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「感度」という言葉には、少し気をつけたい ―― なぜMRIは、「90%の倍」のがんを見つけるのか

ときどき、こんな文章を見かけます。

「超音波検査では、乳腺の量に関わらず乳がんを見つけることができ、マンモグラフィと超音波検査を併用すれば、約90%の乳がんを発見できます」。

数字だけを読むと、なるほど心強い。90%も見つかるなら、もう十分ではないか、と思ってしまいます。

ところが、同じ乳がん検診の世界で、まったく別の景色を示す研究があります。ドイツのKuhl(クール)教授の報告です。

Kuhl先生と筆者 2017年

マンモグラフィと超音波を併用して見つかる乳がんが1,000人あたり8人ほどとされるのに対し、造影MRIでは、約15人が見つかりました。

「これで9割は見つかっている」と思っていたその足もとで、実は同じくらいの数のがんが取りこぼされていた。に近い景色です。

ここで、素朴な疑問が生まれます。

同じ景色でも、もっと見える?

もしマンモ+超音波で「90%」も見つかっているのなら、残りはたった10%のはず。MRIをいくら足しても、増える分はわずかしかないはずです。それなのに、なぜMRIは、既存の検査に写らないがんをこれほど拾ってしまうのか。

この二つは、矛盾しているように見えます。 でも、矛盾していません。

からくりは、「感度」という言葉の中に隠れています。今日はその話を、なるべく落ち着いて、ていねいにしてみたいと思います。

「感度」とは、そもそも何を測っているのか

感度(かんど)とは、検査の「見つける力」を表す数字です。式にすると、こうなります。

感度 = 見つけたがん ÷(見つけたがん + 見逃したがん)

分子は「ちゃんと見つけたがん」。分母は「本当は存在した、がんの全部」です。

一見、当たり前の式に見えます。けれど、ここに大きな落とし穴があります。

分母、つまり「本当に存在したがんの全部」を、私たちは本当には知らないのです。

分母により「感度」は変わる

見逃しは、どうやって数えているのか

では、「見逃したがん」を、検診の研究はどう数えているのでしょうか。

実務上、見逃しとして数えられるのは、ほとんどの場合、インターバルがん(中間期がん)だけです。インターバルがんとは、検診では引っかからず、次の検診までのあいだに症状として表に出てきてしまったがんのこと。しこりに気づいて、外来を受診して、「ああ、これはがんですね」とわかるあれです。

つまり、こういうことになります。

  • 検査で見つかった → 見つけた(分子)

  • 見逃したけれど、その後に症状が出て顕在化した → 見逃し(分母に加わる)

  • 存在していたのに、検査でも見つからず、症状としても出てこなかったどこにも数えられない

問題は、三番目です。

乳房の中に静かに潜んでいて、その検査系では見えず、追跡の期間内には暴れ出さなかったがん。これがまるごと分母から抜け落ちる。存在したことすら、記録に残らないのです。

分母(本当のがんの数)が小さく見積もられれば、感度は自動的に高く出ます。90%という数字は、こうして生まれます。

目の粗い網で、湖の魚は数えられない

たとえ話をしましょう。

ある人が、目の粗い網で湖の魚をすくって、こう言ったとします。「この湖の魚の9割を、私は獲りました」と。

でも、その人が「9割」の分母にしているのは、自分の網にかかった魚だけです。網の目をすり抜けた小さな魚、底のほうに潜んでいた魚は、最初から「いなかったこと」になっている。

そこへ、もっと目の細かい網(=MRI)を入れてみる。すると、まだ同じくらいの数の魚が残っていた、とわかる。

目の粗い網ですくう vs 目の細かい網ですくう

これがKuhl教授の研究が示したことです。細かい網を入れてはじめて、湖には最初から倍の魚がいたことが見えた。裏を返せば、粗い網が獲れていたのは、実は半分ほどだった、ということになります。

