旅の記憶に残るのは景色じゃなく、人の顔だった
旅の記憶に残るのは景色じゃなく、人の顔だった
リヤカーを引きながらたこ焼きを焼きつつ日本を縦断した旅。四国編で気づいたのは、「旅の目的は観光地めぐりじゃない」という、シンプルだけど深い真実だった。
四国に入った瞬間、空気が変わった
淡路島から四国へ渡り、北部を歩いていると、すぐに気づいたことがある。とにかく、人が声をかけてくれるのだ。
「どこから来たの?」「これ食べな」「今夜どこに泊まるの?うちに来たら?」
食べ物、飲み物、カンパ、宿泊の提供——こんなに厚いもてなしを受けた地域は、他になかったかもしれない。お遍路文化の影響なのか、旅人を受け入れることが四国の人々の中に自然と根付いている。歩きや自転車でお遍路(88ヶ所)を巡る人たちとも多く出会い、子どもや学生からもよく話しかけられた。
四国は「めちゃくちゃ優しい」場所だった。いや、正確には「めちゃくちゃ優しい人たちがいる」場所だった。
旅への衝動は、小学3年生から始まっていた
実は四国には、この縦断旅より前から特別な思い入れがある。
大学1年のゴールデンウィーク、初めての一人旅として選んだのが四国一周のバイク旅だった。中古バイクにテントと寝袋を積んで、野宿しながら島を一周した。うどん屋でお世話になり、見ず知らずの人に親切にしてもらった。それ以来、四国が大好きになった。
ただ、その「野宿旅」ができたのには、もっと前の原体験がある。
小学3年生の頃、父と母と一緒に自転車で琵琶湖を一周した。約200km、2泊3日。父がテントと寝袋を担ぎ、小3の自分は自転車をひたすら漕いだ。しんどかったけれど、完走した。「できた」という事実が、自分の中に「旅への自信」として刻まれた。
琵琶湖一周 → 大学での四国バイク旅 → 日本縦断→世界一周
旅は連鎖する。最初の成功体験が、次の挑戦の扉を開いていた。
mixiで「面白い人」を探して、学園祭に乗り込んだ
四国縦断の中でも特に印象に残っているのが、愛媛での出来事だ。
愛媛に近づいた頃、こんなことを考えた。「この辺に面白い学生がいるんじゃないか」。当時はやっていたSNS mixiで「愛媛大学 学生 起業 NPO」といったキーワードで検索をかけ、プロフィールを見て「この人、面白そう」と思った同い年の学生にメッセージを送った。
ちょうどその時期、愛媛大学は学園祭の真っ最中だった。
「それなら行くしかない」。リヤカーを引いて、学園祭に乗り込んだ。目立つことこの上ない。彼とはすぐに意気投合し、家に泊めてもらい、道後温泉へ連れて行ってもらい、夜遅くまで語り合った。
彼は自分で学生団体を立ち上げ、仲間や後輩を率いて動いていた。同い年なのに、自分にはまだないスケールで動いている。「同世代でもこんなに頑張っている人がいるんだ。自分にもっとできることがあるはずだ」——そんな内的な火が灯った瞬間だった。
偶発的な出会いは「設計」できる
このエピソードで気づいたことがある。旅先での出会いは、ただ待っていても起きない。mixiで検索する、学園祭という「ハブ」に飛び込む、リヤカーという「目立つ行動」で存在を示す——この一連の流れが、出会いの確率を意図的に高めていた。
偶然に見えて、実は設計されていた出会いだったのかもしれない。
しまなみ海道は「美しくて、きつかった」
四国からの出口、しまなみ海道は絶景だった。瀬戸内海に点在する島々を橋でつないで渡っていく——その景観は本当に息をのむ美しさだ。
ただし、徒歩で渡ると、橋の登り・島への下り・また次の橋への登り、という繰り返しが延々と続く。「めっちゃしんどい」。これが正直な感想だ。風景の美しさと身体の疲労が同時に押し寄せてくるこの体験は、旅でしか得られないリアルだった。
その途中、瀬戸内の離島に立ち寄った。父の知人であるお寺の和尚のもとに、フェリーで渡って数日間滞在させてもらった。気さくで温かい和尚と、島の人々のゆっくりとした時間の流れ。あの数日間は、今でも色鮮やかに覚えている。その和尚とは今でも連絡を取り合っている。
15年後、真っ先に浮かぶのは「人の顔」
四国を歩いてからおよそ15年が経った今、あの旅を振り返ると、最初に浮かぶのは景色や観光地ではない。
香川で家族同然に迎えてくれたご家庭の笑顔。道後温泉で語り合った愛媛大学の彼。離島の和尚のおおらかな声。道中で声をかけてくれた、名前も知らないたくさんの人たち。
記憶の核心にあるのは、いつも「人」だ。
これは偶然ではないと思う。旅の目的が「景色を見ること」でも「スタンプを集めること」でもなく、「人に会いに行くこと」「誰かと一緒に新しい体験をすること」にあったからこそ、人の記憶が最も鮮明に残っているのだろう。自分のコミュニティの外にある世界を、その場所で生きている人を通じて知る——それが旅の本質だと、四国が教えてくれた。
まとめ
四国は、自分の旅観を形成した大切な場所だ。いつか家族を連れて、今度は車でゆっくり回りたい。愛媛にはワーケーション支援制度もあると聞く。プチ移住という選択肢も、半ば本気で考えている。それくらい、香川と愛媛が好きだ。
あなたの旅に「人に会いに行く」という目的を一つ加えてみてほしい。事前にSNSでキーワード検索して、気になる人にメッセージを送ってみる。現地のイベントやコミュニティに、少しだけ無防備に飛び込んでみる。そこで出会った人の顔が、10年後も15年後も、あなたの記憶の中で生き続けるはずだ。
次回は、しまなみ海道を抜けて岡山へ、そして広島・山口を経て九州へ入る編をお届けする予定です。
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