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デザインサイエンス(05: 環境)「09_地球・ひとつの乗り物として」


このデザインサイエンスは、デザインを学ぶ学生たちに広い知識と広い視野を持ってもらうために開講したシリーズものです。詳しくは(00: イントロ)を参照ください。
 
本講義は「身体」「建築」「都市」「農業」「環境」「エネルギー」のカテゴリーに分けて、学生たちから特にリアクションの良かったトピックをランダムに投下しています。どこから読んでも楽しい構成にしていますので、気軽に興味のあるトピックからどうぞ!
 
今回は「環境」です。

さて、前回は「地球をひとつの生命体」として捉える考え方を紹介しました。地球という複雑なシステムをシンプルなモデルとして捉え直すことで、身体性、精神性などが宿り、地球にひとつの人格や知性、特徴などが浮かびあがってきました。この考え方は私たち個人が環境問題と関わる際に、自分事として取り込むことのできるひとつの思考回路として役立ちます。

さて、今回は「地球をひとつの乗り物として」捉える概念を紹介します!

・宇宙船地球号(Spaceship Earth)
みなさんは「宇宙船地球号(Spaceship Earth)」という言葉を聞いたことがありますか?これは、このデザインサイエンスによく登場してくる構造家であり思想家でもあるバックミンスター・フラー(など)が提唱した地球の捉え方です。

フラーは自身の著書「宇宙船地球号 操縦マニュアル」(1969)の中で、地球をひとつの乗り物「宇宙船」として捉え、地球は閉鎖空間であり、資源には限りがあり、環境との共存と富(豊かさ)の共有が必須であることを、乗組員である地球人全員が認識する必要があること、また協力して様々な地球課題に取り組むように全人類に向けてメッセージを発しました。
 
20世紀までの人類は、地球や環境は無限大で、資源も無尽蔵にあるかのごとく発展してきましたが、多くの環境問題を抱えるに至り、地球はもはや壊れやすい精密機械である可能性があること、そして大切に整備を行いながら操縦しなくてはならない乗り物であるという考え方と、その操縦方法がフラーによって提言されました。

図:「宇宙船地球号 操縦マニュアル」(バックミンスター・フラー著)の表紙

・統合的にデザインされた機械(部分と全体)
フラーは、地球の仕組みを、車に例えて分かりやすく説明してくれています。車はガソリンを爆発させてエネルギーを獲得します。その爆発力を回転運動で伝えるためのクランクやギア機構、そしてその爆発エネルギーを安全に内包できるエンジンが必要です。またその熱を冷やすためのラジエーター、ハンドル、ブレーキ、快適性を守るサスペンションや安全性を担保するシャーシーなど、車は様々な専門技術の結集した総体です。それらは様々な各専門分野「部分」をなし、それらが集合して「車」が完成するのです。

そしてひとたび車という総体が出現したならば、その「車全体を理解する」や「車をどのように運転するか」という新しい感覚が必要になります。車の調子が悪い時は、複合的な理由であることも多く、扱いの荒い運転を行うと様々な箇所で故障が生じやすくなります。

まさに地球もそのように見ることができます。地球は地質学や海洋学、気候学から地震学、資源工学などなど様々な専門分野が研究対象とする要素から成り立っていますが、総体としての地球の姿を俯瞰することも重要なのです。

さらにフラーは、それら「部分」だけ見ていては「全体」を理解できないといったことにも触れています。例えば、植物の光合成だけを見ていると、それは動物の生命維持にどれだけ役立っているかは理解できません。また動物たちの呼吸がどれほど植物の光合成を助けているかも理解できません。このように地球には相互に補完し合っている関係が多く存在しています。

地球をひとつの統合されたメカニズムとして捉えることで、また違った視点が広がります。

・エネルギー貯金
私たちの宇宙船地球号は、太陽から常に膨大なエネルギーを授かっています。その太陽エネルギーは、例えば植物が取り込み次に動物たちへとバトンをつないでくれます。また動植物の死骸などの有機物質は死後長大な時間をかけて化石燃料となり地中深くに蓄えられてきました。この貴重な蓄えをフラーは「エネルギー貯金」といった表現を使っています。なるほど、貯金と言われると使う際に目減りする感覚が実感できますよね。とても分かりやすい意訳です。

また太陽エネルギーは地表の空気や水にダイナミックなゆらぎを与えてくれます。海洋における潮の流れや、雨や風、台風などの気候の変化も太陽のもたらす温度によって発生しているエネルギー源です。その中でも、熱帯ハリケーンが1分間に発揮するエネルギーは膨大で、フラーが執筆した当時 (1969) のアメリカ、ロシアの核兵器全てを併せた規模に等しいと指摘しています。

このように、宇宙線地球号のもつエネルギー的なポテンシャルの高さを指摘していますが、同時に、化石燃料は有限であるため、その使用方法に関しては充分注意しなくてはならないとも指摘しています。(本デザインサイエンスの「エネルギー」で、このポテンシャルの高い再生可能エネルギーについて触れています。)

