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異形コレクション III(3) 変身

◾️全体 ★★★★☆
 《異形》と《変身》の相性の良さは仮面ライダーシリーズが散々証明しているが、《身》が《変》わることとは?を突き詰めた結果、何捻りもされた怪作が多く収録され、変なモノを読みたい欲求はかなり満たされる。自らの身体以外の世界全てが変異・崩壊する『ワルツ』、異形ということの意味を紐解く思考実験フィクション『異なる形』、眩しすぎる思春期の変貌を捉えたショートショート『転身』が大変好き。


◾️福助旅館 / 倉阪鬼一郎 ★★★☆☆

 ホラー作家である主人公は、ある日『福助旅館』という旅館から手書きのダイレクトメールを受け取り……。まずは軽いジャブ、訪問客を福助の姿に変える怪奇旅館の掌編。無機質な福助が大量に置かれている様は結構SCPめいている気がしてビジュアル的に強く、良い奇想。

福助

◾️森の王 / 久美沙織 ★★★☆☆

 大阪万博が開催された年、東京で祖父母に育てられた10歳の主人公は、死別したと言われていた父が生きていたと聞かされ、彼が住むという遠く離れた山奥へと赴く……。離れ離れだった父子が大自然での暮らしを通じ絆を結ぶ中、後半になって武装した革命闘士が二人の住処に乱入する超展開。逃げた闘士の粛正のためにライフルまで持ち出し、SNSでネタにされるテンプレみたいな拷問好きのナイフ使いがモブ郵便局員を躊躇なく刺殺する等、極左活動家のカリカチュアの思い切りが良すぎ、実は父がライカンスロープだったとか母親の謎とかの本筋に対する集中力が若干削がれた感。

◾️きれいになった / 中井紀夫 ★★★☆☆

 サラリーマンの主人公が勤めるオフィス、色白で肥った冴えない容姿の川村麗子が劇的に美しく変貌し……。ルッキズムにより虐げられ続けた麗子による職場の人間たちへの復讐は蛇を使った呪殺だが、劇的な容姿改造は特に呪いの力とかではなく普通に努力の賜物というのが偉い。ダイエットアプリもライザップも無い時代に半年で12㎏は大したものである。

◾️いつの日か、空へ / 草上仁 ★★★☆☆

 地球から遠く離れた惑星、鳥型種族のユビは汚染された環境を回復するための評議会の決定と愛するイマへの想いの間で煩悶し……。形態変化が可能な種族が汚染除去可能な植物に変態し回復の時を待ち眠る、という壮大な計画の中で描かれる愛を描いたSF。

◾️生きている鏡 / 矢崎存美 ★★☆☆☆

 リストラされ行き場を失った天涯孤独の章子だが、街角で突然「あなた、あたしの顔してる」と声をかけられ……。他人を《鏡》として招き、それを通じ一心同体となった末に自らは消滅するというサイクルを何百年も繰り返す得体の知れない人間の話。特に劇的なことも起こらず淡々と主人公への《継承》が行われ、全体的に薄味。

◾️交接法 / 藤水名子 ★★★☆☆

 皇帝の治世である古代中国、道士の子義は雨を凌ごうと立ち寄った廃寺で出会った道士と言い争い、道術対決を行うことに……。二人の道士による闘いと見せかけて第三者により両者共に殺されるのだが、美女に化けた妖術狸による房中術で事実上の腹上死という三下感の溢れる展開。ラストでそれを看破する一般通過実力派女道士の格好良さが光る。

◾️痩身術 / 太田忠治 ★★★★☆

 学生時代は名サッカー選手として名を馳せるも出版社への就職を機にブクブク肥った主人公、様々ダイエットも効果がなかったが、ある夜担当の作家から謎の種を渡され、それを吞み込むと……。こちらもデブからの変身ものだが、種の効果による暴食→膨れ上がった身体から生った実からスリムな自分への生まれ変わり、と見せかけてそれは人格を引き継いだ全くの別人、という存在のスナッチ。『アンパンマンの交換された顔に意思が残っていたら?』に似た恐怖で、主人公の《抜け殻》が微かに助けを求めるラストはゾクッとして良い。やはり痩せは自力で成し遂げるもの。『きれいになった』の川村麗子を見習え。

