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異形コレクション L(50) 蠱惑の本

◾️全体 ★★★☆☆
作家なんて100%本が好きに決まっているので、本テーマのアンソロジーだと本への愛・リスペクトといったプラスの思い入れが滲みやすいのかな、という感じで、作品の質は上々だったものの暗黒短編を読みたい身としてはやや微妙でした。白眉は斜線堂有紀先生のダークファンタジー、焚書を人間の業と捉えた視点が素晴らしい。


◾️蔵書の中の / 大崎梢 ★★★☆☆

 まずはジャブ、ハートウォーミング系の話。亡くなった本好きの祖父の書庫を訪れた、老婆の姿をしたささやかな怪異。古書には何かが宿る、そうであってほしい、というのは読書家共通の夢ですな。

◾️砂漠の龍 / 宇佐美まこと ★★★☆☆

 古代中国で蛮族を襲った水龍伝説から、郊外の一軒家を古書好きの親戚から引き取った青年の話へ。風呂で溺死した親戚について「まあ俺が殺したんですけど」という独白でギアが切り替わり、シリアルキラーとしての本性が明らかになったところで水流の《裁き》が。青年はクズの殺人ジャンキーでしたが「田舎の老夫婦が持参した手作り惣菜は食う気しない」だけは共感できたな……とにかく茶色いし全体的にタンパク質の要素が足らない。

◾️オモイツヅラ / 井上雅彦 ★★☆☆☆

 精神科医であるヴァン・ヘルシングの娘と助手の少年によるおねショタ怪異ハンター・日常編的な小品。シーボルトが著したという『日本妖物誌』にある妖怪が、外科医の手の震えの謎を解く。こちらもハートウォーミングだ。アニメで長編と長編の間に挟まってそうな温度。

◾️静寂の書籍 / 木犀あこ ★★★★☆

 吉祥寺の裏路地で汲々と暮らす古書店の男が、裕福で傲慢な老人が持つ《人智を超えた言語で書かれた本》を手に入れようと狂っていく話。小品ながら、虚実がぐちゃぐちゃになるクトゥルフの味がして好き。

◾️蝋燭と砂丘 / 倉阪鬼一郎 ★★★★☆

 ある高齢の俳人の句集から死と終末の匂いが漂い、訪ねてみると……。普段は詩句タイプの作品を高評価しない(味の濃い物語好きなので)が、本編は倉阪先生オリジナルと思しき『恐ろしい俳句』達がブッ刺さった。キタニタツヤの『素敵なしゅうまつを!』が刺さった人、ぜひ直接味わってみてほしい。

◾️雷のごとく恐ろしきツァーリの製本工房 / 真瀬純子 ★★★☆☆

 かのイヴァン雷帝のほのぼの虐殺エピソード。
Q: 活版技術で聖書を量産する工房を訪問した雷帝、刷られた本を一読したら即《異端》判定、その訳は?」
A: 神の子の名がイイスス・ハリストスだった(正解はイヴァンIV・ヴァシリエヴィチでした!)
あと、登場する側近ども全員に(こいつは後に雷帝の手で死にます)みたいな注釈が書かれてるのが好きです。

◾️書骸 / 柴田勝家 ★★★★☆

 「本の剥製を作る人」というぶっ飛び個性の名作。世にもの原作にもなった『トランジスタ技術の圧縮』みたいな作業に信じられないくらい真摯に打ち込む男の日常。本当に何なんだこの話はという気持ちで読み進め、最後の最後に平山夢明先生の名短編が顔を出す、大変カオスな逸品。

◾️本の背骨が最後に残る / 斜線堂有紀 ★★★★★

 徹底した焚書の結果、本の擬人化ならぬ《人の擬本化》が成された国で、掟を破り10の物語を記憶する本「十」が、自ら記憶する物語の正確さを競う命懸けのビブリオバトルに挑む。白雪姫に酷似した物語について「姫が王妃を殺した」vs「王妃が姫を殺した」で互いの矛盾を刺し合うというこのバトル、普通に学祭の企画あたりで観てみたい。そして勝敗の先に現れる人間の狂気と業。奇妙で恐ろしい名作。

◾️河原にて / 坂木司 ★☆☆☆☆

 ツイッターの主語デカ行きづら論みたいなのに自縄自縛状態のママが、河原で出会ったドラム缶で自著のタレント本を焼く男に少し救われる話。私はとにかくツイッターの主語デカ生きづら論が好きではないので、「あ、私は被害者だったんだ!」みたいな中盤の気付き含めノットフォーミー作品。

◾️ブックマンーーありえざる奇書の年代記 / 真藤順丈 ★★★★☆

 アラブの血を引く主人公は、ある事故で人間から湧き出る《異文字》を通じて他人を《読む》力を覚醒させる。その力で知った異形の教団にまつわる母の過去、そして教団の魔の手が主人公に迫る……。他人の《読み》《書き》共に可能な母がバカ強く、超スピードで繰り出す即死技により大群を次々に葬ってゆく戦闘シーンは圧巻。《書く》ことで対象の肉体の状態まで操作できるのは流石に強い。露伴先生も『70㎞/hで背後にぶっ飛ぶ』とか書いてたけど、『全身が溶解する』とか書くと溶解するんだろうか?

◾️2020 / 三上延 ★★★☆☆

 剛力さんがある意味気の毒だった『ビブリア古書堂』の三上先生による、《本の島》と呼ばれる孤島が舞台の奇妙な短編。亡くなったベストセラーラノベ作家が遺した島の屋敷に呼ばれた元弟子の主人公、そこで知る大ヒットラノベ執筆の秘密とは……。ラーメンズの名コント『小説家という存在』を彷彿とさせつつ、SCP的な宇宙規模の存在が匂わされるSF短編。

◾️ふじみのちょんぼ/ 平山夢明 ★★★★☆

 下世話!暴力!慕情!の最低劇場、地下闘技場での残虐ファイトで糊口を凌ぐ少年《ちょんぼ》が幼馴染の女性と再会、血みどろの家業から足を洗おうとするのだが……。ちょんぼは《読む》ことで大怪我も回復する絵本を持っているのだが、その中のありふれた幸せな家族の描写が逆に平山先生の真骨頂。後半、幼馴染のすれ違い方の唐突さに戸惑い、平山作品信者の私と言えど星一つマイナス。

◾️外法経 / 朝松健 ★★★☆☆

 豪放磊落、豊富な知識と卓越した杖術で妖魔を打ち払う朝松健の一休宗純シリーズ、まさかの一休晩年期、かつ一休が手紙でしか登場しない、小説版クウガの五代雄介みたいな扱いとなっている。侍所のトップと盲目の霊視者が南蛮の邪教の儀式を追うという、これだけでシリーズ化できそうな美味しい設定だ。

◾️恐 またはこわい話の巻末解説 / 澤村伊智 ★★★☆☆

 架空のホラー・アンソロジーに掲載された架空の作品の巻末解説、という前衛的な一品。解説される各作品は当然そのあらすじと特徴だけが簡潔に示されるのみで、余白を読むようなところがモキュメンタリーに通じる面白さ。第四章収録作とか全部読みたい。

◾️魁星 / 北原尚彦 ★★★☆☆

 2019年に逝去した異形常連のSF作家・横田順彌さんに捧げられた作品。アニメ設定考証の大家・白土晴一氏も登場、横田氏への思い入れ次第で星が二兆個くらい付くような、限りなくノンフィクションに近い横田愛に溢れた日常系SF。

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