もう一つ、私がよく思い浮かべるたとえがあります。学校のテストです。過去問だけを並べて採点すれば、点数はいくらでも高くできる。練習を繰り返せば、90点は取れる。けれど実際の問題用紙を配ると、過去問対策だけでは解けていなかった問題がぞろぞろ出てくるのです。

いちばん厄介なところ ―― 答え合わせの「模範解答」の正体

ここが、いちばん静かに、いちばん深い問題です。

マンモ+超音波の感度を測るとき、その「答え合わせ」に使われる基準(専門的には参照基準、ゴールドスタンダードといいます)の中身は、ほとんどがマンモと超音波、それに短期間の経過観察でできています。

つまり、マンモと超音波で見える範囲のがんを物差しにして、マンモと超音波の成績を採点している。自分の物差しで、自分を測っているわけです。これでは、その物差しに映らない、MRIでしか見えないがんは、この採点システムにとって、最初から「透明」(無いことと同じ)というわけです。

正直な数字は、「がん発見率」のほう

では、どうすれば公平に比べられるのか。

答えは、「見つけた割合(感度)」ではなく、「実際に何人見つけたか」で語ることです。1,000人を調べて何人のがんを見つけたか ―― これをがん発見率(CDR; Cancer Detection Rate)と呼びます。

がん発見率のいいところは、「本当のがんの全部」という、誰も知らない分母を必要としないことです。実際に見つけた数を、そのまま数えるだけ。だからモダリティどうしを、素直に並べて比べられます。

そして、その数字がこうでした(文末の出典もご覧ください)。

  • マンモグラフィのみ: 5.4 / 1,000

  • マンモ+超音波:7.7 / 1,000

  • 造影MRI(Kuhl教授の報告):14.9 / 1,000

MRIは、既存の検査に匹敵する数を「上乗せ」で見つけた。ということは、マンモ(+超音波)は、実際に存在するがんの半分ほどしか拾えていなかった可能性が高い。つまり、正直に計算しなおした「本当の感度」は、90%どころか、50%前後まで下がってしまうのです。

「90%」は嘘ではない。けれど、読み方に気をつけたい

誤解のないように言っておきます。「感度90%」という数字は、計算として間違っているわけではありません。その研究の枠組みの中では、正しい。

問題は、読み方です。

「感度90%」は、「この世に実在する乳がんの90%を見つけられる」という意味ではありません。正しくは、「その研究が答え合わせに使えた範囲のがんのうち、90%を見つけられた」という意味です。同じ「90%」でも、指している中身がまるで違う。

だから私は、検診の話をするとき、「感度」という言葉にはいつも少しだけ立ち止まります。この感度は、何を分母にして測ったものだろう。答え合わせの基準は何だっただろう。そこを確かめないまま数字だけを受け取ると、私たちは「9割見つかるなら安心だ」と、うっかり眠り込んでしまう。

感度という言葉は、便利で、力強くて、それゆえに人を安心させすぎる。取り扱いには、少しだけ注意がいる言葉なのだと思います。

それでも、比べること自体をやめてはいけない

もちろん、話はそう単純でもありません。MRIが見つけるがんの中には、生涯おとなしいまま終わったかもしれないもの(過剰診断の問題)が混じっている可能性はあります。J-STARTとKuhl教授の研究では対象となる集団も少し違います。こうした慎重論を、私は無視するつもりはありません。

けれど、それらを差し引いても、「マンモ+超音波の感度は90%」という理解と、「MRIを足すと倍見つかる」という事実の落差は、あまりに大きい。その落差の正体こそが、今日お話しした「感度の分母のからくり」なのです。

矛盾しているように見えた二つの数字は、実は別々の問いに答えていただけでした。片方は「自分の網にかかった魚のうち何割か」を、もう片方は「湖には本当は何匹いたのか」を語っていたのです。

おわりに

私が長く取り組んできたのは、痛みのないMRIで、なるべく多くのがんを、なるべく早く見つけること ―― その一点です。

数字を大きく見せることには、興味がありません。実数を示すがん発見率のほうを、私はずっと信じています。がんで亡くなる人を一人でも減らす。そのためには、まず私たち自身が、数字を正しく読めなければならない。

