【J★K】アンカラ駅にて
しとしとと雨が冷たい。
僕がイスタンブールを目指したのは、そんな朝の事だった。
アンカラにはほとんど滞在しなかったが、ホテルから近いという理由で数回が足を向けたレストランがあった。出発の朝、荷物を担いで僕はそこに現れ朝食を摂った。
珍しい事に、ひょんな感じで僕はある女性と席を同じくして食事を摂る運びになった。
彼女とテーブルを囲んだ経緯は、単純にガラガラのレストランで話相手が欲しかった彼女が目敏く僕を見付け、暇潰しの相手に選び、彼女のテーブルに招かれたからである。
彼女はロシア人で、旅行者というより出稼ぎの娼婦といった感じのファッションだ。そして、何だか知らないが酷く横柄だった。
何でまた、こう横柄なのかしら……。
それは僕が黄色人種だから差別的な扱いを受けているのか、或いは元々そう言うサディスティックな個性の人なのか。判断するのは難しいが、自然、こちらもつっけんどんになる。
どうやら彼女は女王のようにチヤホヤされたい様だったが、そんな僕の今ひとつ板に付かないレディーファーストではご満足頂けない模様で、一人でイライラを重ねていた。知らんけど。
彼女はマルボロのメンソールに火を付けてはすぐに消し、消しては直ぐにタバコをくわえる。きっとタバコが好きなのではなく、タバコに火を付ける所作が好きなんだと思った。
そして彼女はしきりに気持ちが悪いと言った。暫く観察した結果、僕は思った。
つわり?
だが、そんな英単語を知らないし、知ってても彼女のプライベートな問題なので深入り出来ない。更に言うなら、タバコを止めろと言うのも余計なお世話なので言えなかった。僕は、
「大丈夫?」
と心配はしたものの、こちらはこちらで食事しに来たので、しっかり彼女の目の前で美味しくケバブを頂いた。そしてふと、
きっとこの人は、
独りで不安なのかも知れない
と思いつつ、僕がしてあげられる事は何も無いのだった。
◯
雨は一向にあがる気配もなかった。
天気が良ければケマルアタチュルク廟あたりを訪ねてみても良かったのだが、日和見の僕は観光意欲も失し、雨に打たれながら歩いてアンカラ駅まで急いだ。
駅のホールはガランとして人気も少ない。
僕は早速イスタンブールまでの切符を手に入れて、喫茶店で読書に励んだ。『草の花』という小説だ。
「なんとまぁ悲しい話だろうか。まいったまいった」
と、この頃の日記に記している。
電車が出るまでかなり待ったが、雨の日にまったり本を読むのは嫌いじゃないのだった。
