異形コレクション X(10) 時間怪談
◾️全体 ★★★☆☆
SFテーマになりやすい《時間》を超自然的な《怪談》とマッシュアップさせるというのを能動的に行った一冊。過去・現代・未来が曖昧になる幻想怪奇はアンビエントな話が多く個人的な好みからそれらには乗り切れなかったが、時間概念に潜む邪悪な怪異を現代的なソリッドさで描いた『0.03フレームの女』と『おもひで女』の二大《女》作品は白眉。
◾️春よ、こい / 恩田陸 ★★★★☆
親友同士の和恵と香織、卒業式の朝の交通事故に巻き込まれ……。約束された事故死を回避するため母娘二代(N代?)に渡り時間をループする2人の少女、これぞ正に百合太極図(違う)。場面ごとの時系列に仕掛けがあるようで何度か読み返しても正確に掴めなかったが、細かいことは抜きにして素直に少女二人のエモを全身に浴びよう。
◾️家の中 / 西澤保彦 ★★★☆☆
主人公が子供の頃に新築された自宅の和室には自分にしか見えない布団が敷かれていたのだが、いつしかそこに白髪の老婆も加わり……。時を経る毎に《若返って》ゆく『ただそこにいるだけ』の怪異を巡って住人が自壊していく話だが、自壊するのは妹だろうと母だろうと犯す特級呪物兄であり、妹である主人公にとってむしろ精神的救いになるという倒錯的構造。
◾️石女の母 / 山下定 ★★★☆☆
原爆投下後の長崎、子供を産めない母の養子として育った主人公、半身不随となったはずの母からの電話を受けた翌日から時間が逆行しているのを感じ始め……。原爆に《呪われた》と信じる母が息子に執着した結果、当の息子を巻き込んだ時間遡行の《呪い》を生み出すという予想外の展開。母の産み直しに巻き込まれ胎児にまで引き戻された主人公にとっては母親こそ厄災、という呪いの連鎖のお話。
◾️墓碑銘 / 倉阪鬼一郎 ★★☆☆☆
北ウェールズの洞窟で何かの作業に勤しむ主人公は、先輩から「励みになる」手渡された怪談実話集のページを開く……。物語の中で物語が展開する入れ子構造の短編。生没年が逆転した墓碑と謎の老婆が関わる死の物語、それを読む主人公たちもどうやら死神的な超越存在であることが仄めかされるが、時間怪談的な要素もいまいち感じられず、乗り切れなかった感。
◾️後生車 / 早見裕司 ★★★★☆
妻と二人で暮らす中年小説家の主人公は、年始に死んだはずの幼馴染から『1999年1月9日 覚えていますか』とだけ書かれた年賀状を受け取り……。オカ研中学生4人組がこっくりさんの暗示に従いアンゴルモアの大王との対決を誓い合うも、死してなおその志を絶やさなかった負のハルヒが四半世紀を経て現実を生きていた旧友全員を時間遡及で引きずり戻す、という暗黒ラノベ。村のSCPオブジェクトによる現実改変を食らった主人公が「この現実は偽物だ」と『目覚め』て愛妻を無慈悲に絞め殺すラストはインパクトあり大変好み。
◾️血脈 / 北原尚彦 ★★★☆☆
『異常者』の血統を抱えロンドンで孤独に生きる主人公、街角の古書店で入手した高名な魔術師の書物を読み気を失った直後、自分が100年前のロンドンに居ることに気付き……。時間遡及により異常血脈持ちである自身のオリジンと邂逅する短編、血脈の正体よりも、博識で知られる北原先生による100年前のロンドンのディテールな描写のリアリティに唸る。
◾️カフェ「水族館」 / 速瀬れい ★★★☆☆
歌舞伎の公演後の興奮を抱え銀座の古風なカフェに入った主人公、窓の外には過去の銀座の光景が広がり……。わずか6ページの掌編、おしゃれでリリカルなお話と見せかけて、死の立ち込める不穏なラストが唐突に現出。
