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異形コレクション LVII(57) 屍者の凱旋

◾️全体 ★★★★★
 第6巻『屍者の行進』から26年後にリリース、異形では珍しい(他ではグランドホテルとショートショートぐらい?)同テーマの再採用。『屍者の行進』の頃と比べゾンビ映画がより広く市民権を得たためか、意思がなく凶暴で人を喰う、という典型的なゾンビをダイレクトに描写する作品が増え、そういうのが大好きな私にとっては大変フェイバリットな一作。そういう意味では殆ど全部の作品が好きだが、特に気に入ったのは、走るゾンビのストレートな迫力に作者のSF気質が合わさった『ゾンビはなぜ笑う』、ゾンビこそ愛・友情・業といった《人間》を炙り出す最高の媒介なのだ、を体現する『ふっかつのじゅもん』『ESのフラグメンツ』。


◾️ふっかつのじゅもん / 背筋 ★★★★★

 妻を亡くし抜け殻になった男が医者に趣味を進められ、昔遊んだRPGを再プレイしていたら、死んだはずの妻が目の前に現れ……。同時期にブレイクした梨先生とかが容赦なく人が死ぬ系の話を多く執筆されるんだけど、『近畿地方~』の文庫版しかり、背筋先生は根底に『人間愛』がある作品を結構描くんですよね。本作も、浮かぶ情景は恐ろしく異形なんだけど、本筋は喪った妻への愛を確認し、それを乗り越える主人公の再起。これが過去のゾンビ系作品で繰り返し語られてきたテーマでもある、ということも含め、会心の一作目。ゾンビの物語こそ愛の物語なのだ。

◾️ハネムーン / 織守きょうや ★★★★☆

 小規模なゾンビ・パンデミックの終息後、ゴーストタウンとなったとある町で暮らす男。ある日、上半身だけとなった幼馴染のミユを発見し……。意志のない『動く屍骸』への愛、というこれまたゾンビ映画でもしばしばみられるテーマだが、ワクチンによりウィルス自体は無害化しており噛まれてゾンビ化する心配はない、下半身がちぎれており通常の性行為は不可能、という条件設定により、テーマ自体の純度を高めている。作中で明確に語られているこのテーマに対する作者の想い、私も同感。優太と里香。

◾️ゾンビはなぜ笑う / 上田早由里 ★★★★★

 人を食う怪物に転化した人間《異種》が蔓延する世界でサバイバルする主人公。その相棒が、かつて仄かに憧れた女性の自作曲が封鎖された駅のストリートピアノから聴こえたと言い……。オタクが大好きな『蟻の脳を乗っ取り行動を操る菌糸類』から着想を得たと思しき植物由来のゾンビが登場。美しく悍ましい《見たことのない映像表現》を文章で魅せる上田先生の技量が本作でも冴えており、クライマックスの《咆哮》は白眉。

◾️粒の契り / 篠たまき ★★★☆☆

 ある洋室で記憶の混濁を覚えながら目覚めた主人公、恋人と思しき男の愛撫を受ける自身を見下ろしていることに気付き……。恋人に関するミスリード含め、サイコサスペンス・ミステリーの味がする作品。後半の『動く屍骸』については超自然的な力の存在が仄めかされており、ヒトコワのストーリーラインに対し少し戸惑う要素。

◾️アンティークたち / 井上雅彦 ★★☆☆☆

 人形師・宵宮綺耽の作った屍者の生人形の査定に、彼の別荘を訪れた主人公とその仲間。そこには主人公の姉がかつて遺したノートが……。何が何だかわからないまま登場人物が全滅するコズミックホラーめいた短編だが、流石に説明がなさすぎて置いていかれた感。

◾️風に吹かれて / 久永実木彦 ★★★★☆

 人間の死体が腐らず中空に浮くようになった世界。死者を風船のように繋ぐ墓地で淡々と働く主人公は、ある日先制自衛軍の視察を迎えることになり……。非日常な世界の日常というセンスオブワンダーに静かな平和への祈りがブレンドされた、穏やかでじんわり来る良作。墓地の常連で唸り声しか発さない『ボルトクリッパー女』というやべー怪人が出てきますが、こいつすらも読後にすごく愛おしく感じる。

◾️猫に卵を抱かせるな / 黒木あるじ ★★★★☆

 死んだ娘の蘇生を求め世界から能力者を募るイタリアンマフィアの頭目、その眼前で日本人の男女が『火車』の呪いの力を見せ……。自分の人生を生きられない空虚な主人公の男、クズの頭目、暴力しか知らずに育ち映画だけが支えだった若頭、とFKBレーベル創設者の顔が否が応でもチラつく。打ち解ける主人公と若頭、死者蘇生のルールにより明かされる娘の真相、とテンポ良く進み読みやすく、まさにダリオ・アルジェントに捧ぐといったクライマックスのグチャドロさも好き。

