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異形コレクション LIII(53) ギフト

◾️全体 ★★★★☆
 《ギフト》という解釈に幅が大きいテーマで、収録作品の自由度も高く、その意味で名作・秀作が多かったですね。また、ギフトが『与え、受け取る』ものであり独りでは成立し難い性質を持つことから、主人公とそこに関わる他者との関係性を煮詰めた《エモ》を沢山感じさせてもらえ、『痛妃婚姻譚』『死にたがりの王子と人魚姫』は特に激エモ。あと、シンプルな厄災の贈与として『Cursed Doll』『可不可』の破壊力。


◾️贈り物 / 深緑野分 ★★★☆☆

 紛争から1年経過した国で暮らす、戦時中に戦場で火事場泥棒を行っていた過去を持つ主人公に『贈り物』が届いたという報せが入り……。軍と反政府ゲリラとの間で翻弄され双方から殺意を向けられた男への無慈悲な末路を通じて《廻る呪い》の話をしている。

◾️肉芽の子 / 津久井五月 ★★★★☆

 妊活を期に退職する主人公の女性、花の代わりに人体のパーツから組成される正体不明の《パナ》が当たり前に存在する世界で暮らす彼女に近づく二人組の正体は……。パナという異常存在が日常として描かれる描写に「ラーメンズ的な世界観かな?」と思われておいての「ミーム汚染じゃねえか!」という種明かしは鮮やか。しかし『未来から過去の人間の認知を汚染し利用する謎の敵対的存在とそれを防ぐ時間監視機構』という構図は実にイマジンとデンライナーなんですけど、あの電王だってホラーにしようと思えばいくらでもできるんだな、という気づきも。

◾️もう一つの檻 / 飛鳥部勝則 ★★★☆☆

 都内の大学生である旗江の過去に関わるのは、義父からの虐待、母の変死、そして奇妙な家政婦のユキ……。顔半分が潰れた美女であるユキのキャラが強く、雪女が連想されるような奇怪で蠱惑的な言動で狂気を魅せる。なかなか強火のヤンデレ百合ものでもあり、後半の悪夢的展開もちょっとフェティッシュ。

◾️鬼 または終わりの始まりの物語 / 澤村伊智 ★★★★☆

 雑誌編集者の昌は、とあるきっかけで常連投稿者の圭太郎と親交を結ぶこととなり……。桃太郎を《授かりもの》と捉えた本作。拾い上げた=《縁》を結んだ人間の願いを叶え、それが終われば消え、生まれ変わってまた誰かと新たな縁を結ぶ、という啓太郎のあり様、これめちゃくちゃドンブラザーズだな澤村先生!桃井タロウなら母のため喜んで鬼になり歪んでしまった社会を高笑いしながら破壊ぐらいするよ、理解る。

◾️二坪に満たない土 / 木犀あこ ★★★★☆

 母から相続された小さな庭付きの家で静かに暮らす高齢女性の主人公だが、妹と元夫の訪問がその平穏を脅かす……。主人公の一人称で進む物語が進むにつれ、徐々に彼女の言動への違和感が広がっていき、後半で決定的に「あ、狂ってるのはこっちか」と転換する叙述トリックは小林泰三先生の手腕を彷彿とさせる。被害妄想の誇大妄想を拗らせた老年のサイコホラーとしてなかなかの良作。

◾️ラズベリー色の天幕 / 井上雅彦 ★★★☆☆

 都会に現れたサーカステント、そこを訪れて《恵み》を与えられた者達の物語……。オタク的に言えば『矢を射られてスタンド能力を得た者』のショートショート集。《対象の小型化》《待ち伏せ》《女の潜在意識を表現する『髭』の可視化》《ランタンとなり闇を照らす〈かぼちゃ頭〉への変身》の4能力、私が欲しいのは3番目かなあ。どうでもいいけど、ラストのエピソードは陰茎が苛つく奴がノイズになって少し集中力が削がれた。(井上先生関係ないだろ!)