◾️「俊寛」抄 -世阿弥という名の獄 / 朝松健 ★★★★☆
時は室町、世阿弥の弟子である不二夜叉丸は、天覧能の直前に『俊寛』の幻を見る……。室町三代将軍である足利義満に取り立てられた能楽師・世阿弥の史実に基づく、能舞台『俊寛』に魅入られた主人公・不二夜叉丸の物語なんだけど、こいつが強火の世阿弥オタク。舞台上に雪をも降らす『俊寛』の奇跡を一目見たいがために、父憎しで義満の政策の逆を行く足利義持が世阿弥の締め付けに動くに際し「師匠への試練」などと称し虚偽の密告を行うというマキマさんみたいなイカレた挙動。結局全ては天覧能が不二夜叉丸に見せた夢でした、という仮面ライダーゼッツみたいなオチなのだが、万津莫と違って「なんだ夢かあ」で終わり、夢そのままの歴史をなぞるであろうと暗示されて物語は幕を閉じる。予知夢ものが時間怪談かと言われると微妙なところだが、面白かったので良し。
◾️DRAIN / 籬讒贓 ★★☆☆☆
ある列車で目覚めたスーツ姿の主人公。自分のことも含め一切の記憶がないまま駅を出て歩き始めるが……。ダークでアングラな読切漫画。絵柄はシャープかつスタイリッシュで好きだが、物語はあまりに行間が飛んでおりコマ間に何があったのかすら理解に悩む。先生のXアカウントもあったので覗いてみたところ、思想にノットフォーミー感がありそっと閉じた。
◾️むかしむかしこわい未来がありました / 竹内志麻子 ★★☆☆☆
同級生の豊に一方的な好意を向けられた15歳の頃の悪夢を見続けている主人公は、恋人との結婚を前に豊の幻覚を見るようになり……。主人公と恋人、豊とその妹を軸とした悪夢的な幻想怪奇譚。主人公の挙動が分からん過ぎて困惑。中盤の妹とのレズ願望は何だったんだよ。
◾️こま / 皆川博子 ★★★☆☆
地下の部屋には映写機、そこには黒いリボンで飾られた弟が……。3ページの掌編、ガロ的な死と暴力が匂い立つ感じは好き。
◾️0.03フレームの女 / 小中千昭 ★★★★★
ドラマ素材を編集中の男が、ある1フレームにのみ映り込む、何かを叫んでいる女の姿に気付き……。『世にも奇妙な物語』でドラマ化もされた傑作。時間怪談というテーマで『デジタルデータの断片に潜む怪異』を出してくるのは、ドラマ脚本も手がける小中先生ならでは。自分に《気付いた》人間を片っ端から屠る怪異のソリッドな暴力性から、ドラマ放映により全国に降り注ぐ大惨事の示唆まで、コンパクトな中に恐怖が凝縮。見事。
◾️ベンチ / 村田基 ★★★★☆
70歳を過ぎ仕事を引退した主人公、日課として始めた散歩中、いつも同じ公園のベンチに座る老女が気に留まり……。『座っている間だけ歳を取らないベンチ』を巡る、『すこし・ふしぎ』の空気を纏った良サスペンス。果たしてそのベンチは本当に《そう》なのか?がミステリになっていて、そこがまた良き。
◾️雨の聲 / 五代ゆう ★★★☆☆
大雨の中ある家に立ち寄った男、そこに住む女が語る呉服屋の若旦那と女郎の物語……。馬鹿旦那が放蕩の末に身を崩した挙句、時の狭間に迷い込んで女怪異に虚仮にされる……という、ホラー系落語的な、どこかカラッとした話。
◾️歓楽街 / 中井紀夫 ★★★☆☆
馴染みのない歓楽街をぶらつく主人公、初対面の筈の客引きの女から名前を呼ばれ……。ドッペルゲンガーと呼ぶには明らかに実存しているもう一人の自分との、キャバクラでの静かな対話。大人の不条理劇という雰囲気、結構好き。
◾️おもひで女 / 牧野修 ★★★★★