◾️ESのフラグメンツ / 空木春宵 ★★★★★

 『食人衝動と凶暴性を抑制するワクチン』によりゾンビ禍を克服した結果、死後のゾンビ化自体は継続し遊歩する彼らと共存する世界、ゴスロリモデルの少女がゾンビとして蘇り……。地の文と彼女の心情が上下段で並行し書かれる特殊な構成でゾンビ子の日常が淡々と描かれる中、謎のテレパスからのコンタクトにより転がる後半の展開と結末が、実に切なくエモい。意思を残すも他者とのコミュニケーションは不可能だった筈の彼女が、唯一直接会話できるテレパスと繋がったことで孤独な筈の『ゾンビとしての死』を笑って迎えられる、という……この辺りも「ゾンビを語ることは愛を語ることである」が体現されている。

◾️肉霊芝 / 斜線堂有紀 ★★★☆☆

 《肉霊芝》と呼ばれる巨大な肉塊に病気を感染させ、そこから得られる抗体により反映する世界で……。3つのエピソードを通じ、その肉塊のオリジンが明らかにされていく物語。根源である存在の《呪い》が長い時を経て現代では希釈し便利に利用される存在に成り下がった、という理解をしたけど、そういう読み解き方が適切なのかちょっと自信がない。

◾️ラザロ、起きないで / 芦花公園 ★★★★☆

 長年引きこもりをしてきた主人公が、高校時代のアイドルの死を知り自棄になっていたところ、不可思議な長身美麗の人間と出会い……。腐敗するかつての美少女との一つ屋根の下での数日間を描く中で、腐敗臭と全身に巣食う蟲の描写の露悪さは芦花公園先生の真骨頂で、五感を刺激する胸糞の悪さは随一なのだが、それを背徳的な官能シーンへ繋げており「この人は大概だな」という感じで大変好感が持てる。

◾️煉獄の涙適 / 平山夢明 ★★★★☆

 近未来世界で、自殺した息子に父子化技術《フレイル》を適用し動く死骸としたショー。費用切れによりその維持処置が打ち切られる寸前の中、金策に奔走するショーは……。夢ちゃん十八番の『ディストピアで地獄を右往左往する家族』の話、《形質保持用循環防腐液 - パーペチュアル・ホルマ》みたいなSF的造語のキレとショーが勤めるブラック企業のクソブラック要素の詳細描写は唯一無二の平山節。優しい終盤展開は些かご都合的だったか。

◾️ゾンビと間違える / 澤村伊智 ★★★★☆

 ロメロ的な《伝統的》ゾンビ禍を克服した後の世界、主人公はこれまた引きこもりの兄を抱え苦しむ幼馴染の少女から《兄をゾンビと間違えたい》という相談を受け……。もう冒頭の1行で漂う嫌な予感。ゾンビの物語は人間の業と悪意の物語でもあり、《ゾンビと間違える》ことによる不快なモノの浄化というシミュレーションは昨今のSNS見てたら容易に想起できる。人であろうとしているのは主人公ぐらいで、《間違える》ことに慣れ切った大人達どころか幼馴染すらもそれを利用しようとした訳で、人間(の業の)ドラマを描くゾンビ映画魂がしかと込められた名品。

◾️屍の誘い / 三津田信三 ★★★☆☆

 本アンソロに誘われた三津田先生、かつて人伝で聞いた民俗学が趣味の教師が体験した恐怖譚を思い出し……。導入から実話怪談チックな本作、ある地方で遭難しかけた先で辿り着いた民家で《遺体》と過ごした1時間のエピソードだが、殺人事件に巻き込まれた男という犯罪ミステリー的な読み方も可能な、本テーマの中では逆に異色の作品。

◾️骸話三題 死に至らない病の記録 / 牧野修 ★★★☆☆

 人魚を食べたことから不死となった太古のメガロドン、それが陸に流れ着きゾンビ禍を引き起こした後の世界での新しい《お葬式》での一幕、ゾンビを新エネルギー源として利用しようとする犯罪者たちを裁く《天使代行人》の男の戦い、という連続掌編。ラストの話は某じゅじゅの『呪力を持つ日本人を世界が攫う』みたいな話で、話を広げやすそうな面白い設定。

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