異形コレクション XI(11) トロピカル
◾️全体 ★★★☆☆
熱帯とホラーの組み合わせとなると、むせぶような匂いを感じる肉体的・生物的なものを想起させるが、その辺を全力全開で放つ作品は少なく、個人的な好みから照らすとテーマがもたらす印象に対し大人しめだった。『オヤジノウミ』『屍船』は全力投球しており、白眉。
◾️願い / 島村洋子 ★★★★☆
恋人を事故で失い、その後輩との新婚旅行でジャワ島を訪れた主人公、願いが叶うと言われる遺跡を訪れた彼女が願ったのは……。死んだ恋人に魂を惹かれ続ける邪悪な主人公の行動すべてがラスト二行でひっくり返る展開、『願い』のシステムロジックの整合もしっかり取れた見事なオチ。
◾️みどりの叫び / 奥田哲也 ★★★☆☆
休暇の道中に、大戦中に祖父が従軍していた太平洋の離島を訪れた主人公、そこで出会った隻腕の黒人男性に祖父の面影を感じて……。戦場で断たれた「ミュージシャンになりたい」という老人の夢を叶える極楽鳥の代償は「自らの臓物が生る植物へ強制変異し、鳥の餌となる」というビジュアルインパクトの高い奇想が良き。水木先生の『悪魔くん』の南国回に近い異形感。
◾️屍船 / 倉阪鬼一郎 ★★★★☆
ラヴァーズ・ビーチと呼ばれる浜辺、その海域の地図にない島に閉じ込められた大日本帝国軍の兵士たちによる狂気の所業とは……。樹木も動物もいない異次元の島で不老不死のまま生き続ける兵士と彼らに引き摺り込まれた一般人を恐怖と暴力で支配する中尉、という激グロ第七師団。人体を材料に帆船を建造し始めたところで吐き気は最高潮、脱出と共に時空間異常が解かれてドロドロに融ける無辜のカップルの生首、というゴアと切なさが同居するラストは見事。
◾️緑色の褥 / 安土萌 ★★★☆☆
アジア系の男にデートと称して夜の植物園に誘われた友人を怪しみ後を尾ける主人公、そこでみたものは……。イケメンに擬態して女を誘い捕食する食肉植物、という、どことなくウルトラQを感じさせる怪奇掌編。
◾️蜜月旅行 / 北原尚彦 ★★★☆☆
19世紀の英国、ハンターの腕も立つ上流階級の主人公は、あるパーティーでペルーから来た美しい女性に魅せられ……。マッドサイエンティストの研究により知性を得た獣人との濃厚ケモナーもの。獣寄りの姿の正体を表した豹女を嬉々として受け入れる主人公、というケモナー的ハッピーエンドが好感度◎。
◾️罪 / 早見裕司 ★★★☆☆
ある出来事により東京が壊滅した日本、地方の分署に勤める元・警視庁の警官の元へ、ある事件で自首したいと言う男が訪ねてきて……。持ち主に危害が及んだら発動する特級呪物の鉢植えを持つ女を不倫のもつれで殺したことで渋谷事変が発動しジャングル化した東京、という中長編でも全然行けそうなスケール感の短編。復讐ではなく純愛、という女の動機に『天気の子』的なセカイ系の波動を感じるが、それより遥か前の99年に書かれた物語であることに驚き。
◾️マバヤカ / 毛利元貞 ★★★★☆
ある南国の遺跡で発生するCIA特殊部隊と現地政府軍の激突、その最中で乱入した何者かによる敵味方の区別ない虐殺が発生し……。数々の傭兵経験を持つ筆者による戦闘描写のリアリティはそれだけで読み応え十分だが、謎の敵対的実体が現地に伝わる化け物なのか、それとも別の何かなのか、というサスペンスも見所。
◾️赤道の下に罪は / 本間祐 ★★★☆☆
リオデジャネイロで出会った『蛇づくり』を生業とする少女、彼女のためカーニバルのチケットを盗んだ主人公は……。カーニバル、カンドンブレ、蛇、と生死の境界を曖昧にするモチーフが重ねられ、そこまでの魔性なら、とちょっとリオに行きたくなる。
