見出し画像

異形コレクション IV(4) 悪魔の発明

◾️全体 ★★★★☆
《発明》という言葉が何故かクラシックなイメージを想起させるのか未来SF的な作品はなく、昭和や近代ヨーロッパなどの舞台設定も多い。クトゥルフやSCPのような「とても人類の手に負えないし、克服などできずただ翻弄されるのみ」的要素が好みなので、『<非ー知>工場』や『ハリー博士の自動輪』あたり特にお気に入り。


◾️大いなる作業 / 篠田真由美 ★★★☆☆

 ある老いた画家が彼に従う青年に語った自身の出生の秘密、そした従者の青年もまた……。タイトルと画家の生い立ちから察される歴史の超重要偉人、彼が関わった大いなる業と言えば?もうお分かりですね!という作品。ちょっとアレすれば武装錬金ゼロとしても読める。

◾️イモーター / 小中千昭 ★★★☆☆

 とある事務所に持ち込まれた永久に回るモーター《イモーター》を調べる過程で、関係者が次々と行方不明になり……。実際に起こったEMAモーターに関わる騒動を下敷きにした、永久機関に関わる小品。この世界に永遠が存在しないのであれば、永久機関の稼働要件とは?から逆算された、久遠の闇に突き落とされるような切れ味のラストは良いけど、物足りないかなー。

◾️<非ー知>工場 / 牧野修 ★★★★★

 ある超常現象研究家に降り掛かる説明不可能な現象、そして何かに導かれるように訪れた正体不明の施設で彼を迎えた男はそこを<非ー知>工場と呼び……。初期異形コレの傑作で、人智を超えた超常現象《生成》実体は、開発過程や挙動含め、SCP自体の始祖とも言えそうな重厚で狂気的な存在感を放つ。マジでSCPバースの要注意団体である『ザ・ファクトリー』の元ネタなんじゃあないか。

◾️星月夜 / 横田順彌 ★★★☆☆

 お馴染み押川春浪回顧録、本作は押川先生が仙台で出会った草下教授の研究室が火星との通信に成功し、火星人との会談のため自転車ベースの時空転移装置で火星へ飛ぶ、というムーめいた珍篇。どう考えてもオーバーテクノロジーな装置を三完徹ぐらいで完成させた大正時代の東北の技術、恐るべし。

■死の舞踏 / 井上雅彦 ★★☆☆☆

 ある<父>が創った夢を見せる機械と<父>の正体にかかわる掌編。正直書くことがない。

■雪鬼 / 霧島ケイ ★★★☆☆

 雪深い村から上京した主人公。新宿を大雪が覆った日に出会った謎の男が語る、村の忌まわしい過去と産み出された怪物とは……。呪術を科学史の一部と解釈しての《蠱毒》を扱った、ストレートな短編。我儘な恋人の素顔とかつての叔母を重ねるアクセントで暖めつつしっかり落とす結末は良かった。

■明日、どこかで / 山田正紀 ★★★★☆

 家出少女のリツコは、新宿で出会った中年男性から「ある駅のロッカーを開けてほしい」という奇妙な依頼を受ける。そのロッカーには腐臭を放つドロドロの有機体が入っており……。謎を追うリツコの前に積み重なる死体、閉鎖されたゲノム解析プロジェクト、全く見えない事件の全貌、とクトゥルフマインド溢れる佳作。狂った淡々さというか、現代モキュメンタリーを感じさせる描写も好み。人がゴミのように死ぬホラーは良い。

■レタッチ / 我孫子武丸 ★★★☆☆

 見知らぬ部屋のベッドで目を覚ました男。混濁する記憶の中、回復を喜ぶ意志と家族の姿に驚愕し……。ミステリー的な導入から謎が深まり、種明かしで一気にSFへと転換。外部デバイスにより知覚を『レタッチ=書き換える』技術は「もうそこにある」ものとして渡辺浩弍先生の『ゲーム・キッズ』でも取り上げられていたが、今起こってることとしては、SNS上のエコーチェンバーなんかがある意味近いのかも。

■よいこの町 / 大場惑 ★★★☆☆

 格安の新築マンションを購入した夫婦の夫。浄水器を買い求めようとした際の違和感をきっかけに、町ぐるみ・国ぐるみの陰謀の存在を感じ取ってゆく……。超少子化が行くところまで行きつつある令和の時代、安価な住環境提供を通じた若年カップルへの生活支援に排卵誘発剤と催淫剤、と硬軟織り交ぜた鮮やかな少子化対策を施す政府が普通に有能に見えてしまうのがバグ。

■果実のごとく / 岡本賢一 ★★★☆☆

 ある夜、乗り慣れたはずの電車が見知らぬ駅に辿り着き、そこで出会った男から謎の施設での奇怪な労働を強制される……。首だけで地面に植えられ生き続ける人間達、という強烈な情景から予想される《実験》の末路は上位存在によるクトゥルフ的な宇宙規模の怖さへ。

■決して会うことのないきみへ / 森岡浩之 ★★★★☆

 新薬の治験バイトに誘われた大学生。薬を飲まされて眠りから覚め、奇妙な違和感を覚えながら帰宅すると、そこには……。不老不死技術の方法論としての「若い体をスナッチする」も(これまた)渡辺浩弐先生の『ゲーム・キッズ』で提唱されていたが、それを試行した結果「パラレルワールドの自分と入れ替わる(不老不死としては失敗)」というSF的アイデアの飛躍が面白いだけでなく、他の世界線からの入れ替わりが強制発生する恐怖へと接続されており、超名作『酔歩する男』を感じさせる読み応え。

