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異形コレクション LI(51) 秘密

◾️全体 ★★★☆☆
味付けの濃ゆい物語スキーとしては、《秘密》というテーマからミステリ色の強い物語が多く収録されている本作がイマイチ物足りない(異形感・異常性がどうしても控えめなので)ものの、客観的に見て全体を通じたクオリティは高い。小中先生への落胆と夢ちゃんの破壊力が特に印象深い。


◾️壁の中 / 織守きょうや ★★★☆☆

 死んだ友人のアイデアを盗用した小説が大ヒットした男の家を、その小説のヒロインが訪ねてきて……。ポーの『黒猫』をリスペクトしたシンプルなサスペンス。壁の《音》に正気を奪われてゆく主人公の様がテンポよく描かれる一方、ちょっと物足りなさあり。

◾️私の座敷童子 / 坂入慎一 ★★★★☆

 これは厭な話。実家の蔵に幽閉されている、父が『座敷童子』と呼ぶ謎の男。座敷童子が何なのか以上に、その存在から仄めかされる両親の秘密の厭さが抜群。何で父は主人公を育て続けたのか?

◾️インシデント / 黒澤いづみ ★★★★☆

 コロナ禍が産んだ良質なバイオホラー。リモートワーク化で《感染》した同僚の宇治原、彼が口にするレトロウイルスによる人類の世代交代、ビデオ通話の切り忘れという《あるある》からの悍ましい宇治原の変貌、と低予算で映像化できそう。

◾️死して屍知る者無し / 斜線堂有紀 ★★★★☆

 これもなかなか厭さが高い。死ぬと動物へと《転化》する集落で、その秘密に触れてしまった主人公。読者に「動物に、転化……?どういう……?」という違和感を与えて後半にそれをひっくり返す構成、何よりラストはある意味究極の恐怖表現の一つ。夜神月の最期。

◾️胃袋のなか / 最東対地 ★★★★☆

 全編留守録に遺された音声、というモキュメンタリーチックな作品。持ち主と思われる女へのメッセージから徐々に死の匂いが強まっていく描写が良い。一連の事件を追う《拝み屋》の、軽い口調から滲む凄みが萌えポイント。私は敢えて腹の出たバーコードハゲのビジュで想像している。

◾️乳房と墓 ー綺説《顔のない死体》 / 飛鳥部勝則 ★★★☆☆

 塾のバイト講師の男が森で見かけた、顔のない死体を捨てる少女は、その塾に通うヘルガという美少女で……。《首なし死体》ミステリ論にまつわる対話を通じ二転三転する事件の真相以上に、ヘルガのフェティッシュさが大変強い。嘘とレトリックで男を煙に巻くサイコパスワイヤー使いは癖強が過ぎる。

◾️明日への血脈 / 中井紀夫 ★★★☆☆

 あるバーの常連が性にオープンな女性2人と仲良くなり、帰省に同行すると、そこにはーー。濡れ場の描写から田舎系官能ホラーと見せかけて、人類規模のSFに転がっていく展開に意表をつかれる。SNSや立法の場が性嫌悪的な他罰性に染まって行く中、原始の社会に活路を見出すアイデアは面白い一方、どうしても『新世界より』が過ぎっちゃったな。

◾️夏の吹雪 / 井上雅彦 ★★★☆☆

 雪女伝説をモチーフにしたノスタルジックな田舎の純愛譚。不器用な職人の父と暮らす主人公が淡い恋を寄せた転校生の少女と共に土地の有力者親子に無茶苦茶にされながらも、死してきっちり報いを受けさせる、という話の筋には平山夢明の《最低劇場》イズムを感じつつ、井上先生の耽美な文体が印象を大きく変える。カタルシスがいまいち不足で、有力者の娘のディテールをもうちょっとクズ方向に補強してほしかった。

◾️蜜のあわれ / 樫木理宇 ★★★☆☆

 人類が宇宙に進出した未来、地球に帰郷した男と昔馴染みのシェフが食事と共に交わす対話。旧ソ連のような抑圧的独裁政権下でのある殺人が明らかになる静かなミステリだが、ジェンダーSF要素が味付けとして薄かった印象。

◾️霧の橋 / 峯里俊介 ★★★☆☆

 ありふれた家族との週末、ありふれたバザーで《持つものの運命を反転させる》石を買った帰り道に霧の中に迷い込んだ男は、かつて愛し合っていたもう一人の女を幻視し……。道に迷った車中でどんどん空気の悪くなる家族の描写のリアリティのある厭さが良かったが、全体の筋としては微妙。

◾️貓 または怪談という名の作り話 / 澤村伊智 ★★★★☆

 親戚が筆者に語る実話怪談として始まりながら、愚鈍ないじめられっ子のクラスメイトN、クラスのアイドルM、いじめっ子のG、腰巾着のH……、と来て筆者と読者が同時に突っ込む、胡乱で得体の知れない怪談っぽい《何か》。それでいてしっかり怖い。笑いと恐怖の際っ際を攻める意欲作。

◾️嘘はひとりに三つまで。 / 山田正紀 ★★★☆☆

 変死したプレイボーイを巡る、探偵と関係者との会話だけで構成されたミステリー。洒落たハードボイルドものとしてまとまっているが、恐怖要素もなく特にグッとは来なかったか。

◾️生簀の女王 / 雀野日名子 ★★★☆☆

 人間に化身した魚がデパ地下で働きながら親の仇の魚を殺す、というぶっ飛んだ世界観の中、巨大タコが売り場のカリスマとして崇められてゆくあたりで物語は加速し、最終的には悪人がタコにへし折られてめでたしめでたし、というかっ飛んだノワール。

◾️風よ 吹くなら / 皆川博子 ★★☆☆☆

 わずか4ページの、物語というより詩。ブリーチの巻頭詩を感じさせる、死の匂いが漂う良さがあるものの、レベルが高すぎて読みきれない。

◾️モントークの追憶 / 小中千昭 ★☆☆☆☆

 そりゃないぜ小中先生。コロナ禍における陰謀論を掘り下げる私小説風の物語なんだけど、反ワク・反マスクの肯定が前面に出てて「そうか……」となってしまった。lainで性癖を歪められた身として寂しさを感じる。

◾️世界はおまえのもの / 平山夢明 ★★★★★

 俺たちの平山先生、猛毒短編だ!創作における予言の書は数あれど、本作に登場するそれは、持ち主にとって親しい人間の命と忌まわしい事件・事故との二者択一を迫る悪意の塊。息子の命と引き換えに数千・数万人が次々と死んでゆく厄災の数々、妻周りの最悪な人間関係やキレッキレな言葉のナイフの数々、これだから異形の夢ちゃんは堪らない。


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