異形コレクション LII(52) 狩りの季節
◾️全体 ★★★★☆
狩りというのは関わるものを生きるか死ぬかのエッジに立たせる営為であり、ホラーや異形の物語と相性が良く、好みの作品が多かった。狩られる恐怖だけでなく、狩ることへの執着・狂気・カタルシスを中心に据えた作品も多く、エンターテイメント性もハイアベレージ。お気に入りはスケバン異能バトルというボンクラノベル的『インヴェイジョン・ゲーム1978』とテクノロジーが蓋を開けた現代倫理のエッジに挑んだ『ドッペルイェーガー』。
◾️天使を撃つのは / 柴田勝家 ★★★★☆
中世ヨーロッパ、《天使》を撃つことを生業としているという男の独白。自己満で選択的に的外れな救いをもたらす天使への憎悪、という動機に至った男の背景が実に地獄で良い。愛した女とその息子を壊した天使を駆逐する、そのために天使は絶対に存在するべき、という狂信がグッと来る。出だしから良作。
◾️哭いた青鬼 / 黒木あるじ ★★★★☆
こちらも良作。ジビエ料理店を開くと地方移住しつつもどん詰まりつつある男、妻との冷え切った関係、打開するのは「願いを叶える」という青鬼、というミリもハッピーエンドが想像できない物語は、まさかのグロテスクな幕引きを迎える。姉畑支遁ファンには特にお勧め。
◾️ヒトに潜むもの / 上田早夕里 ★★★★☆
センス・オブ・ワンダーの旗手による『デバイスに擬態する敵性生命体』、岸辺露伴も似た存在と対峙していたが、こちらは静かにかつ大規模に人類を脅かす。しかし、本作は『それ』を狩るものにもスポットライトが当たっており、宿主の犠牲を厭わないやり方への主人公の決別は、果たして自身の意志なのか既に寄生された成れの果てなのか、余白と余韻が残る名作。
◾️贄のお作法 / 清水朔 ★★★☆☆
西南戦争下の鹿児島、殺しに魅せられ狂った反乱薩摩藩士の主人公が任務中に出会った女に温泉郷へ連れられ……。途中で落ちは読めたが、獲物が反転するラストまでストレスなく楽しめた佳作。
◾️赤いニシン / 井上雅彦 ★★★☆☆
かのヴァン・ヘルシングの娘と助手の少年によるおねショタ怪異ハンターが、高貴な幽霊ハンターの語る事件の真相に迫る。途中までクラシックなゴーストホラーと見せかけて、後半に向けて昭和感のある怪奇生物ハントへとシフト。井上先生得意の名作メタ要素が好きな人は星がもう一つ増える感じ。
◾️七人御先 / 霜島ケイ ★★★★☆
朝松健先生が愛し松井優征先生がバズらせた動乱の南北朝時代、みんな大好きムキムキ生臭坊主と生意気少年(不死の化け物)コンビの怪異ハンティングだ!そこそこメジャーな七人御先を「一流呪詛師による人造怪異」として登場させつつ、解決が「不死の相方を生贄にする。相方は死ぬが、即生き返るので術式がバグって無力化する」という力技で笑った。
◾️えれんとわたしの最後の事件 / 澤村伊智 ★★★☆☆
社会不適合な能力者少女とマネージャー兼姉的な女性、という比嘉姉妹っぽいバディシリーズを想起させておきながら本当に「最後の事件」とは思わないじゃん、という意表の突き方。数十年単位で他人を捕食し続ける依頼者の悪意は澤村先生の得意分野。
◾️ブリーフ提督とイカれた潮干狩り / 牧野修 ★★★★☆
異世界が潮流のように基底世界へ《染み出して》来るのに合わせ漂着物を拾う《潮干狩り》を、借金のカタに挑まされるウィッチドクターと謎の《相棒》。目指すは悍ましい手順で仕込まれた特級呪物。牧野修流のグロテスクな独創的世界観が最高で、呪いが発現する描写の邪悪さも素晴らしくシリーズ化してもいい見事な世界観。惜しむらくは起承転結の《結》の尻すぼみさ。もっとハジケて良かったと思う。
