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異形コレクション VIII(8) 月の物語

◾️全体 ★★☆☆☆
 トータルでは退屈気味。月に対する幻想的な側面を取り上げる作品が多く、狂気や巨大天体としての恐怖といった「ホラーとしての塩分を上げる」ような要素が少なく物足りなかった中、カジシン先生のバカ竹取物語SFと菊池先生のアウトロー純文というベテラン作品が目を引いた。読み返す頻度は少ないか……。


◾️月光荘 / 安土萌 ★★☆☆☆

 引っ越した丘の上の館は、満月の夜の月光を浴びることで大きく様相を変える……。住人が幽霊に《なる》館という数ページのショートショート、ちょっと印象には残らなさそう。

◾️プレイルーム / 倉阪鬼一郎 ★★☆☆☆

 執筆に行き詰まり母校の小学校を訪れた男は『月夜の晩に、プレイルームへ行ってはいけない』という言葉を思い出し……。異世界に閉じ込められる系のショートショート、こちらも薄い。

◾️死んでもごめん / 若竹七海 ★★☆☆☆

 病気で自宅療養を続ける少年と犬のポチ、向かいの家の男が狼男でかつ猟奇殺人事件の犯人であると疑い……。こちらも数ページの掌編、余白の多い筋書きだが肝心の余白への引き込みを感じ難い。

◾️銀の潮満ちて…… / 松尾未来 ★★★☆☆

 ある夜に盛り場で出会ったヨーコとシティホテルでの淫靡な逢瀬を重ねる主人公、そして……。十月十日までセックスを続けた挙句に対象の男を愛液で溶解させ子宮に取り込むことで肉体の若返りを図る、という四半世紀前に描かれたのが信じがたいなかなか前衛的なドスケベサキュバス譚。こちらも読み応えとしては物足りない掌編だが、エロというフックに釣られてつい星を盛ってしまう。

◾️月見れば—— / 草上仁 ★★★☆☆

 《丸いもの》を見ると変身してしまう、という病的な恐怖を抱き暮らしている恋人をショック療法で矯正しようとする女が……。丸いものを凝視することで、自身ではなく見つめた《対象物》の方を異形の怪物に変身させるというアイデアが面白い。月のような巨大なオブジェクトまで対象に取れることも示唆されるKeter級の能力者一族、とっくに滅ぼされているか逆に人類の方がとっくに滅んでるかしてないと無理があるのでは?

◾️月盈ちる夜を / 篠田真由美 ★★★☆☆

 イタリアを放浪する主人公は、マテーラという街で夜ごと石造りの廃墟で月光を浴びる魅力的な女と出会い……。《月》というテーマから美と魔性が連想される作品が多い中、本作もコケティッシュな異国の出会いと別れがテーマ。オチが「女は普通に日光アレルギーを克服したくて月光の力で銀色のウロコの肌に生まれ変われたけど主人公が魚鱗恐怖症だったので裸足で逃げ出しました」は流石に女が可哀そうすぎた。

◾️ぶれた月 / 岬兄悟 ★★★★☆

 フリーのライターである主人公は、視界のぶれをきっかけに『もう一人の自分』の存在を感じ始め……。ドッペルゲンガーものとしては分身の行動の邪悪さが一線を越えており、信号待ちの他人を車道に突き飛ばして轢死させる、自宅で妻をレ〇プ、などの容赦ない突き抜け方がグッド。

◾️killing MOON / ヒロモト森一 ★★★☆☆

 狼男と人間の混血である最後の人狼ノラ・ミャオ、その血を欲する謎の医師ジョン・ドーとの闘い……。ポケモンのキャラデザでも知られるヒロモト先生の読み切り漫画。万全の体の血を味わうために手負いのノアを助け「また1週間後に来い」と告げるもすっぽかされのたうち回るジョン、萌え。

◾️月の上の小さな魔女 / 青山智樹 ★★★☆☆

 月面都市に住む10歳のリカは、クラスメイトであるチャコと喧嘩を繰り返し、彼女を呪い殺す方法を調べ始め……。月面で丑の刻参りを行うため頑張るリカを微笑ましく読んでいたんで、その呪いが成就した展開に「それはちょっと話が違くない?」という良い裏切り感。