■F男爵とE博士のための晩餐会 / 芦辺拓 ★★★☆☆

 大正時代に来日した(史実!)アインシュタイン博士と、かの有名なフランケンシュタイン男爵が大阪で奇跡の邂逅を果たす話。フランケン男爵の実験を「肉体と精神の欠損の治療」と解釈し、そのために必要な膨大なエネルギーを得るための相対性理論、という二者の接続の仕方はスパロボのクロスオーバーみたいなワザマエを感じる。作中で語られた優生思想への警鐘は、ステロタイプなナチズムだけでなく「いい人だけの国」みたいな左派の腐り具合やSNSに蔓延する整形への狂信など、21世紀において受け取るべき側の間口が大きく広がってる印象。ナチズムは俺にもお前にも。

■32 / 斎藤肇 ★★★☆☆

 ある春の日に河辺で出会った謎の紳士。招かれた彼の家での出来事をきっかけに、彼との悪夢を毎晩見るようになり……。造られては死ぬ複数のホムンクルス実験体の記憶がオリジナル体と夢でリンクする幻想的な展開で、どこか穏やかに破局を迎える。

■俊一と俊ニ / 田中啓文 ★★★☆☆

 大学を辞めて山奥の古い洋館で独り研究に没頭するロボット研究者の俊一。彼を訪ねた婚約者は、そこで俊一の造り出したロボットである”俊二”と出会い……。致死的に共感能力が低い悲しきモンスター・俊一が自ら招いた悲劇。俊二の造型のグロテスクさは田中先生の面目躍如。

◾️空想科学博士 / 岡崎弘明 ★★★★☆

 時は高度経済成長期の日本、少女漫画家の婚約者と共に訪ねた主人公の実家には発明家の祖父と彼による奇想天外な発明の数々が……。『耳が遠くなり寂しいので家族全員を大声量にする光線』などを悪気なく繰り出すオーバーテクノロジーじじい、挙句婚約者からのインスピレーションを得て全世界に放った『喋った言葉が全部吹き出しになる電波』はもうホラー小説というよりスケットダンスの味でしたが、締めは何気に「超天才は今際の際に何を考えるのか?」に対する恐怖の一例が提示され良かった。

◾️ラジ・ザ・モンスター / ラジカル鈴木 ★★☆☆☆

 平成前期ヴィレバン風味のCG絵本短編。内容については特にコメントなし。

◾️ビデオの見すぎにご用心 / 友成純一 ★★★☆☆

 福岡で次々と起こる不審死に、全員がビデオ視聴中に死んだと推定される中、刑事は全員のビデオデッキを修理したという電器店のオヤジを訪ねるが……。『ドラえもん』よろしくビデオを媒介に欲望を具現化する方法を見出したオヤジ、下劣な映画を好む奴は下劣に死ねば良いのだ!というご高説にはきちっと報いが用意されている。それはそうと、ロメロのゾンビごとき具現化したところで勝てるか最悪逃げ切れるだろ何で為すすべなく喰われてんだバカ、という気持ちは沸いたり。

◾️白雪姫の棺 / 田中文雄 ★★★☆☆

 広島から上京し受験勉強に励む浪人生、ある嵐の日に下宿の向かいの館の窓に、助けを求める女の姿を見かけ……。東京山手版のフランケンシュタイン悲話、禁欲的に東大を目指す浪人生の自制心を粉々にするタイプの謎の女、フェティッシュで良かったぜ……。

◾️スウェット・ルーム / 安土萌 ★★★☆☆

 あるヨーロッパの古城を散策する主人公が偶然見つけた拷問室にまつわるショートショート。劇中に登場する、ねじ式で対象の口腔を破壊する《洋梨》は何か平山夢明関連で読んだ覚えがある。拷問と言えば信頼と実績の夢ちゃん。

◾️柴山博士臨界超過! / 梶尾真治 ★★★★☆

 学会の会場で発生した原因不明の爆発事故、それにはある博士の壮絶な過去が関係していた……。狂った博士の所業と見せかけて、『俺のことが死ぬほど好きな天才ヤンデレ彼女と結婚したら最高の頭脳と魅力の持ち主に改造された上に嫁の死後も他の女へ欲情すると自動で絞殺するひみつ道具を縫い付けられたでゴザル』という地獄案件。何故ライダーたちはわざわざ岩舟山で怪人をライダーキックするのか?に対するアンサーにもなっている。名作。

◾️断頭台? / 菊地秀行 ★★★★☆

 フランス革命前夜のパリ、ある貴族のパーティを訪れた汚い身なりの農民が、王に推薦して欲しいと持ち込んだ『断頭台』は異常な性質を持ち……。処刑道具型SCPオブジェクトのTaleという味わいだが、パリの貴族やそれにすり寄るクソ権力者への下剋上譚でもあり、その意味で爽快さのある読後感。

◾️ハリー博士の自動輪ーあるいは第三種永久機関ー / 堀晃 ★★★★☆

 とある新興国で研究を行うかつての学友ハリーから助力を請われた主人公。そこには、ハリーの産み出した『永久機関』の組み立てが行われて
いた……。『情報』を食って生きている、と言われる現代社会ならではの、エネルギー保存の法則克服のアイデア。人類文明そのものが熱に融けてゆく静かなラスト、こういう人類の果てをシミュレートするようなSFが実に好き。


いいなと思ったら応援しよう!