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タルコフスキー ① 映画 『ローラーとバイオリン』 КАТОК И СКРИПКА ほろ苦い出会いの想い出

『ローラーとバイオリン』
原題:КАТОК И СКРИПКА
英題:The Steamroller and the Violin
監督:アンドレイ・タルコフスキー
公開年:1960年
上映時間:46分
共同脚本:アンドレイ・コンチャロフスキー
撮影:ワジーム・ユーソフ

アンドレイ・タルコフスキー(28歳)の卒業制作で、監督デビュー作の第1作目。ニューヨーク国際学生映画コンクール第1位獲得するなど、学生作品ながら高い評価を受ける。

サーシャとセルゲイの、ある1日

ネタバレありストーリー

階段を降り、外へ向かう7歳の少年、サーシャ(イーゴリ・フォムチェンコ)。バイオリンケースと赤い楽譜入れを持つ。アパート出口前に、近所の子供たちがたむろし、彼をからかおうと待ち伏せしていた。横切るおばさんと一緒に出ようとするが、他の子供たちに捕まり、バイオリンを取り上げられ、困っていた。すると「1対10とは卑怯だぞ」と、青年セルゲイ(ウラジーミル・ザマンスキー)が子供たちを追い払い、サーシャは外へ出ることができた。

大きな川辺の道、立ち並ぶ店を通る。道の水たまり、ショーウインドウの鏡の反射。なぜか赤い物が目に入る。赤いリンゴ、赤い帽子、赤いカバン、風船 、車、服、旗 … 建物へ入ると、シャンデリア、猫。ピンクの服の婦人の向かいへ座る。やはりバイオリンケースを持った、ピンクの服の少女が入ってきて座る。教室のドアから、幼い少年が泣きながら出てくると、婦人が迎えた。サーシャは手に持っていたリンゴを少女の傍らへ置いて、教室へ入っていく。

サーシャが演奏する。厳しい先生は「揺れないで」「拍を数えて」と叱る。終わって、少女の前を下を向いて通り過ぎる。少女の横には食べられたリンゴの芯が残されていた。

アスファルトをならす、赤と黄の2台のロードローラー。黄ローラーを運転する、赤チーフの女性は、「セリョージャ!」と赤ローラー運転手の青年に呼びかける。サーシャが見ると、朝に助けてくれた青年。ロードローラーを調整するセルゲイは「ネジレンチをとって」と見ていたサーシャに声をかける。いじめていた子供たちを見かけ、サーシャをロードローラーへ乗るよう誘う。「ドライブに行こう」。ロードローラーの操作を教えてもらい、サーシャも一人で運転。子供たちは羨ましそうに見ていた。やがて昼休みになりセルゲイは行ってしまうが、サーシャも荷物をローラーへ置き、ついていく。

サーシャは、他の子供をいじめている子供を見かけると、「やめろ」と注意し、逃してあげる。そのいじめっ子について来るよう言われ、建物へ誘われ、乱暴される。セルゲイがそれを見ていて、終わるとサーシャを迎える。サーシャは強がって振る舞い、セルゲイは「まぁ俺も何度もそんな経験をした」と笑う。サーシャは音楽家のボンボンだと言われ、怒ったりするが、セルゲイに憧れを抱いているようで、だんだんと心を寄せていく。路地に流れる水、窓に反射する太陽。建物を解体する現場。急な雨。火花。瓦礫。建物を叩き壊す巨大な鉄球。雨が止んだ道の反射。

初めて触れるブルジョワ世界

「牛乳はブルセラ病になるから、母親に禁止されているんだ」と、牛乳を飲むサーシャ。パンを切ってあげるセルゲイ。「なぜタバコを吸うの?」「習慣になってしまったからさ」「戦争は知ってる?」「君より少し年上の頃に」話をしながら、セルゲイは、壊れていた、バイオリンケースの取手を治してくれた。二人はバイオリンの話をする。「共鳴が良いと音質も良くなる」と周りの共鳴を確かめ、アーチ状の天井の下で、サーシャは演奏する。水たまりの水面の光が反射する中、バイオリンの音色が響き、セルゲイはその美しい演奏を、静かに深く聴き入る。二人は午後7時に、映画『チャパーエフ』を観に行く約束をして別れた。

