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異形コレクション LIV(54) 超常気象

◾️全体 ★★★★☆
 本巻のテーマは宇宙的恐怖とかよりずっと人類には身近な荒ぶる神『気象』。基本的に人間がどうこうできる存在ではない分、超常気象自体はマクガフィンとして機能する作品が多く、むしろそれに対峙する人間の在り方や生きる力を問うた人間賛歌を強く感じる。特にお気に入りの『金魚姫の物語』と『いつか やさしい首が……』の二作は共に、善悪無くただ人を襲う荒ぶる神に対し、記憶を《紡ぐ》ことは生き続けることなんだという細く悲しい希望を語っている。全体的に粒揃いの大豊作で、限りなく★5に近い★4。


◾️星の降る村 / 大島清昭 ★★★★☆

 主人公の住む長崎県乙姫村、そこには、コロナ禍を境に姿を消したアイドル・天宮星の四肢と頭部が空から降り注ぐという怪現象が起こっていた……。天宮星の破片を求め全国から集う異常熱量ファンやSNSによる転売など、『アイドルの四肢が降る』と何が起こるか?が現代的な発想で描かれる。現象の真相も後半に明かされるが、全てを明らかにする訳ではない、考察の余地を残す締め方も現代性を感じる。良作。

◾️とこしえの雨 / 篠たまき ★★★☆☆

 少年時代に雨宿りに立ち寄った森の中の家で奇妙な夫婦と遭遇した主人公、時は流れ数十年後に隣人の女性と恋に落ちるが……。産卵時にオスを捕食するメスカマキリから着想を得たと思われる、耽美でフェティッシュなカニバリズムラブストーリー。

◾️件の天気予報 / 宮澤伊織 ★★★★☆

 「深夜にテレビで《蛙が降る》という天気予報を見た」という愛美、心配になったふーこが泊まりに行くと……。『異世界ピクニック』等でお馴染みの人気SFラノベ作家さんが異形コレクションに降臨。ジャンル的にはホラーコメディで、『何故か怪異に見舞われる体質の超善人・愛美』と『そんな愛美を心配しつつもあわよくば一軒家独り暮らしの愛美邸に転がり込みたい貧乏怪談師・ふーこ』のキャラ立ちぶりがベビわる好きにはぶっ刺さる。不穏な予言を繰り返す怪異の打開策がSiriという現代性も面白い。もしシリーズ化したらきっと読みます。

◾️業雨の降る街 / 柴田勝家 ★★★★☆

 6年に一度、自分が殺した生き物が降ってくる『業雨』がある街に住む小学生の主人公は、最近転校してきた清宮和結が大嫌いで……。父親の無実を証明するため業雨など幻覚だと証明しようとする主人公と、自分が《殺した》という母親に一目会いたいため業雨を切望する清宮、という異常現象を舞台装置にした切実な思いの対比と、そこから生まれる無二の友情が美しい。清宮にとっての『世界で一番嫌いなやつ』を種明かしするラストシーンも鮮烈。

◾️赤い霧 / 澤村伊智 ★★★☆☆

 怪談スポットに突撃しブログ記事にする趣味を持つ主人公たち3人組は、東京郊外にある廃墟化したニュータウンに《突撃》するが、そこで赤い霧のもたらす怪現象に遭遇し……。『業雨の降る街』と似た人間の罪悪感を可視化する超常気象だが、こちらはより明確に《ドス黒い悪》を暴く。地方の故郷を悪し様に罵る3人の吐き気を催す過去が霧により暴かれ狂っていく描写は、恐怖よりもややスカッと感が勝る。地方を誹謗する首都助たちには、一定数こういう「捨てたのかよ?逃げたんだろ」な手合いが混ざってるんだろうな。

