フラッシュ 035 OpenAI vs. アンソロピック:明暗が分かれたQ2実績
アンソロピックがOpenAIを四半期売上で逆転
生成AI業界の勢力図が、2026年4-6月期の数字で明確に入れ替わりました。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が8月18日に報じた両社の四半期業績は、これまで「先行するOpenAI、追うアンソロピック」という構図で語られてきた前提を崩すものです。ただし公表された数字はいずれも非上場企業の内部資料に基づく報道ベースの値であり、監査済みの決算ではありません。数字そのものより、どの基準で測られた数字なのかが結論を大きく左右する局面でもあります。確認できる事実と、その解釈にあたって注意すべき点を順に整理します。
2026年4-6月期の実数値
OpenAIの4-6月期売上高は67億ドルでした。1-3月期の57億ドルから18%増で、絶対値としては十分な成長ですが、営業損失は同期間に93億ドルから123億ドルへと32%拡大しています。損失の伸びが売上の伸びを大きく上回った形です。なお、この営業損失には株式報酬が含まれています。
一方、アンソロピックの4-6月期の暫定売上高は115億〜116億ドル。1-3月期の47億3,000万ドルからおよそ2.4倍、前年同期の7億8,700万ドルからは14倍以上に伸びました。同期の調整後営業利益は5億5,900万ドルで、フロンティアAI企業としては初の四半期営業黒字にあたります。四半期売上でアンソロピックがOpenAIを上回ったのは、これが初めてです。
「黒字」の中身は慎重に読む必要あり
ここが最も誤読されやすい箇所です。アンソロピックの5億5,900万ドルは調整後(non-GAAP)の数字であり、WSJによれば株式報酬が除外されています。算出方法そのものは公開されていません。対するOpenAIの123億ドルの損失には株式報酬が含まれます。つまり両社の損益は、同じ物差しで測られたものではないということです。
さらにブルームバーグは、7-9月期には再び赤字に転じる可能性を指摘しています。アンソロピックはテネシー州メンフィスのデータセンター「Colossus 1」を月額12億5,000万ドルで2029年5月まで賃借する契約を結んでおり、計算資源への支出は今後増える見込みだからです。単一四半期の黒字をもって「収益構造の転換が完了した」と断定するのは早いでしょう。
ランレート数値の見方
年換算売上高(ランレート)でも差は開いています。ブルームバーグとロイターの報道によれば、アンソロピックのランレートは7月末時点で650億ドルを突破しました。2025年末の約90億ドルから7倍超、2026年5月の470億ドルからも3カ月で180億ドル積み増した計算になります。OpenAI側は8月中旬時点で400億ドル超。同社CFOのサラ・フライアー氏は8月14日の投資家向け会合で、企業向け売上が個人向けを初めて上回ったと説明しています。年初は個人向け6対企業向け4の比率でした。
ただしランレートは、直近1カ月の販売ペースを12倍した推計値にすぎません。アンソロピックの四半期売上115億ドルを単純に4倍しても460億ドルであり、報じられた650億ドルには届きません。この190億ドルの開きは誤りではなく、四半期の平均値と月次の直近値という測り方の違いから生じています。この差は7月にかけての伸びの速さを反映していますが、計上済みの売上高ではない点は押さえておきたいところです。同じことはOpenAIの400億ドルにも当てはまります。
東京市場への波及
8月19日の東京株式市場では、ソフトバンクグループ(SBG)株が前日比603円(10.34%)安の5,227円まで下落しました。日経平均も3%超下げる全面安の展開でしたが、SBGの下げ幅は市場平均を大きく上回っています。SBGはOpenAIに累計646億ドル規模を出資し、持ち分は約13%に達する見込みで、OpenAIの成長期待がそのまま同社の資産価値に直結する構造にあるためです。個人投資家向けに1兆円規模の社債発行を準備しているとの報道も、下げを助長したとみられます。
差を生んだ要因
決定的だったのは収益構造の違いです。アンソロピックの売上の大半はAPIの従量課金と企業向け契約が占め、個人向けサブスクリプションの比率は小さくなっています。企業がエージェント型のワークフローを導入するほどトークン消費が増える構造のため、新規顧客を絶えず獲得しなくても既存顧客の中で売上が伸びます。コーディング支援ツール「Claude Code」は単体でランレート25億ドルを超え、企業導入の入り口として機能しました。
計算資源の効率化も効いています。対売上高の計算コスト比率は1-3月期の71%から4-6月期には56%へ改善したとされています。同社はグーグルとアマゾンが開発したチップを中心に採用し、自前のデータセンター投資には比較的慎重な姿勢を取ってきました。
なお「Claudeがアンソロピックの社内コードの8割超を書いている」という数字は、しばしば売上の説明に持ち出されます。これは2026年6月に同社が公開したレポートに基づく内部開発の話であり、企業顧客の定着を直接説明するものではありません。両者は切り分けて考えるべきでしょう。
OpenAI側は、消費者向けChatGPTの成長鈍化とコーディング領域での出遅れが重なりました。損失の主因は売上を上回る先行投資で、無料利用者を大量に抱える構造上、サービス提供コストが恒常的に重くなっています。ただし手を打っていないわけではなく、Codexの企業展開、広告事業(ランレート10億ドル規模に接近)、モデル価格の引き下げが並行して進んでいます。フライアー氏によれば、当期のランレートは四半期開始からすでに35%、企業向けに限れば50%伸びており、直近の減速をそのまま延長して読むのは適切ではありません。一方で8月に入り最高収益責任者や最高執行責任者が相次いで退任するなど、経営体制の動揺も同時に起きています。