◾️Cursed Doll / 最東対地 ★★★★★

 贈ったものと贈られたものに死をもたらす呪いの人形、細切れにされた物語からその経緯を追う……。10の章から成るエピソードは時系列がバラバラにされている呪怨スタイルで、巻末のヒントを手がかりに並び替えると何が起きたかが浮かび上がる。謎自体はシンプルで解きやすく、それでいて『物語が繋がっていく快感』がうまく設計されており何度もページを往復することに。内容もシンプルにパワーのある特級呪物の恐怖がガツンと味わえ、もうおしまいです感のあるラストも好み。名作。

◾️アトムの子/ 平山夢明 ★★★★☆

 新興宗教の教祖を親に持つケサと結婚した主人公のジローは、先進技術による7倍の学習効率を謳う進学塾へ息子のユウを送るというケサとその親族に抗うが……。今回は受験競争が加速した先の地獄がテーマで、《子供を人質に取る》形で狂気と恐怖を描く筆致は本作でも冴える。

◾️可不可/ 黒史郎 ★★★★★

 美しい離島・仰神島で起こった『Youtuberグループが一夜でミイラ化』『集落20名の死亡・行方不明』といった怪事件がやがて世界を揺るがす大惨事へと繋がってゆく……。《害獣駆除》をテーマに、円谷・東宝特撮をオマージュさせる壮大なカタストロフィが展開される。アニゴジ前日譚みたいな絶望的な人類蹂躙は個人的に大好きで、むしろ尺が足りなさすぎる。マンイーターの渋谷大虐殺とかもっとがっつり読みたかった。

◾️痛妃婚姻譚 / 斜線堂有紀 ★★★★★

 煌びやかな衣装を纏い舞踏会で踊る《痛妃》の石榴と彼女に付き従う《絢爛師》の孔雀は、《白夜通し》の称号を目指す……。他者の痛みを『引き受ける』技術の適用と引き換えに富と奢侈な暮らしが約束された《痛妃》の地獄と悲恋。サビはやはりライバルの仕掛ける所業の鬼畜さで、ゼロ年代の平山夢明作品を彷彿とさせる《痛さ》の描写が白眉。

◾️死にたがりの王子と人魚姫 / 空木春宵 ★★★★★

 《ビクニ・システム》により病気・怪我が即座に自動修復されるようになった世界で、自身の死を願う澪は、いつも隣にいる莉緒の地獄を救うため……。『ベビわる』のちさまひや『呪術廻戦』の禅院姉妹を感じさせる『死が漂う』シスターフッドものの名作。「あなたは生きてほしい」がギフトでもあり呪いでもあることの多重性が特に見事。これは芥見先生絶対好きだと思う。

◾️男娼チヒロ / 竹本健治 ★★★☆☆

 主人公がある夜に偶然出会った男娼のチヒロ、その魔性に魅せられひたすら逢瀬を重ねて行き……。オチが幻惑的でよく分からなかったが、途中出てくる「お互いのチンポをお互いのアナルに挿入する」プレイを「可能だった」とした描写には嘆息が漏れた。できるんだ……。

◾️封じられた明日 / 上田早夕里 ★★★★☆

 その能力を見込まれ、帝都で名を馳せる貴族の元へ嫁いだ佳代、護国のための役目に従事する彼女に危機が迫り、退魔の刀を握る帝都警察の一郎が館へと乗り込む……。逆に意外な正統派バトル和ファンタジー。偽りの神に抗う退魔刀使い警官と退魔銃使い人妻(弓スキル高位)のタッグはシンプル格好いい。

◾️おまえの輝く髪を / 篠田真由美 ★★★☆☆

 20世紀前半のイギリス、《塔の屋敷》と呼ばれる旧邸宅の相続を巡り、持ち主のミセス・トンプソンと3人の女性が暖炉を囲む……。実在の画家であるロセッティとラプンツェルの物語を絡めた一夜のホラーミステリー。相続した塔の屋敷でホテル事業を目論む3人の女の1人・ジュリアが怪異にも臆せぬガッツで物語を展開してて偉かった(まあ死ぬけど)。

◾️L’Heure Bleue / 黒木あるじ ★★★★☆

 フランスの売れない写真家気取りだった主人公は、ある夜に出会った《薔薇しか食さない》女性・ミラと運命的な恋に落ちる……。半世紀にも渡る壮大なラブロマンスは、薔薇の安定供給を求めパリから中東へ向かうも、イラン・シリアと血生臭さが高まって行き、最後に辿り着いたのがダメ押しのドネツィクで「最初から福山のバラ園周辺とか住めばよかったんだよ……」という気持ちに。最後に明かされるミラの正体とその行先の暗示、人類への絶望でありつつウクライナの希望でもあり……。

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