◾️闇夜の狭間 / 岬兄悟 ★★★★☆

 妻子と暮らす平凡な主人公は、午前三時のまま時が止まった《狭間》の世界で目覚めるようになり、徐々に異形の化け物へと変貌してゆく……。理不尽に降り掛かる不可逆的な異形への変貌が実に恐ろしい秀作。謎のクラゲ型群体生物や闇を蠢く巨大な蛇型生物などが跋扈する狭間世界はクトゥルフ神話的な世界観で良く、その中で主人公は両生類のような容姿へと変化するにつれ内面も化け物に近づいてゆき、止まった世界で犬を貪り喰い、刃状に変質したペニスで少女を犯す凶悪な存在と化す。朝になればその記憶は消失するため主人公は全く対処できず、ラストでの無意味な死に様含め異世界に絡めとられる理不尽さを強火で描く。好き。

◾️ワルツ / 牧野修 ★★★★★

 娼婦の主人公はある夜謎の老人に両手足の筋を斬られた上でレイプされるが、その後世界的音楽プロデューサーであるヒダカ・ヨウスケを名乗る男に豪邸へと誘われる……。前巻『侵略』で『罪と罰の機械』という異世界からの異形機械が登場する傑作を描いた牧野先生、本作も極上のグランギニョール。豪邸で軟禁され『ウニカ』と名付けられた主人公が出産した両性具有のディーヴァ、その手で生み出される殺した若い女の人体で構成されたオルゴール、それに合わせて歌う主人公から産み落とされた《何か》を得たいがためにそれまでの全てを幻覚として見せていた老人、という狂人の妄言のようなストーリーライン。『次段落で何が起こるか予想できない』物語に震える。

◾️かみやしろのもり / 加門七海 ★★★☆☆

 明治10年、因習に基づき《御子屋様》に捧げられた妹の身を案じ古郷に戻った主人公、訪れた社の地下には洞窟が広がっており、そこには……。2026年現在から遡ること28年前、ゲ謎等の因習村ジャンルブームより遥か昔に、地方ホラーの第一人者・加門先生に書かれた因習村オカルト。神として供物となった妹は村民の《願い》が蛇として具現化したものを食べ、それにより村が繫栄するという一見共生に見せかけたエグい搾取システム。それを知った主人公の願いにより村自体を滅ぼし、彼自身の呪いをも消し去ったのもまた妹の力であり、生還したものの真の天涯孤独となったのは、主人公に与えられた罰なのかな、と解釈。

◾️MUSE / 奥田哲也 ★★★☆☆

 アメリカでブルースマンの取材を行う日本人テレビクルーのドライバーとして雇われた主人公は、RJにまつわる逸話に巻き込まれる中、霧の夜にとあるテント・ショウに迷い込み……。みんな大好き伝説のブルースマン・RJにまつわるアメリカン音楽怪談。テント・ショウで主人公がマジシャンによって《変身》させられるのがまさかのギター弦、という辺りのは民話的なユーモラスさも。あと、平本アキラ先生はいい加減に『俺と悪魔のブルーズ』の続きを描いてほしい。俺あれずっと待ってるんですけど。

◾️コッコの宿 / 南條竹則 ★★☆☆☆

 鹿児島の温泉宿をはしごする主人公と友人は、大量の鶏を飼う宿で昼食とビールを楽しむが……。白昼の宿で魔女のような女将による《変身》に巻き込まれる7ページほどの掌編。特に書くことなし。

◾️整髪 / 早見裕司 ★★★☆☆

 複合機の営業マンである主人公は、最近N賞を受賞した著名な小説家からリースの相談を受け自宅を訪問するが……。《頭を刈る》ことで髪だけでなく顔も変えさっぱりさせてくれる怪しい理髪店の話。理髪店に巣食う上位存在っぽい甲高い声の主の正体はよく分からず、そういうもんなのかなという読み飛ばし方。冒頭に複合機とは?という説明がそれなりに記載されており、四半世紀以上前ってそんなに当り前じゃなかったんだなあ、という変な感慨が沸く。

◾️産まれし者 / 飯野文彦 ★★★★☆

 妻が二度の流産を経て三度目の妊娠中である主人公、ある日深夜に妻が卵を殻ごと貪る様を目撃し……。冒頭で示唆された通りの蛇女ホラーだが、後半に登場した母による「実は私は蛇人間だ」「お前は人間の父と蛇人間の渡しから産まれたハーフ蛇人間だ」「お前の父は私が食った」「妻は高貴な蛇人間家の娘だ」「二度の妊娠は赤子を喰って腹が膨れていたのだ」「お前も本能に従い人を喰うのだ」という狂った真相開示ラッシュの疾走感が素晴らしかったですね。