◾️地球食 / 堀晃 ★★★☆☆

 月面の裏側、かつて土地を追われた月族の子孫として、地球の《食》を利用してある地域に中性子爆弾を打ち込む直前のスナイパーによる犯行声明……。スナイプ対象はどこだったのか、未遂に終わった原因は、等計算器片手に特定したくなるハードSF掌編。

◾️六番目の貴公子 / 梶尾真治 ★★★★★

 今は昔、竹取りの翁の娘である『なよ竹のかぐや』に一目惚れをした『かじのもとのしんひと』は、結婚の条件の品である『西方の鵺の子』を求め壮大な冒険に挑む……。カジシン先生のバカSF、今回は竹取物語で語られなかった6番目の男が巻き起こす一大スペクタクル叙事詩。天竺のぬえ丸(どう見てもインド象)に跨り、かぐやが帰還したという月を目指し富士登頂に世界一周、果てはかぐやの遺した竹を使った月旅行まで、かじのもとという圧倒的な猪突猛進キャラのストーリー牽引力が見事。

◾️落葉舞 / 横田順彌 ★★★☆☆

 最近どことなく心が晴れずアルコール依存症気味の押川春浪、龍岳達いつもの面々に、かつて体験した奇妙な離魂体験を語る……。横田先生定番の押川春浪回想録、今回は外宇宙の老人に地球から魂を引き寄せられるというSFエピソード。月が増えたため月経が来なくなり滅んだ文明、という奇想に自身を老人の見る夢に過ぎないのではないかと疑う春浪先生、という合間合間にいちいち天ぷらそば食いながら仲良く談笑するので特に怖さや緊張感はない、といういつもの味。

◾️月夢 / 岡本賢一 ★★★★☆

 災害の少ない安全な月面でコールドスリープし難病の治療法を待つサービスのニュースを眺める主人公、過去自分を助けて沼で溺死した祖母の幻聴を聞くようになり……。本作の出版は1999年、渡辺浩弐先生が『ゲーム・キッズ』でアルコア財団の冷凍睡眠サービスを取り上げてしばらく経った頃で、そこに『月面』と『低重力下では脳波から悪夢を感知できないかも』という発想を組み合わせた上で『トラウマ源である祖母が無限増殖して襲ってくる』という強烈な悪夢の描写が見事。これはすごく厭だ。

◾️シズカの海 / 北野勇作 ★★★☆☆

 シズカが小学五年生だった頃、世界の話題はアポロ11号と万博でもちきりだった……。ノスタルジックでヘンテコな北野勇作節を味わっていたところ、死んだクラスメートと彼が世話をしていた猫が楽しく暮らす並行世界の夢のくだりで唐突に脳内にフラッシュバックする、某青い猫ロボの記憶。それかい!!!!

◾️蜜月の法 / 牧野修 ★★★☆☆

 ここならざる世界の住人と思しき異形の3人と、10年以上心を閉ざし続ける娘を治癒する術を求め奔走する元刑事が、とある山小屋で出会う……。世界が発狂し崩壊するという筋は牧野先生作品では頻出だが、その過程や結果におけるカオティックな描写が好きな私としては本作の描写は作中人物による言葉での説明が大部分を占め、物足りなさが優った。

◾️月光よ / 眉村卓 ★★★☆☆

 検診で再検査を告げられた老年手前のフリーライターである主人公は、夜の散歩中に《月光》から話しかけられ……。月面に存在すると思しき、地球の生物の意識を採取しどこかに送信するという目的不明のオブジェクトと偶然対話する男、という話。広がるとすごく壮大な物語にも展開しそうだが、1人の人間のSF(すこし・ふしぎ)譚として静かに終わる。これはこれで。

