見出し画像

沙耶乃は超能力 1/2【ショートショート#45の1】

1/2

「うわ、なにこのダサい女。どんな色の組み合わせ? センスなさ過ぎ! ウケるー」
 ショップの店員と目が合うとそんな声が頭の中に聞こえてきた。そうか、私の今の服装はダサいのか。確かにちょっとこの上下の組み合わせは微妙かなあと出かける直前思った。だけど、時間もなかったし、それにそんなことに脳のエネルギーを使いたくなかった。次からこの組み合わせは無しにしよう。私はそのショップには入らずに通り過ぎた。

 デパートの中にある『チーター』というちょっと変わった名前のカフェで、冨美子と待ち合わせしていた。二人がけのテーブルの入り口が見える席に座ると、ホットのブレンドコーヒーを注文した。バッグから『クチュクチュバーン』の文庫本を取り出し読みながら待つことにした。待ち合わせより一五分早かった。

沙耶乃さやの、もうきてたの? 私のほうが早いと思ってたわ。ひさしぶり!」
 顔を上げるとそこに冨美子が立っていた。冨美子は椅子に座りながらメニューをぱらぱらとめくったいた。相変わらずせっかちだ。
 私は冨美子が好きだ。彼女は人と目を合わさない。話をするときも、話を聞くときも必ず微妙に目を逸らしている。だから私は冨美子の心の声を聞かずにすみ、安心しておしゃべりが楽しめる。

 冨美子はカフェラテを注文したその流れのまま私に話しかけてきた。
「なによんでるの?」
「吉村萬壱のクチュクチュバーン」と言って表紙を見せた。
「気持ち悪い表紙ね。その服、かわいいわね」
 冨美子は私の上半身だけを見て言った。私の全身を見たときの冨美子の頭の中を見てみたいとちょっと思った。
「でも、上下の色のくみあわせを間違ったみたいで、ダサいの」
 さっきのショップ店員の頭の中の声をそのまま言った。
「そうなの? でも、座っている分には大丈夫よ」
 冨美子はさらりと言った。
 一時間くらい何の役にもたたない話をして、冨美子と別れた。冨美子は私の全身を見ることはなかったし、今日も目を合わせなかった。
 私はトイレに行きコーヒーのおかわりをもらうと、小説の続きを読んだ。

2/2 につづく

いいなと思ったら応援しよう!