労働者階級の青年と付き合うことをよく思わないサーシャの母親によって、約束は阻まれてしまう。サーシャは、余った楽譜に「母親のせいで出られない」と書いて、紙飛行機にして飛ばすが、それもセルゲイには届かなかった。

結果として、待ちくたびれたセルゲイは、同僚の女性に声をかけられ、彼女と映画館へ入る。サーシャは、丸型の置時計を鏡のほうへ向け、空想の中で、赤いローラーを追いかけて、それに乗るのだった。

水捌けの悪い世界

映画『チャパーエフ』

『チャパーエフ』は1934年にソビエト連邦で制作された映画で、ロシア革命の英雄ワシーリー・チャパーエフを描いた伝記作品。当時のソ連では「社会主義リアリズム」の最高傑作とされ、子どもから大人まで誰もが知る国民的映画だった。 監督は、誰もが熱狂する「国民的娯楽」の『チャパーエフ』をあえて引用し、それにより、純粋な友情を育む少年と青年が、当時のソ連社会における「芸術階級(バイオリン)」と「労働者階級(ローラー)」の格差によって引き裂かれていく切なさを鮮明に描いた。

タルコフスキーの原点を感じる映像

路面の水たまりに反射する街並み、不意に降る激しい雨など、後のタルコフスキー映画の代名詞「水」の表現がすでに多く見られる。後の「難解で重厚な芸術性」とは異なり、本作は赤い多くのアイテム、黄色い建物、きらきらした光、鏡の反射や、ガラス越しの映像など、随所に現れている詩的で豊かな色彩表現が特徴だ。

労働者とエリートの対比

労働の象徴「ロードローラー(青年)」と、ブルジョワエリートの象徴「バイオリン(少年)」という、普通なら交わることのない2人の心の交流。当時のソビエト社会主義の雰囲気(労働を美徳とする文化)を色濃く反映しつつも、それほど説教臭くせず、純粋な友情として落とし込んでいる点はスマートな印象。

子供の瑞々しさと切ないストーリー

7歳の少年サーシャの純粋な瞳、大人びた仕草、そして青年への憧れは愛らしい。母親に約束を邪魔され、互いの世界へと戻る展開は、切なくほろ苦い。そして、空想のような幻想的なラストカットは、何か余韻をもたらす。

タルコフスキー初心者にもおすすめ

長い哲学的モノローグなし、シンプルストーリー、46分、と手軽にタルコフスキー映画に挑戦してみたい人への絶好の入門作。そして、ちょっと明るめな「タルコフスキー」を味わいたい時にも、おすすめ。

まとめ

フランスのアルベール・ラモリスの短編映画『赤い風船』のアレンジとして作られ、子供の視点を通した純粋な世界が美しく描かれた。共同脚本のアンドレイ・コンチャロフスキーは映画大学の同窓生で、二人は脚本を半年以上かけて書き上げた。当初タルコフスキーは名カメラマン、セルゲイ・ウルセフスキーを使う予定だったが、ウルセフスキーに断わられ、ワジーム・ユーソフがカメラマンを務めた。その後ユーソフは『僕の村は戦場だった』『アンドレイ・ルブリョフ』『惑星ソラリス』の撮影も手がけることになり、タルコフスキーとは名コンビとなる。

通常の卒業制作は20分程度なのに比べ、本作(46分)の長いことについて、タルコフスキーは「もし正常な長さのショットを引き延ばせば、最初は退屈になる。しかしさらに引き延ばすと、興味がわいてくる。 それをさらに延ばせば、新たな質、新たな関心の強度が生まれる」と語り、タルコフスキー的な時間の長さを、既に意識的に計算されていたことが分かる。

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