◾️『金魚姫の物語』 / 斜線堂有紀 ★★★★★

 「個人に集中して雨が降り注ぐ」という怪現象が無差別に発生する世界、高校生の准は海辺で出会った年上の美少女・遥原憂に《雨が降る》様を撮影することになり……。整形バレで芸能界から追われた身寄りのない憂と高校受験失敗で親から見捨てられた准、という孤独なボーイミーツガールに悲劇をもたらすのは、『人体を生きながら水死体に変える、回避不可能な絶え間ない降雨』。アウトラインだけならケータイ小説でよく見た難病で死別するカップル譚である本作を傑作たらしめるのはその邪悪な奇想で、発動時点で死が確定、初期は濡れ続ける憂を美しく見せつつも徐々に体が膨張し崩れてゆく……というグロテスクさと残酷さが白眉。それを写真に納め続けた准が文化祭の展示で取った選択は『奇麗な嘘』だが、それは憂にとっては救いだった、というラストの展開はひたすら美しい。映像化希望。

◾️三種の低気圧 / 坂入慎一 ★★★★☆

 悪意を向けてくる相手に雷が落ちるという異常特性を持つ少女『雷が落ちても』、愛した人の骨が庭に降ってきた『骨が降る』、病魔に蝕まれた愛妻が祟り神になり恨んだ相手を暴風に巻き込む『二人きり』の掌編3つ。三篇共に人知を超えた異常現象に翻弄される人々の話なんだけど、目を引くのはそれに対峙する人間の、ある種ふてぶてしい逞しさ。「好きで相手を感電死させてるんじゃないし!知らんし!」「結果生きてたクズ夫より正体不明の骨を本当の夫として愛するね」「お前など祟る価値もないので無視して幸せを掴むよ」……という三者三様のエゴ、これは人間賛歌だと思う。

◾️堕天児すくい / 空木春宵 ★★★★☆

 何か月かに一度、空から《堕天児》と呼ばれる少年少女が降ってくる現象《稚児雨》が存在する街、そこで《堕天児掬い》に勤しむカガリは、ある日《堕天児》の一人であるアオイを掬い、共に暮らすこととなる……。降った子供の大半が地面に激突し絶命する血生臭い異世界での物語だが、それ故に二人の友情と生き様が瑞々しい青春譚。この異世界の正体はアオイの《転生前》の人生と死が並行して描かれるため直ぐに凡その察しは付くが、ラストシーンでの1行でなるほどと合点が行く仕掛けも気持ち良い。

◾️成層圏の墓標 / 上田早由里 ★★★★☆

 異常気象により夜に必ず雨が降るようになって久しい世界で、コンビニバイトの主人公はある日奇妙な客の入店に気付く……。《雨坊》という妖怪的な存在との遭遇から始まり、次第に宇宙規模のナニカとの接近遭遇へと繋がってゆく、ウルトラQや怪奇大作戦のようなレトロさと生成AIという最前線IT技術のエッセンスが融合した、見事な怪奇SF。《雨坊》の行動と理由、背後に存在する高次存在の動機までしっかり隙が無く構成されているクオリティも、信頼と安定の上田SF。

◾️地獄の長い午後 / 田中啓文 ★★★★☆

 広大な自然に育まれた豊かな生態系を育む地獄に異変が発生、原因を調べるべく自ら現地へ赴いた釈迦が見たものとは……。2020年に二度目の《復活》を遂げて以降の異形コレクションとしては初参戦の田中啓文先生、久々の新作は『地球の長い午後』をパロったバカSF、ベンガルボダイジュなど露骨な本歌取りはバカパロSFの大ベテランとしての面目躍如。つなぎの防護服・メット・ハーネスに錫杖を背負った毒ガステロ時の特殊部隊みたいな出で立ちで地獄巡りに臨む釈迦は、錫杖を使った物理攻撃がメインで割と普通にダメージも食らう泥臭い戦闘が魅力。血の池の底に落ちた何かが原因と推理した釈迦による「血の池の血、全部抜くぞ!」宣言で田中先生の本作のインスピレーション元が判明、そこに居たのは特定外来生物こと親の顔より見たタコ邪神、それを呼び寄せた黒幕の判明から地獄も極楽も巻き込んだ大崩壊……と、導入からラストまで読者を飽きさせない、トッポみたいにバカが詰まった愉快作。

