「なぜ、人は人を好きになるのか」
人は、人を好きになるとき、
心の奥で小さな 泉 がひらきます。
音もなく、光も立てず、
ただ澄んだ水が湧き上がるように。
理由はひとつも掴めない。
けれど、掴めないからこそ、
その透明な水はこぼれず、
ゆっくり胸の奥に満ちていく。
好きになるとは、
相手の存在が
自分の沈黙に寄り添ってくれることだ。
その人の言葉は、
夜の部屋に置かれた
小さなランプのように
影を怖がらせない。
その人の横顔は、
疲れた心の上を通り過ぎる
風のように、重さを残さない。
好きとは、
「この人となら静かにいられる」
という、深い深い安心の記憶。
誰かを好きになることで、
人はようやく、
自分をひとりで抱え込まなくていいと気づく。
恋は劇的な出来事ではない。
むしろ、そっと置かれた羽のようなもの。
触れたとき、胸の痛みより先に
やわらかな重さだけが残る。
そしてその重さが、
人を、生き返らせる。
人は人を好きになることで、
生きる意味を探すのではなく、
ただ「生きていてもいい」と
静かに許されるのだ。