◾️穴 / 高橋葉介 ★★☆☆☆

 埋めても埋めても気付けば外に現れる死んだ女を、ひたすら穴を掘り埋め続ける男……。高橋葉介先生の短編読切漫画、学校怪談のワンエピソードという塩梅。

◾️飛鏡の蟲 / 朝松健 ★★★★☆

 土一揆で敗走し美しい寺院に辿り着いた地侍に怪しげな声が語る《鏡》の恐ろしい逸話……。畠山一族の身内争いに足利将軍家の内輪揉めが重なり京を焼き尽くすまでの惨事に至った応仁の乱が、朝松先生定番・真言立川流由来の特級呪具により足利義政・日野富子・足利義尋の心の暗部が開かれたことで巻き起こった、という暗黒If、史料における義政・富子まわりのろくでもないエピソードから察するに史実も大して変わらなかったんじゃね説が辛い。

◾️月はオレンジ色 / 霧島ケイ ★★★☆☆

 川の水の汚染に苦しむ小さな町に住む主人公の少年は、自分にしか見えない『ケンジ』と陸橋から夜の月を眺めるのが好きで……。屈託のない悪意をにじませる『ケンジ』、よそ者としての孤独を抱える担任の先生との交流。穏やか。

◾️影女 / 南條竹則 ★★☆☆☆

 根岸の伯父に連れられた玉助、向かった先は一家全員が死んだ幽霊屋敷で……。月夜の晩に例が出ると評判の事故物件に不法侵入して晩酌をするというマジキチおじさんとイカれた仲間たち、特に危害を受けることもなく愉快に霊を見物しており胆力がすごい。残念ながらラストのオチが全く分からず、Not for meということで星二つ。

◾️シャクティ<女性力> / 大原まり子 ★★★☆☆

 中澤は近衛デパートに勤める靴のスペシャリスト、売れっ子作家である紀野せりかとの販売トラブルを通じて、デパートが祀っている『大黒様』の力に接する……。真言立川流でおなじみ荼枳尼天がもたらす奇縁の話、特に怖くもないしインパクトも薄いが、シューフィッティングに関する主人公の蘊蓄パートが普通に面白かった。ジョジョの本筋に関係ない料理蘊蓄みたいな、作者の取材力の高さがモノを言う面白さ。

◾️掬月 / 竹河聖 ★★★☆☆

 クラゲを部屋に飼う孤独な主人公は、寡黙で感情が見えないアキを誘って水族館デートへ行くが……。綾波みたいな雰囲気を湛えるアキに加虐性を高め、最終的にはダム池にアキを落としては助けまた落とすという凶行を居るはずのないクラゲの群れが見つめる幻想譚。李白の詩の引用から始まる短編だが、キャラたちへまるで感情移入しにくい点も含め中国古典っぽさあり。

◾️石の碑文 ―「Kwaidan」拾遺― / 加門七海 ★★★☆☆

 伯耆の国の美しい浜、そこには「月夜には海から光の道が浜に渡り、恐ろしい影が渡ってくる」という言い伝えがあり……。幼女が怪異に斬首される、シンプルかつストロングスタイルな怪談。この小泉八雲リスペクトの作風、当たり前っちゃ当たり前だけど新耳袋や超怖といった実話怪談はすごく忠実に受け継いでいるんだな。オチの感じとか超怖で死ぬほど読んだ。

◾️欠損 / 菊池秀行 ★★★★☆

 トラックドライバーの主人公は、一時期共に暮らしていた同世代の従妹であるさつきが病床から会いたがっているとの連絡を受け……。これは純文。何かが欠けているが何が欠けているのかは検討も付かないアウトローと、それに惹かれ傷付く女達。病院からさつきを連れ出す主人公を止めようとする看護婦を唇で黙らす文化財級の描写も含め、菊池先生の筆が乗っている。

◾️知らないアラベスク / 井上雅彦 ★★★☆☆

 街で『私』に語りかける知らない男、彼が物語る、古郷での《御月様》を巡る恐ろしい出来事とは……。満月の夜に月の色に発行する死んだ女が地面から這い出す異常エピソード。『私』の正体に関する叙述トリックは見どころ。

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