経済格差と希望格差の違いをわかりやすく解説
「頑張っても報われない気がする」
「将来に明るい展望が持てない」
こうした感覚は、収入や資産の差である「経済格差」だけでは説明がつきません。
実は、日本では15〜39歳の3人に1人以上が「将来に明るい希望を持てない」と回答しており、これは国の推計で1,000万人を超える規模です(内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査」2022年度)。
この記事では、「希望格差」という言葉の意味を、混同されがちな「経済格差」と比較しながら、できるだけ平易な言葉で整理します。
1. 「希望」とは何か?まず言葉の定義から
「希望格差」を理解する前に、そもそも「希望」とは何かを確認しておきます。
「未来に望みをかけること」(Oxford Languages)
「ある事を成就させようとねがい望むこと。また、その事柄。のぞみ。将来によいことを期待する気持」(広辞苑 第七版)
つまり希望とは、将来に向けて心に描く思いや、望むことを指します。
学術的な定義
心理学者チャールズ・R・スナイダー(Charles R. Snyder, 2002)は、希望を次の3要素が揃った「未来志向の力」として説明しました。
(1)目標(Goals)
行動の標的となるものです。
価値があり、具体的で、かつ達成にある程度の不確実性を伴う目標が、希望を生み出す。
(2)経路思考(Pathways Thoughts)
目標達成のために「どうやってそこに行くか」を考える力です。
地点Aから地点Bに至るための複数のルートを思い描く認知的能力を指します。
(3)主体性思考(Agency Thoughts)
目標に向かって行動を開始し、維持するための精神的エネルギーです。
「私はこれをやり遂げられる」という自信(自己効力感)を伴います。
この理論が重要なのは、希望は「性格」や「気分」ではなく、目標・道筋・実行力という3つの要素の掛け算で成り立つ「力」である、と説明している点です。
これを踏まえ、僕は希望を生み出すために必要な実務的な手段を次のように捉えています。
希望とは、目標実現に向けて自分自身の可能性を信じることができる状態。
そのためには「具体的な計画」「行動に移せる環境」「行動力(小さな成功体験の積み重ね)」の3つが重要になる。
創業してからこの分野についてずっと研究を続けてきました。アンケートを取ったり、直接話を聞いたり、ランダムに選択した人たちに対して数年間にわたり現状のモニタリングとアンケート調査などを行うなどして検証を続けてきました。
その結果として僕は「希望がある/ない」は、生まれ持った性格の差ではなく、計画・環境・実行力という条件がどれだけ揃っているかによって左右される、という1つの結果が出ています。

2. データで見る「希望格差」の実態
では、実際に日本ではどれくらいの「希望格差」があるのでしょうか。公的統計から見ていきます。
(1) 将来に希望を持てない人は1,000万人以上
内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査」(2022年度、N=7,035、15〜39歳)によると、「自分の将来について明るい希望を持っている」と回答した人は66.4%、「希望がない」と回答した人は33.1%でした。
2020年国勢調査の人口をもとに推計すると、将来に希望を持てない15〜39歳は1,055万人にのぼります。年代別に見ると、10代後半までは希望を持つ人が多いものの、20代以降で希望を持てない人の割合が増加する傾向が見られます。
(2) 諸外国と比べても日本は低水準
こども家庭庁「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査」(2019年度・2022年度、13〜29歳、対象国:日本・アメリカ・ドイツ・フランス・スウェーデン)では、日本の「将来に希望がある」比率66.4%に対し、諸外国は78〜93%と高水準でした。特に「はっきりと希望がある」と断言できる人の割合(トップボックス)が、日本は際立って低いという結果が出ています。
(3) 「心の拠りどころ」の数が希望を左右する
同調査では、安心できる場所の数、相談できる人がいる場の数、困ったときに助けてくれる人がいる場の数が多い人ほど、「将来への希望」を持てている傾向が確認されています。つまり希望は、経済状況そのものよりもつながり・居場所の有無と強く関係している可能性があるということです。
(4) 幸福は「運」任せという意識
同じくこども家庭庁の調査では、「幸福は自分の『能力』によって手に入れるものだ」と答えた日本の若者は64%(諸外国は78%以上)、「『努力』によって手に入れる」は73%(フランス以外の諸外国は80%以上)にとどまる一方、「幸福は『運』によってもたらされる」と回答した割合は72%と、調査対象国の中で最も高くなっています(2019年度・2022年度調査)。
(5) 自己肯定感の低さ
内閣府の同調査では、「今の自分が好きだ」と回答した人は60.0%にとどまりました。また日本財団「18歳意識調査(第62回・6カ国調査)」(2024年)では、「自分のしていることには目的や意味がある」「将来の夢を持っている」「自分は他人から必要とされている」といった項目で、日本は他国と10%以上の差をつけて同意する回答が少ない結果となっています。
3. 「経済格差」とは何か
対比のために、経済格差についても簡単に整理しておきます。
経済格差とは、所得・資産など「お金」に関する分配の不均衡を指し、主に以下のような客観的な統計指標で測定されます。
ジニ係数:所得の不平等度を表す指標。当初所得ベースで0.5700、再分配後で0.3813(厚労省「令和3年 所得再分配報告書」)
相対的貧困率:15.4%。7人に1人が貧困状態にあり、ひとり親世帯では44.5%に達する(厚労省「国民生活基礎調査」)
非正規雇用者の割合:役員を除く雇用者の約37.0%(2023年、総務省「労働力調査」)
資産格差:日本の富裕層・超富裕層は合計約165.3万世帯、純金融資産の総額は約469兆円と推計(野村総合研究所、2023年)
世界規模の格差:世界の上位10%の富裕層が全体の富の75.6%を占め、下位50%の保有分はわずか2%(世界不平等研究所「世界不平等レポート2022」)
このように経済格差は、所得・資産という「量」で測定できる、客観性の高い格差です。