◾️夢を見た / 榛原朝人 ★★★☆☆
鳥たちの話を聞き、西にあるというすてきな場所を目指す旅人……。リリカルな絵と言葉で綴られる絵本のような優しい物語だが、そんなことより動物たちが主人公に集う後半のシーンで「エッホエッホ」が2ページに渡り登場、2025年のミーム化から遡ること四半世紀前に描かれた先見性に胸熱。
◾️オヤジノウミ / 田中啓文 ★★★★★
2年前の船舶事故により毒島と呼ばれる草木の生えない不毛な島へ遭難した少年を救出した海保の巡視船、彼が語る毒島での日々は悍ましいものだった……。田中啓文先生の真骨頂、クトゥルフ×露悪グロの最悪グルメ譚だ!邪神を祀るカルト宗教に傾倒した母に教わった祈りで暴力親父が不毛の島で《食べ物》を与えてくれる理想の父へ生まれ変わるも、それはタイトルの漢字変換から想像される最悪の《ウミ》。読後しばらくはコンデンスミルクを受け付けなくなりそうな、強烈な読書体験を味わえるぞ。
◾️MUAK-VA / 佐藤肇 ★★★☆☆
ある一枚の奇妙な写真を目にした三流雑誌のライター、ネタを求めそれが撮られた島に向かうと、そこには……。『緑色の褥』前日譚とも読めそうな、人間に擬態・寄生して繁殖する南洋植物の怪奇読切漫画。物語はそこまでインパクトのあるものではないが、擬態する少年の艶めかしさが妙に記憶に刺さる。
◾️極楽鳥 / 小沢章友 ★★★☆☆
すれ違う夫婦仲を修復しようと南国のバカンスを訪れた金融系エリートの男が暴風雨の中迷い込んだ密林で出会ったのは異形の神……。幻想怪奇的な掌編で特に癖には刺さらなかったが、この手の物語には珍しく妻が「自分も夫婦仲を修復したいし何なら妊娠しているのだが、面と向かうと素直になれずツンが出て打ち明けられない」というキャラ設定で、アンスリウムか快楽天辺りで全然ありそうだと思った。
◾️不死の人 / 速瀬れい ★★★☆☆
太平洋戦争直前のパラオ、病弱な体を持ちながら駐在員として暮らす主人公は、ある日友人から《面白いもの》を食べようと誘われ……。小説の執筆を熱望しながらも病魔に苦しむ主人公の《正体》が徐々に明かされる物語構造、聡い人は「昭和16年のパラオ」という導入で即ピンと来たのかもしれない。作品が永遠に残ることで《不死》を得られる、という美しいメッセージだが、作品どころか本人までもが文ストで美少年化され人気を博してるとはご本人も思うまいて。

◾️Flora <フローラ> / 篠田真由美 ★★☆☆☆
19世紀のヨーロッパ、ある偉大なる詩人の死に際し残された手記には、イタリアへの出奔中に出会った不思議な少女との交流が……。中島敦に続く偉人秘話もの、こちらは知の巨人・ゲーテ。箱庭などのイタリア描写は美しかったが、浮浪街の少女に囚われた偉人の煩悶という本筋はあまり刺さらなかった。
◾️赤い月 / 藤川桂介 ★★★☆☆
南海に浮かぶ壱岐間島、名君の誉れ高いユリワカが弟のウスワカの策謀によって殺されて以来、島には恐ろしい深紅の月が上るようになり……。宮古島に伝わる伝説をベースにした創作伝奇物語。なんか突然生えてきた神通力で突然甦るキャラなど、伝奇によくある大味な魅力が光る。
◾️ココナツ / 辻和子 ★★☆☆☆
拾ったココナツを器として使っていた女、ある日中を覗き込むと……。歌舞伎イラストで定評のある作者による、絵本のような掌編。特に言うことなし。
◾️サヴァイバーズ・スイート(The Survivors' Suite) / 仁木麻里 ★★★☆☆
