異形コレクション XLIX(49) ダーク・ロマンス
◾️全体 ★★★☆☆
48作目『物語のルミナリエ』以降、9年に渡り休刊していた異形コレの復活、この報に触れたときは意外なほど素直に嬉しかった。正直、東日本大震災による休刊については「首都に近い場所で起きた震災だったから、首都にばっかり住んでるもの書き達がビビッて芋引いたんだろ?北や西、首都からもっと遠くで震災が起きてたら同じ反応したか?何が死と破壊の創作へのダメージだ、ああ?」ぐらいのことを思ったんだよな。これ自体、日本西部在住故に震災を体感しなかった俺の傲慢な見方と言えるんだけど、それでも様々なエンタメが萎んでいくことの一つが休刊であり、そうしたものに苛立ってたのは事実だったわけで。そこからの復刊に至るトリガーの一つがコロナ禍だったことも色々示唆的で、それはまた考えをまとめてどこかで書ければと思っている。
で、今回は言葉から連想されるモチーフから割と自由に書いてもらったそうで、実際各作品は個性豊か、悪い言い方をすると節操がない感じ。そんな中『ストライガ』は現代的な人間の偏愛と業の欲張りセットで最高だった。
◾️夕鶴の郷 / 櫛木理宇 ★★★☆☆
飲酒運転からのバイク事故で重傷を負った容姿端麗内面グズグズの男、看病を受けた山村で待ち受ける地獄とは……。因習村の淫靡な罠と見せかけ、ハーピー亜種みたいなバケモノの生物的繁殖・捕食行為の贄とされる展開、終盤から一気にドライブがかかるところが好き。主人公の俗っぽいクズさも相まって、R18版注文の多い料理店といった仕上がり。
◾️ルボワットの匣 / 黒木あるじ ★★★☆☆
バーで一人飲む主人公が出会った謎の老人が語る、美しい細工箱にまつわる呪いの物語と、それを聞いた主人公の決断。黒木先生、異形コレ再始動直後の初参戦。細工箱の《起動》により生じる惨劇のグロ描写は流石のFKB上がり。ヒトを呪わば穴二つ、を地で行く結末はまあそうなるよね……感。『ダーク・ロマンス』テーマでこれはOKなのか?はちょっと微妙。
◾️黒い面紗の / 篠田真由美 ★★★☆☆
近世のロンドン、画家志望の学生が集う寄宿舎に自画像を依頼したイタリア貴族の未亡人に運命を狂わされた語り手と、それを聞く若者。正体が最後まで明示されない未亡人の魔性は読み応えがあるが、恐怖の可食部が少ないというか、物足りなかった。
◾️禍 または2010年台の恐怖映画 / 澤村伊智 ★★★★☆
フェイクドキュメンタリー風のホラー映画、撮影を進めるにつれ奇妙な現象が……。異形コレクション休止後のホラー小説界を一気に駆け上った澤村先生、現代的なモキュ作品が持つ暴力的なソリッドさを小説で表現。PRツイートから段階的に立ち昇る致命的な不穏さも素晴らしい。本作の『ロマンス』要素はアンソロ全体でも屈指の邪悪さで、どんな犠牲を払っても見たい景色を見に行く者のロマン、ほぼほぼフェイスレスの「夢は必ず叶う」と同じ。
◾️馬鹿な奴から死んでいく / 牧野修 ★★★☆☆
ちょっとヘナチョコだが黄金の精神を持つ魔術医が、子供を材料に薬を作る妖艶で最強な魔女と行きがかりで闘う。『戦闘力のないアスキン・ナックルヴァール』とでも評せそうな主人公のキャラから醸し出されるオフビート感から突然発生するクライマックスの「そうはならんやろ」「なっとるやろがい!」。
◾️兇帝戦始 / 伴名練 ★★★☆☆
義経=チンギスハン伝説と絡めた、暗黒のモンゴル帝国成立史。行き倒れていたところを主人公の氏族に拾われた天才的な戦闘力を持つ妖艶な美男・ゲンキケイが覇道を登り詰めるピカレスクか、と見せかけて、屈指の知名度を誇る別の《妖》が顕現するクライマックスは意外性あり。
◾️ぼくの大事な黒いぬこ / 図子慧 ★★★★☆