冴えないサラリーマンの男がふと思い出した幼い記憶、そこには実際に居たはずのない恐ろしい要望の女が……。「他人の記憶を現在に向かって《遡上》してくる怪異」という発想、怪異の邪悪な風体、徐々に迫ってくる怪異に削られていく正気とラストの絶望、という全てが噛み合った傑作。望月峯太郎先生の『座敷女』と並び語り継がれてほしい。
◾️夏の写真 / 奥田鉄人 ★★★☆☆
ある家族が夏に撮り続けた家族の写真……。セリフの無いサイレント漫画というかイラストストーリー。家族が成長し老いて死んでいく中、一切成長しない異形の長男のガリガリのビジュが好き。
◾️喜三郎の憂鬱 / 加門七海 ★★★☆☆
関東大震災に巻き込まれ五年間記憶を無くしていた喜三郎、記憶を取り戻し自宅へ帰還すると、そこには自分そっくりの子供がおり……。静謐な幻想怪奇である本作、震災による《魂の輪廻》が起きたが、大人の喜三郎が記憶を取り戻したことが《バグ》として作用し喜三郎自体の存在が消失した、と解釈した。どうしてもSF的な理屈を見出すような読み方をしてしまうな……。
◾️クロノス / 井上雅彦 ★★☆☆☆
クロノスと呼ばれる殺し屋が持つ古の記憶、そこにら半神の庭で共に遊んだ少女がおり……。ギリシャ神話モチーフのハイコンテキストがてんこ盛りで、殺傷を『なかったことに』する、神隠しを起こす弓矢を筆頭に諸々ピンと来なかった。詳しい人の解説がないと厳しい短編、厳しい。
◾️家族が消えた / 飯野文彦 ★★★★☆
両親が突然蒸発し、新聞配達をしながら兄と暮らす小学生の信也、ある日その兄までもが蒸発、残されたのは置き手紙と一人の老人……。ファンには嬉しい直球のジャパニーズ・クトゥルフもので、深き者どもが時空を超え仕掛ける侵略は子供だろうと容赦なし。素晴らしい。
◾️塔の中 / 安土萌 ★★★☆☆
子供の頃に博物館の塔に妹を閉じ込め逃げた姉、大人になり再訪したその博物館で……。7ページの掌編で語られるのは姉妹同士のループなのか、妹の復讐による終わりのない罰なのか。
◾️時縛の人 / 梶尾真治 ★★★★☆
夢であるタイムマシンの開発に人生を下げた男、独自の理論に基づき完成させたマシンで過去を訪れたところ、そこで出会ったのは……。井上先生の紹介文に「これは時間怪談ではなく幽霊モノの時間SFです」と書かれており、実際本作は『怪異をサイエンスで説明する」というカジシン的SFスピリットの賜物(そっち方面に特化した『心霊理論』というテーマで後々一冊できるけど、本作が念頭にあったのかもしれない)。霊が何かしら現実に作用できるなら、確かにそれはエネルギー足り得るよな。呪モジュロはこの辺をもっと掘り下げて欲しかったとちょっと思っている。
◾️桜、さくら / 竹河聖 ★★★☆☆
友人と観光で春の吉野を訪れた七菜子は、一人で山桜を見ようと山に踏み込み、怪異に遭遇する……。何かに誘われて人里から山深い異界に迷い込み、謎の儀式を遭遇し怪異に追われる……、と、洒落怖エピソードの源流を感じさせる。亡き祖母の言葉とかつての飼い猫が生還に繋がる点も洒落怖っぽい。
◾️踏切近くの無人駅に降りる子供たちと、老人 / 菊地秀行 ★★★☆☆
近所の無人駅近くの踏切を訪れては、日がな一日そこに佇む主人公の義祖父、彼はその理由を思い出せず……。義祖父がポーランド人であることが叙述トラック的に明かされる中盤で明らかになる彼の生涯にわたる罪悪感は、過去の呪いそのもの。超自然要素のない、人の引き起こした厄災をトリに据える編集、良い。