「感度」という言葉に出会ったら、どうか一呼吸おいて、こう問うてみてください。それは、何を分母にした数字ですか? と。

その一呼吸が、検診をほんの少し、賢いものにしてくれるはずです。


関連事項


参考文献と、数値の検証

この記事の主張は、次の二つの原著論文の数字に基づいています。関心のある方のために、私自身が確かめた計算も添えておきます。

① J-START(マンモ+超音波の「感度91.1%」の出どころ)

Ohuchi N, Suzuki A, Sobue T, et al. Sensitivity and specificity of mammography and adjunctive ultrasonography to screen for breast cancer in the Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial (J-START): a randomised controlled trial. Lancet. 2016;387(10016):341–348. doi:10.1016/S0140-6736(15)00774-6(PMID: 26547101)

  • 対象:40〜49歳の女性 72,998人を無作為化。介入群(マンモ+超音波)36,859人/対照群(マンモ単独)36,139人。

  • 感度:マンモ+超音波 91.1%マンモ単独 77.0%

  • 特異度:マンモ+超音波 87.7%、マンモ単独 91.4%(=超音波を足すと偽陽性は増える)。

  • 発見がん:介入群 184個 / 対照群 117個。早期(0・I期)の割合は介入群 71.3%、対照群 52.0%。

  • インターバルがん:介入群 18個 / 対照群 35個

ここが本文の核心です。 この論文の「感度」は、次のように計算されています。

  • マンモ+超音波:184 ÷(184+18)= 184 ÷ 202 = 91.1%

  • マンモ単独  :117 ÷(117+35)= 117 ÷ 152 = 77.0%

分母が「発見がん + インターバルがん」になっていることが、逆算でぴたりと一致します。つまり、見逃し(偽陰性)としてカウントされているのは、次の検診までに症状が出てきたがんを指します。検査にも写らず症状も出さなかったがんは、この分母に入っていません。本文で述べた「感度の分母のからくり」は、比喩ではなく、この計算式そのものに表れています。

なお、超音波の追加でインターバルがんが35→18へと減っている点は、超音波が一定の上乗せ効果を持つこと自体は確かに示しています。

② Kuhl教授「EVA試験」(マンモ+超音波 7.7 対 造影MRI 14.9 = ほぼ倍の出どころ)

Kuhl C, Weigel S, Schrading S, et al. Prospective Multicenter Cohort Study to Refine Management Recommendations for Women at Elevated Familial Risk of Breast Cancer: The EVA Trial. J Clin Oncol.2010;28(9):1450–1457. doi:10.1200/JCO.2009.23.0839(PMID: 20177029)

  • 対象:家族歴などでリスクが高い女性 687人、延べ 1,679回の年1回検診、発見がん 27個

  • 1,000回あたりのがん発見率(cancer yield)――同じ研究・同じ集団での直接比較です:

    • マンモグラフィ単独:5.4

    • 超音波単独:6.0

    • マンモ+超音波:7.7

    • 造影MRI:14.9(MRI+マンモで16.0、MRI+超音波で14.9 = MRIにマンモや超音波を足してもほとんど増えない)

  • インターバルがん:0(見逃して後日発症した例なし)。

  • 陽性的中率:マンモ 39%、超音波 36%、MRI 48%。

本文の「マンモ+超音波で約8人 → その倍の約15人がMRIで見つかる」は、この 7.7 対 14.9 に基づいています。マンモや超音波を足しても届かなかった数を、MRIがほぼ倍にした――しかも同一集団・同一の物差しで示された、という点がこの研究の強みです。

③ Kuhl教授(平均的リスクの女性への「上乗せMRI」)

Kuhl CK, Strobel K, Bieling H, Leutner C, Schild HH, Schrading S. Supplemental Breast MR Imaging Screening of Women with Average Risk of Breast Cancer. Radiology. 2017;283(2):361–370. doi:10.1148/radiol.2016161444(PMID: 27467465)