天才科学者による未知の遺伝子操作から誕生した『ぬこ』を巡る、ヨーロッパを舞台にしたSFミステリー。ラブクラフトの『ウルタールの猫』から着想を得た作品で、チェコ・ドイツの美しい描写と主人公二人によるロードムービー的旅情、同行するぬこのムッシュがひたすら可愛い様子に油断したところで終盤の謎解き局面で一気にサスペンスが押し寄せる名作。浦沢直樹先生の作画がバシッとはまりそう。
◾️ストライガ / 坊木椎哉 ★★★★★
これは傑作。周囲の人間を狂わす魔性を持つユカリ、彼女に狂わされた平凡な同級生アオイ、理科教師・加木屋がグチャドロになりながら生きる青春譚。ユカリの引力に引き寄せられ内なる欲望を引きずり出された挙句燃えかすになってゆく人間達が実に愚かで素晴らしい。実写化希望だけど、現代の表現への規制的な風潮で実現するかどうかは……。
◾️花のかんばせ / 新居蘭 ★★★☆☆
頭を腐らせる毒を持つ鈴蘭に生まれ変わった男が、その《先輩》から語られる愛と殺意の顛末。語り手の軽妙なべらんめえ口調から江戸譚かな?と見せかけ、途中スルッと登場する刑事や3Dプリンタで現代劇と明らかにする手際は見事。短編落語としてスルッと読める。
◾️愛にまつわる三つの掌編 / 真藤順丈 ★★★★☆
災いを呼び寄せる体質を持つ母娘とその家族にもたらされる愛と孤独の狭間での葛藤『血の潮』、サンタクロースの実在を証明すべく海に漕ぎ出したハルヒっぽい異端科学者の冒険譚『サンタクロース・イズ・リアル』、《8月6日》に恋するあの娘を奪われたパントマイマーの恋物語『恋する影法師』の三作。まるで空気の違う三篇それぞれ、真藤先生流の愛とロマンスにあふれた名作。広島に住む私に三本目は効く。
◾️いつか聴こえなくなる唄 / 平山夢明 ★★★★☆
人類が外宇宙に進出した世界、ある惑星で《ノックス》という生物を飼育する農場管理人の息子がノックスの娘と出会い……。どん詰まりの辺境惑星におけるボーイ・ミーツ・ガールと階級闘争、乾いた世界観と瑞々しい異種間交流、何よりラストのビターさ、全てが美しい名作。
◾️化石屋少女と夜の影 / 上田早夕里 ★★★☆☆
帝都から遠く離れた海辺の田舎町、太古の異形生物の化石堀を副業とする家の娘が浜で出会った、忘れられない老女との出会い。異形生物が掘り下げられるかと思いきや、別の定番SF要素がポジティブなラストへ繋がっていく。ところで「未来から来た存在が、その未来へ繋がるよう過去を誘導する」というのは物凄くパラドクスみがあるな。未来からの介入が前提であり確定している状態において、その存在を今葬ったらどうなるのか?BTTFのドクが言う『時空連続体の崩壊』みたいなことになるんだろうか?
◾️無名指の名前 / 加門七海 ★★★☆☆
幼いころの事故をきっかけに正反対の道を辿る、活発な姉と淑やかな妹。妹が自身の指に名前を付けたことで入れ替わる主従、その指に命じられるまま姉が訪ねた《指の服》を仕立てる謎の店……という話。徐々に狂っていく姉妹と煌びやかな服飾の美しさという描写の対比が良い。二人に救いをもたらす魔法具店……と見せかけて終盤に反転する邪悪さもグッド。
◾️魅惑の民 / 菊池秀行 ★★☆☆☆
かの民を残酷に弄る地下施設のショーを通じた、ナチスの偉大なる総統閣下が抱える民族浄化への葛藤と判断……だと思うんだけど、全ての固有名詞をイニシャルで標記する特殊な表現に加え、総統閣下まわりの記述がものすごくハイコンテキストで、菊池先生とナチ政権両面の素養が足らない私には消化不良だった。テーマの重さは分かるのだが……。
◾️再会 / 井上雅彦 ★★★☆☆
コロナ禍をゾンビパニックにメタファーしつつ、大震災から9年を経ての異形コレ再会に寄せ《狂った現実に創作で対抗する》という井上先生のメタメタしい決意表明。物語単体としての面白さはさておき、再開に際しての先生の強い意気込みは素直に嬉しく、実際これ以降も続刊が続くので井上先生本当にありがとうございます。死と破壊を湛える異形の物語に癒される人間って世の中でイメージされるより多いんですよ、多分。
