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5-#04 大企業は減点方式、スタートアップは加点方式──「勝ったのに負けた」と言われる理由

小さい営業会社にいる20代の方から、こんな話を聞きました。

「四半期の売上の目標を、達成した。」

本人にとっては、入社してから一番うれしい瞬間でした。
ところが上司から返ってきたのは、労いではありませんでした。

「新規のところ、もっとやってよ」

新規の件数の目標は、届いていなかったからです。
あとで本人から、こんな言葉が出てきました。

「達成できて、すごく嬉しかったのに、なんか嫌な気持ちになったんです。褒めてほしかった」

この場面を、上司が冷たい話として読むこともできます。本人が甘えている話として読むこともできます。

僕は、どちらでもないと思っています。

二人は、違う競技を見ていました。

本人は、サッカーの試合で勝ったことを喜んでいた。
上司は、野球の試合を見ていた。
そして「サッカーで勝ったのに、野球で負けたと言われる」現象は、スタートアップや小さい会社で、かなりの頻度で起きています。


スタートアップでは、いくつもの競技を同時にやります

小さい会社の営業は、守備範囲が広い。

既存のお客さんの売上も持つ。
新規の開拓もやる。
場合によっては、採用の手伝いも、資料づくりも、イベントの運営もやる。

サッカーもやる。野球もやる。アメフトもやる。
全部、同じシーズンに試合があります。
目標も、複数立ちます。

売上の目標と、新規の件数の目標。
「両輪です」と言われて、両方に数字が入る。
ただ、両輪と言われても、会社がいま本当に欲しい勝ちは、たいてい一つです。

ここまでは、よくある話です。
問題は、どの競技を優先するかを、上司と話していなかったことでした。

本人は、いま持っているお客さんの仕事が好きで、そこで数字を出すことにワクワクしていた。
上司は、会社の次の成長のために、新規の件数を見ていた。

どちらも正しい。
ただ、すり合わせていなかった。

だから、サッカーで勝った報告が、野球の負けの話にすり替わったんです。

競技が異なればルールも異なる

ここで一つ、疑問が出ると思います。

試合がそんなに多いなら、全部の試合で勝たなければいけないのか。

答えは、いいえです。

スタートアップは、勝った負けたを判断する方式が、大企業と違うからです。

大企業は減点方式、スタートアップは加点方式で勝ち負けが決まります

僕が大手にいたころ、上司にこう言われたことがあります。

「赤点を取るな」

どの試合も、負けてはいけない。一つでも落とすと、そこが評価に響く。

大企業は、減点方式です。

だから大企業の若手は、全部の試合をまんべんなく戦います。
目標設定の面談があって、半期ごとの評価があって、分業が進んでいるので出る試合の数も少ない。

スタートアップは、逆です。
一つの試合で突き抜けて勝てば、他の試合で負けていても通ります。

営業で突き抜けているなら、資料づくりが下手でも、採用が苦手でも、その人は会社に必要な人です。

スタートアップは、加点方式です。

試合の数は多いけれど、全部で勝つ必要はない。
どれか一つで突き抜ければ、会社に必要な人になれる。

ここまで聞くと、スタートアップのほうが気楽に見えます。
でも、加点方式には落とし穴があります。

加点されるのは、会社がいま欲しい試合の勝ちだけです。

減点方式の世界では、どの試合を頑張るかで上司とズレることは、ほとんど起きません。全部の試合に出るからです。

加点方式の世界では、会社が欲しくない試合でいくら勝っても、加点されません。どの試合の勝ちが加点されるのかを上司と合わせていないと、さっきの場面が起きます。

本人は、既存の売上という試合で突き抜けた。
でも、会社が欲しかった勝ちは、新規の件数という試合だった。

上司の「新規、もっとやってよ」は、「全部の試合で勝て」ではありません。

「会社が欲しい勝ちは、そっちじゃない」と言っていたんです。

加点方式の自由があるからこそ、どの試合で勝つかのすり合わせが要るんです。

減点方式と加点方式

「ズレ」は聞きに行った人にしか見えない

競技のズレは、上司のほうから教えてくれることは少ないです。
なぜなら、上司にとっては当たり前だからです。

だから、やることは一つです。

「いま、どの競技で勝ってほしいですか」を、自分から聞きに行ってすり合わせる。

聞いたうえで、自分が勝ちたい試合とズレていたら、そこで初めて交渉ができます。両方やるのか。優先を決めるのか。自分の得意な試合の勝ちを、会社の成果としてどう見せるのか。

すり合わせていないうちは、交渉の土俵にすら立っていません。
そして、「褒めてほしかった」という気持ちについて、一つだけ。
褒めてもらえなかった感情は、甘えではありません。

自分と上司の競技がズレている、というサインです。

悔しさを飲み込むのではなく、サインとして使ってください。

「自分はどの競技で勝ちたかったのか」
「上司はどの競技を見ていたのか」

を、書き出すところからです。

今行っている競技のルールを把握する

スタートアップは、加点方式で評価される場所です。

だからこそ、小さい会社で見るべきは、上司の人柄ではありません。

上司と自分が、同じ景色を見ているか。

同じ競技で勝利する未来を握れていれば、「新規、もっとやってよ」は冷たい言葉ではなく、次の試合の話になります。


▼この連載のはじめに(#00)

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