◾️千年雪 / 黒木あるじ ★★★★☆

 難病に侵された妻の莫大な治療費のため銀行強盗を犯し山中に逃亡した主人公は、崖から落ちた先で8月なのに雪が降る村落に辿り着き……。人魚伝説に魅入られた民俗学教授や怪しい魅力を放つ美女といった伝奇ミステリの王道要素が散りばめられつつ、不死を求める醜い村民に絶望する悲しい人外の真相、それが更に主人公自身のエゴを剝き出しにする……という陰惨なピタゴラスイッチが展開していき、それに絶望した人外により主人公も『同じ1日のループ』という形で『永遠のいのち』を味わうことになるラストは恐ろしいが、概ね同じタイプの恐怖を『映画ちいかわ』から出力したナガノ先生の凄みも思い知ることに。また、《人魚》とは人間の罪悪感が生み出した《方便》なのでは、という仮説は興味深かった。

◾️彩られた窓 / 井上雅彦 ★★☆☆☆

 かつて通った学び舎の旧校舎を久々に訪れた主人公のオッくん、そこで『気象天文部』の懐かしい面々と再開し……。女子部員達とかつての思い出を語り合う唯一の元男子部員というラノベシチュの中で合宿中の『キモダメシ』での真相に近づいていくという筋だが、結局そこで起こったことやオッくんに起こったこと、先生の正体など色々と消化不良感。

◾️怪雨は三度降る / 朝松健 ★★★★☆

 室町時代中期、六代将軍足利義教は、幕府に従わぬ関東管領・足利持氏に絶望を伴う死を味わわせるべく、明で秘術を学んだ凄腕の陰陽師・名田那岐麿を関東に差し向ける……。朝松先生の室町ホラー、万人恐怖の愛称でホラーとの相性が抜群の義教が今回厄災を巻き散らすのは、関東・下総の辰野荘。しかし、陰陽師による呪いか那岐麿許せねえと見せかけ、実際辰野を滅ぼすのは彼の所業に激怒した土地神という捻りが良い。キレた土地神が巻き起こす容赦なき虐殺と血肉降り注ぐ《怪雨》のダイナミック振りは一周回って笑ってしまうレベルで、立て籠った小屋をぶち破って空に攫われてゆく那岐麿のシーンとか昔ジュラシックパークで見た。

◾️いつか やさしい首が…… / 平山夢明 ★★★★★

 チーコの暮らす国に突如《首》が降るという異常現象が発生、徐々に頻度が高まってくるにつれ崩壊する町の中で、それでも暮らしは続いていくが……。大傑作。本作における《首》はマクガフィンであり、主題は『世界の終わりになすすべなく翻弄される市井の人々』。首であろうと戦争・災害だろうと《それ》は唐突に訪れるものであり、どんどん悪化していくコミュニティや荒れてゆく暮らしの中で懸命に人生を続けていこうと抗うチーコと家族に胸が詰まる。それでも《首》という異常存在の発明は流石の平山節で、家を潰す規模の《超大型》発生の絶望感は凄まじい。権力も財力もない平民がそれでもできるのは『書く』ことにより存在を繋ぐことなのだ、というメッセージは希望か絶望か。

◾️虚空 /加門七海 ★★★☆☆

 デパート屋上のジューススタンドで働く主人公が偶然出会ったのは、独身時代にアパートの上階に住んでいた男で……。男と主人公が不可抗力で瓶から解き放った《虚空》の欠片が十数年間でじわじわ広げていく異常気象と、それを日々告げるSCP感のある気象庁の裏放送《気象通報》、それらが環水平アークや線状降水帯といった現実の事象と淡々と重ねられる様が恐怖ポイント。ここ10年の気象は既に《超常気象》なのだというメッセージが感じられるが、正直虚構だろうと《虚空》の解放による異常という明確な因果がある方がマシなんだよな……。一世紀単位に渡る人類の諸活動が招いた気候変動が臨界点を超え始めている、という不都合な事実の方が、超長期に渡る人類の不断の努力なしに解決が不可能という点で余程絶望的な訳で。


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