余談:宇宙と地球号との関係
宇宙の捉え方は「光の速度の発見」以降大きく変わりました。光に速度があるということは、今夜空に見えている星たちの光は、時に何万年もかけて私たちの目に届いているということになります。つまり何万年も前の星の姿を私たちは見ているということになります。

それまでの宇宙は「同時発生的」でしたが、そうではないことがわかり、以降宇宙の概念を考え直さなければなりませんでした。それはより物質的でダイナミックな空間の中に、地球は晒されているということになりました。

また、私たちの「地球号」に大きく関与する別の船として「太陽号」と「月号」の存在も挙げられています。「太陽号」は太陽エネルギーを無尽蔵に供給してくれること、「月号」は重力で地球にダイナミズムを与えてくれることなどが示されています。

・宇宙船地球号の豊かさ
フラーの唱えた宇宙船地球号において豊かさとは個人や会社や国家など特定のグループが持つ財産という概念ではありません。人類が発展させてきた技術力、獲得したエネルギー、経済的豊かさなどは、政治や国などのイデオロギーで分断されるものではなく「全体」としてのひとつの地球号の共有財産であると定義しています。まさにそれら富とは、空気や太陽光と同じように誰にとっても豊富にあるべきだとしています。
 
このために、分断された世界の境界線をいかに取り除き、それら人類全体の富を地球号の乗組員全員で共有できる世界を実現することが大切だと言っています。この実現のため、フラーはワールドゲーム  (*1) という教育的試みを行ってきました。

ワールドゲーム (*1)
フラーは、先に挙げた豊かさのシナジー的増幅とその分配方法について、地球号乗組員全員が幸せになるための、インフラ、エネルギー、食料、資金などの共有方法について、多くの学生たちと共に探求してきました。この活動をワールドゲームと銘打って教育現場で実践してきました。これはまさに、宇宙船地球号の操縦方法の回答を探求するものでした。このワールドゲームについては、また改めて触れたいと思います。

図:ワールドゲーム:フラーの開発したダイマクシオン・マップを使ってインフラや食料問題に取り組むワークショップ

・宇宙船地球号の乗組員として
この「宇宙船地球号 操縦マニュアル」(バックミンスター・フラー著)では、人類の共有財産である地球環境とそれらがもたらす豊かさのシナジー効果による増幅とその再配分について説明しています。

それらは壮大なテーマですので、私たちの日常生活からは若干距離感を感じます。しかし基本的にこの地球は「閉鎖空間」であり「資源には限り」があり「富は皆にひとしく分配」されるべきだという考え方を持つことで普段の生活で気づき、実践できることは沢山あります。

ここまで意識できると、例えば大海にゴミを捨てることは、海のスケールを考えるとたいしたことではないかもしれませんが、地球は「閉鎖空間である」ということを知ることで、最終的には躊躇することに繋がります。このように地球環境を、自分自身が搭乗している大切な乗り物であると捉えることで、環境課題への気持ちや思考も整理しやすくなります。自分の所有している車の中がゴミで汚れていたり、何か調子が悪い状態でも、気にならないなんて人はとても少ないと思います。

余談:宇宙飛行士型経済学
経済学分野では、ケネス・ボールディングという経済学者が「宇宙船地球号」の概念を用いて、「カウボーイ型」と「宇宙飛行士型」という対比を行っています。「カウボーイ型」は無限に広がる大地に、資源が豊かに存在するフィールドで、制約のない開発モデルを表現しており、それに対して「宇宙飛行士型」というのは空間も資源も有限であり、限られたリソースの中で工夫を凝らすモデルとして表現しています。
経済モデルの中にも「宇宙船地球号」が登場してくるのは面白いです。

・宇宙船地球号という分かりやすさ
例えば、みなさんは公園やスタジアム、自動販売機や駅など公共空間にあるごみ箱が汚くてひどいなと感じたことがあると思います。このように公共のごみ箱が汚く扱われるのは、ユーザーである私たちの帰属意識の違いだと言えます。

自宅のごみ箱は、臭いが漏れないよう、虫がつかないように細心の注意が払われ、分別ルールも丁寧に順守されています。これは私たち自身の帰属意識が自宅空間にあるからでしょう。そのような私たちが、一旦外に出て、帰属意識の薄い公共空間に出ると振る舞いが変わってしまうのです。

このような公共空間に対して、どのように個人に帰属意識を持たせるかは、太古の昔から苦心しており、「倫理」「マナー」「社会システム」「法律」などを定め、順守・厳守させることに苦心してきました。

このような帰属意識のマインドセットとして「宇宙船地球号」という概念は、わたしたち地球人全員に帰属意識を目覚めさせる分かりやすいキャンペーンだったと言えます。


さて、今回の「宇宙船地球号」の考え方について、いかがでしたか?前回のように地球をひとつの生命体として考えるアプローチとは異なりますが、これも地球と言う巨大なシステムをシンプルなモデルに置き換えてみることで捉えやすく、親しみやすい仕組みを作っています。

どちらの考え方がみなさんにとってしっくり来ましたか?比較してみるのも良いかもしれません。

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