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都城市は本当に「子育て3つの完全無料化」で12年ぶりの出生数反転を達成したのか?

飛ぶ鳥を落とす勢いとはまさにこのことである。経済も人口も超順調な宮崎県都城市。マイナンバーカードの普及率やふるさと納税日本一の最多獲得など地方創生界隈で脚光を浴びる都城市にまた注目が集まっている。

2025年度(令和7年度)の出生数が12年ぶりに増加したことが地元メディアを中心に報道されている。若者が周辺から転入してくる政令市や県庁所在地でもなく、ベッドタウンになれる流山市や明石市でもなく、出生数が毎年ばらつく小規模自治体ではない都城市で出生数増加に転じたのは地方創生12年の短い歴史のなかでも特筆すべきニュースである。

疑い深くちょこっとだけ性格が歪んでいる私は本当に子育て支援策が人口のV字回復に至ったのかを確認したくなり、さらにニュースを見た横展開大好き自治体が、都城市の表面だけを真似して自ら詰まされに行く事案を案じ、このnoteを書くに至った。(自身の〆切間際の原稿が溜まってるにも関わらず)


12年ぶりの出生数増。その背景は子育てに関する3つの完全無料化なのか?

テレビ宮崎(UMK)のニュースでは以下のように報じられている。
「池田市長が話す人口戦略とは、都城市が3年前に始めた第1子からの保育料完全無料化、中学生までの医療費完全無料化、そして妊産婦の健康診査費用の完全無料化です。この3つの完全無料化が3年で出生数の増加という結果につながりました。」


都城市の人口動態を見てみると「3つの完全無償化」が出生数増に寄与している統計的な傾向は見て取れるが、それだけで前年比出生数増に至ったと結論付けるのは早い。以下は都城市の20-44歳女性人口と翌年度の出生数の推移である。生まれる赤ちゃんの98%は20-44歳の女性から生まれるため、便宜上この年齢幅で切り取った。

国勢調査から住民基本台帳の増減を反映させた。都城市HPより筆者作成


妊活、妊娠期間を踏まえると子育て支援策が出生数に現れてくるまで1年以上かかるため、2年単位でグラフを作成している。このグラフで目を引くのは2024年の20-44歳人口がV字回復している点である。これは2023年からのいわゆる500万円移住支援金施策の効果により、例年の10倍近くの3710人の移住者が押しかけたためだ。そしてさらに翌年度(2025年度)の出生数もV字回復している。ここで頭に浮かぶのは、出産確率の高い20-44歳女性が移住してきたため、出生につながったのではないか、ということだ。つまり子育て施策ではなく、移住施策によって出生数がV字回復したのではないか?という疑問である。


移住者が増えたから出生数が増えた、だけではない

人口政策において自然増減(出生と死亡)は社会動態(転入と転出)に比べて効果が出るまで時間がかかることが知られている。2023年から行った子育て支援の結果が2年後に現れるのは早すぎるのではないか。実際に私もそう思って今回のnoteを書き始めた。しかし、、、

以下は20-44歳の女性1万人あたりの出生数である。単位あたりで揃えた出生数なので、移住施策のブレを排除している。オレンジの折れ線グラフが20-44歳人口の1万人あたりの出生数であり、こちらもV字回復に至っている。つまり母数が増えたから出生数が増えただけではないことが分かる。(もちろん出生には複数の要因が複雑に絡み合っているので市の施策だけで出生数が増えたとは言い切れない)

国勢調査から住民基本台帳の増減を反映させた。都城市HPより筆者作成

2025年度の出生数が12年ぶりに増加したという報道が先行するが、しかしよく見ると、
① 2019年にも1万人あたりの出生数は増加している
② 増加に転じたとは言え、2021年の方が1万人あたりの出生数は多い
ことが分かる。子育て支援施策が出生数に反映されてくるかどうかはもう少し長いスパンで観察したほうがよい。

もし子育て施策や移住施策を行わなければ出生数はどうなっていた?

では、出生数が12年ぶりに増加に転じた主要因は何か。それは子育て支援施策と移住施策のダブル効果である。テレビ宮崎(UMK)が報道しているとおりである。以下の表は移住施策を行った時と行わなかった時、子育て支援施策を行った時と行わなかった時の予測出生数である。実際は都城市は移住施策も子育て支援施策も行ったので左上の現実の出生数。その他3つの象限は過去のトレンドから線形近似をとって予測したものである。

各象限の影響を省いて筆者にて試算

2024年の出生数は1093人だったので、もし移住施策を行わずに子育て施策だけを行っていた場合、つまり純粋な子育て施策だけでは出生数12年ぶりの増加まではいかずほぼ横ばいのとなっていたかもしれない。(ちなみにそれでも相当すごい)。そして移住施策だけやっていても1068人と出生数のV字回復は実現しなかったであろう。子育て施策と移住施策がタッグを組んだことで12年ぶりの出生数増加を達成してたのである。


美しいストーリーが紡がれる自治体の競争戦略の教科書

マイナンバーカードの普及率全国一位から総務省との関係を強固にし、ふるさと納税で多額の寄付を集め、それを恒常的な財源につながる人口政策とインフラ整備に投資する都城市。経済地理学的な優位性を把握したうえで行う経済政策はストーリーとしての競争戦略(楠木建)を彷彿とさせるとても美しい政策だ。もし”ストーリーとしての自治体戦略”という本があれば確実にケーススタディの筆頭候補である。

今回のような報道がでると「都城市のように子育て施策を模倣せよ」と言い出す議員がでてきそうだが、これは都城市が築いてきた挑戦の歴史がゆえに成立する施策である。10年以上前からのマイナンバーカード普及への取り組みや、都城フィロソフィの作成と浸透、その他複数の要因が複合的に絡み合った氷山の一角が子育て施策の3つの完全無料化からの出生数の前年比増なのである。表面的なマネはできない。というか表面的にマネをしようとすると怪我をするので、横展開脳に囚われてる方は注意したほうがよい。

ふるさと納税の成功はそれらを実現する環境が整っていた可能性がある


10年以上前、他の自治体が「返礼品で寄付を集めるのはいかがなものか」などと議論していたときに、都城市はふるさと納税に全力BETし「肉と焼酎」の一点突破でポジションを築き、先行者利益を得た。現在も「移住者をお金で集めるのはいかがなものか」と他の自治体が嫉妬と斜に構えている間に都城市は圧倒的な「移住×子育て」の認知の先行者利益を獲得してトップを走り続ける。競合自治体の様子を見ながら合意形成コストの低い総花政策と戦力の逐次投入をやっている自治体はドツボにハマる。都城市のように「畜産業と焼酎会社だけにしか恩恵がない」「移住者に500万円配るくらいなら市民にも配れ」という地元からの声を抑えてでもやるべきことをやりつづける覚悟がすごい。普通の政治家が安易に真似をすると火傷するので気をつけたほうが良さそうである。競争戦略のひとつに、競合他社にうわべだけ模倣させて消耗させ、さらなる競争優位と参入障壁を築く戦術がある。その戦術を意図的にとっているのかどうか知る由はないが、自治体の経営戦略&戦術としてはめちゃくちゃキレイでどこまでも分析ができてしまうのである。


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