  • 対象:生涯リスク15%未満の平均的リスクの女性 2,120人(40〜70歳)、延べ 3,861回の検診(観察 7,007人年)。

  • 造影MRIの上乗せ(supplemental)発見率:15.5 / 1,000(95%CI 11.9–20.0)= 60 ÷ 3,861。初回 22.6、2回目以降 6.9。浸潤がん40個を含む計60個。インターバルがん 0%。腫瘍径中央値 8mm、リンパ節陰性 93.4%、特異度 97.1%、PPV 35.7%。

ここは誤読しやすいので、注意して補足します。 この「15.5」「60個」は、いずれもマンモグラフィに“上乗せ”してMRIが拾った分を指します。定義からして「マンモが見落としていたがん」を数えた数字であって、「マンモや超音波は全体でほとんどがんを見つけられない」という意味ではありません。本論文は各モダリティの単独発見率を横並びで比較する設計ではなく(マンモ単独の発見率は論文に示されていません)、あくまで“上乗せ分”を測る研究です。したがって②のEVA試験のような「同一集団での直接比較」とは性格が異なります。

③から堅く言えるのは、「平均的リスクの女性でも、マンモが取りこぼしたがんがなお1,000人あたり15人前後あり、それらは後日インターバルがんとして現れなかった」という点です。マンモ・超音波の一般的な発見率(おおむね数/1,000)そのものを否定する数字ではありません。「倍」という直接比較の根拠は、あくまで②のEVA試験(7.7 対 14.9)に置くのが正確です。

インターバルがんが②③ともにゼロだった点は、とりわけ重要です。①のJ-STARTでは、この「インターバルがん」こそが唯一カウントされる見逃しでした。MRIがそれを事実上ゼロまで拾い切ったということは、これまで各種検査が「存在しないこと」にしてきたがんが、実際にはこれだけ潜んでいたという証拠にほかなりません。だからこそ既存検査の見かけの感度は高く出ていた――本文の結論は、この三本の論文を並べて初めて立ち上がってきます。

(注)①②③で数字の性格が異なる点に注意してください。②のEVA試験は、マンモ・超音波・MRIそれぞれの発見率を同一集団で横並びにした直接比較で、本文の「7.7 対 14.9(=ほぼ倍)」はここから来ています。一方③の「15.5/1,000」は、マンモグラフィに上乗せしてMRIが拾った分(=マンモが見落とした分)の発見率であり、マンモ単独の成績を表す数字ではありません。過剰診断の可能性など慎重論はなお残りますが、発見がんの多くが小さく(③で腫瘍径中央値8mm)リンパ節陰性(93.4%)だったことは、それらが臨床的に意味のあるがんだったことを示唆しています。

(注)無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス・サーチ)は、私が精度管理をしながら行っている非造影のMRI乳がん検診です。(1) DWIBS法を用いると、コントラストが非常によいので、造影しなくてもかなりのがんが見つかること、(2) また他の画像と組み合わせて診断すること(multi-parametric MRI)、さらに、(3) 直接提携病院にお伺いして精度管理をすることで実現した方法です。提携病院には認証マークを付与しています。
2026年の今年までに6万人あまりの方が受診されました。最近の4病院の検証データ(約3800人)の集計では、がん発見率は1000人中13人でした。結果を調べられた方は73%ですので、もうすこし実際の発見率が多い可能性もあります(単純な掛け算では18人弱に相当します)。陽性反応的中率は27%程度でした。
これらはマンモや超音波との比較データではありません。また、受診した方のなかには症状をお持ちの方も含まれていますので、参考データです。これらのデータについては、近く検証されたものとして学術報告の予定ですが、まだエビデンスとしては確立されたものではないことにご注意ください。
日本乳癌学会、日本乳癌検診学会、日本乳癌画像研究会などで最新データが発表されますので、そちらをご覧ください。2026年11月6日-7日の第36 回日本乳癌検診学会(札幌)では重要なデータの発表を行います。

高原太郎論文リスト

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