異形コレクション VII(7) チャイルド
◾️全体 ★★★☆☆
子供テーマ故の手加減・ハートフルな展開が目についたこともあり、ホラーアンソロジーとして全体のパワーは少々弱め。逆に、新たな命の誕生や若さへの《希望》を逆手に取ったような数作のインパクトは凄く、カフカ的不条理劇に現代的なグルーブ感がレイズされた『サトル』、例外なき17歳での死という圧倒的な救いのなさに翻弄される人間を描く『去りゆく君へ』は珠玉の出来。
◾️グリーンベルト / 矢崎存美 ★★★☆☆
轢き逃げで遭遇し、死に場所であるグリーンベルトで独り退屈を持て余す6歳の地縛霊、ある日そこに自動車に遭遇した女性が跳ね飛ばされてきて……。一作目は10ページに満たない小品だが、『霊は生前の家族も何もかも忘れる』というルールが無慈悲な怖さを醸す。
◾️かいちご / 朝松健 ★★★☆☆
応仁の乱頃の室町時代中期、土佐の豪族である一条教房は、領内で布教を行う立川流の行者を斬るよう命じる。それは、同行していた貝殻のような手を持つ異形の稚児を通じた、教房やその子孫である兼定を襲う呪いを巻き起こすことに……。朝松先生定番の邪教・真言立川流もの。教房は直接的な復讐として、四代後の兼定は暗愚の主として、それぞれ呪いを浴びることになるのだけど、その間の代が無事だったのがしっくり来ない。こういう呪いはきちんと全員酷い目に合わさないと邪教の名が廃るぞと思ったり。
◾️マリオのいる教室 / 山口タオ ★★☆☆☆
大自然に囲まれた学園に教師として赴任した主人公、肺炎に侵され命を落とした生徒の1人・真理生の親から「子を模した蝋人形をクラスに置いて欲しい」という奇妙な依頼を受け……。ホラーアンソロジーに期待する邪悪な展開がまるで起こらないハートウォーミングな一作、ティーンのホラー入門には良いかもだが、雨穴とか嗜む濃い味に慣れた現代っ子には……どうかな……。
◾️金霊 / 南條竹規 ★★★☆☆
ある日玉助が根岸の伯父さんを訪ねると、いじめられて登校を渋る子供を連れ込んでいた。何を思ったか裏山に同行させた伯父さんだが……。登校拒否時を山に連れ込んで山の霊の依代として利用し埋蔵金のあり方を聞き出すフルスロットル外道な伯父さん、両津みたいでイカす。
◾️黄昏の歩廊にて / 篠田真由美 ★★☆☆☆
誰もいない晩秋の黄昏の街を歩くひとりの男、そこに輪回しの少女と出会い……。シックス・センスギミック入りの掌編。特に書くことがない。
◾️母の再婚 / 田中文雄 ★★★☆☆
夏休みに地方の父を訪ねた主人公。10歳以上年下の義母には誰かの存在が付きまとっており……。主人公、父、義母の元夫による義母を巡るミステリー、一切直接描写がないのに高濃度のエロが全編に漂う職人技を感じる。
◾️帰ってくる子 / 萩尾望都 ★★★★☆
死んだ弟『ユウちゃん』が《視え》る主人公が徐々に心をすり減らしていき……。まさかの萩尾望都先生による描きおろしの読み切り漫画。話自体は家族の喪失を経験した遺族の再生という今となってはありふれた筋だが、短い中での構成やキャラクターの心理描写は見事。何より、あのSF漫画界のレジェンドが異形コレクションにオリジナルの短編を載せている、という事実には感嘆。
◾️絆 / 安土萌 ★★☆☆☆
息子を切望し、産まれてきた娘を息子ととして育てようと抑圧し続ける主人公、ある日娘がシェパードを買いたいと言い出し……。本作も切れ味鋭いショートショートだが、非業の死を遂げた娘の《死に顔》についてすっと理解できなかった。六部殺しみたいな話だったの?