◾️ゲルニカ2050 / 平山夢明 ★★★☆☆
戦時下における軍属の兄を待つゲーヲタの弟がのめり込む新作ゲームとは……。台湾有事+民生技術の軍需転換というシミュレーション・フィクションで、巻き込まれた犠牲者の凄惨な描写は平山先生の十八番。ただ、オチはそこそこ早めに読めてしまった。
◾️インヴェイジョン・ゲーム1978 / 伴名練 ★★★★★
何故かスケバンにばかり取り憑いた異星人により個性的な異能を身につけたスケバン達による、仁義なきスケバンバトルの開幕ッッ!!!本アンソロ随一の怪作で、まさかの椎橋先生『神緒ゆい』にて爆現した異能スケバンバトルのフォロアーであり山風・ダンゲロスといったトンチキ能力バトル小説の系譜、かつFGOやら仮面ライダーギーツやらを想起させる壮大な世界観をも垣間見せる、短編で終わるのが勿体無い闇鍋スケバンスペクタクルだ。なお、私の作中フェイバリットスケバンは、体内の極小生物群が攻撃ヒットまでの0.002秒で自らの文明を二千年分進めて対応する《悪食ハルカ》。シンギュラリティ待ったなし。
◾️昼と真夜中の約束 / 王谷晶 ★★★☆☆
現代のNYC、とある人間と交わした約束に生きる不殺の女吸血鬼がヴァンパイアハンターと対峙する。取るに足らない筈のか弱い定命の存在と絆を交わしそれが全てになってゆく、というメルエムの顛末を彷彿とさせるハードボイルドな良作。ボロボロになりながら信念を貫く主人公、彼女を追い詰める美少女ハンター、どちらも良い。
◾️ドッペルイェーガー / 斜線堂有紀 ★★★★★
こちらも秀逸なシミュレーション・フィクション。人間の意識を3DCGにインストールする技術を「VR空間に自らのアバターを作って惨殺することで嗜虐欲を満たす」という、吉良吉影やトガちゃんのサガに対する完璧なアンサーを実践する主人公。背徳的欲求を一切の被害者なく満たそうとする彼女は《悪》なのか?そうした行為に対する生理的嫌悪と内面の自由の相克は?という現代倫理のエッジを攻めた問題提起に感銘。
◾️夜の祈り / 久美沙織 ★★★☆☆
富豪の友人宅に棲むナニカに食われた主人公が、別のモノに変質し……と書くとモンスターホラーっぽいが、コロナ禍での世界の狂騒を絡めながらも穏やかで優しげな友情譚。ナニカについての説明はほぼ無く、ポストアポカリプスとも取れる世界での生き様に焦点を当てた作品だが、パッチワーク感がやや強い。
◾️キングズベリー・ラン / 真藤順丈 ★★★★☆
WW1後のアメリカ、糊口を凌ぐため殺しの片棒を担いでいた男が、時空と世代を超越し多くの人間へ生まれ変わりながら殺人ループを生き続けることになり……。《狩り》に絡めた人間の生の宿痾を呪いつつ、碌でもない人生をそれでも生きる、という逆説的な人間賛歌。ハードで乾いた真藤節が好きならぶっ刺さる。
◾️夜の、光の、その目見の、 / 空木春宵 ★★★★☆
全ての作品から、その内容とは関係なく《夜》と《死》の匂いを感じさせる奇才画家、あるライターが取材のためその奇妙な創作工程に同行し……。こちらも人間賛歌であり創作賛歌。画家を目指しながら筆を折った過去を持つライターが、画家との対話を通じて自分を蓋っていた殻を剝がしていく様が、冒頭から引用されていたシュメール神話と重なっていく流れは読んでいて「おおっ」と唸った。他責に雁字搦めになっている人への叱咤激励。