評価額ではすでに逆転していた
売上の逆転に先立って、企業価値の順位はすでに入れ替わっていました。アンソロピックの未公開市場での評価額は2026年2月の3,800億ドルから5月に9,650億ドルへ跳ね上がり、同年3月に1,220億ドルを調達したOpenAIの8,520億ドルを上回っています。数カ月単位で評価が倍増する動きは、投資家が現在の損益ではなく将来の売上曲線に賭けていることの表れでもあります。
同時に、この評価の付き方はリスクの所在も示しています。仮に2028年に2,000億ドルの売上を達成したとすれば、それは長い歴史を持つ大手プラットフォーム企業の年間売上に匹敵する規模です。創業から数年の企業が2年強でそこへ到達するという前提が崩れれば、評価倍率は急速に縮みます。売上の伸びそのものより、伸びが前提に追いつき続けられるかが問われる局面にあります。
クラウド勢と他のAI企業への影響
マイクロソフト、アマゾン、グーグルといったハイパースケーラーにとって、両社は最大級のクラウド顧客であると同時に、収益の集中先でもあります。特定の少数顧客に売上が依存する構造は、需要が伸びている局面では追い風ですが、いずれかが投資計画を絞れば影響が跳ね返ります。AI関連売上の相当部分が両社の計算資源支出で占められているとの指摘は複数ありますが、各社が内訳を開示していないため、比率の精度そのものは検証できません。
業界全体への影響としては、「成長」だけでなく「単位あたりの収益性」を示す圧力が強まる方向に働くとみられます。フライアー氏は8月の投資家会合で、企業顧客の関心が消費量の最大化から知能あたりのコストへ移ったと述べています。モデル性能の競争が推論効率とコスト構造の競争に置き換わりつつあるという認識は、両社に限らず共有されつつあります。
2027年以降をどう見るか
ロイターは8月14日、アンソロピックが2028年の売上高を1,900億〜2,000億ドルと予測していると報じました。ウォール街はこの予測値に対する売上高倍率でIPO時の企業価値を算定しており、強気シナリオでは2兆ドルという水準も取り沙汰されています。2年先の予測を評価の分母に置くのは異例で、それ自体が同社の成長速度と、評価の難しさの両方を示しています。
OpenAIについては、2027年半ばにARR620億ドルという内部目標が報じられています。フライアー氏は8月19日の全社会議で「2027年には上場企業になる」と述べ、業績が加速すればそれより早まる可能性にも言及しました。両社ともSECに非公開でIPO申請済みで、アンソロピックが秋に先行して上場するとの観測が出ています。
数字を読むときの留意点
現時点で確実に言えるのは、四半期売上の順位が入れ替わり、片方が調整後ベースで黒字を計上したという事実までです。2027年、2028年の予測はいずれも非公開企業の内部見通しか、それを引用した報道であって、外部から検証する手段がありません。
参考までに、OpenAIについては監査済みの数字が一つあります。2025年通期の売上高は130億7,000万ドル、純損失は385億ドルでした。四半期の報道値と桁が合わないように見えるのは、年度内に売上が急拡大したためであり、通期実績とランレートは別物だという先の指摘がそのまま当てはまります。同じ精度の数字がアンソロピック側には存在しない以上、両社の比較は現状どうしても粗いものにならざるを得ません。
今後の焦点は三つあります。アンソロピックが7-9月期以降も黒字を維持できるか、OpenAIが損失の伸びを売上の伸びの範囲内に収められるか、そして両社の上場がどの時期にどの評価額で実現するか。いずれも今年後半から2027年にかけて答えが出ます。両社が上場すれば、四半期ごとに監査済みの数字が開示されます。AI企業の収益性をめぐる議論が推測から実証の段階に移るのは、そこからです。
(参照ソース)
Q2売上・損益
Investing.com: https://www.investing.com/news/stock-market-news/openais-q2-revenue-growth-lagged-anthropic-as-losses-deepened-wsj-reports-4866258
Quartz: https://qz.com/anthropic-surpasses-openai-revenue-q2-2026-081926
ランレート650億ドル
Bloomberg(8月14日、14倍増): https://www.bloomberg.com/news/articles/2026-08-14/anthropic-revenue-ahead-of-ipo-surges-over-14-fold-in-second-quarter
Reuters(8月17日、650億ドル突破): https://www.reuters.com/technology/anthropic-revenue-run-rate-tops-65-billion-source-says-2026-08-17/
Axios: https://www.axios.com/2026/08/17/anthropic-revenue-run-rate-ipo-openai
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