◾️アリアドネ―<迷宮の女主人> / 奥田哲也 ★★★☆☆
あるギリシャの島で遺跡発掘プロジェクトの隊長を務める主人公。そこには腕や脚の石像が多数発掘されており……。化粧品会社がスポンサーの《女性のみの遺跡発掘プロジェクト》を積極的に利用する野心的な女性主人公、女子枠導入により他人の腹で切腹したがる老人が多発する令和において、より生々しいリアリティが出ている。
◾️愛児のために / 飯野文彦 ★★★★☆
フリーのライターである主人公、勤め人ばかりの昔馴染みとの飲み会に馴染めず泥酔したまま一人転がり込んだ深夜のミスドで、黒のコートを身にまとった謎の紳士と相席することとなり……。「子供を食ったことがあるんですよ」という紳士の独白から物語にドライブがかかり、臨界を超えての激昂と暴力の末に明らかになる二人の繋がりと悍ましくも悲しいラスト、グロ展開の得意な飯野先生ならではの良作。(ほぼ異形でしか飯野先生を知らなかったけど、井上先生の紹介文曰く『下級生』のノベライズ書いてたの?マジ?)
◾️幼虫 / 竹川聖 ★★★★☆
妊娠・流産を経て事実婚状態の夫が前妻との離婚を成立させるのを待つ主人公の麗子は、自宅の壁から赤子の泣き声を聞くようになり……。不倫愛の《熱》が冷めることで夫の自己中心性を理解し、再び身ごもった子を《芋虫》のように感じてゆく麗子が、それを言語化させることで感情を爆発させるシーンは良。悪夢的なビジュアルをきちんと《見せて》くれるラストも好み。虫のごとく自己の快楽だけを追う夫と、そんなクズに蛾のごとく引き寄せられた麗子、まあ割れ鍋に綴じ蓋というか……。
◾️サトル / 岡本賢一 ★★★★★
ある日、妻の左足が腫れているのを見つけた主人公。医者にかかるのを億劫がる妻を尻目に足の腫れは悪化していき遂に裂けてしまうが、そこから出てきたのは異形の芋虫だった……。本作でも随一の異形さとドライブ感が光る名作。誕生の翌朝には妻の半身を貪り食っている何もかも狂った幼虫だが読み進めていくと妙な愛嬌があり、徐々に脳内イメージが蟲の化け物からパペットスンスンに塗り替えられていく。通報に応じた警官が蟲を発見した刹那ノータイムで銃をぶっ放し妻の頭を撃ち抜くなど、描写のテンポも神。何でか分からんけど感動するラストまで、畳みかける「そうはならんやろ」の数々に感銘を受ける。
◾️一郎と一馬 / 森奈津子 ★★★☆☆
一郎は、父の一馬が母親の写真を一切見せてくれないことを不審に思い、それを日記に綴る……。「ほぼ」一郎による手記により構成される掌編。二人が成長と若返りをひたすら繰り返す、というセンスオブワンダー溢れる現象には一切の説明が与えられないが、そこが良い。
◾️臨 / 斎藤肇 ★★★☆☆
知の導師・トークムゥは、王妃による《国産み》が近いことを陰の導師・ヴィシュアより聞かされ、その介助の役割を果たすべく舟で王妃の元へ向かう……。王と王妃は太陽と月の象徴であり、異世界ファンタジーと見せかけた惑星創生SFとも読める壮大なスケールの作品。
◾️少女俱楽部 / 宇野亜喜良 ★★★☆☆
イラストレーション界の巨匠・宇野亜喜良による、フェティッシュでエロティックな詩とイラストの連作。萩尾望都先生といい、本作は小説外のゲストとしてものすごい大物が参戦しておりビビる。
◾️屋根裏のアリス / 本間祐 ★★☆☆☆
本をこよなく愛しながらも、父親は本の虫に殺されたと言い本から遠ざけようとする母親との板挟みに苦しむ絵里香は、転校生の摩椰と出会い……。『不思議の国のアリス』の物語を通じて母親からの逃避と解放を達成する話、メリーバッドエンドでいいのかな?いまいち琴線に触れなかった。
