわけではない
今ある設備で作れる形に落とし込むために考えている
加工者も ただ削っているわけではない
今ある設備でどう成立させるかを考えている
つまり 設計と加工の時間は設備の影響を受けている
ここを教育不足だけで片づけると 判断を間違える
もちろん 教育によって図面を見る力は上がる
加工条件を考える力も上がる
段取りを組む力も上がる
過去案件を使えば迷う時間も減る
でも 3軸前提で発生している段取り替えそのものは消えない
加工方向の制約も消えない
難形状への不利も消えない
外注に逃がす構造も残る
設計側が加工方法に合わせて悩む時間も残る
これは人の努力だけで埋める領域ではない
設備を変えないと短縮できない時間がある

5軸加工機を入れるという話は 単に新しい機械がほしいという話ではない
Fを増やして Vを下げる話である
加工時間が短くなる
段取り替えが減る
外注費が下がる
難しい形状を受けやすくなる
設計時の制約が減る
短納期にも対応しやすくなる
この変化が起きるなら その設備投資は単なる固定費の増加ではない
Vを下げるFである
Qを増やすFである
Pを守るFである
未来のMQを作るFである
逆に 設備を入れない判断にもコストはある
加工時間が長いままになる
設計の手間が減らない
難しい案件は受けにくい
外注に頼る場面が増える
短納期で負ける
逃げ見積が増える
営業が案件を取ろうとしても 製造の受け皿が足りない
固定費は増えていないかもしれない
でも Vは高止まりしている
Qは伸びにくい
Pも守りにくい
これは本当に安全なのだろうか
Fを増やさないことで 会社は固定費を守っているように見える
でもその裏で 変動費の高止まりと 受注機会の損失を放置している可能性がある
ここで大事なのは 教育か設備かの二択にしないことだと思う
教育で短縮する領域
標準化で短縮する領域
仕組みで短縮する領域
設備投資で短縮する領域
この4つを分けて考える必要がある
教育で短縮できる部分は教育する
標準化で減らせる迷いは標準化する
仕組みで減らせる確認待ちは仕組みにする
設備でしか変えられない加工時間は設備で変える
この整理をしないまま 全部を教育不足にすると 現場は努力で構造差を埋めることになる
それはかなり苦しい
現場が設備にこだわるのは 楽をしたいからではない
努力で短縮できる時間に限界があることを知っているからである
競合が5軸を持っている
こちらは3軸のまま
その状態で 同じ納期 同じ価格 同じ難易度で戦おうとする
これは現場の頑張りで何とかする話ではない
相手はFを増やして Vを下げている
こちらはFを抑えて Vが高いまま
その状態でPだけ合わせようとする
さらに安く出そうとする
それではMQが残りにくくなるのは当然である
設備投資をしない会社ほど 営業に安く出せと言う
設備投資をしない会社ほど 現場に何とかしろと言う
設備投資をしない会社ほど 教育で埋められるはずだと言う
でも 本当に見るべきなのはそこではない
教育で埋まる差なのか
設備でしか埋まらない差なのか
ここを分けることだと思う
利益感度分析で見るなら 設備投資はFの増加で終わらない
そのFによって Vが下がるのか
そのFによって Qが増えるのか
そのFによって Pを守れるのか
そのFによって 最終的にGが増えるのか
ここまで見て初めて 設備投資の判断になる
固定費が増えるから危ない
この一言で止まると 会社は何も変わらない
むしろ Fを怖がることで Vを下げる機会を失う
Qを増やす機会を失う
Pを守る武器を失う
そして未来のMQを失う
教育は必要である
でも教育だけでは変えられない構造もある
その構造差を見ないまま 現場に努力を求める会社は いつまでも同じ場所で戦うことになる
Fを増やすことが怖いのではない
Fを増やさないことで どのVが下がらず どのQを失い どのPを守れなくなるのか
そこを見ないことの方が 本当は怖いのだと思う
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