「トイレ行かない!」とごねていた4歳息子に、パパが『トイレの魔法使い』をやっていた頃の話。
少し前のこと。息子がなかなかトイレに行ってくれず、手を焼いていた時期があった。トイレに連れて行くだけでも一苦労なのに、いざ便器に座っても、たいして踏ん張りもしないで「出な〜い!」と大騒ぎする。 そんな、世の親たちが一度は白目をむくであろう瞬間に、私はある「最終兵器」を開発した。 それが、トイレ限定で現れる『トイレの魔法使い』である。
1. 便器に座っても踏ん張らない息子への「最終兵器」
「出な〜い!」と座っただけで諦めようとする息子に、私は大真面目な顔でこう切り出していた。
「じゃあ、今からおしっこ(または、うんち)が出る魔法を唱えるね」
そう言って、適当な、自分でもよく分からないそれっぽい呪文を唱え始める。そして、便器に座る息子に向かって怪しく両手をかざし、ビビビビ……とパワーを送る演出をするのだ。
「よし、魔法がかかったぞ! 踏ん張って!」
そう伝えると、当時はまだ純粋だった息子は「おおお……!」と魔法の発動を感じ取ったのか、急にうーん!と顔を真っ赤にして踏ん張り出してくれるようになった。 まさに、我が家のトイレ事情を救った大魔術。――そう、その「少し後」までは。
2. 魔法発動!……の前にすでにニヤニヤしている男
しばらくするとお調子者度がいよいよ極まってきて、トイレに座ると自分から「パパ、魔法かけて!」と要求してくるようになった。
「よし、いくぞ。アブラカタブラ……」
私が真剣に呪文を唱え、両手をかざそうとした、その瞬間である。
ポトン、と小気味いい音がトイレに響く。 ハッと息子を見ると、彼は私を見上げて、フフンと勝ち誇ったような大満足な笑みを浮かべているのだ。
そう、彼は魔法がかかる前の、私が呪文を唱えている最中に、すでに出し切っている。
「おい! もう出てるじゃねえか!」と私が突っ込むと、待ってましたと言わんばかりにニヤニヤが止まらない息子。完全にパパを一本取って楽しんでいた。確信犯である。ちょっとムカつくけれど、あまりにもお茶目で、毎回ふたりで笑ってしまっていた。
3. 【結び】「入らないで」小さな男の、ちょっと寂しい成長期
そんな風に、毎度トイレで不毛な大魔法を繰り広げていた我が家だが、最近、息子にさらなる変化が訪れた。
どうやら4歳なりに、少しずつ「羞恥心」というものが芽生えてきたらしい。 あんなにパパを呼びつけていたのに、最近ではトイレのドアを開けると、真面目な顔でこう言われるようになったのだ。
「パパ、一緒に入らないで」
ついこないだまで、パパのデタラメな呪文に目を輝かせたり、先出ししてニヤニヤしていたあの空間に、もう私は入れない。ひとりで静かに用を足したいという、男としてのプライドが育ち始めている。
子どもの成長は本当に早くて、頼もしい。 だけど、あの狭いトイレで、パパの魔法を出し抜いては笑い合っていた時間がもう過去のものになったのかと思うと、父親としては、なんだか少しだけ寂しさもこみ上げてくる。
いつか魔法使いの存在なんて完全に忘れてしまうその日まで、ドアの向こうから「もう出たよ!」と聞こえる元気な声を、今は眩しく見守っていようと思う。
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