◾️つばさ君 / 江坂遊 ★★★☆☆
いつものようにつばさ君の部屋を訪ねた家庭教師の先生、するとつばさ君は「鳥になりたいと思ったら、本当に鳥になれた」と話し始め……。自身だけでなく他人も鳥になれるスタンドを身に着けた少年のホラーショートショート。木のような植物まで対象にできる強力な能力、スケアリー・モンスターズ⁽ディエゴ版⁾より更に使い勝手が良さそう。
◾️子供という病 / 太田忠司 ★★☆☆☆
病室に隔離された『ぼく』、喋る恐竜の骨、擦り減る看護婦による幻惑的な世界……。子供を《治》そうとする大人と、そんな世界を捨てる子供という世界観を描いたショートショートだが、ちょっと乗り切れなかった。
◾️インナー・チャイルド / 岬兄悟 ★★★★☆
小説家の主人公は、周囲に存在しない子供の影を感じるようになり、ある日その子からの体当たりを受けたことで、体内にまで入り込まれ……。この手の憑依もので珍しい『物理的にも体内に子供が入り込む』パターン、肛門から子供の腕がにょきっと飛び出てチンを握られ悶絶、みたいな半分ギャグに近い展開が続くも、最終的には過去の自分との『時空を超えた』入れ替わりという意表を突く真相。全体的なゆるさや唐突な結末含め、藤子F不二雄氏のSF⁽すこしふしぎ⁾スピリットが強く感じられる佳作。
◾️夢の果実 / 高瀬美恵 ★★★☆☆
三年に一度、畑に子供を植えて収穫する風習があるオチの里、今年は与一の家の次女のユウが埋められることになり……。埋められる子供の夢と空想を養分に育つ木と実にまつわる残酷民話とでも言うべき掌編。ユウは掟に従い粛々と埋められ、祖母にも父にも天罰は下らず、三年後には新たな子供が埋められる、という容赦のなさが見事で、デバフかけなきゃ子供向け民話集への掲載は不可能な感じも含め、民話っぽいリアリティがある。
◾️魔王 / 山田正紀 ★★★☆☆
醜い顔に生まれた主人公は、その姿を蔑まれ続けたことで子供を『悪の種』と断じ次々と殺す……。悲しき過去を持つシリアルキラーだが、幼少期のトラウマを学問の道へ進むことで昇華しかけていたのに、自宅に侵入した上「うわあ、本当に醜いや」などと本人に直接抜かしたガキに殺人衝動のトリガーを引かされ、普通にかわいそう。あのガキだけは残当過ぎる。
◾️魔王さまのこどもになってあげる / 久美沙織 ★★★☆☆
ある日『魔王』は、全知全能の<彼>に『子どもをつくりたい』という悩みを打ち明ける……。ラージヒル用のスキージャンプ台からボードで飛ぶ魔王というかっとんだ描写から始まる本作だが、魔王の独白の合間に挟まる少女たちの地獄エピソードオムニバスが本編。魔王の願いという縦軸との絡みがいまいち読み解けなかったが、ラストから察するに女性への抑圧がテーマっぽい?
◾️去りゆく君に / 菊地秀行 ★★★★★
全世界で《全ての子供が17歳を迎えると同時に死ぬ現象》が発言した世界で、主人公の息子である洋介の17歳の誕生日が翌日に迫り……。読者の胸ぐらをつかんでぶん殴る衝撃の終末SF。一切の救いはなく、圧倒的な絶望の前に自暴自棄になる子供と大人の姿が乾いた筆致で描かれる。これは見事。
◾️十月の映画館 / 井上雅彦 ★★★☆☆
夫婦での欧州旅行中、ハロウィンの夜に故郷の映画館を訪れた主人公。そこで、かつての伝説的子役女優であるジリアン・トワイラインの姿が銀幕に映り……。ホラー映画の怪物達が繋ぐロマンスエピソード。異形のチルドレンと末永く幸せに暮らしてほしい。