4. 「希望格差」と「経済格差」の違いを整理する
ここまでの内容を踏まえ、両者の違いを表に整理します。

重要なのは、経済格差と希望格差は相関しながらも、同一ではないという点です。
経済的に厳しい状況にあっても、「心の拠りどころ」が多い人は将来への希望を持てている、というデータがあります(内閣府調査)。
逆に言えば、所得や資産を底上げするだけでは、希望格差は自動的には解消されない可能性があるということです。
つまり「貧困対策=希望格差対策」ではなく、希望格差には経済的支援とは別に、目標設定・行動できる環境・小さな成功体験の機会という、もう一段別のアプローチが必要になります。
5. なぜ「希望格差」という視点が必要なのか
経済格差の議論だけでは、次のような現象を説明できません。
一定の収入があっても、将来への希望を持てない人がいる
経済的に厳しくても、地域や家族とのつながりが強く、希望を持って前向きに生きている人がいる
「目標達成に成功しているのは2割に過ぎない」(パナソニック株式会社調査、2022年)という結果からも分かる通り、目標を立てても実行に移せない・続けられないという「実行力」の壁が別に存在する
つまり希望格差は、経済的な支援策だけでは埋まらない「もう一つの格差」として、独立して捉える必要があります。
この視点が抜け落ちると、「本人の頑張りが足りない」という自己責任論に陥りがちですが、統計が示すのは、希望の有無は個人の性格ではなく、計画・環境・実行力という構造的な条件によって左右されるという事実であることは忘れてはいけません。

まとめ
希望とは「目標」「経路思考」「実行力(エージェンシー)」の3要素が揃った未来志向の力であり、単なる性格や気分ではない
日本では15〜39歳の1,000万人以上が将来への希望を持てず、諸外国と比べても希望を持てる人の割合が低い
経済格差は所得・資産という「量」で測定される客観的な格差
希望格差は将来への期待・自己効力感という「心理状態」の格差であり、経済格差と相関はするが同一ではない
心の拠りどころの数や、行動できる環境の有無が、経済状況以上に希望の有無を左右する可能性がある

出典一覧
内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査」(2022年度、N=7,035、15〜39歳)
こども家庭庁「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査」(2019年度・2022年度、13〜29歳)
日本財団「18歳意識調査 第62回 国や社会に対する意識(6カ国調査)」(2024年4月3日)
厚生労働省「令和3年 所得再分配報告書」
厚生労働省「国民生活基礎調査」
総務省「労働力調査」(2023年)
株式会社野村総合研究所「富裕層・超富裕層の推計」(2025年2月13日発表)
世界不平等研究所「世界不平等レポート2022(World Inequality Report 2022)」
パナソニック株式会社「『今年の目標』に関する調査」(2022年)
Charles R. Snyder(2002)希望理論(Hope Theory)