夫の不倫による離婚が決まりがらんとした家、長雨が続く外からは『笛吹き』の吹く笛の音色が聞こえてくる……。かつて赤ちゃんを死産で亡くし、そこからの人生全部を間違え緩やかに藻掻く元夫婦による、静かで残酷なお話。裏切者の夫が最後に漏らした一言が染みる。
◾️猿駅 / 田中哲弥 ★★★★☆
母に会おうと駅に降り立った主人公、そこには無数の猿が地面にひしめき合っており、数匹踏み潰しながら駅前の煙草屋に向かうと……。自販機で売られる、人が飲むと気が狂うという猿の餌『フルーツ牛』等、全編がシュールで悪夢的な光景で埋め尽くされており、大変好き。
◾️椰子の実 / 飯野文彦 ★★★☆☆
梅雨時の異常に蒸し暑い渋谷で発狂しかけている主人公は、音信不通だった知人と偶然出会い、《椰子の実》を手渡される……。酷暑が持つ狂気への誘いが漂う、こちらも暴力的・悪夢的な掌編。成人男性の頭部の重さは7~8kg、男子プロボウラーの使用球と同程度かそれ以上である。
◾️スケルトン・フィッシュ / 草上仁 ★★★☆☆
クリスタルの置物やガラスの水槽など透き通ったモノをこよなく愛する主人公、美しい容姿のボーイフレンドが持ち込んだ薬を使い……。ヤクの力で透明な世界に入った主人公が致死のキメセクに好きピを巻き込む掌編。現場は大惨事なのだろうがキメている二人には飛び散る血すらも透明な波飛沫。そういえば映画ちいかわのパンフレットが裏表紙で似たようなギミック入れててドン引きしました。
◾️泥中蓮 / 朝松健 ★★★☆☆
西方寺社の呪術の調査のため九州を訪れたある僧侶、とある領主の病の治療を乞われ奇妙な館を訪れると、そこには……。異形コレクションでも定番化してゆく、文武に秀で飄々と闇を切る怪異ハンター・一休宗純の冒険譚。本作はオーソドックスな、南方での海賊時代に泥の呪いを受けた男との闘い。シリーズの縦軸である邪教・立川流も黒幕として登場、シリーズの導入として入りやすいものになっている。
◾️干し首 / 竹河聖 ★★★★☆
心筋梗塞で亡くなった父の遺品整理中、古びた箱から干し首を発見した主人公、調べていく中で奇妙な悪夢にうなされ……。前半~中盤と、知己の物知り老人を交え干し首にまつわる蘊蓄等が淡々と物語れていくのだが、後半に入り駐在中の父の浮気相手を母が殺しカネで揉み消したことを母が独白したあたりで突然のブースト、首の送り主がその浮気相手一家で目的が呪殺、という「待て待て待て待て」という超展開へ。母がそのまま何事もなく主人公と暮らし続けるところも含め、なかなかかっ飛んだ短編だった。
◾️トロピカルストローハット / 江坂游 ★★★☆☆
浮気の償いにと妻とリゾート地を訪れた主人公、ランチタイムショーのステージに置かれた帽子を被った妻が……。人喰いハットによる、グランギニョールでスプラッタなショートショート。
◾️デザート公 / 井上雅彦 ★★★☆☆
寒冷な北の町に住むデザート公の宴に招かれた主人公、そこは甘い香りと原色の動植物がひしめく南洋調のパーティーで……。来賓を《発酵》させて嗜むトロピカルクリーチャーvs都会の吸血鬼。かつての宴であてがわれた美女型機械人形を主人公が破壊した理由の描写「血を吸おうとしたら首が壊れたが、こっちだって牙が折れそうになったんだからね」はちょっと笑った。
◾️黒丸 / 菊池秀行 ★★★★☆
休暇で太平洋の小島を訪れた倦怠期の夫婦は、そこで島民の熱烈な歓迎とサービスを受け……。かつての戦争による残虐行為の舞台となった島で、それにもかかわらず「かのお国」の人間を厚遇する島民。その理由の一端が明かされるラストで見える、恨みや怒りとは別種の、戦争がもたらす《毒》。具体的な国名の表記を避けた上でのタイトルによる匂わせ含め、シンプルな戦争批判とは趣の異なる、挑戦的な短編。
