仕入れの条件書を読む僕の目に映った、インドの新製造スキームの本気度
📰 元ネタ: Cabinet approves Mobile Phone Manufacturing Scheme (MPMS)(PMIndia公式リリース)
「インドの携帯電話製造スキーム(MPMS)がインドを世界の電子機器製造拠点に押し上げる可能性がある」というこの記事を読んで、僕はこう読み解いた。
仕入れの契約条件には、たいてい段差がついている。
基本の掛け率がいくつで、数量が伸びたら何%上乗せか。
現地調達の比率が上がったら、そこにさらに何%乗るか。
その段差の刻み方を見ていくと、相手が本当は何を欲しがっているのかが透けて見えることがある。
2026年7月15日、インド政府が携帯電話製造の新しい補助金制度「MPMS」を閣議決定した。
5年間(2026年度〜2030年度)で累計生産額39兆ルピー、雇用6万人という目標を掲げる。
予算規模は6250億ルピー。
生産目標の額と予算の額を並べただけで、このレバレッジの効かせ方に目が行く。
この制度、実は目新しいものではない。
2020年から続いてきた「PLI」という生産連動型優遇策の、電子機器版が今年3月に期限を迎えた。
その後継として看板を掛け替えたのがMPMSだ。
ここまでは、よくある話に見える。
でも条件の刻み方を読むと、この制度は一律の看板替えではなかった。
旧PLIは、出荷額に対してほぼ一律の補助率をかける単純な仕組みだった。
だからスマートフォンの最終組み立てをインドに呼び込むことには成功したが、部品の現地調達は進まなかった。
現地付加価値率は23〜24%どまりだったという指摘がある。
新しいMPMSは、この一律方式をやめた。
基準の補助率(2.25〜5%)に、部品を現地調達すれば+1.5%、設計や研究開発を自国でやれば+3%という上乗せを積む階層構造にした。
組み立てそのものより、その手前にある「部品をどこで作るか」「設計を誰がやるか」に、補助金を厚く配る設計だ。

この配分の仕方は、狙いがかなりはっきりしている、と思う。
インドがずっと欲しかったのは工場の数でなく、設計図を描く力の方だからだ。
補助金の重心を、組み立てラインから設計室の方へわずかに動かした。
ただし、制度の設計図と企業の実際の動きは別の話として答え合わせされる。
アップルやフォックスコンは、すでにインドでの組み立てを大きく増やしている。
一方で、設計や研究開発の拠点をインドに移したという一次情報は、今のところ見つからない。
工場は動いた。
開発拠点はまだ動いていない。
制度の中身は、確かに変わった。
だが企業がその変化に実際に乗るかどうかは、また別に確かめるしかない。
僕がこの制度をこの先も見ていくとしたら、注目するのは生産台数の推移ではない。
どこかの決算資料や求人票に、「インド」と「設計」という言葉が並ぶかどうかの方だ。
📌 そもそも「PLI」って何?
Production Linked Incentive、生産連動型優遇策の略。
インドが2020年から使ってきた、生産・出荷額に応じて企業に補助金を出す仕組み。
今回のMPMSは、この電子機器版(PLI-LSEM)が今年3月に期限を迎えたのを受けた後継制度にあたる。
📌 補助率の「階層構造」って何をする仕組み?
一律ではなく、条件ごとに補助率を積み増していく設計のこと。
MPMSでいえば、出荷額に対する基準の補助率に、部品の現地調達分・設計や研究開発分を、それぞれ別枠で上乗せする。
同じ「補助金」でも、どこに厚く配るかで、政策が何を誘導したいのかが変わる。
💡 なぜこれが重要か
日本にとっても他人事ではない。
半導体・部品の現地調達要件が強まれば、インド向けに部品を売っている日本の商社や部品メーカーの立ち位置も変わってくる。
組み立てから設計・研究開発へと補助金の重心が動くこの型は、他の新興国の産業政策にも波及しうる先例として見ておく価値がある。
投資で見るなら、インドの電子部品・EMS関連銘柄を見るときに、「組立数が増えたか」だけでなく「設計機能が移管されたか」を分けて見る視点が要る。
🔖 今週の問い
半年後、あなたの取引先や求人票に「インド」と「設計」という言葉が並んでいたとしたら、それはどんな意味を持つと思いますか。