◾️のびをする闇 / 江坂遊 ★★★☆☆

 「のびをすると」から始まる、5つの不思議な変身譚……。気持ちよすぎる銭湯のゆず湯に体が《溶け》る人々の『ゆず湯』、夜に遊離し動物化した人間の魂が集められた『深夜の動物園』、砂絵を描く大道芸人子弟の絆と別れを描いた『砂書き』、首から下を他人と入れ替える謎の会員制サロン『フルーツバスケット』、吹雪の中立ち往生した機関車の乗客を救った村『老機関士の話』、の5本。『ゆず湯』は上品な色気の漂うエロ落語という風情でお気に入り。

◾️異なる形 / 齊藤肇 ★★★★★

 医師である主人公が事故で亡くなった妻、その忘れ形見である主人公の一人娘が5歳の頃、背中から《羽根》が生えたと伝え……。娘の身体に起こる羽根や鱗といった『ほんの僅かな変異』を通じ、健康/病気、正常/異常、健全/奇形の境界を問う、極めて静かで哲学的なサイエンス・フィクション。成長につれて変異の速度が増す娘に対し成長抑制剤の投与で必死に抗う主人公に共感しつつ、頭の片隅で「それで……いいのか?」がちらつく。そして自動車事故をきっかけに発見された正体不明の臓器。本作の白眉は、その摘出をきっかけに発生した《爆発的な変異》について「必死だったため殆ど覚えていない」と敢えて描写を避けた点。貴方の思いつく最も凄まじい異形を想像してください、という、恐怖描写一切無しで見事にホラーとして強い印象を与えてくれる。

◾️転身 / 安土萌 ★★★★★

 山の上に秘密基地を作り、知恵と策略でケンカも負け知らずのJは、ぼくらの王国の首領だった……。本巻でも最も鮮やかで見事な、《思春期の羽化》としての《変身》を描いた傑作ショートショート。井上先生も解説で「これをホラーアンソロに載せたことに異論もあろうが」と書かれており実際ホラーではないが、鮮烈な印象で私の脳に焼き付いたその魅力は本物。何かもうこればっかりは読んでみてもらわないと伝わらない気がする。

◾️舞踏会の仮面 / 井上雅彦 ★★★★☆

 没落した大富豪の末裔である主人公は、唯一譲り受けた遺産であるミニチュアの城とカテドラル、オペラハウスを夜ごと訪れる《華族》を招き……。幻想的な舞踏会から始まるもページを捲るたびに物語の輪郭が定まっていき、中盤には孤独な男が産み出したモンスターホラーであることが明かされる……と二転三転する物語構造がストレスフリーで楽しめる良作。ラストの唐突な《逆転》は、最後までアンコが詰まったサービス精神と好意的に解釈。

◾️溶けてゆく…… / 大原まり子 ★★★☆☆

 猫好き・犬好き、一連の宗教テロ事件という荒唐無稽な現実、性の美しさ……。作家の主人公が日々触れる《境界性》みたいなものを通じ《溶けていく》感覚を綴った私小説的な短編。この《溶ける》感覚を「自身を何者とも定義付けない=何にでもなれること」と捉え肯定的に考える点は、令和の今読むとむしろ瑞々しい、正統派のリベラリズム。リベラル自認でトランス排除みたいな心の底から意味分からん言説がネットに噴出している現代、皆すべからくLCLになっちまえと思うこともなくはない。

◾️姉が教えてくれた / 菊地秀行 ★★★☆☆

 担当の舞台が行き詰っている演出家兼脚本家の主人公が、共に暮らす姉に、部隊の完成のため必要な《恋愛の本質》を問うと……。本巻ラストにして実に奇妙な偏愛異形短編。どんどんカオスになってゆく舞台演出と俳優・スタッフのどこか狂った情緒が淡々とした独白で描写される中、姉の《手》と《足》が恋に落ちることで姉と恋人の関係が破綻し主人公は恋愛とは何かを理解する、というこの筋書き自体がアングラ演劇みたいな出来だが、この飛ばし方は嫌いではないし、ラストの不条理MAXなビジュアルは好み。

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